62.マロンのときめき
(この少女は、姫様だった!!)
村比斗は施術台でうつ伏せになる銀髪の少女を見て思った。
(どおりで何かオーラが違う訳だ……)
彼女が入って来た時から感じる違和感。美少女で小柄でえっちぃのに、不思議と自分を遠ざけるような感覚。
(考えたら俺、村人だもんな……、普通王族なんて触れるどころか、会うことすらできないはずだもんな……)
村人である村比斗は、自然と王族のオーラを感じ取り緊張していたのだと思った。
(とは言え、按摩に王族も村人も関係ない。若い女体を……、いや違った、疲れた体を癒してあげなければ!!)
村比斗はベッドにいるマロンを見て心を落ち着かせてから尋ねた。
「体でどこか疲れているところはありますか?」
マロンがその赤くなった顔を少し上げ、こちらを見て小さな声で言う。
「あ、あの、その、なんて言うか、全体的に疲れていて……」
(可愛いいいいいいいぃ!!!!!)
村比斗は恥ずかしそうに言うマロンを見て、湧き上がる心の叫びを押さえるのに必死となる。
「分かりました。全身の疲れを取るコースにしますね」
「は、はい。あの、按摩って痛いんですか……?」
「按摩は初めて?」
「はい……」
村比斗は笑顔になって言う。
「痛くないですよ。痛かったら言ってください。優しくします」
「あ、はい。優しく、お願いします……」
マロンはそう言って再びうつ伏せになる。村比斗はその仕草ひとつひとつが可愛くて、そして気品があると思わざるを得ない。
「では、始めます」
「……はい」
村比斗はゆっくり、優しくマロンの背中に触れる。
「あん……」
男性に触れられたことのないマロンは思わず声を出す。
(は、恥ずかしい!! 男の人に触れられるなんて、で、でも、声を出さずに我慢しなきゃ!!)
村比斗は甘い香りがする弾力ある肌を優しく揉み始める。
「ううん……」
声を我慢していたマロンの口から自然と声が漏れる。村比斗はマロンの柔らかくてしっとりとした肌を感じながら、それでも純粋に按摩を続ける。マロンが思う。
(これが按摩……、気持ち良すぎて、眠っちゃいそう……、男の人の指が、すごく硬くて気持ち良くて……、ううん……)
「痛くないですか?」
村比斗が優しく尋ねるとマロンは甘い声色で答えた。
「だ、大丈夫、です……、う、うああん、か、硬くてとても気持ちいいの……、そのままゆっくり、動かしてください……」
マロンは日頃の疲れ、そして初めての湯船の効果で既に強度の眠気に包まれている。そして村比斗の手がマロンの太腿に移動する。
「あん……」
マロンは新たな刺激に小さな声を上げる。すでに全身、そして頭の中に絶えず心地良い快感と言う名の微弱の電流が流れ続け、今の彼女は何をされても、たとえ言葉ですら敏感に感じてしまうようになっていた。
「大丈夫ですか? 痛かったら言ってください」
「う、ううん、あぁん、だ、大丈夫、です……」
村比斗の小さなささやきに思わず感じてしまうマロン。
(もう、だめ……、好きにして、下さい……)
マロンは快楽に包まれながら、ふうっと意識が遠のいていった。
「……はい、これで終わりです」
マロンは頭の上で聞こえたその言葉で目を覚ました。
(あれ、私、眠っちゃったのかしら……)
マロンは村比斗が肩の按摩を終えるのを待って体を起こす。そして驚いた。
(な、なに、この体のリラックス感!? 軽い、体が軽いし、力が漲っているわ!!!)
