0113 リンド法国
リンド法国に行く道中。
「法国までは3週間ぐらいかな?」俺達は荷物を持って街道を歩いている。
「ええ、それ位だと思います。それにしても何故、歩きなんですか?馬車でも良かったと思うのですが。」と不思議そうに言っているのはジギルである。
「今回は王国の使者と言う名目では相手にしてくれなさそうだから、俺達は「冒険者」として行く。馬車に乗った冒険者って変だろ?」
「左様でしたか!オウカ殿は頭が切れる方だと存じ上げる!」と大声を張り上げるのはダダン。前回はラムに先を越されたので、張り切っている。
「リリア、荷物は大丈夫か?重くないか?」
「大丈夫です!ご主人様、優しい・・・。」リリアもご満悦。
「ご主人様ぁ、私にも優しくしてぇ。」ローズも上機嫌だ。
「スピアとシールズも頼むよ!」
「お任せ下さい!オウカ殿をお守りします!」とこちらもヤル気。
「みんな、キツかったら言えよ!すぐに休憩にするから。」
今回は、隠密隊が先行して情報を集めてくれているから、ゆっくりと行こう。
リンド法国へは平坦な道をほぼ直進、見晴らしがいいので警戒もしやすい。
これといった事件もなく、俺達はリンド法国にたどり着いた。
リンド法国。ヤヌス王国・シェラハ王国に隣接している宗教国家で、首都名はロインド。信仰対象はクリス・サリーナである。しかし、悪魔族の精神支配によってサリーナは男になっているらしい。
俺達は関所で身分確認を受ける。全員が冒険者の資格を持っているので、入国税もない。
国の状態は・・・。国民一人一人は元気そうだな?若干、覇気を感じられないけど。
ナツに精神攻撃はあるか?と聞いても、今のところは何も感じないとの事だった。
露店に行ってみる。売っている物は豊富にあるようだ。恐らく、商人の流れがいいんだろう。交易都市なのかもしれない。
ただ、魚はあっても肉がない。どうしてかと露店の店主に聞くと国家の宗教的な方針で肉は食べないのだとか。
サリーナの事に関しても聞いてみる。
行商人風の男に聞けば、女神だと言うのだが、国民の人に聞くとサリーナは男性だと言う。
では、あの女神像は誰ですか?と聞くとサリーナだと言う。女神の姿をしていますよね?と聞くと、サリーナは普段は女性の姿をしているが、本来の姿は男性なんだと、無茶苦茶な答えが返って来た。
スマホが鳴った。隠密隊からだ。
「オウカ様、無事にお着きになられたようでなによりです。」
「ああ、何か分かった?」
「いえ、今現在の所、主だった事はありません。」
「そうか。引き続き頼む。」
「了解しました。」
とりあえず、宿屋を探そう。
露店の人に宿屋はどこか?と聞くと、急に顔色が変わった。
どうした?と聞くも何も答えない。
宿屋は一本、裏通りにあるらしい。俺達は宿屋に向かって歩いて行く。
「あれ?ここって、同じ国だよね?」
一本、裏に入っただけで、ガラリと雰囲気が変わる。
道行く人たちは生気がなく、痩せ細っていてこの通りはスラムなのかとも疑いたくなる。
でも、確かに宿屋街であるのは確かなようだ。
数件ある内の一軒を俺達全員で借りることにした。
部屋の中は、まあまあ普通。木造の造りでベッドがひとつが基本。
その中でも、一番大きな部屋を皆が俺に薦めてくるので、そこに入ることにした。
宿屋の代金は一人一泊、中の銅貨3枚。日本円にして6000円。物価は普通らしい。
主人に食事などは出来るのか?と聞くと、出来ない事もないが、食材がないよと言われたのだが、何故なんだと言うと税金が高くて買えないのだとか。
それならば、宿代をあげればいいんじゃないのか?と聞くと、適正価格でも売れないのだから、今更宿代を上げてもしょうがないとの事だった。
それならば、食事が出来る所は?と聞くと、あんたらは冒険者だろ?だったらいい店があるからと一軒の店を紹介してくれた。
冒険者にいい所の店?どういう事だと思いながらその店に行ってみる。
広い店内は結構なお客さんがいて、繁盛している。
俺達は席に着き、メニューを見て「あれ?」と不思議に思った。
「お姉さん、ちょっといいか?」
「ご注文ですか?」と給仕風の女性がやって来た。
「この国って、肉は食べれないと聞いたのだけど?」
「ここは冒険者ギルド直轄のお店ですので、肉料理を出しても免除されるんですよ。」
「そうなんですか。」
そんな話をしていると、入り口から怒号が聞こえた。
