92.マッド強化
(あれ、ここは……?)
目が覚めた魔界のその少女は暗く、少し悪寒のする部屋の天井を見て思った。周りに張られた魔法陣に結界。自分の体が自分のものではないような感覚。少女に声が掛けられる。
「目覚めたか、レーティア」
少女はその声に応じ上半身を起こし振り向く。
「あなたは?」
男が答える。
「私は魔王、いや違うな。大魔王ベガルドだ」
「大魔王……」
「今日よりお前は魔王レーティアと名乗るがよい。第三の魔王だ」
「魔王レーティア……」
よく意味の分からないレーティア。立とうとして体に力を入れるがふらつき上手く立てない。ベガルドが言う。
「まだその体に慣れぬようだな。まあよい。時間はある。ゆっくりと慣れて行けばいい」
「……」
無言のレーティア。ベガルドが尋ねる。
「レーティア。今何がしたい?」
「壊したい。そしてお腹が減った」
レーティアは無表情のままその問いに答えた。
「村比斗様あああああ!!!!」
村比斗達がホワイト領に戻ると、彼の帰りを一日千秋の想いで待っていたローゼンティアが駆け付けて言った。
「ティアは、ティアは、とても寂しゅうございました。お怪我はございませんでしょうか!?」
ローゼンティアは村比斗に抱き着きながら涙を流して言う。
「だ、大丈夫だ。基本俺は戦うことはないしな……」
そう答えながらもローゼンティアの大きな胸が腕にぎゅうぎゅう当たりだらしない顔になる村比斗。
「む、村比斗!! 貴様は帰着早々、一体何をしておるのだ!!」
一緒に居たラスティールが激怒して言う。
「いや、俺は何もしてないだろ! 勝手にこいつが……」
「うるさい!! お前が悪いんだ!!!」
そう言ってぷいと顔を背けてひとり部屋へと戻って行くラスティール。ローゼンティアが笑って言う。
「いやですわね~、気の短い女と言うのは」
「いや、だからお前も離れろって」
そう言って抱き着くローゼンティアを無理やり離す。そこへ村比斗達の帰還を聞きつけたデレトナがやって来る。
「兄貴っ、よくご無事で!!」
褐色の怪力女デレトナ。最初こそ村比斗と対立していたが、今はもう立派な片腕と言っていいほどになっている。
「なるほど! そんなことが。さすが兄貴だ!!」
そして村比斗が『非常に強い勇者』だと未だ疑わず思い込んでいる。村比斗やミーアがエルフの里で起きた件も何度も頷きながら聞く。村比斗が言う。
「明日、『六騎士会議』を開きたい。集合をかけられるか?」
「了解です、兄貴!!」
デレトナはそう言うとすぐに会議の準備に取り掛かった。ミーアが尋ねる。
「明日会議やるの?」
「ああ、第三の魔王に向けた対策を取らなきゃな」
「うん、そうだね!」
ミーアはすっかり騎士団長っぽくなった村比斗を見て頷いて答えた。
「ええっと、ではまずエルフの里で起きた件について説明する、ミーアから」
「え? ミーア!?」
翌日、ホワイト邸に集まった『六騎士』、
【深紅の花傘】ローゼンティア
【天才勇者】レナ
【筋肉】マッド
【白銀の双剣】ラスティール
【超火力】ミーア
を前に騎士団長村比斗が立つ。
「ああ、そうだ。俺はそう言うのが苦手だからな」
一同から失笑が漏れる。あまりにも前任者と違ういい加減さに魔王との戦いを控えた会議だというのに和んだ空気となる。ミーアが仕方なしに皆の前に出てエルフの里で起きた件について説明をし始める。
「へえ~、なるほど! じゃあミーアはその杖を持って超強力になったんだね!!」
「そうだよ、レナちゃん」
マッドが筋肉を動かしながら言う。
「では、これで皆にもう憂いはなくなったという訳だな?」
頷く一同。ラスティールが村比斗に尋ねる。
「で、これからどうする?」
「ああ、まだ見ぬ第三の魔王対策のため、更なる皆のレベルアップをしたいと思う」
「そうだな」
村比斗が言う。
「特にまだレベルアップをしていないマッドを優先したい」
「俺か? 確かにそうだな。レベルアップってのがどんなものか知りたいし、俺の筋肉にどんな影響を与えるのかも興味がある」
「そんなものどうでもいいでしょうに」
隣にいたローゼンティアが呆れた顔で言う。村比斗がまとめて言う。
「では王都の守りにレナ、マッド、ローゼンティア。ホワイト領の整備にはこれまで通りラスティールとミーア。そしてマッドから順番にひとりずつ俺と一緒に森へ行って魔物と戦う」
「了解っ!!」
それに応じて皆が返事をする。村比斗が最後に王都を守る三人に言う。
「今一番危険なのは恐らく王都だ。何が起こるか分からない。でも、決して無理はするなよ」
「大丈夫ですわ、村比斗様!!」
村比斗は何も起こらぬよう心の中で祈った。
「本当に村比斗殿と一緒に歩くと魔物が出るのか?」
翌日、早速【筋肉】マッドとふたりだけで魔物が出る森へ出かけた村比斗。歩きながらマッドが尋ねる。
「ああ、間違いない。でもちゃんとやっつけてくれよ。俺、マジで弱いから」
「うむ、それは分かっている。村比斗殿と一緒に居ると守りたくなってくる」
村比斗は隣に歩く筋肉隆々のスキンヘッドからそんな言葉を投げかけられ一瞬悪寒が走る。
(冷静に、冷静に。これはこのハゲの修行。落ち着け……)
一緒に歩いているだけで感じる筋肉から発せられるマッドの熱。何かオイルのようなすっと鼻につく匂い。これまで一緒にレベルアップしていたのが皆女の子だったので、あまりに違う今の状況にやや戸惑いを感じる。
(あれ? この感覚……)
そう言いながら歩ていると村比斗に魔物の気配が襲う。
「き、来た……、マッド、頼むよ……」
「うむ。先程から筋肉が反応している……」
そう言いながら自分の上腕筋がヒクヒク動くのを見つめるマッド。そして奴が現れた。
ウゴオオオオオオ!!!!
