90.ハーフエルフ
「きゃあああ!!!」
「どいてくれ、どいてくれええええ!!!」
村比斗達がエルフの里に近付くにつれ、顔色を変えて逃げ惑うエルフとたくさんすれ違う。皆が恐怖に駆られ子供を抱え、我先へと逃げて行く。
「……」
そんな彼らをミーアだけは冷静に見つめていた。
純粋なエルフ族。自分を見下したエルフ達。
そんな複雑な思いも里の情景を見て一変した。
「これは……、酷い……」
緑に囲まれて美しかったエルフの里は崩壊していた。
木々は倒され建屋は破壊。火炎魔法の為か至る所で火の手が上がっている。そして何よりもその中心で暴れる巨大な魔物、サンドゴーレムが残った人々を絶望の底に陥れていた。
「何やってるんだ、お前達!! すぐに逃げろっ!!!」
村比斗達とすれ違う様にげるエルフが叫ぶ。
しかし三人は暴れるサンドゴーレムを無言のまま見つめる。
(ミーア……)
ミーアの目からは自然と涙が流れていた。
飛び出したとはいえ目の前で破壊される自分の故郷。自分を馬鹿にしたエルフ達が顔色を変えて逃げ惑う光景。ミーアの中で処理しきれない感情が幾重にも重なりあう。
サンドゴーレムのステータスを見た村比斗がミーアに言う。
「戦えるか? あの砂のバケモン、ラスティールだけじゃあかなり厳しい」
双剣を構えながら対峙するラスティールを見て村比斗がミーアに言う。ミーアは涙を拭いて言う。
「うん、大丈夫。ねえ、村比斗君、私に力を貸して……」
村比斗はミーアの頭を撫でながら笑顔で言う。
「あいつを倒そう。大丈夫、俺達がついている!」
「……うん」
ミーアはそう返事をすると、村比斗とラスティールの前に出る。目の前には大暴れするサンドゴーレム。大きな拳を振り上げ目に映るものすべてを破壊している。ミーアが杖を前に魔法を唱える。
「ブラックレイン!!」
ミーアの口から発せられた魔法。それと同時に発生する真っ黒な雨雲。すぐにそれはサンドゴーレムの頭上に集まり巨大化。轟音を立てて激しい雨を降らせサンドゴーレムを水浸しにする。ミーアが残りの手で更に別の魔法を発動。
「コールドロック!!!」
その瞬間。水に濡れたサンドゴーレムが一瞬で氷に固まる。ラスティールが叫ぶ。
「私が、斬るっ!!!」
そう言って素早く駆け出し、倒れた木や崩壊した建物を足場に空高く飛び上がる。そして手にした双剣で氷となり固められたサンドゴーレムを真っ二つに斬り裂いた。
「はあああああっ!!!!」
ズン!!!
ドオオオオオン!!!
成す術なく真っ二つに斬られ倒れるサンドゴーレム。避難していた人たちがその異変に気付き振り返る。
「な、何なの? 何が起こったの?」
それを見ていたエルフの里の長老フォーシェルが驚いて言う。周りの従者たちがフォーシェルに言う。
「誰でございましょう? 強い魔力も感じます……」
放たれる魔力から同じエルフ族だということは分かる。しかし現在エルフの里にあれほど強力な魔法を続けて放てる者などいない。
(一体誰なのかしら……!?)
フォーシェルは突如現れた得体の知れぬ助っ人を見て思った。
「やったのか!?」
村比斗の問いかけに戻って来たラスティールが答える。
「分からぬ。確かに斬った手応えはあったが、妙な感じもする……」
パラパラパラ……
そう話す村比斗達の頭上から細かな砂が落ちてくる。
「砂……?」
村比斗がそれを手のひらで受け止め言う。次の瞬間ミーアが叫んだ。
「後ろっ!!!」
(え!?)
村比斗達が振り向くと、すぐ真後ろの空中に上半身だけ再生されたサンドゴーレムが浮いている。そしてその右手が振り上げられる。
「魔法障壁!!!!!」
ドオオオオン!!!
