75.待ちわびた帰還
「お父上、ご容態はどうですか?」
魔物の王都襲来で壊滅的な被害を受けたベガルド城。その際に重傷を負ったボナレフ王子は、重篤な病気である父の国王と共に王宮へ避難していた。
松葉杖をつきながら全身包帯で巻かれたボナレフがベッドに横たわるベガルドに声を掛ける。
「ボナレフか。うむ、余は問題ない」
「良かった。ボクはもう体中痛いよ。ほんとになんで魔物なんか出るんだよ。『六騎士』は何やってたんだよ!!」
ここに来て幾度となく繰り返したその言葉をボナレフが再び口にする。
窓からは王都復興に向け多くの雑用勇者達が慣れない復興作業を続けている。本来その復興の指揮をとるのは王子であるボナレフの仕事であったが、怪我を理由にそのすべてを妹のマロンに押し付けていた。ベガルドが言う。
「ボナレフよ」
「なに、お父上?」
ベガルドがベッドに寝たまま言う。
「お前は本当に良くやってくれた」
「いえ、そんなことは……」
ボナレフが照れながら答える。
「でも、もう用済みなだがな」
「え?」
ボナレフは後ろから響くその聞き慣れない男の声に振り返る。
「ぎゃっ!! だ、誰だ、お前っ!!」
そこには真っ黒なローブを着た見たこともない男。無能なボナレフでもその異常さはすぐに理解できる。ボナレフが持つ勇者としての本能よりも恐怖が勝っていた。男が言う。
「儂か? 儂は、魔王ゾルドと言う者だが」
そう言いながら右手を上げボナレフに向ける。
「ま、ま、魔王、ゾルドだって!? そ、そんな馬鹿な……、ぎゃっ!!!」
ゾルドから放たれた衝撃波がボナレフに当たる。逃げる間もなくボナレフは一瞬でその姿を消滅させられた。ゾルドが言う。
「お前の役目は終わったのだよ。国を混乱させるという大切な仕事が。……さて」
ゾルドはベッドに横たわるベガルド王国を見つめて言う。
「ベガルド王国、ご機嫌はいかがでしょうか?」
ベガルドは横になったまま無言でゾルドを見つめた。
「村比斗様、お疲れのようですね……」
政務室に入って書類を眺める村比斗にシルフィーユが近付いて言った。
本来『村人』である村比斗。畑を耕したり家屋の修繕など体を動かすことは得意なのだが、やはりこういった事務作業は苦手である。幸い前世の記憶と経験があったので全くできないことはなかったが、それでも本能的に嫌がっているのは分かる。
次々と各部署から上がって来る書類を手にしながらシルフィーユに答える。
「ああ、慣れない仕事だから疲れるよ」
村比斗が本音を言う。シルフィーユが答える。
「あの、よろしければシルフィが村比斗様に按摩をして差し上げましょうか?」
「え?」
村比斗はシルフィーユを見つめる。
真っ黒なおさげの髪。眼鏡をかけロリっぽいくせにそれに似合わぬ巨乳。ふたりっきりの暗い按摩室で彼女に全身を揉んで貰うというのも決して悪くない。
「そ、そうだな。後進の育成のためにも師範がその身をもって色々なところを揉んで貰って、いや別に、変な意味じゃなくて、シルフィーユのその可愛い手で、色んなところをだな……」
「可愛い手が何だというんだ、村比斗っ!!!!」
「ぎゃっ!!」
いつの間にか部屋にやって来ていたラスティールが怒りの表情で言う。
「ラ、ラスティール!? いつの間に??」
「いつの間にじゃないだろ!! 貴様、無垢なシルフィーユに一体何をさせようとしていたんだ!!」
村比斗が慌てて答える。
「いや、ちょっと疲れたんで、按摩で色んなところを揉んで貰おうかと。いや別に、彼女がロリだとか巨乳だとかそんなことは一切考えてはいなくてだな……、ん?」
村比斗はそう言いながらラスティールの後ろにいた女性に気付く。
「あれ? お前、マーガレット?」
「村比斗様ぁ!!」
マーガレットはそう叫ぶと一直線に村比斗に駆け寄り抱きしめる。
「お、おい! 何やってんだよ、急に!!」
マーガレット・マーベロン。隣接するマーベロン領主の娘で、村比斗を監禁した罪で投獄された領主の代わりに現在指揮をとっているのが彼女。
村比斗からの要請を受け、マーベロン領でも王都からの流民を受け入れてくれたのも彼女のお陰である。
