83.束の間の宴
「村比斗おおおお!!!」
「村比斗様ああああ!!!!」
魔王ゾルドを倒した皆が後ろに立ち尽くす村比斗の元へと駆け寄る。魔王と一緒に居るだけで震えるほどの恐怖を感じていた村比斗が、へなへなとその場に座り込む。
「村比斗おお!!」
ラスティールやローゼンティアが村比斗に抱き着いて喜びを表す。
「良かったね、魔王を倒せて!!」
ミーアやレナも一緒になって喜ぶ。ローゼンティアも頷きながら言う。
「これでひとつ夫との約束が果たせましたわ。村比斗様、ティアを褒めて頂けませんか?」
放心状態の村比斗がぼそっと言う。
「ああ、みんな、ありがとう……」
「え?」
「あ!?」
その言葉を聞いた瞬間、そこにいた一同青ざめる。ラスティールが顔を赤くして言う。
「む、村比斗おおお!! まだ、まだ心の準備がぁ、ああぁ、ああん……」
ラスティールが急に股間を押さえてその場に座り込む。
「ヒャッハー!!!!!」
ずきゅん!!
「あん、村比斗様ぁ、本当に今日も素敵で……、ティアは、ティアはもう、我慢できませぬわ……」
そう言ってぼうっとする村比斗に抱き着くローゼンティア。
「村比斗君ーーーーっ!!!
レナも元気いっぱい村比斗にしがみつく。ラスティールが言う。
「む、村比斗ぉ。お、お前はいつもそうやって、私をいじめる……、これほど体が熱く、熱くぅぅん、燃えるのに……、お前はいつも、あああん……」
いつの間にか地面に寝転がり悶えるラスティール。
「ヒャッハー!!!!!」
「うぐっ!!」
そして少し遅れて村比斗の副作用がやって来た。
「乾杯ーーーーっ!!!」
その夜、ホワイト邸でささやかな祝勝会が開かれた。
王都襲撃が起こり、ホワイト領も多忙を極めていた中での会だったので、それほど盛大ではなく見知った者達だけで開かれた。
テーブルにはまだ怪我の癒えない領主ベルフォードが中央の椅子に座り、村比斗、ラスティール、ローゼンティアにミーア、レナやデレトナなどいつもの面々が周りに座る。ベルフォードが言う。
「本当に素晴らしい戦果だ。それに可愛いお嬢さん方に集まって貰って私は嬉しい」
相変わらずだなと村比斗が苦笑する。ベルフォードの隣に座ったレナが言う。
「ベル爺はもうお爺ちゃんなんだから、無理はダメだよ~」
「レナちゃん、男と言うものはだね……」
皆が笑いに包まれる。
「はい、あ~ん、でございますわ。村比斗様ぁ」
村比斗に密着するように座るローゼンティア。真っ赤なロリータドレスにいつもより大きく開いた胸元が一段と色っぽい。スプーンを持って顔を赤らめるローゼンティアに村比斗が言う。
「おい、俺は別に怪我などしてないから自分で食えるぞ」
ローゼンティアが驚いた顔で答える。
「そ、そんな……、怪我をしたわたくしに村比斗様が食べさせて頂けるなんて……、ティア、恥ずかしいですわ……」
「そんなことは言ってない」
「む、村比斗おお!! 貴様、食事も自分でできないのか!!!」
同じく村比斗の隣に座ったラスティールが怒りで顔を赤くして言う。
「いや、だからお前はちゃんと話を聞いているのか? 俺は自分で食べるって言ってるだろ?」
「村比斗君もちゃんと自分で食べなきゃダメだよ」
向かいに座ったミーアもちょっと困った顔で言う。
「いや、だからお前も目の前で座っていて何も聞いていなかったのか?」
ラスティールが少し恥ずかしそうな顔をして言う。
「む、村比斗。その、なんだ……、もしお前が体調が悪くて一人で食べられないのなら、仕方ないから、わ、私が食べさせてやってもいいんだぞ……」
最後は消え入りそうな顔でラスティールが言う。
(うっ)
金色の長髪の中から見える恥ずかしそうなラスティールの顔を見て一瞬村比斗がどきっとする。そんな態度に気付いたローゼンティアがテーブルに置いてあったワイングラスを持って言う。
「村比斗様、どうぞワインを。ティアの口移しで……」
そう言ってローゼンティアが持っていたワインを口に含み、村比斗の方を見て目を閉じる。
(ぐはっ!? な、何をやって……!!!)
