0117 牢獄
リリアと入れ替わるように囚われの身になった俺は、どれぐらいの時間を運ばれているのだろう、虚脱感の体では1分でも長い時間のようにも感じる。
運ばれている間は、頭から麻袋を被せられ歩いている所が解らないようにしているようだ。
コツコツと鳴る足音が変わった事に気が付いた。どうやら階段を降りているようだ。
階段を降りると急に気温が下がった感覚を覚え、鉄の扉が開く音がした。
牢屋、なんだろうな・・・。
冷たいと感じる床に降ろされ麻袋を取られる。暗い空間だったが目を凝らすと次第に周りの環境が見えて来た。
まず目に入って来たのは鉄格子が6本。左側に小さな扉が見える。その扉には大きな錠前があり、これでこの牢屋からは出られないようにしてあるようだ。
さらに、何かがあっては大変だと見張りらしき2人組の男が牢屋の前に立っている。
はっきりと目が見えてきた。床はごつごつとした石が引き締められ、これでは横になって眠る事すら出来ないだろうなとも思う。
拷問は牢屋の中でも続くって感じか・・・。
扉が開き、覆面姿の男が入って来た。
俺の手錠を外す代わりにリングを両腕に嵌める。
何故そんなことを・・・と思っていたら
「手錠をしたままでは何かと不便でしょう。しかしこのリングも手錠と同じ魔力を封じ込める作用がありますので、貴方は何も出来ませんよ」男はそう言うと食事を置いて出て行った。
食事が盛り付けられた皿に目をやる。
囚われの身なのだから粗末な物・・・ではなく、新鮮な野菜、焼き魚、何よりも驚いたのは、肉がある事だ。
更に、コップの中身はなじみのある味。そう「ワイン」を注いである。
「何でウチの店以外で酒と肉があるんだ?」ここは法国ではないのだろうか?
番人の男達に話しかけてみる。
「なあ、この場所は法国なのか?」
男は表情も変えずに黙っているだけで、俺の質問には答えない腹積もりらしい。
しかーし!日本じゃ俺はトップセールスマン!口には自信がある。
「答えがないという事は、ここは法国という事だな。良く解った。」
言い当てられたことに動揺したのであろう番人の体が動いているのを見逃さない。
「俺が捕まったという事は、店で肉や酒を提供したからなんだろう?なのになんで、この皿に肉や酒があるんだ?おかしいだろ?」
兵士の一人は、躱すことは無理と判断をしたのだろう、俺の質問に答えてくれるようだ。
「肉?酒?出しちゃいけないって決まりなんかないさ。お前も調べて知っているだろう?」
「ああ、知っている。だから店で出している。」
「それにしても、お前の店の酒と肉、美味いよな!また食べたいもんだぜ!」
「馬鹿!それは言ってはまずいだろう!」もう一人の兵士が慌ててしゃべるなと注意する。
「大丈夫だって。お前も美味い美味いって食って飲んでたじゃねぇか。それに、コイツはもうすぐ死ぬんだぜ!冥途の土産に教えてやっても、バチは当たらんだろうさ」
最初は寡黙な男は、本来の性格がお喋りなんだろう、口が軽くなってペラペラとしゃべるようになって行った。
「なら教えてくれ。ここは何処なんだ?」
番人の男たちは俺の質問に反応するかのように、一瞬だけ黙ってしまった。
・・・教えてくれるはずないか。そんなことをするのは、馬鹿ぐらいだろうし。
「神殿の中だぜ!」はい、馬鹿でした!
「神殿にこんな牢屋があるのか?神殿ってもっと神聖なものだと思っていたのだが?」
「そりゃ、歯向かう奴は牢に閉じ込めるだろう?そういう事さ。」
「歯向かう?この国の民達は熱心な信者ばかりじゃないのか?」
「お前、本当にそう思ってるのか?おめでたい奴だな。誰もこの国の宗教なんて信じていないよ。」
「なら、何で国民は神殿に向かう?それが熱心な信者の証拠なんじゃないのか?」
「本当に・・・。」男は呆れながら俯き、首を左右に振り、そしてため息をついた。
「あのな、お前も神殿に行ったろ?おかしな気分になっただろ?あれはな、一種の麻薬と同じ効果がある魔法なんだよ!」
麻薬!俺はその言葉に驚いた。精神操作系呪術じゃなかったのか?という事はサリーナ像が違う物に見えたのは幻覚効果がある魔法という事だったのか。
「なぁ、それで何で俺は閉じ込められているんだ?神殿に歯向かった訳じゃないだろう?」
「さぁな。それは神官に聞けば解るってもんだろ?もうすぐ裁判もある事だし。」
裁判?なんで俺が裁かれないといけないんだ?何もやってないぞ?思いつく事と言えば、やはり、店の事しかないだろう・・・。俺の店が原因で裁判が起こる理由が知りたい所だが、この2人では解らない話なんだろうな。
「なぁ、最後に教えてくれよ。お前らは兵士なのか?」
「ああ、神殿長に代わり神罰を下すための兵士だ。要は殺人を生業にしている者ということさ。」
男達はさらりと言った。
ー***-
ジギルを筆頭に会議が行われている、ここは宿屋の一番広い場所。
「何があっても、主を救い出すんだ!」
ジギルはバンッと机に拳を叩きつける。その威力で机にヒビが入るのを見て、ジギルの本気度が全員に伝わる。
「それよりも、レイコ様に連絡をするのが先でしょう!私がしておきますぞ!」
とダダンが飛び出していった。
「リリア、何か手掛かりになりそうな事はなかった?どんな些細な事でもいいわよ。」
ジギルとは反対に冷静なローズは少しでも情報をとリリアに事情を聞いている。
責任を感じているからか半泣きのリリアは俯きながら、ポツリポツリと語りだした。
「リリアがいた部屋は贅沢な造りだった。そして国民が食べてはいけないとされている肉料理が出てきた。更に我々の行いが、いずれ国を破綻へともたらすから、主は危険人物と認定されたという事だな。」
リリアのたどたどしい話をスピアがまとめる。
「この条件が揃うのはひとつしかありません。」続けて言うのはセバスである。
「リンド法国は法王を中心に神殿長と、神官と共に政治が動いている国ですからな。」
「ならば、主は神殿にいるという事だな!では、すぐに助けに行くぞ!全員、用意しろ!」
「お待ちください。その前に神殿の調査と確認が必要になります!まずは我々隠密隊が出向く事にしましょう。」
セバスは頭に血が昇っているジギルをなだめるように、少し低く落ち着いた声で話した。
「そういう事なら、私にお任せください。」
その声の主は白いローブを目深に被り、口元しか見えない。
「私なら、オウカ殿が何処にいるか、これからどうなるかが解りますよ。」
「お前は、誰だ。」全員が敵意をむき出しの状態である。
「申し遅れました。」
男はローブを取り、顔をあらわにする。
「あっ!」
真っ先に気が付いたのはナツである。
「あなた神殿にいた人よね?」
「ええ。神殿はおかしな所だったでしょ?」
この男・・・私たちが神殿を出た時に話しかけてきた副司祭だ。
「私の名はジェイドです。神殿の副司祭を務めています。」