「うわっ、出た!!!」
それは突然やぶの中から現れたゴリラの魔物。
全身金色に光るその姿に一瞬目が眩む。そしてマッドに負けるとも劣らぬ見事な筋肉。全身が美しいと思えるほどの筋肉ゴリラであった。
「げっ、なんか似たような奴が現れたな……」
魔物に恐怖を覚えるも、なぜか既視感に駆られる村比斗。そして隣にいるマッドに声を掛ける。
「お、おい、頼むぞ。マッド……、ん?」
村比斗がマッドに声を掛けるも、当の本人はそのゴリラに見惚れている。
「なんと言う美しい筋肉……」
「は?」
木の陰に走りながらそれを聞き唖然とする村比斗。マッドは目の前で美しい黄金の筋肉を見せつけるゴリラに見惚れている。
(ば、馬鹿なのか、あいつは!? 早く戦えって!!)
村比斗は木の陰に隠れながらその妙な空気を肌で感じる。マッドが言う。
「見事な筋肉だ。さぞ高名な筋肉なのであろう」
(言っている意味が分からんぞ!!)
村比斗が突っ込む。
ウホホホホゴオオオ!!
金色のゴリラもドラミングのように胸を叩いて応える。マッドが答える。
「そうか、それは素晴らしい……」
(おい! それで分かるのかよ!!!)
何故が会話が成立しているマッドに心の中で再度突っ込む村比斗。マッドが自分の筋肉に力を入れて言う。
「とは言え、俺はここでお前を倒さねばならぬ。これが勇者と魔物の宿命。さあ、相手になるぞ!!」
ようやく戦う雰囲気を出したマッドがゴリラに向かって言う。
ウホホホホゴオオオ!!!
ゴリラもそれに応えてドラミングをする。
小一時間。
最初はお互いの筋肉を見せ合って争っていただけの無駄な闘い。その後マッドの締め技で息絶えたゴリラ。お互いの筋肉を称え合い、全身にかいた汗に共感し、そして破れていったゴリラ。煙の様になって消えゆくライバルにマッドは一粒の涙を流した。
「……おい、終わったのか?」
余りに緊張感のない戦いに飽きていた村比斗が出て来て言う。
「ああ、終わった。見事な筋肉だった」
全く会話が成り立たんな、と思いつつマッドに言う。
「じゃあ、これからレベルアップをする。前にも言ったが必ず副作用が起こる。覚悟しておけよな」
「ああ、大丈夫だ。筋肉の名に懸けて」
もはやどう突っ込んでいいのか分からない村比斗がマッドに言う。
「ありがとう。助けてくれて」
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
突然マッドの頭の中で聞こえる甲高い声。
「おお、何だこれは!?」
驚くマッドの体に不思議と力が湧いて来る。
「こ、これは一体!? 全身から力が、筋肉が喜んでいる!!!」
村比斗がじっと見つめる。今のところ副作用はない。ただこんなゴリラに抱き着かれたらひとたまりもないと警戒する。そしてその時が訪れた。
「うっ、うぇ、うおえぇぇ……」
突然マッドが口に手を当て苦しがる。
「お、おい、大丈夫か!?」
副作用が始まったと気付いた村比斗が声を掛ける。しかしマッドは激しい嘔吐に耐え切れず、その場で何度も口からゲロゲロと嘔吐を繰り返す。
「ま、まじかよ……」
【禁断の嘔吐】
良く分からない副作用だが、とにかくゲロを吐きまくるものらしい。
マッドが王都で苦しむ中、村比斗も副作用の激痛でその場に倒れ込んだ。
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