73.王都崩壊
「うぬっ!?」
ボロケーニャを討ち取りレベルアップを果たした魔王ゾルドは、王都へ行き守備の『六騎士』を始末しようとしてその異変に気付いた。
「神竜ティアマットが討ち取られた、だと……!?」
王都から発せられていた神竜の邪気。
それが突如途絶え消えてしまったのである。それはつまりティアマットの死を意味する。
(今の『六騎士』に魔界でも上位に位置する神竜を討ち取る力はないはず。一体何が……?)
ゾルドは王都への移動をやめ立ち止まる。
(神竜を短時間で消す得体の知れぬ力。王都を破壊し、『六騎士』ボロケーニャを倒してレベルアップもしたので計画は成功。これ以上の深追いは良しとせぬか……)
ゾルドは自分の配下に『退却』の指示を出すと、自身もそこから姿を消した。
「はあ、はあ……」
ローゼンティアは深紅の花傘を握りしめながら、その元愛した男を見つめた。
(とてもお強いわ。ランディウス様ご自身もお強いのだけれども、あの聖剣が……)
ローゼンティアはランディウスが手にしている六聖剣を見つめる。
どんな物でも斬り裂くと言われる業物『六聖剣』。騎士団長のみが持つことを許可される名実ともに最高の剣。レベルアップし、魔力を込めた花傘であってもその攻撃を何度も防ぐことは不可能であった。
(大切な花傘が、こんなに……)
ローゼンティアは大切な花傘が、幾度の攻撃によってボロボロになっていることに心を痛めた。ランディウスがローゼンティアに尋ねる。
「ひとつ教えて欲しい」
「何でしょうか?」
ローゼンティアは肩で息をしながら答える。
「どうしてこの短期間にこれほど強くなったのだ?」
「……」
ランディウスは六聖剣を持った自分とここまで対等に戦えるローゼンティアが不思議であった。そしてこの強さなら他者と協力すれば魔王ガラッタ討伐も可能であると認めていた。だからこそ知りたい。その強さの理由を。
「言えぬのか?」
『村人』である村比斗のお陰。
ただそんなことを言えば確実に彼が狙われてしまうことは自明の理。ローゼンティアが何か言おうとした時、ランディウスが先に声を出した。
「村人がいるんじゃないのか?」
「!?」
その言葉に驚くローゼンティア。できるだけ表情を変えず冷静に答える。
「そのような者、どうしてこの世界にいらっしゃると?」
ランディウスが答える。
「お前達の急激なレベルアップ、魔物達の不可解な行動。それらを考えればホワイト領に『村人』がいる可能性が高い」
ローゼンティアは顔面蒼白となった。
ランディウスに、魔王軍にそこまでもう知られていることに。ランディウスが言う。
「何も言わなくてもよい。その顔が私の言葉を否定しておらぬようだからな」
「くっ……」
ローゼンティアは一刻も早くこの事実を村比斗達に伝えなければならないと思った。
(そのためにわたくしが今すべきことは……)
ローゼンティアが素早くランディウスに突進し花傘を突き付ける。
「咲き乱れ傘!!!」
無数の赤き弾丸のような突きがランディウスに降り注がれる。ランディウスは素早く六聖剣を抜きその弾丸を払う様に剣を振る。
ガンガン、ガン、ガン!!!
辺りに鳴り響く剣と花傘の交わる音。
その一瞬の隙を突いてローゼンティアが後方へと跳ねるように下がる。
(そう、わたくしが今しなければならないことは勝つことではなく、逃げること!!)
しかし逃走姿勢になったローゼンティアにランディウスの容赦ない剣撃が振り下ろされる。
「逃がさぬぞっ!!!!」
高速で振り上げられる剣。ローゼンティアは半身になってその剣撃を傘で受け止める。
ドオオオオン!!!!
「ぐっ!!」
間一髪、花傘を両手で支えランディウスの強烈な剣撃を受け止める。両腕にかかる強い圧力に耐え、ローゼンティアが至近距離から反撃する。
「咲き乱れ傘っ!!!!」
ドンドンドン!!!
