33.魔王のひそひそ話
「ほお、では次はそのローゼンティアと言う小娘がやって来るんだな?」
王都ベガルドの東の森を抜けた先にある古い洋館。
その中にある広い部屋の中で外を眺めながら魔王ガラッタが言った。巨木のような大きな体。黒光りする筋肉質の体には新たな勇者を虐殺したいと言うオーラで満ち溢れている。
一緒の部屋に居た真っ黒なローブを着た男が言う。
「その通りだ。ただ小娘とは言え『六騎士』。簡単には倒せぬと思うぞ」
魔王ガラッタが答える。
「ゾルドよ、お前も魔王なら分かるだろ? 強き勇者と戦いたい、叩き潰したいと言うこの衝動が」
魔王と呼ばれたゾルドが答える。
「分からぬでもないが、儂はゆっくりとじめじめと殺していく方が得意でな。それからグロウと言う別の勇者が先にここへ向かっているそうだ」
「グロウ? どこの勇者だ? 強いのか?」
魔王ゾルドが答える。
「西の国スピリカ出身ということだ。3名ほどの隊を組んでいる。強さは『六騎士』と程度と聞く」
「ほお、『六騎士』と。それは殺し甲斐があるってもんだ。いい加減『底辺勇者』じゃまともにレベルも上がらなくなってるし、丁度いい」
魔王ゾルドが言う。
「お前ひとりでやれるか?」
ガラッタが目を見開いて答える。
「ああ、問題ない。通常の『六騎士』程度ならな」
真っ黒なローブを着たゾルドが言う。
「そうだな。まあ大丈夫だとは思うが、念の為一匹渡しておこう。『六騎士』最強の、天才勇者が来る前に確実に叩いておきたい」
「一匹? ああ、あのゴリラか。それよりも本当にそんなに恐れるべき相手なのか?」
魔王ガラッタが不満そうに言う。
「用心に越したことはない。レベルアップができない勇者共はいずれ殲滅する。我々の敵ではない。ただ突然変異の天才勇者だけは気を付けるべきだ。まあ、そのあたりも含めてすべて手配は奴に一任するがな」
そう話す魔王ゾルドにガラッタが尋ねる。
「奴ねえ、ヒト族が本当に信用できるのか?」
「分からぬ。反旗を見せればすぐに消す。それだけだ」
ガラッタが両手を上げあくびをしながら答える。
「あ~あ、面倒臭せえ。そう言ったのはお前に任せるぞ。俺は目の前に現れた奴を叩き潰す。それだけだ」
「いい。お前はそれでいい。頼んだぞ、勇者掃除」
ふたりの魔王はにやりと笑って窓の外の森を眺めた。
王都ベガルドにあるひと際大きな屋敷。
『六騎士』ローゼンティアが暮らすこの大きな屋敷の中庭に、朝から鍛錬の掛け声が響いていた。
「はっ、はっ、はあああああっ!!!!」
ローゼンティアは真っ赤なロリータ花傘を手に、積み上げられた大きな岩に向かって何度も打ち込んでいた。
ガンガンガン!!!!
魔力を込めることで魔法属性が付与され、さらに物理的威力も格段に上がる深紅の花傘。その彼女専用の武器で岩を何度も殴りつける。
「岩っ、落として頂戴!!」
ローゼンティアの声に合わせて建物上部から落とされる巨大な岩。真下にいる彼女めがけて落ちて来る。
「花傘防御!!!」
上に向けて開かれる真っ赤な花傘。
魔力を帯びた傘の上に、ドンと大きな音を立てて岩が落ちる。
「うぐぐぐぐっ……」
岩の衝撃と重さに耐えるローゼンティア。
バキ、バキバキッ……、ドーン!!
やがて割れて左右に落ちる岩。
それを確認したローゼンティアがふうと息を吐いてその場に座る。
(経験ポイントは幾らか手に入れられたけど、全然足らないわ。これじゃあ……)
ローゼンティアは割れた岩を眺めて思う。
(勢いで言ってしまったけど、わたくしだけでどれだけ魔王と戦えるかしら。いえいえ、ランディウス様の前でそうお約束したのはこのわたくし。あの方を失望させない為にも精一杯やるしかありませんわ!!)