それを見たラスティールが驚いて言う。
「村比斗おお!! 貴様、公の場でなんて破廉恥なことを!!!」
「ちょっと待てって。俺はまだ何もしていないぞ!!!」
慌てて言い返す村比斗にラスティールが更に大きな声で言う。
「まだ? 『まだ』とは何だ!!! じきにするって意味か!!! ならば私も……」
ラスティールはそう言うと少しはなれば場所にあった白ワインを自分のグラスに注ぐ。驚いたベルフォードが声を出す。
「あ、こら。ラスティール。やめなさい……」
ラスティールは興奮しながらワインをグラスに注ぎ、一気に口に入れる。
「うっ、うげえええええ……」
「おいおい……」
お酒が全く飲めないラスティール。
いきなり口に入ったアルコールに体が拒否反応を示し、すぐに吐き出してしまった。村比斗が言う。
「何やってんだよ、お前。仕方ないな……」
村比斗がラスティールの元に寄りテーブルにあったナプキンで顔を拭く。ラスティールが言う。
「やめろ! か、顔ぐらい自分で……」
「いいから黙ってろ」
そう言ってラスティールの頭を軽く叩き顔を拭く村比斗。ラスティールは黙ってその言葉に従う。
「う、ううう、ううっ……」
一方のローゼンティは口にワインを含んだまま苦しそうにそのふたりを見つめる。
ドン!!!
「うっ、ううっ!!」
ごくん
そのローゼンティアの背中をいつの間にか横に着たミーアが叩く。その勢いでワインを飲み干した彼女にミーアが言う。
「はいはい、ティアちゃんも、村比斗君に相手して欲しかったら手段は考えようね~」
「わ、わたくしは、ただ……」
村比斗とラスティールを見て泣きそうになるローゼンティア。それをテーブルの端で見ていたベルフォードが笑って言う。
「さすがの『六騎士』も村比斗君の前じゃあ、みんなああなっちゃうんだな」
レナが言う。
「ボクも村比斗君は大好きだよ!!」
ベルフォードがレナの頭を撫でながら笑って言う。
「レナちゃんはまだまだそう言うのは早いよ」
レナがむっとして言う。
「ボクはもう子供じゃないよ!! む、胸はまだあんまりないけど、きっとすぐに大きく……、あ、そうだ!!」
レナが何かお思い出したように言う。
「ティアから教えて貰ったんだけど、胸って男に揉んで貰うと大きくなるんだよね。じゃあ、村比斗君に揉んで貰おうかな??」
「え?」
その声が聞こえたラスティールが怒りの表情で村比斗に言う。
「む、村比斗おおお!!!」
「はい!!!」
背筋が伸びる村比斗。ラスティールが激怒して言う。
「き、貴様は、まだ子供のレナにまで、レナにまでそんなことを!!!!」
「は? お、おい、待て!! 全く何のことだか意味が……」
結局村比斗は、いつも通りラスティールに追いかけられ祝勝会どころではなかった。
「ぎゃあああああ!!!!!」
ベガルド王城の敷地の一角にある離れ。
その地下に秘密裏に作られた暗き部屋。明りはなく、部屋の中央に描かれた魔法陣が発するぼんやりとした光が薄暗い部屋を照らす。
「もうあと少しだ……」
その魔法陣の中には白い汚れたワンピースを着た魔界の少女。その前には高貴な衣服を着た男がそれを見つめる。男が言う。
「もう少しで誕生だ。魔王レーティアよ」
男は規則正しく回転する魔法陣をじっと見つめた。
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