マロンはあれほど重かった全身が綿のように軽く、頭もすっきりしていることに驚く。眠っていたが衣服の乱れもなく、施術師に何かされた様子もないと安心する。村比斗が手にしたグラスを差し出してマロンに言う。
「冷たい果実ジュースです。目が覚めますよ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
マロンはそのよく冷えたグラスを受け取りひと口飲む。
「甘くて冷たくて、美味しいです」
果実が新鮮なのか、とても甘くて美味しい。村比斗が答える。
「それは良かった」
笑顔の村比斗。しかしマロンの天性の人を見る感性が違和感を告げる。
(あれ、……どこか寂しいお顔。施術に疲れた? いいえ、違うわ。この方、何か悩んでいる……)
マロンは部屋の片づけをしている村比斗を見つめて思う。
(こんなに素晴らしい按摩勇者なのに、ご自身の悩みは癒せないのかしら……)
マロンはジュースを飲みながら村比斗に声をかける。
「あ、あの……」
「はい?」
村比斗が片付けの手を止めてマロンを見つめる。
まだ体がホカホカと暖かいマロン。村比斗に見つめられてそれに心臓の律動が加わる。
(いやだ、どうして私、こんなにドキドキしてるんだろ……、そ、そうよ、彼に尋ねたいからだわ、きっとそう……)
「あの、突然のことで失礼とは思いますけど、その……、何か悩み事がおありなんでしょうか……?」
「え?」
村比斗が驚いてマロンを見つめる。
(と、とりあえずこんな可愛いお姫様を揉んで幸せなんだが、それ以上ができないのが悩み、かな……)
そう思いつつも村比斗の脳裏に国の干ばつのことが思い出される。
無言の村比斗。それに気付いたマロンが立ち上がり、村比斗の手を握って言う。
「私にできることなら何でもお手伝いするわ! だから教えて!!」
「え? だ、だけど……」
突然手を握って言うマロンに驚く村比斗。マロン自身も初めての人にこれほど積極的になれるのが不思議に思いつつ言う。
「あなたの、力になりたいの……」
美少女のマロンに見つめられて村比斗が折れた。マロンに優しく言う。
「笑わないで聞いてくれる?」
マロンは一瞬自分への求婚なのではないかとときめいた。
身分を明かさずやって来たお店。そこで見知らぬ、会ったこともない男性から求婚される。王族というフィルターなしで、等身大の自分を見てくれる相手。そんな彼にならすべてをあげてもいいと思った。
「笑うなんて、そんなこと絶対しません!!」
マロンは顔を真っ赤にして答える。村比斗が言う。
「実は、この国に干ばつが襲う可能性があるんだ」
「干ばつ……?」
マロンは自分への求婚ではないと知りがっかりする一方で、王族としてそのような危険があることを知り脳が切り替わる。マロンが言う。
「詳しく聞かせて頂けませんか」
村比斗はマロンの顔つきが変わったことを感じ取り、今の状況を説明した。
「……分かりました。そんな事が起こっていたとは全く知りませんでした」
王都だけにいれば干ばつの危機など全く感じないのも当然。質は別として豊富な食糧、豊かな水。往来する多くの人々。いつもと変わらない毎日が過ぎている。
「それにしてもあなたはとても博識なんですね。地方のこともご存じですし」
村比斗が照れながら答える。
「いや、そんなことはないんだけど……」
マロンが言う。
「詳しいことはお話しできませんが、この件、私に預けて貰ってもいいですか?」
村比斗はマロンの真剣な目を見て答える。
「君に任せるよ。頼む」
「はい、是非!」
マロンは村比斗に見つめられて自分のドキドキが隠せなくなっていることに気付いた。
「では、お気を付けて」
「は、はい! あの、また来ます!!」
マロンは部屋で村比斗に見送られ、頭を下げてカウンターへと戻る。
(夢みたいな時間だったわ。時間も凄く早く過ぎるし、絶対また来よう!!)
そしてマロンは帰り際カウンターの女性に尋ねる。
「あの……」
「はい?」
深く被ったフード。王族でも目立ちがり屋の兄と違い、あまり人前に出ないマロン。国民でも彼女のことを余り知らない者も多いし、フードを被っていれば尚更分からない。
「先程施術してくださった人はどんな方なんですか?」
カウンターの女の子が答える。
「村比斗様ですね? お気に召しましたか?」
(村比斗、様……)
マロンはその名前を頭で復唱し、答える。
「え、ええ。とても気持ち良かったです。上手でした」
「そうでしょうね。お客さん、運が良かったですよ!」
「え? どうして?」
「村比斗様はこの按摩の唯一の指導者。みんな村比斗様に指導を受けてここで施術をしているんです。言ってみれば案魔界の神様なんですよ!!」
「神様……」
マロンは通りで村比斗から何か他の人とは違った雰囲気を感じていた事に納得する。マロンが尋ねる。
「あ、あの、村比斗様には、その……、誰か特定の女性はいらっしゃるのですか?」
「え?」
カウンターの女の子が一瞬驚く。しかしすぐにマロンに近付いて小声で言う。
「もしかして村比斗様のことが気になっちゃった?」
「あ、いや、その……」
「分かるよ~、村比斗様。モテるから」
「そ、そうなんですか!?」
マロンはあの優しい手で女性たちを快感へと導く村比斗の姿を想像する。女の子が言う。
「でもまだ独身だよ。ただ……」
「ただ?」
マロンが耳を傾ける。
「ホワイト家のラスティール様と仲がいいとか。あとローゼンティア様も最近よく来られるかな」
(ラスティール様、ローゼンティア様……)
ふたりともベガルドを代表する名家であり、美少女である。女の子が言う。
「でもお客さん、ラッキーだったよ」
「どうして?」
「だって村比斗様って普段はここに居らっしゃらないんだもん。いつもはホワイト領かどこか出張とか行って全然いらっしゃらないから」
「そうでしたの!?」
「そうよ、すごい運がいいんだから!!」
マロンは女に礼を言うとフードを被り直して店を出る。
(これは、もしかして運命の出会いとか……!?)
マロンは初めて感じる不思議なときめきにスキップするように王城へと戻って行った。
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