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俺以外、全部勇者。  作者: サイトウ純蒼
第一章「唯一の村人、異世界に降り立つ!!」
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4.俺、村人だけど……

「魔王ガラッタって、誰だ?」


 村比斗むらひとの言葉にラスティールとミーアが驚いた顔をする。



「誰って、魔王ガラッタだぞ!? 知らないはずがないだろ!!」


 ラスティールがやや怒った顔で言う。



「魔王って言うぐらいだから、ヤバい奴なのか?」


「やばいも何もぉ、『暗黒の時代』の原因でしょ~?」


 ミーアも納得のいかない顔をして村比斗に言った。村比斗が考える。



(この世界のことほとんど知らないからな。やはり正直に言うべきか)


「俺、実は異世界から来て、この世界のことは何も知らないんだ」



「……は?」


 ラスティールとミーアが顔を合わせる。ラスティールが言う。



「その野獣に襲われて頭でも打ったか? 言動がおかしい。いや、存在自体がおかしいぞ、お前」


「そうね~、村比斗君、ちょっとおかしいかもね!」


「おいおい! 信じろよっ!! 本当だって!!」


 冷たい視線を向けられた村比斗が焦って言い返す。ラスティールが言う。



「分かった。記憶を失っているのなら私達が教えてやろう。ところでミーア。お前は……」


 ラスティールはミーアの帽子から出た短く尖った耳を見て言う。



「う、うん。私ハーフなの……」


 明るかったミーアの顔が暗くなる。村比斗が尋ねる。


「ハーフ?」


「ん? ハーフエルフのことだ」


「うそっ!?」


 ハーフエルフ。それはファンタジーでは定番の存在。それを聞いた村比斗がミーアをじっと見つめる。ミーアが言う。



「む、村比斗君。あんまり見ないで……」


 言われてみれば帽子から出た耳が少し尖っている。じっと見つめる村比斗の頭をラスティールが思いきり叩く。



 ガン!!


「痛って!!」


 ラスティールが言う。


「失礼だろ。誰にだって知られたくないことはある。さあ、私が話をしてやる。有り難く聞け」


「は、はあ……」


 村比斗はしっかりと座り直してラスティールを見つめる。ラスティールが尋ねる。



「で、どのくらいまでは覚えているんだ?」


「どの位も何も、何も分からん」


「何もって……、赤子か、お前は?」


「ラスティちゃん……」


 ふたりのやり取りを聞いていたミーアが苦笑いする。ふたりのやりとりにミーアの顔が明るくなっている。ラスティールが話始める。



「昔、世界は凶悪な魔物達に苦しめられていた。毎日のように殺される罪のない人々。そこでヒト族の王と他種族の長が集まり、すべての者を勇者に転職させることを決定した」


「は? みんな勇者に? 全員か?」


 村比斗の問いにミーアが答える。


「そうだよ~、だからミーアもラスティちゃんも、そして村比斗君も勇者なんだよ~」


(マジか……、勇者の大安売りじゃねえか……)


 村比斗は黙ってラスティールの話を聞く。



「作戦は成功した。すべての者が勇者になり、勇者同士の子供も勇者になり、そして各地にいた魔物達はあっと言う間に討伐され姿を消した」


「良かったじゃん」


 村比斗が言う。しかしラスティールは暗い顔をして続ける。



「ああ、()()は良かった。皆魔物がいなくなった平和な世を謳歌した。束の間の平和を楽しんだんだ。しかし現れたんだよ」


「何が?」


 ラスティールとミーアの顔が一段と曇る。



「魔王だ」


「魔王?」


 ラスティールは深く息を吐くと説明する。



「三体の魔王が現れた。各地の勇者は皆『自分が倒す』と魔王に挑んだが、すべて敗れ去った。それほど強かったんだ」


「そうか、でも鍛錬してみんなで戦えばいいじゃないのか?」


 村比斗の言葉にラスティールが答える。



「皆弱すぎたんだ、魔王と戦うには。それにレベルアップに必要な魔物、そして守るべき弱き村人がいなくなってしまったこの世界に、勇者が強くなる手段は残っていなかった……」


「は? 何それ?」


 ミーアが言う。



「鍛錬してもね、ちょっとだけしか強くならないの。やっぱり勇者にはね、『魔物』や『弱き村人』を守ると言う本懐がなきゃダメなのよ~」


 ラスティールが言う。


「逆に魔王にとっては雑魚勇者がゴマンと居るこの世界は、レベルアップし放題の理想郷。自分に挑む弱き勇者を倒してはどんどん強くなって行った。くそっ……」


 ラスティールの顔が悔しさに溢れる。そして言った。


「そしてこの世はいつの間にか『暗黒の時代』と呼ばれるようになったんだ」


「『暗黒の時代』……」


 村比斗が小さな声でつぶやく。ラスティールが言う。



「やがて近いうちに世界は魔王によって滅ぼされる。圧倒的な力を持つ魔王達が我々を皆殺しにするだろう。私は残された王都ベガルドで騎士をやっている。無理だと分かっていても、いつの日か魔王を倒すことを目標に毎日鍛錬を行っているんだ。まあ、得られる『経験値ポイント』では大した成長はできないけどな」


「『経験値ポイント』?」


 村比斗が顔を傾げて言う。ラスティールがやれやれと言った顔で答える。



「そんなことも忘れてしまったのか。『経験値ポイント』は鍛錬で得られる経験値。実戦の力や武具の扱いなどが上手くなる。成長は微々たるもんだけどな」


「なるほど……」


 村比斗が頷いてから尋ねる。



「で、魔王を倒すにはどうすればいいんだ?」


 ラスティールが答える。


「勇者をレベルアップさせること。具体的には『貢献ポイント』を得ることだ」



(貢献ポイント? ついさっきどこかで聞いたような……?)


 ミーアが人差し指を顎に当てて首を傾げて考える。村比斗がラスティールに尋ねる。



「その『貢献ポイント』を手に入れるにはどうすればいいんだ?」


 ラスティールが答える。



「だからさっきも言ったが、勇者の本懐である『魔物退治』や『村人を守る』と言った『勇者が勇者である為の行動』をすることだ」


「でも、魔物も村人もいなくなっちゃんだよね~、どこかに『村人』とか『魔物』がいればいいのにね~」


「いないから苦労してんだろ……」


 ミーアとラスティールが笑いながら言う。



「なあ……」


 村比斗がふたりに言う。


「何だ?」


 ラスティールが村比斗を見て言う。



「俺、()()だけど」



「は? はああああああ!?」


 ラスティールとミーアは先の『魔王知らぬ発言』よりも、更に驚いた顔をして村比斗を見つめた。

お読み頂きありがとうございます。

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