叫ぶと同時に張られたミーアの防御壁。
巨大化したサンドゴーレムの右手がその壁に当たり、ボロボロと崩れ落ちる。
「くそっ、後ろからとは!!!」
「下がって、ラスティちゃん!!!」
サンドゴーレムの攻撃に剣を持って応戦しようとしたラスティールをミーアが制止する。同時に唱えられる魔法の詠唱。そして杖を前に出し魔法を放つ。
「フレイムショット!!!」
ドーーーーーン!!!!
ミーアから放たれた小型の炎の弾丸。
それが砂が集まり再生しようとしていたサンドゴーレムの胸の中心を貫く。
ゴオオオオオオッ……
するとこれまで再生していた砂が止まり、その体がボロボロと崩れ始める。
「あれ、どうなったんだ!?」
驚く村比斗にミーアが答える。
「核を撃ち抜いたの。もう多分再生できないかな」
そう言う間にもサンドゴーレムは崩壊を続け、最後は轟音と共にただの砂となって消滅した。
「よくやった。ミーア!」
村比斗がミーアの元へ行きその頭を撫でる。
「凄いじゃないか、ミーア。ほとんどお前ひとりで倒したもんだ」
ラスティールもその戦いを褒める。
「うん、ありがとう」
しかしミーアの顔は浮かれない。
ずっと避けて来た自分の里。そしてその里が壊滅的に破壊されている。様々な思いがぶつかり合うミーアが無言でそれを見つめる。
「あ、あの……」
そこへ数名の従者を連れたひとりの子供のエルフがやって来る。そして村比斗達の前に来て頭を下げて挨拶する。
「私はエルフの里の長老フォーシェルと言います。この度は里の危機を救って頂きありがとうございます」
村比斗達も慌てて頭を下げる。フォーシェルが言う。
「あ、あなたは同胞の……」
そこまで言い掛けてミーアの短い耳を見て口が止まる。ミーアが帽子を取りフォーシェルに挨拶する。
「ええ、私はハーフエルフのミーアと言います。この里を出て行った世捨てエルフです」
ミーアは悲しげな顔をして言う。驚くフォーシェル。彼女が何かを言おうとしたより先に村比斗が言う。
「なあ、あんた長老さんなのか?」
あまりに失礼な言葉遣いに従者が窘めようとするのをフォーシェルが手で制す。
「はい、まだ成りたてだけど一応長老です」
「なあ、聞くが何でハーフエルフってのは皆に嫌われるんだ?」
一瞬凍り付く空気。誰もが思っていた事であり当たり前のことではあるが、公には口にすることはない。従者が答える。
「失礼な奴だ。まずは名を名乗るが良い」
村比斗が頷いて言う。
「そうだな。俺は村比斗。えーっと、一応ベガルト王国騎士団長だ」
「え!? き、騎士団長!?」
ベガルト王国の騎士団長と言えば『六騎士』をまとめその頂点に立つ者。この暗き世【暗黒の時代】を終わらせるために最強の勇者が集った集団。その団長が目の前に男だと言う。
「騎士団長は確かランディウス殿とお聞きしているが、ム、ムラヒ、様でしたか?」
ラスティールが前に出て答える。
「ランディウス殿は魔王との戦で見事な最期を遂げられた。『六騎士』も数名が命を落とし、ここに居るミーアが新たに加入、そして村比斗が騎士団長を務めている」
「それは、それは……」
閉ざされた社会であるエルフの里。
ベガルトの最新の情報など簡単には届かない。村比斗が再度聞き直す。
「で、長老さん。なんでハーフエルフってのは嫌われるんだ?」
それを無言で、無表情で聞くミーア。すぐに従者が答える。
「それが我々エルフの習慣。純粋なエルフこそ至高。魔力も、その能力も優れているからです」
村比斗が言う。
「ここにいるミーアはハーフエルフだけど、お前らが倒せなかったサンドゴーレムを簡単に倒しちゃったぞ」
「そ、それは……」
戸惑う従者達。ミーアが村比斗に言う。
「簡単じゃないよ、村比斗君。ミーアの魔力だってかなり減っちゃったし」
「そ、そう言った突然変異的な個体も生まれよう。ただ、一般的にハーフエルフってのは……」
そう言い掛けた従者を制してフォーシェルが言う。
「申し訳ありません。仰る通りです。だから私はそのような差別をなくそうとずっと思っていました」
幼き長老フォーシェル。
そう言い切った顔はエルフの里の長老の顔つきであった。
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