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プロローグ



 八年前ーールーフィナは当時侯爵令息だったクラウス・ヴァノの妻になった。彼は城下町の外れにあるこの大きな屋敷にルーフィナを連れて来た。


「君とは形式上だけの関係で、一緒に暮らすつもりはない」


 目も合わさず顔すら見る事もなくそう言い捨てた。彼はその後、何やら使用人等と話をしていた。それも終わるとルーフィナに一瞥もくれる事なく馬車に乗り込み去って行った。


 あれから八年、彼がルーフィナに会いに来る事は一度もなかった。ただ衣食住に困る事はなく、寧ろ贅沢な暮らしを送っていると思う。使用人等も皆優しく働き者で、何の不満もない。

 十二歳の時から学院に通い出し、友人等にも恵まれている。毎日が平穏過ぎて、時折り自分が結婚している事すら忘れそうになってしまう程だ。たまにお見合いの話さえくるものだから余計かも知れない。既婚者にお見合い話を持ってくる非常識な人間などいるのかと思うかも知れないが、それには理由があるーー。




 穏やか昼下がり、柔らかな日差しと心地の良い風の吹く中、学院の中庭の簡易テーブルで男女四人で昼食を摂っていた。


「遂に、遂に! 私達も社交界デビューする時が来たんですね。絶対に、お金持ちの旦那様捕まえて見せます‼︎」


 かなり興奮した様子で話すのは長い亜麻色の髪とヘーゼル色の瞳が特徴的な子爵令嬢のベアトリス・ミレーだ。手にしているパンを強く握り締めた所為で少し潰れてしまっている……。


「お金持ちの旦那ね……本当ベアトリスってお金に目がないよね。僕は正直面倒臭いなぁ。テオフィルもそう思わない? そうだ、なんなら一緒にサボろうよ」


 早々に食べ終わり椅子に凭れ掛かって欠伸をしているのは伯爵令息のリュカ・マスカール、赤みを帯びた金色の髪は文句なしに綺麗だが残念ながら寝癖は今日も健在だ。


「社交界に出るという事は、僕達が一人前として認められたという証であり誇らしい事なんだ。リュカ、君も絶対に参加するべきだよ」


 如何にも好青年で爽やかに笑う彼は名門モンタニエ公爵家の令息テオフィル・モンタニエ。家柄もよく頭もいい剣の腕も立つと三拍子揃っており令嬢達の憧れの君だ。


「流石テオフィル様! いい事仰るわ〜。ほら、リュカ様も見習わないと」

「はいはい。ていうかベアトリス、その前に君パートナーいるの?」


 リュカの指摘に、ベアトリスの笑顔が見るからに引き攣るのが分かった。


「それは……まあ。いない事もなくはなくはないです」

「それっていないって事じゃん。流石に一人は寂し過ぎるよ」

「リュカ様、酷いです! どうせうちみたいな貧乏子爵家の娘なんて誰にも相手にして貰えないって仰ってるんですよね⁉︎ 貧乏人は貧乏人らしく大人しく貧乏人してろって事ですよね⁉︎ そんな事私だってよく分かっています! だって、婚約者のいないお金持ちの同級生に片っ端から声は掛けたのに、全て断られてしまったんです……」

「いや、そんな事一言も言ってないけど……。と言うか片っ端から断られたって……そんなんで金持ちの旦那捕まえるとか無理だね」


 涙目で項垂れるベアトリスに、悪態は吐くがリュカが焦っているのが分かる。そんな二人の様子にテオフィルは肩をすくめた。


「分かったよ」

「何がですか……」

「僕が君をエスコートしてやる」

「え、リュカ様が」


 予想だにしていなかったのか、ベアトリスは目を丸くした。


「なんだよ、その反応は!」

「いえ、だってまさか面倒臭がりのリュカ様がそんな風に仰るなんて……明日の天気は大荒れかも知れません! 大変、うちの庭の畑がダメになってしまうわ!」


 何だかんだと仲が良く微笑ましい二人を見ていると、テオフィルから話を振られた。


「それでルーフィナは、勿論侯爵殿と行くんだろう?」


 突然そんな事を言われたルーフィナは目を丸くして小首を傾げる。


「どうしてですか?」

 

 その瞬間、驚いた顔をする三人からの視線を一気に集めた。

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