0118 桜花救出作戦会議
「いやぁ~、今日もクロゲワギュウステーキは美味しいね!」
そう言いながらパクパクとステーキを口にソースをパンにと食しているのは、ヤヌス王国国王バレット・クロゲワギュウ・コローレである。
「それにしても毎日食べて、よく飽きませんね。」
そう返すのは桜花の第一妃の玲子である。
バレットは、王国の復興のめどが立ったという事と息抜きを兼ねて連日のように、ここレストランミツヤ2号店に足しげく通っている。もうすっかりと常連である。
しかしここは一般の王国民も利用できるレストランなので国王自らが民衆の声を聞くことが出来るし、何と言っても庶民的な国王として慕われている。
バレットは食事も終わり、これまた大好きなミルクティーを飲んでいる。
毎日の事だが、3杯はおかわりをする人なのだ。
「ねぇ、レイコさん。このミルクティーの作り方をそろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?」
玲子はフッと笑みを浮かべて
「そうですね。でも教えてしまうと、この店に通わなくなるんじゃないですか?」
「そう言いたいところなんだけど、僕はこの店が気に入っているし、多分、宮廷の料理人や給仕ではこの味は出せないと思うんだよね。あくまで仕事の合間に飲みたいんだよ。」
「なるほど。そういう事でしたらお教え致しますよ。でも、茶葉はウチから買って頂くという事で手を打ちましょう。」
「やっぱりオウカさんと同じでレイコさんもその辺りは抜け目ないなぁ〜。いいですよ。この店で買いますよ。今度、ウチの給仕を寄こしますから淹れ方を教えてやってください。」
そんな、ありきたりな話から、自然と桜花の話になった。
「ところで、オウカさんから連絡とか来ていますか?」
「ええ、何でもこの店で出している料理を銅貨の粒一個で提供しているそうですよ。」
玲子は桜花の行動に呆れたと言わんばかりの顔をしている。
「おかげさまで、ウチは現在の所、大赤字ですけどね。」
「そうですか・・・。オウカさんのやる事です。何か意図があるんでしょうね。」
バレットはミルクティーのおかわりを注文する。
そういう和やかな空気は大げさに開く扉の音で一変することになる。
「レイコ様!」
ダダンは急いで来たのであろう、汗びっしょりである。
「あら、ダダンさんじゃないの。今はオウカさんと一緒のはずじゃないのですか?」
玲子とバレットはまだ、余裕の表情である。
「オウカ殿が攫われました!」
「なんですって!」
「なんだと!」
余りの驚きに立ち上がったバレットのテーブルに置かれたミルクティーのカップが倒れたのだが、今の二人にはどうでも良い事である。
「恐らく、神殿の者の仕業です!今は対策本部を作って、オウカ殿救出の会議中です!」
ダダンはまだ、落ち着かないようだ。切れた息が整わない。
「解りました!すぐに援軍を送ります!宮殿に控えている傭兵団に告げてください!私も向かいます!」
「私も一緒に行きます!最悪、戦争になる!今すぐに我が軍も集めろ!出兵だ!」
バレットは同行している傭兵を使いに出した。
「ダダンさん、詳しい状況を教えて頂けますか?」
意外にも玲子は冷静を装い、まだ肩で息をしているダダンに一杯の水を差し出した。
ー***-
「それでジェイド様とやら、貴方を信用してもよろしいのですか?」
頭に血が昇ったジギルでは話にならない。セバスが落ち着いて話を聞くことにした。
「そうですね。いきなり神殿の者が来ても信用はされないでしょう。しかし、今は私の言葉を信用して頂く他、手段がないのです。私は今の神殿のやり方に異を感じていますので。」
ジェイドは促されテーブルに付くと神殿の秘密を全て話すと言って来た。
「神殿には黒い鉱石に呪術が掛けられていましたが、あれはどういった理由なのでしょうか?」
「あの鉱石は、神殿内にて魔法がかかりやすくするための準備魔法の効果があると思ってください。まぁ、今は破壊されて効果もありませんが・・・。」
確かに、神殿を囲む様に置かれた鉱石は昨晩の内にセバス達隠密隊が破壊した。これで、全てが済んだと思っていたのだが、違ったようだ。
セバスは準備魔法という事は他にも呪文が込められている鉱石があるのか疑問を持ったので、更に聞き込みを開始し、詳しいことを聞くことにした。
「神殿内は2重の魔法が施されています。まずは幻覚を見る魔法です。更に奥に行くと更に強い幻覚・幻聴・魅了の魔法がかかる仕組みになっています。それにより、国民の全てを意のままに操れるという訳です。」
・・・どうやら、このジェイドという司祭は嘘を付いていないようだ。セバスは疑いながらも信じようという気になっていた。
「やはり、神殿内で起こる魔法も鉱石に込められているということですかね。」
「ええ。2重の魔法はその鉱石によって発動していますが、大元の鉱石は法王がいる部屋にあります。」
なるほど・・・。とジェイドの話に合点が行ったセバスは、ふと、もう一つの疑問を持った。
「魔法が効いているという事は、貴方もその魔法に掛かっているということでしょう?なのに、貴方は我々に真実を話している。それは、どういうことでしょうか?」
「それは、簡単な事ですよ。」
ジェイドは指に嵌められた緑色に光るリングを見せた。
「私は、魔法が掛からないように、この指輪で無効化しているのですよ。」
「なるほど。では、我々はどうすればよいのでしょうか?まさかそれを見せる為だけにここまで参られたのではないでしょう?」
セバスは、話の核に触れることにした。これに答えなければ、この人間も敵という事になる。
ジェイドは、そこを話したかったのだろうか、襟を正し、セバスに向き直った。
「この国をまともな国に戻して貰いたいのです。国民の声など、簡単に握りつぶされてしまいます。その為にもオウカ殿の力が必要なのです。」
「本当によろしいので?私どもの仲間が、ヤヌス王国に報告に行きました。最悪、戦争という形になるかも知れませんよ。」
「国民には罪はありません。罪があるのは我々、神殿長・司祭・副司祭・神官・副神官達にあります。最悪、その者達を首に掛けて頂いても、私は文句を言いません。」
「本当に、それでいいのですね。」
セバスは念を押した。
「では、救出作戦を詰めることにしましょう。ジギル殿、冷静になってください。」
まだ怒りが収まっていないジギルではあるが、この場を指揮する立場にあることを思い出し、深く深呼吸をした。




