54.村比斗、覗きする!?
「村比斗、ミーア!!」
ホワイト領内の視察を行っていたふたりのところに、王都での会議を終えたラスティールが馬に乗ってやって来た。純白の軽鎧にスカート。金色の長く美しい髪を風になびかせながら馬から降りて言った。
「ふたりにお父様から伝言があり急ぎやって来た」
本当に急いでやって来たようで自慢の長髪が少し乱れている。続けて言う。
「ふたりにはこれから私と一緒にマーベロン男爵の元へ行ってもらう」
「マーベロン男爵?」
村比斗は聞き慣れない名前に首を傾げる。ラスティールが説明する。
「ああ、マーベロン男爵とは我がホワイト領に隣接する広大な領地を統治する男爵家のことだ。実は我らがこちらにやってくる際に色々と面倒を見て貰ってな」
「ふーん」
村比斗が頷く。
「そのマーベロン男爵からお父様に農業指導の依頼が来たのだ」
「農業指導って……」
そう言う村比斗を見てラスティールが言う。
「ああ、そうだ。村比斗、是非私と一緒に行って農業の指導をお願いしたい」
黙り込む村比斗。
正直ここ最近の激務で体が悲鳴を上げてきている。さらに他領で指導となると体が幾つあっても持たない。ラスティールが言う。
「お前の名声は既に我が領内だけでなく、その他多くの土地まで響きつつある。まあ、その正体を考えれば当然のことだが、恩のある男爵の頼み。是非聞いてくれまいか」
「いいよ~、行こうよ。ね、村比斗君っ!」
村比斗が答えるより先にミーアが返事をする。村比斗が言う。
「お、おい。お前が勝手に返事をするなよ。俺だって結構忙し……」
「恩を返すのは当然のこと。ミーア達だってラスティちゃんにすっごくお世話になってるでしょ~?」
(ま、まあ、それは確かにそうだが……)
「じゃあいいんだな? これから一緒に向かってくれるのだな?」
ラスティールの目が輝きながら言う。
「分かったよ。でもそんなに長居はできないぞ。俺もやることいっぱいあるから」
「ああ、分かった。よし、では早速出発の支度をしよう」
ラスティールと村人達はすぐに隣接するマーベロン領へと向かった。
「よくお越し頂きましたラスティール様。ささ、中へどうぞ」
「ご無沙汰しております、マーベロン男爵。お元気そうで何よりです」
ラスティール達の到着を領主マーベロンは笑顔で迎えた。
村人達がマーベロン邸へたどり着くまで馬で二日、さすが広大な領地を持つ男爵である。屋敷はどこかの博物館かと思うほど大きく立派で、手入れされた庭には多くの木々や花が咲いている。
ラスティール達は通された広い応接室で男爵を待つ。歴史的価値がありそうな調度品に、品のある絵画。重厚なソファーに座って待っていた彼女達の前に、マーベロン男爵とひとりの少女が現れた。
「お待たせ致しました、ラスティール様。娘のマーガレットです」
そう言って父親に紹介されたマーガレット。小柄だが肩までの銀色の髪が美しい少女だ。マーガレットが言う。
「は、初めまして。マーガレットです。よろしくお願いします!」
美しい銀色の髪が頭を下げたマーガレット共に揺れる。胸こそ平らだが、父親に似つかわしくない可愛いらしい少女である。ラスティールが挨拶をする。
「ラスティール・ホワイトだ。よろしく」
ラスティール自身、こちらにやって来た時の手続きはすべて父親が行っていたので、このマーベロン男爵とも一度会っただけである。娘マーガレットとは面識はない。一通りお互いの紹介を終えた後、マーベロン男爵が言う。
「早速だが、こちらに来て貰ったのはラスティール様達のお力をお借りしたいからです」
ラスティールが答える。
「ええ、うかがっております。農業指導をご希望とか」
「そうです。そちらの村比斗君の名声は我が領地にも届いておりまして、是非お力をお借りしたいと」
黙って紅茶と出されたお菓子を食べる村比斗。それを見ていたマーベロン男爵が思う。
(意外と普通の男だな。農業勇者と聞いていたのでもっと大きな厳つい男だと思っていた。と言うより何故か弱そうだ……)
「部屋は別に用意してあります。自由に使っていただいて構いません。あ、村比斗君。紅茶のお替りをどうぞ。で、それから……」