「ぐっ!!」
さすがにこの距離では避けきれなかったランディウス。
咄嗟に両手を前に組み体への直撃は避けられたものの、反動で大きく後方まで吹き飛ばされてしまった。
「……逃げたか」
ランディウスは気が付くと既にローゼンティアの姿は視界にはなかった。手にした六聖剣を腰の鞘に納めて言う。
「簡単に逃げられると思うなよ」
ランディウスはゆっくりとローゼンティアが消えていった森の中へと歩き出す。
(撤退せよ)
その時彼の頭の中に魔王ゾルドからのメッセージが届いた。歩き出したランディウスの足が止まる。
(撤退? 何があったと言うのだ? ……まあ仕方ない。ローゼンティアもあの怪我なら直に死ぬだろう……)
ランディウスはそうひとり笑うと乗ってきた馬にまたがり森の中へと消えていった。
「はあ、はあ、何とか逃げ出せたわ……」
森の中をひとり走るローゼンティア。ランディウスの追撃をかわし辛うじて逃げのびることができた。
(すぐにホワイト領へ行って村比斗様にお知らせしなければ!!! ……え?)
その時であった。
ドン!!!
「きゃああああ!!!!」
突然体の正面にかかる激しい圧力。
それはまるで強烈な空気の剣圧のようになってローゼンティアを正面から襲った。
「何ですの……、これは……」
ローゼンティアは体の骨を折るような激しい圧力を受け、血を吐きその場に倒れる。それが先ほど傘で受けたランディウスの六聖剣の攻撃によるものだと直ぐに理解した。
(う、動けません、わ……、これで……、は……)
ローゼンティアは森の中でただひとり意識を失った。
「はあああああっ!!!!」
カンカンカンカンカーン!!!
ベルフォードは死霊リッチが出した無数の鎌を手にした剣ですべて叩き落した。リッチが感心して言う。
「それほどの怪我を負いながら、なんと素晴らしい動き。あなたこそ『六騎士』にふさわしいのではないでしょうか?」
ベルフォードが軽く礼を言う。
「ああ、それはどうも。だがそんなものにはもう興味ない」
そして再び剣を構える。少し離れた場所には気を失って倒れているレナ。ベルフォード自身もいつ倒れてもおかしくない状態であったが、そんなレナの姿がその気力をギリギリのところで支えていた。ベルフォードが言う。
「あまり時間をかけられないのでな。これで決めるぞっ!!」
そう言うと持っていた剣に力を込める。剣がベルフォードの力を受け燃えるように赤く染まる。驚いたリッチが言う。
「それは少しまずいですね。それでは私も……」
ベルフォードの強力な剣を見たリッチがそう言い掛けた時、魔王ゾルドからの撤退命令が頭の中に届いた。
「お父様っ!!! レナ!!!」
同時にレナとベルフォードに駆け寄る金髪の女騎士。
「村比斗、レナを、その子をお願い!!」
「ああ、分かった!!」
村比斗は地面に倒れているレナを抱き上げると後方へと移動する。リッチがその二人を見て思う。
(金髪の女騎士、あれはガラッタ様を討ったと言う……、それにあの男。なんでしょうか、この惨殺したくなる不思議な気持ちは……?)
リッチは初めて感じる不思議な高揚感に少し困惑する。しかしゾルドの命を思い出しベルフォードに言う。
「残念ですが、タイムリミットの様です。私はここで失礼しますよ。機会があればまた……」
そう言ってリッチは姿を消した。
「お父様!!!」
ラスティールは全身に大怪我を負っている父親に肩を貸す。
「ラスティールか。助かったよ……」
弱り切った声にラスティールの目に涙があふれる。
「どうして、どうしてこんな……」
「ラスティール!!」
レナを抱き上げた村比斗がラスティールの元へ駆けつける。
「この子は?」
「『六騎士』のレナだ。無事そうか?」
「分からないが、眠っている。すぐに治療すれば恐らく大丈夫だと思う。
「そうか。良かった。だが……」
ふたりが変り果てた王都を見つめる。
たくさんの人が息絶え、少し離れた王都の方では建物が破壊されているのが見える。
「一体何が起こったと言うのだ。ううっ……」
意識を失った父親を支えながらラスティールの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
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