「帰れ帰れ!」と店の店員。
「頼むから、食わせてくれ!」と聞こえてくる。
「あの人、また来たわ。」と給仕の女性が言った。
「あの人は、入れないのですか?」
「ええ、ここは冒険者しか利用出来ないようになっているんですよ。」
「それじゃあ、あの人も冒険者になればいいのに。」
「それは無理ですね。」きっぱりと女性は言う。
「この国に冒険者ギルドはありませんから。」
「どういう事?」
「国が冒険者ギルドを認めなかったんです。その代わりに冒険者の人達のみが入れるこのお店があるという事なんですよ。冒険者は肉が必要ですからね。」
給仕の女性はこの国では殺生と言う物を良しとせず、いくら相手が悪人だったとしても殺人をしてしまう冒険者を良く思っていないという事から冒険者ギルド設立には反対したのだと教えてくれた。
「まったく、人を守る冒険者を何だと思ってるんでしょうね。」と憤慨していた。
その後、俺達はしっかりとギルドカードを確認されたのは言うまでもない。
腹ごしらえも済ませ、次は商人ギルドに顔を出してみる。
受付嬢に話を聞いてみた。
「宿屋の主に食材が高くて買えないと聞いたのだが、ギルドで管理していないのか?」
「当ギルドでは食材の管理は致しておりません。この国で生産された食材のほとんどが輸出されていきます。残った食材は国管轄のお店でしか買えません。」
「露店で販売されている料理などは適正価格で販売されていたが?」
「食材を売っている露店を見ましたか?」
「そう言えば見てないな。」
「あの露店のほとんどはギルドに所属しておりません。我々から見ると闇市です。」
「と、言うと?」
「露店商会と言う物がありまして、国直轄の組織です。商会で食材の大量購入、それを露店で分けて、調理した物を販売しているグループと、外国から来て勝手に商売をしているグループと2種類あります。」
「そんなことをして、よく喧嘩にならないな。」
「露店をよく見れば解りますが、外国からの露店は課税がある分、値段が高いので、競争にはならないようです。」
「ギルド間で輸入・販売は出来ないのか?」
「国によって、規制されております。」
なんてことだ。表通りは言わば観光客用で、裏通りが本来の姿という事か。
「この国で、飲食店を開こうと思うのだが?」
「食料調達はどうされるおつもりですか?」
「独自ルートで輸入をしようと思う。」
すると受付嬢は苦い顔をして、「それならば、ギルドは関与致しません。」と冷たくあしらわれた。
ここでも民衆を無視した政策が行われているようだ。実にきな臭い。
取り敢えず宿屋に帰り、作戦会議。
「少しの間、この国に住んで詳細な事情を知る必要があるな。」
「それでは、我々は露店を調べ上げたいと思います。」と傭兵団。
「我々は、警護について調べましょう。」とスピアとシールズ。
「では、私はこの国の商店や色々な店を回りましょう。」とダダン。
「ああ、みんな頼んだよ。」
「ところで、オウカ様。」ジギルが何か言いたそうだ。
「どうした?ジギル。」
「この地でもレストランを開かれるおつもりで?」
「ああ、肉料理がダメなんだったら、日本料理の店を開こうと思う。」
「その為のリリアだからな。」
「ご主人様、私に任せてください~。」リリアは嬉しそうに手を上げた。
「政治関連については隠密部隊が調べてくれているから、みんなはこの国の世情を重点的に調べて欲しい。特にスラムとかあれば真っ先に報告するように。」
『解りました!』
その日の夕方。
「主、食材の持ち込みとこの厨房を借りるよ!」
「はあ、構いませんが。何をされるので?」
「ああ、ここで料理を作る!主も食べてよ。俺からのお礼だ。」
「そんなことをしてくださるなんて、ありがとうございます。」
「その代わり、この国の事を主が知ってる限り、教えてくれよな。」
「解りました。」
「よ~し、リリア、ご馳走を頼むよ!」
「はい!解りました!」
リリアが作るのは日本料理がメインでその他は肉を使わない料理だ。
「こんなに美味しい物は食べた事がありません。」
「でしょ?この子はウチの総料理長だからね。」
「お酒は、大丈夫なのですか?」
「本当はダメですけど、皆さんは冒険者ですからちょっとだけなら大丈夫ですよ。」
「では、主もどうぞ。」とグラスを渡す。
「そ、それでは少しだけ・・・。」と奥に引っ込んで行った。




