43.村人、魔王に挑む!?
「む、村比斗!? な、なぜお前がここに!!!」
ラスティールは突然現れた村比斗を前に頭が混乱する。
決して魔王に会わせてはいけない存在。
唯一魔王に抗えるこの世界の最後の希望。
「何でここに来たんだ!!!」
ラスティールが叫ぶ。
「何でって、お前に呼ばれたような気がして……」
そう言われると自分でも良く分からない村比斗。
(私が、呼んだだと……?)
それ以上に意味が分からないラスティール。
「村比斗君、どうやって来たの、ここまで!?」
ミーアが近付いて来た村比斗に尋ねる。
「ああ、お前に貰ったあの粉、あれを振りかけて来た」
ミーアは魔物を寄せ付けなくなる『妖精の粉』を思い出す。
「使ったんだ、あれ……、どおりでそんなに臭いのね……」
ミーアは鼻をつまむような仕草をする。村比斗が言う。
「ああ、なんかこれすっごく臭いんだが、どうなってるんだ?」
ミーアがしかめっ面をして答える。
「うん、それ牛とかブタとかの糞を集めて混ぜて……」
「マジかよ!!」
「うん、だから本当にピンチの時以外使わないんだけどね……」
村比斗はそれは単に『臭いから誰も近付かないのではないか』と、あの名前負けしている粉を思った。
「あら、あなたは確か、ラスティールのところの下男。なぜあなたがここへ? 無様に死ににいらしたのでしょうか?」
ミーアの横で倒れているローゼンティアが村比斗に気付いて言う。村比斗が答える。
「お前も『六騎士』のくせに、魔王を前に昼寝でもしに来たのか?」
ローゼンティアの顔が着ているロリータドレスより赤くなる。
「な、なんと言う侮蔑の言葉!! わたくしに対して、げ、下男の分際で!!!」
「はいはい、動いちゃダメですよ~」
怒りに体を震わせるローゼンティアにミーアが優しく言う。村比斗はラスティールが対峙している魔王を見て思う。
(しかし、あれが魔王か……、見ているだけで体の震えが止まらない。勇者達もみんな倒れているし、本当に『村人』なんかが来ちゃいけない場所だよな……)
村比斗はガタガタと震えが止まらない足を押さえながらラスティールを見つめた。
一方の魔王ガラッタは突然現れたその異質な男を見て考える。
(なんだ、あの男は? 見ていると無性に惨殺したくなる。強い勇者なのか? いや、違う。全く強さなど感じない。逆に取るに足らぬ存在。ではなぜ……?)
ラスティールは村比斗を見てから、何か考え事をしているような魔王ガラッタを見つめる。そして汗を流しながら思う。
(村比斗が唯一の『村人』と知られる前に何とかしなくては……、しかし、体が動かぬ……)
ラスティールは既に立っているのが精一杯の状態。この絶望的な状態に、更に村比斗と言う最優先で守らなければならない人間が来てしまったことを嘆いた。しかし思う。
(この最悪の状態でこの私が最後に『皆の希望』を守って死ねるなら、それはそれで本望なのかもしれぬ。私がこんな危険な場所にお前を呼ぶことはあり得ないのだが、お前を逃がす時間ぐらいは稼げる!!!)
「えっ、む、村比斗……!?」
意識が朦朧とし最後の力を溜めていたラスティールが、ミーアと一緒に居る村比斗を見て驚いた。
(あの目、小さな魔物ですら怯えて逃げていた奴が、どうしてあのような諦めぬ目をしているんだ!?)
村人と言う特性上、ここにいる誰よりも恐怖に駆られているはずの村比斗。そんな彼がじっと皆を、そして魔王を見つめている。村比斗が思う。
(考えろ、考えろ!! あいつが俺を呼んだのは、必ず俺にできる何かがあるはず!!!)
村比斗は魔王と言う絶望に襲われながらもじっと周りを分析する。
(あ、そうだ! ステータス画面!!!)
村比斗は自分だけ持つ唯一のスキルを使う。
トントン、ボン!!
(出た! 魔王のステータスは……、うわ、高っ!!!)
まだすべての意味が理解できる訳ではなかったが、それでも飛び抜けた力を持つ魔王のステータスを見て驚く。
(残念だがラスティールひとりでは魔王に勝てない。しかも体力が相当落ちている。無理しやがって、全く……)
「村比斗君、ここは危険だよ。早く逃げて……」
ローゼンティアの回復を行っているミーアが心配そうに言う。
(魔王は魔法も無効化するのか。チートだな、これ。……あ、待てよ!!)
村比斗はミーアの横で寝ているローゼンティアのステータスを開く。
(強い。さすが『六騎士』だ。ただ、ラスティールより劣る。でも、こいつは……)
村比斗はローゼンティアを見てある事を決意する。
「がはははははっ!!!! 分かったぞ、分かった、分かったあああ!!!!」
突然大声で笑いながら叫ぶ魔王ガラッタ。ラスティールの心臓が大きく鼓動する。
「お前、そうか、そうだったのか!! だからこの女が急激に強くなって、そうかそうか……」
ラスティールの剣を持つ手に力が入る。ガラッタが言う。
「だったら、真っ先にお前を殺さねばならぬな。お前を!!!!」
そう言って村比斗を睨みつける魔王ガラッタ。
ただの村人である村比斗は、それだけで恐怖のどん底に落とされる感覚になる。
村比斗は震える体に力を込めてミーアに何かを伝える。
「村比斗君……、いいの?」
「大丈夫だ」
ミーアは頷いてローゼンティアの回復を中断する。
村比斗はそれを見て腰につけた短いひのきの棒を手にして構える。そして上半身を起こしたローゼンティアに言った。
「おい、ロリ女」
ローゼンティアが目を開いて言う。
「わ、わたくしに対して、な、なんという失礼な言葉……」
「黙って聞け!」
怒りの表情で村比斗を睨むローゼンティア。村比斗が言う。
「お前、あいつを倒したいか?」
村比斗の目はしっかりと魔王を捉えている。ローゼンティアが答える。
「あ、当たり前でしょ! いまさら何を仰って……」
「だったらこれから起こること、絶対に秘密にしろよ」
村比斗の顔は真剣である。ローゼンティアが言う。
「あなた一体何を言って? わたくしにそのような命令など……」
魔王ガラッタがこぶしを振り上げて叫ぶ。
「まずは、お前を、お前をまず消すぞおおお!!!!」
魔王が強い邪気を放ちながら村比斗めがけて突進する。
「村比斗っ!!!」
体の痛みですぐに動けないラスティール。
村比斗は走り迫って来る魔王を見て大きく息を吐いてから言う。
「あいつを倒したいんだろ? だったらよ、マジで倒したいのならよ……」
村比斗は一度ローゼンティアの目を見てから、ひのきの棒を握り直す。
「全力で俺を守れっ!! うおおおおお!!!!!」
「あ、あなた、ちょ、ちょっと!!??」
村比斗はひのきの棒を振り上げてひとり魔王へと突撃した。
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