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Venus And The SAKURA  作者: モカ☆まった~り
貴族領地編
104/165

0102 最後の夜

 ジョアンは非常に働き者だった。

 最初のうちは農作業を手伝いますと言っては、コケたり、畜産の手伝いをすると言っては鶏を逃がしてしまったりと色々あったが、真摯に取り組む姿勢はやがて領地の民から信頼を得ることになった。


 この領地には教育機関がないのですか?と学校を設立、子供から大人まで分け隔てなくジョアン自らが教壇にたち、最近では領主様から先生と言われる事の方が多くなった。


 生徒の中から算術が得意な者、スケジュール管理が得意な者を雇い入れ、秘書と経理を任せるといった具合で自分自身の管理も怠らないようにし、王都にあった屋敷を売り払ったお金も商人ギルドに預けるといった徹底ぶりを見せた。


 そして、半年が過ぎて・・・。

「この分なら、ジョアンに任せても大丈夫だろう。皆はどう思う?」村長たちを集めての会議。

「先生なら、この領地の事も一番に考えてくれるし、もったいないぐらいです。」と皆が口々に次期領主として相応しいと判断をした。



「ジョアン。」

「何でしょうか?オウカ殿。」

「そろそろ、君に任せようと思うんだ。」

「本当ですか!」とパァっと顔が明るくなる。

「ああ、本当だとも。それでさ、君にプレゼントがあるんだ。」

「なんでしょう・・・・。」

「君に女神クリス・サリーナの祝福を受けて貰おうと思うんだよね。」

「女神様にですか!ありがとうございます!」

「神殿で待ってるから。」


 一日が経つのは早いもので、夕日が落ちそうになっている。

 神殿の窓から夕日の明かりが差し込み、神秘的な雰囲気を醸し出している。


 神殿にはジョアンの他に各村長、街組合、商人ギルド、冒険者ギルド、傭兵団の代表が集まった。


「私は女神クリス・サリーナです。」美しい声が神殿内に響く。

「ジョアン・リーズ・ハランよ、一歩前へ。」

「ハッ!」ジョアンは一歩前に出て跪く。

「貴方をクリス・サリーナの名の下にヒガシムラヤマ領の領主と認めます。これからは、自己の欲求を捨て、民の為に働きなさい。いいですね。」

「このジョアン・リーズ・ハラン、一命に代えましても民の為に働きます。」

「よろしい。では、そなたに褒美を授けます。オウカさん、前へ。この者の頭に手を乗せなさい。」

「ジョアンよ。そなたに改めて、ジョアン・リーズ・ハランの名を授けます。」

「有りがたき幸せにございます。」

「それから、本当に困った時はオウカを頼りなさい。いいですか。オウカを信じなさい。」

「はい!ありがとうございます!」

女神クリス・サリーナの祝福は終わった。




 中央広場にて。


「え~、今日この時を持って、次期領主としてジョアン・リーズ・ハラン君を任命します!」


 広場が!「先生ー!」と沸いた。


「思えばこの5年もの間、皆はよく耐えてくれた!今のヒガシムラヤマ領があるのは誰でもない、皆の力だと俺は思っている!ありがとう!」


「新領主、何か一言!」


 ジョアンは緊張しながらも「た、ただいまご紹介に預かりました、ジョアン・・・。」

「なんだ!聞こえねーぞ!」「しっかりしなさい!先生!」笑いが起こる。

「もし、僕が悪い方向に向かいそうになったら、遠慮しないで正してください!よろしくお願いします!」ジョアンは深々と頭をさげた。

「それで、新しい領主の誕生を祝して、今夜は宴をしたいと思う。皆、心行くまで食べて飲んでくれ!乾杯!」


 宴が進むにつれ、腕相撲をするもの、踊りをするもの、歌を歌うものと賑やかに時間が過ぎて行った。


「よ!領主様。」と声を掛けてきたのは村長たちだ。

「俺はもう、領主じゃないよ。オウカでいいよ。」と笑いながら、村長たちに返す。

「俺達は、領主様に感謝してもしきれない恩がある。本当にありがとうございました。」

「いいよいいよ。こうやって再建できたんだ。俺はそれだけでうれしい。」

「それで、出発はいつにされるのですか?」

「ああ、明日だな。」

「明日!また急ですな!」と村長たちは慌てるのを隠せないようだ。

「この領地はジョアンに引き継いだ。皆で、新しい領主を盛り立ててくれ。」

「畏まりました。それにしても寂しくなりますな。」

「なに、たまには遊びに来るさ。」

 俺達は、グラスを合わせて乾杯!と言った。


 少し離れた所から、「おおー!」という言葉に合わせて、皆が膝をついていく。玲子がバレットとリョウタを連れて来たのだ。


 ジョアンが慌てて駆けつけ、バレットに跪く。

 バレットはまあまあとジョアンの肩に手をやる。

「新領主就任、おめでとう!これは少ないが、私の気持ちだ!民の為に使ってくれ!」と金貨500枚を手渡した。

「ありがとうございます。更なる発展の為に有りがたく使わせて頂きます。」

バレットがリョウタの背を押し、「この方はニホン国国王のリョウタ・サカグチ殿だ。今後もこの領地は世話になるので、懇意にするのだぞ。」

「はじめまして。二ホン国から参りましたリョウタ・サカグチです。よろしくお願い致します。これはつまらないものですが。」とニホンシュを手土産に持ってきた。

「そうですか。有りがたく頂きます。うん?この領地で作るよりも香りが豊かですね。ヤード村長!このお酒を飲んでみてください!」

「これは、美味いですね。」とヤードさんが唸る。

リョウタは笑いながら、「また、酒を作る者を寄こしますよ。」と話し込んでいた。


「ねぇ、桜花さん。明日には帰ってくるのでしょ?」

「ああ、そのつもりだよ。」

「じゃあ、明日は慰労会の宴会ね!今日は飲みすぎちゃ駄目よ!」

「解ってるって。」

「それじゃあ、私たちは帰るわ」三人は帰って行った。


「あっ、そうだ!」と代表の皆を呼ぶ。

「これを飲もうよ!」差し出したのはミルクティー。


 これを飲めるように皆で頑張ろうなと行った日が遠くに感じた。



 翌日。


「オウカさん、今までありがとうございました。」とジョアンが言う。

「こうなると、寂しくなりますね」と村長たちが言う。

「また遊びに来るから、みんな元気で。」


「ちくしょう、結局、勝てなかった!」

「お前が俺に勝とうなんて1000年早いんだよ!」と話ているのはジギルとタイガ。

「またいつでも相手になってやらぁ。」

「その時は、絶対に勝つ!」

「ああ、待ってるよ。」と握手をしていた。


「それよりもよぉ、結局、オウカ殿には稽古をつけて貰えなかったな。」とタイガとマダラが嘆く。

「そうだったな。今度来た時にでも手合わせしようか?」

「本当か?それまで特訓するからよ、是非とも頼むぜ!」


「じゃあ、行くよ」右手を差し出す。

「今後の事は私にお任せください。」とジョアンが桜花の右手を握り返す。


「それじゃあ、行くぞ!」




ー転移ー



 こうして、ヒガシムラヤマ領の再建は終わったのだった。


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