0100 ヒガシムラヤマ領生活協同組合
ヒガシムラヤマ領が出来て5年になる。
収穫も順調になり、王都、他領地との取引も順調、かなり領地の住民達も潤ってきた。
ここで、最も難解な課題、「税金の徴収」に踏み切ろうと考え、各村の代表達を集めることにした。
「今日集まって頂いたのは他でもない税の話を皆で考えようと思う。この5年で皆の生活も潤ってきたので、そろそろ踏み切ろうと思うのだが、意見を聞かせて欲しい。」
多分、反対意見が多いだろうな・・・。しかしこのまま甘やかしてもいけない。誠意を持って話を進めよう。
と思ったのだが・・・。
皆は、嫌がるどころか大賛成。何故だ?
「領主様には各村だけではなく、皆の生活をここまで持ち上げてくれたのです。この領地もすっかりと生まれ変わりました。税を納める事には大賛成です!」
皆が、うんうんと頷いている。
「そ、そうか。ではいくらぐらいが妥当だと思う?」
「それは、10年前を基準に各家庭には金貨1枚、もっと多くても大丈夫でしょう。金貨2枚でもいいぐらいです。」
すかさず俺は「いくら生活が潤って来たとしても金貨2枚は取りすぎだと思うんだ。もっと、皆に負担のない程度で納められないだろうか。」
「では、こうしましょう。各家庭からは金貨一枚と大銅貨5枚。各村からは金貨5枚。商いをしている所は金貨1枚と銀貨2枚でどうでしょうか。」
「それじゃあ、街の掲示板に貼りだして、皆の意見を聞こうと思う。それでいいかな。」
『賛成』揉めると思っていたがあっけなく決まってしまった。
掲示板には、こう記した。
『税の徴収について』
・各村からは年に金貨5枚。
・商いをしている所からは、年に金貨1枚と銀貨2枚。
・各家庭からは年に金貨1枚大銅貨5枚とする。
・現在の支援金に関しては、段階的に終了することにする。
・さらなる発展を遂げた場合は徴収金額を段階的に上げる場合もある。
なお、温泉旅館の売り上げに関しては、諸経費を覗いた全てを全ての民に分配をする。
税の使い道としては、王都への税を収める事に使い、各村や街の整備残った分は領地の貯えとする。
領主の収入源は、基本的に温泉旅館の売り上げから、月に金貨2枚とする。
これで、皆の反応を見るとしようと思っているのだが、意外と「こんなに安くてもいいのですか?」「領主様はもっと収入が多くても良いのでは?」との意見が多く、皆が納得をしてくれない。
第二回、税金徴収会議。
「もっと皆の反応がキツイものだと思ったんだけどなぁ~」
「領主様、それだけ今までの徴収が酷かったという事と、領主様への感謝の現れですよ。」
「そうなのかね〜。俺は王都にはびた一文と払いたくはないけどね。」
ドッと皆が笑う。
「それでは、この領土が成り立たないでしょう。」と村長達が笑いながら言ってくる。
「まぁ、皆が良いと言うのだからいいんだけどね。」
「本当に、領主様は欲のない人ですね。」
「皆を守るのが、領主として当たり前でしょ?俺はそう思うんだけど、違うのかな?」
「いえいえ、そんなことはございませんよ。」
「それと、もう一つ皆に告げたいことがあるんだ。」俺は真剣な顔をする。
俺の態度に皆も顔つきが変わる。
「俺は、皆が立ち直るまでの約束でこの領主を引き受けたから、そろそろ次の領主に引き継ごうと思うんだ。」
その言葉に皆が驚きを隠せない。
「ちょっと待ってください。領主様がいなくなったら、この領土の運営は誰に任せるというのですか!」
「それについては、王都にいる貴族に引き継ごうと思う。」
「その領主が贅沢をする人だったらどうするのですか!」
「大丈夫。ちゃんとした人を探すから。」
「そう申されましても・・・。」会議室の中が静まり返る。皆が絶望しているようだ。
「それで、俺に考えがある。」
絶望の眼差しをした各代表がうつろな顔をしながら俺を見ている。
「この領地に関しては、領主よりも君たちの方が力を持つ権限を与えたいと思うんだ。」
代表の皆は「へ?何言ってんの?この人。」という顔で見ている。
俺は続けて「次の領主がわがままを言っても、皆が納得をしなければ領主の意見は通らないというシステムを作ろうと思う。」
「どういうことですか?」
「君たち代表が話し合ってこの領地の運営をして、政治関連も皆で決めるという事だよ。」
「私たちに出来るのでしょうか?」
「ああ、出来ると思う。その為に色々な問題が起こる度に君たちを招集していたのだから、やってることは変わらないよ。」
「題して、ヒガシムラヤマ領生活協同組合だね。」
「なるほど、それは面白そうですな。」
「それじゃあ、今日から発足としよう。いいね。」
こうして、ヒガシムラヤマ領独特の政治体制が出来た。
その噂は、商人を介して噂が広まり、他の領主達が面白いと研修に集まるようになって行った。
ー***-
王都。
「なにやら、貴族領が面白い政治体制をしているそうだな。」そういうのはバレット国王である。
「何やら、領民の方が領主よりも強い権限を持ち、皆で話し合いをしてから決めるようです。」そう言うのはゼノン司祭である。
「発足者は誰なんだ?」
「オウカ様です。」
「オウカさんか・・・。全くあの人は面白いことを考える。一度、具体的な話を聞きたいものだな。」
「左様ですな。早速、レイコ夫人に取り次ぎましょう。」
「いや、レイコ夫人には、私から話を通してこよう。ゼノンも一緒にどうだ?」
「国王様、ミルクティーが飲みたいだけではないのですかな?」
「ああ、その通りだ。何故、解った?」
「レストランミツヤに行く理由はそれしかないですからな。」
ー***-
「あら、バレット様、いらっしゃいませ。」と出迎えるのは玲子である。
「こんにちは。玲子さん。実は折り入って相談がありまして。」
「その前にミルクティーはいかがですか?」
バレットは満面の笑顔で「頼みます!ここのミルクティーが飲みたくて仕方なかったのです!」
やれやれとゼノン司祭は頭をポリポリと搔いていた。