ローゼンティアはゆっくりと立ち上がると、再び花傘に魔力を込め始めた。
「兄貴っ、何してるんですか?」
ホワイト家に戻った村比斗は、すぐに屋敷内にある広い畑の灌漑整備を始めた。
「水をね、もっと上手く、楽にやれる設備を整えている」
「水? そんなもん、桶に汲んでやれば楽じゃないのか?」
話を聞くデレトナとシルフィーユ。村比斗が答える。
「まあ、それでもいいんだが、もっと楽できるところはすべきだ。ちょっとみんなで手伝ってくれ」
「はい、村比斗様!! シルフィはいつでもお手伝い致します!! だからシルフィって呼んで下さい!!」
「ああ、シルフィ……、ィィィユ。宜しく頼むぞ」
「兄貴、俺も手伝うぜ!!」
「よし、まあまず、ここをだな……」
村比斗はふたりを始め他の勇者達にも灌漑設備製作の指示を行った。
「兄貴、凄いな。こんなに便利なのもだとは知らなかった!!」
数日後、灌漑設備がある程度完成した村比斗はその出来栄えをじっと見つめていた。あの後、本格的に屋敷外から水路を引き、そのお陰で敷地内にある畑や水田に効率的に水をやることが可能となった。
「凄いです、村比斗様!! シルフィはもう大感激です!!!」
「いやあ、みんなが頑張ってくれたお陰だよ」
実際村比斗は工事の指示をしただけで、作り上げたのはここの雑用勇者達。よく意味の分からない作業に不満を持つ者もいたが、そこはデレトナが上手くまとめ短期間のうちに見事な水路が完成させた。村比斗が言う。
「いずれこの応用を、もっと大きな灌漑設備で領土内に作って行きたいと思っている。その時はふたりにも協力を頼むよ」
「はい、シルフィはどこまでも村比斗様へお供します!!」
「当然だ、兄貴。俺は兄貴の為ならひと肌でもふた肌でも脱ぐぜ!!」
ふたりの勇者は目を輝かせて答える。そこへラスティールがやって来て言った。
「凄いな、村比斗。順調に進んでいるようだな」
「ああ、ラスティール」
美しい純白の軽鎧。太陽に当たり更に黄金色に輝く長髪。性格は問題ありだが、超絶美少女のラスティールが笑顔でやって来た。村比斗が尋ねる。
「なあ、ちょっと聞きたいのだが、この辺に【白岩石】と【白サンゴ】、それに【くっつき草】がとれる場所ってないか?」
突然の質問に皆が少し考えてから言う。
「くっつき草なら山の方に、白サンゴは海に確かあったな」
「白岩石も南の岩山にありますよ!!」
ラスティールが尋ねる。
「どうするんだ、そんなもの?」
村比斗はラスティールの本邸を見ながら言う。
「ちょっとな、傷んだ壁などを修復したい。木を切って柱なども直せればいいかも」
「そんなこともできるのか!?」
「ああ、これから試してみたい。早速だが集めたいと思うが……」
デレトナが言う。
「じゃあ、俺は海の方へ白サンゴの回収に行く」
シルフィーユが言う。
「じゃあシルフィは岩山へ白岩石かな。あの辺詳しいし」
それを聞いたラスティールが言う。
「それでは私はくっつき草だな。村比斗はどうする? 私と行くか?」
少し考えた村比斗が答える。
「うーん、そうだな。やっぱり壁の材料でもっと大切なのは白岩石だそうだから、シルフィーユと行くよ」
「そ、そうか。気を付けてな。南の岩山は近いし、大丈夫だと思うが……」
シルフィーユが笑って言う。
「大丈夫ですよ、ラスティール様。魔物が出る訳でもないし」
(うっ!!)
それを聞いた村比斗とラスティールが一瞬顔を青くする。ラスティールが答える。
「そ、そうね。じゃあ、早速集めに行こうか」
「はい!!」
「おう!!」
そう言ってラスティールとデレトナが歩き出す。シルフィーユが村比斗を見つめながら言った。
「さあ、行きましょ。村比斗様。シルフィがご案内致します!!」
「あ、ああ。宜しく頼むよ」
そう言いつつも村比斗はもしかして魔物が現れたらどうしようと一抹の不安を抱えながらシルフィーユと共に歩き出す。
そしてこの後、村比斗の意外なスキルが発現することとなる。
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