0127 サウラさんブニールさん
俺はその日の夕方に商人ギルドに顔を出し、理由を話して是非とも本部の人と話がしたいと申し出た。
本当は、ベルさんに言えば事はスムーズに運ぶのだろうけど、ここのギルドマスターの顔を潰すわけには行かないよな。
更に冒険者ギルド御用達の居酒屋にも顔を出し、店の人(実はギルドの職員だった。)にも、声を掛けておいた。
そして、3日後。
馬車が2台、リンド法国にやって来た。
一人は商人ギルド本部・ギルドマスター代行のサウラさん、赤い眼鏡が似合うキュートな人だ。
もう一人は冒険者ギルド本部・ギルドマスターのブニールさん、さすがは冒険者ギルド、いかつい顔には額から頬にかけて名誉の負傷があり、ガタイのいい体つきをしている。
会議で使う場所・・・神殿は燃えてしまったから今はない状態。
仕方ないので、レストランミツヤを貸し切って会議をすることにした。
料理はリリアと、何故かエレンさんが手伝うと言って来たので、二人体制を取ることにした。
店内を見渡し、真っ先に声を出したのはサウラさん。さすがに商人の血が騒ぐと言ったところか。
「このお店では、見た事のないメニューばかりですね。」目の付けどころが違う。
「良ければ、食べてみませんか?何でも出来ますよ。」
「では、このツクリ?とは一体、なんですの?」
「これは、生の魚ですね。美味しいですよ!」
「生の魚!大丈夫なんですの!お腹を壊しませんの?」
「大丈夫ですよ。それに海の魚ですから。」
「海の魚を生で!どうやって運搬していますの?そこに興味がありますわ!」
ブニールさんは、何を注文すればいいのか、迷っているようだ。
「ブニールさんは、肉は好きですか?」
「ああ、肉は大好物だ!」
「牛肉?豚肉?鶏肉?どれが好みですか?」
「え?肉って、ヤギの肉しか知らないぞ?他にもそんな種類があるのか?」
「それでは、普段はこの店では出さないのですが、クロゲワギュウステーキを・・・。」
「クロゲワギュウステーキ⁉」割って入って来たのはバレットである。
「オウカさん、是非とも私にも、クロゲワギュウステーキを食べさせてください!」
俺にすがってお願いをしている青年を見て二人は疑問に思ったのか
「あの、こちらの青年はお店の方ですか?」
「いえ、この方はヤヌス王国のバレット・クロゲワギュウ・コローレ国王様です。」
「うそ⁉」二人は驚愕している。
一国王がこんな国のこんな小さな店にいることが不思議でならないのだ。
「この店の料理は、全部美味しいですよ!ちなみにオウカさんは、私の親戚ですので、その辺りをよろしくお願いします。あっ、リリアちゃん、私はライス大盛ね!」
国王とこのオウカと言う人物が親戚・・・。これはタダならぬ話を予感していた。
「まずは、乾杯としましょう!お酒は大丈夫ですか?」
「ああ、酒は大好きだ!」
「私も大丈夫ですわ!」
「では。」俺はリリアが運んできたニホンシュをグラスに注いだ。
二人は初めて見る酒に驚き、そして疑った。
「色がないのですね。」サウラさん。
「本当に酒なのか?水じゃないのか?」容赦ないブニールさん。
「まぁ、飲んでみてください。乾杯!」
「なんて美味しいお酒なんですの!スッキリしてますわ!」
「キリリとした辛口の味がたまらん!」
二人は一気にニホンシュの虜になっていった。
そうこう言っていると、造り盛り合わせが運ばれて来た。
「どれも、見た事がない魚ばかりですわ!キラキラしていますのね!」
「こちらのショウユと言うソースを少し付けて食べて下さい。」
「では・・・。」パクリ。
口の中が「海」!この魚は何と言う魚なのでしょう。
噛むたびにぶつりぶつりと切れる食感、そして甘みのある脂。とても美味しいですわ!
「次はこの緑色をしたワサビを少しだけ乗せて食べてみて下さい。」
この緑色は何でしょう?あまり匂いは感じませんが・・少しだけと言う意味が多分あるのですね。
では・・・。ぱくり。
「!」先ほどの味にワサビの辛みが交わって、魚の味が引き立ちますわ!これは、お酒が合うに違いありません。ん〜!やはりツクリにはニホンシュ、ぴったりですわ!
サウラさんが美味しそうにしているのをブニールさんは我慢が出来ないようで
「なぁ、俺にもチョット食わせてくれよ、な?」
「嫌ですわ!」
ブニールさんとバレットにクロゲワギュウステーキが出来上がった。
「ほう、これが牛を焼いた肉ですか!では、早速」
肉にナイフを力強く差し込もうとするので、軽くでいいですよと、忠告をしておいた。
分厚い肉にナイフを差し込むと、簡単に切れる!肉と言えば噛みきれんぐらいの硬さだろうが!なのにこの肉は柔らかい。下処理がいいのか?それともいい肉なのか?
肉を口に入れてみる。噛むと口の中に肉汁がドバーっと溢れだす。
そして、なんとも言えない柔らかさだ!これはきっと酒が合うに違いない!
ニホンシュを手に取ろうとすると、こちらの方が合いますよとワインを出された。
肉を一口、ワインを一口、なんと絶妙なバランスだろうか!手が止まらん!
更に肉を食べようとすると、白いつぶつぶ、ライスと言う物を出され、これと一緒に食べてみてくださいと言う。
言われるがまま、肉とライスを一緒に口の中へ・・・。
俺の世界観が変わった!なんだこの美味さは!溢れだす肉汁をライスが絡み取り、どこにも逃がさないように捕まえてくれている・・・。
あまりにも美味しそうにしているので、「私にも少し、分けてくださいませんの?」とサウラが言うので、「やだよ!これは俺んだ!」と断った。
カウンターで美味しそうにクロゲワギュウステーキを食べているバレット国王に聞いてみた。
「国王の名前のなかに『クロゲワギュウ』って入ってますよね?」
するとバレットはニッコリと笑い
「ええ、いつかはこの肉を国民一人一人が食べる事ができる豊かな国を作りたいと願いを込めて、この名を付けました。」
「そんなに高いのですか?」
「ええ。一皿、銅貨一枚らしいですから・・・。」
「銅貨一枚!一週間分の金ですよ!どうりで美味いはずだ!」
そんな感じで料理と酒を楽しんでいたら、ジェイドのか細い声が話を遮った。
「あ、あのぉ~、私の事を忘れていませんか?」