屋敷や今後のスケジュール等について説明し始めるマーベロン男爵。その横に座っていた娘のマーガレットが目の前に座る村比斗に言う。
「あの、村比斗様……」
「ん? なんだ?」
呼ばれた村比斗が答える。
「そこのお砂糖を取って頂けませんか」
「ああ、これか。ほら」
そう言って村比斗は目の前にあった砂糖の入った入れ物を手渡す。
「ありがとうございます」
そう言ってマーガレットが腕を差し出した時、洋服が自分のカップに引っかかって倒れ、中に入っていた紅茶がマーガレットの服に掛かってしまった。
「きゃ!」
驚いたマーガレットが小さな声を出す。それを聞いた皆が彼女を見つめる。顔を赤くしたマーガレットが頭を下げて言う。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですから。ちょ、ちょっと着替えて来ます!」
見ると彼女の着ていたドレスが紅茶で茶色くシミになっている。マーガレットは顔を赤くして軽く頭を下げると着替えのため退室して行った。
マーベロン男爵は娘の失態を軽く謝罪すると、空になっている村比斗のカップを見て言う。
「すまなかったね、皆さん。ああ、村比斗君の紅茶が空になっている。注いでおくれ」
そう言うと後ろに控えていたメイドがすぐにやって来て村比斗に紅茶を注ぐ。村比斗は礼を言って予想外に美味しい紅茶を再び口にした。
一通り説明を終えたマーベロン男爵が村比斗に尋ねる。
「以上で説明は終わりだが、ご理解いただけたでしょうか」
「ん?」
ほとんど話を聞いていなかった村比斗がぼうっとした顔をする。それをすぐに察知したラスティールが慌てて答える。
「だ、大丈夫です。マーベロン男爵。しっかり理解しております。な、村比斗?」
「ん? あ、ああ。まあ、何とかなるだろう。それよりトイレに行きたい。どこにある?」
それを聞いたマーベロンの顔が一瞬明るくなり、すぐにメイドに言う。
「ああ、それなら向こうだ。おい、ご案内しろ」
「はい」
マーベロン男爵のそばにいたメイドがすぐに村比斗の元に向かい、トイレへと案内する。
ラスティールとマーベロン男爵が何やら話をする中、村比斗はあくびをしながら部屋を出てメイドの後をついて行く。
「あそこの角を曲がった先でございます」
「ああ、ありがとう」
村比斗は教えられた通り角を曲がった先にあったドアを開く。
ガチャ
(え!?)
村比斗はドアを開けてそのまま体が動かなくなってしまった。そこには紅茶で服を汚し、まさに別の洋服に着替えようとしているマーガレットの姿があった。
純白のパンツに、胸はないが見事なお尻のライン。きめ細やかな肌の背中。そして驚きと共に顔を一瞬で赤くするマーガレットが叫んだ。
「きゃあああああ!!!!」
「えっ? あ、ご、ごめんっ!!!!」
すぐにドアを閉める村比斗だが、その悲鳴を聞いて父であるマーベロンがラスティール達と一緒に慌ててやって来た。そしてドアのそばで服を体に巻き付けて座り込んでいる娘の姿を見て顔を真っ赤にして言った。
「む、村比斗君。君は一体何をやって……」
ラスティールも激怒して叫ぶ。
「む、村比斗おおお!! 貴様、このような場所で何をしている!!!!」
「村比斗君……」
ミーアも驚いた顔をして言う。村比斗が言う。
「ち、違うんだ。メイドに案内されてきたらここだったんだ!! 俺は知らない!!」
「む、村比斗。お前、そこまで落ちぶれたか……」
ラスティールが怒りの面持ちで言う。しかし次のマーベロン男爵の言葉で皆が固まった。
「村比斗君。我が家には厳しい掟があってな、その中に『未婚の肌を見た男は結婚しなければならない』って言うのがあるんだ」
「え? それって、どういう……」
驚いたラスティールがマーベロン男爵に言う。男爵が答える。
「つまり、村比斗君には責任を取って娘のマーガレットと結婚して貰う」
そこに居た皆の顔が青ざめた。
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