「村比斗様、お会いしたかったです!!!」
マーガレットは銀色のサラサラの髪を揺らして強く抱きしめる。
「わ、分かった。マーガレット。とりあえず離せ!!」
部屋の入り口でラスティールが、そして村比斗の隣でシルフィーユが険しい顔でそれを見つめる。村比斗がラスティールに尋ねる。
「どうして彼女がここに?」
ラスティールが詰まらぬそうな顔で答える。
「知らぬ。急にやって来てお前に会いたいと言っていたから連れて来た」
「村比斗様、マーガレットは寂しかったです。また婚儀も行っておらず、いつできるのかと……」
涙目になって言うマーガレットに村比斗が慌てて答える。
「いや、誰も結婚するなんて言ってないだろ! それよりまあ、お前には感謝している。俺の頼みを聞いてくれて」
村比斗は急な要請にも快く受け入れてくれたマーベロン領に感謝していた。彼女が受け入れてくれなかったらホワイト領は既に破綻していただろう。マーガレットが答える。
「夫になる人のお願いです。どうして断ることなどできましょうか」
真面目な顔をして言うマーガレットを見てラスティールが村比斗に言う。
「貴様は一体何人の妻を作るつもりだ?」
「し、知らねえよ!!! と言うより一体どうしたんだ? 何かあったのか?」
マーガレットが答える。
「王都が魔物の襲撃を受けたと聞きました。それで村比斗様が心配でいても立っても居られなくて……」
「そうか……」
王都襲撃の報はすでに各地に伝わっている。魔王に対する人間達の最後の砦ともいわれるベガルド王国。その王都が攻撃を受けたとあれば不安になるのも無理はない。村比斗が答える。
「それについては今色々と調査中だ。準備もしている」
そう答えた村比斗は大きな足音がこちらに向かって来るのに気付いた。
「あ、兄貴ぃ!!!!」
部屋にやって来たのは巨漢女勇者のデレトナ。村比斗とクワ勝負をして敗れ、以来『兄貴』と呼んで忠誠を誓っている。村比斗が言う。
「どうしたんだ、慌てて?」
デレトナが顔中に汗をかいて言う。
「レナ様が、『六騎士』のレナ様が来やした!!!」
「え、レナが?」
ラスティールがその言葉に驚く。彼女は先の魔物襲撃で怪我をしており今は王都で休養中のはず。そしてすぐに部屋にやって来たレナを見て皆が驚いた。
「やあ、ラスティ。それに、えーっと、村比斗君だったね~?」
レナの体にはまだ痛々しい包帯が巻かれ、どうやってここまで来たのか不明だが明らかに弱っている。ラスティールが言う。
「なぜお前がここに来た? 王都で休んでいたのではないのか!?」
レナが答える。
「ああ、そうしていたんだが。大変なことを知っちゃってさ~」
「大変なこと?」
ラスティールが首を傾げる。レナが言う。
「ランディがね、騎士団長が魔王と繋がっていたんだ」
「!!」
その言葉に驚く一同。ラスティールが笑って言う。
「何を言う、レナ。いくら怪我が酷いからってそのような戯言は認められぬぞ」
「ほ、ほんとなんだって!! ねえ、村比斗君は信じてくれるよね?」
少し考えた村比斗が答える。
「うーん、何か証拠はあるのか?」
「証拠? ボクが聞いたんだよ! それより早くしないとここが攻められるんだよ!!」
「……」
静まる一同。
『六騎士』とは言えレナはまだ子供。強さこそ一級品だが、子供の彼女の言葉を鵜呑みにはできない。レナが言う。
「本当だって!! 信じてよ……」
少し泣きそうな顔でレナが言う。ラスティールが困った顔で答える。
「そう言われてもな、騎士団長は今復興の為に必死になって働いていて……」
「わたくしが、保証いたしますわ。その言葉……」
そんな皆の前に、破れた赤きロリータドレスを着たその少女が現れて言った。
「ロ、ローゼンティア!?」
村比斗、ラスティール、その他全員。
彼女が現れた喜びよりも、そのボロボロになった『六騎士』ローゼンティアのその姿を見て声を失った。
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