32.西から強気の勇者がやって来た!!
「ランディウス様、西の国スピリカより勇者が面会を求めてきております」
「スピリカだと?」
『六騎士』騎士団長ランディウスに、使いの者がある勇者の訪問を告げた。
スピリカとは王都ベガルドより遥か西にある国の名前。前時代には強力な戦闘国家として名を馳せていた国である。使いの者が答える。
「はっ、何でも魔王ガラッタの出現を聞き、その居場所を教えて欲しいと申しているようです」
「近衛兵長との手合わせは?」
王都ベガルドでは強き者が優遇される。それは魔王討伐の為であり、常に強き者を求めているからだ。強者であればその身分は問わない。使いの者が答える。
「はい、それが近衛兵長が一撃で敗北したとの報告が……」
「ほお、あいつがたったの一撃で?」
ランディウスは興味深い顔をして言う。
「通せ。すぐに会おう」
「はっ!」
使いの者は頭を下げるとランディウスの部屋から出て行った。
「あんたが騎士団長さんか」
ランディウスの前に現れた勇者は三人。
ひとりは背に剣を背負った若い勇者。その隣にローブを着た初老の男性。後ろには魔法使いらしき女勇者もいる。
「名は?」
「グロウだ」
ランディウスの問いに背に剣を背負った若き勇者が答える。ランディウスの隣に立つローゼンティアがグロウを睨みつけて言う。
「あなたねえ、その話し方もっとどうにかならないのかしら。こちらは『六騎士』騎士団長ランディス様ですわよ!!」
グロウが真っ赤なロリータドレスを着たローゼンティアを見て言う。
「何だ、てめえ? そいつの女か? ちょっと黙ってろ」
「き、貴様っ!! ローゼンティア様に対して何という口の利き方っ!!!!」
脇で見ていたローゼンティアの護衛勇者であるレザルトが激怒してグロウに言う。ランディウスが言う。
「少し静かに。それで、グロウ。魔王ガラッタの居場所を知りたいと言うのはどう言う意味なんだ?」
グロウが腕を組みながらランディウスに答える。
「魔王討伐、それだけだ」
「魔王討伐? できるのか、お前らに?」
そう言われたグロウの目がカッと吊り上がる。
「俺達は戦闘国家と称えられたスピリカでも上位に入る勇者。今はこの王都ベガルドに強き者達が集まっていると言うが、いつまで経っても魔王一匹倒せないようなんでな。来てやったんだよ、俺達が」
「ちょっと、グロウ……」
さすがに大口を叩く仲間を見かねて後ろにいた魔法勇者の女が戒める。ローゼンティアが言う。
「あなた達に、倒せて? これは傑作、おーほほほほほっ!!!」
大きな声で笑うローゼンティアにグロウが言う。
「お前も『六騎士』なのか? ふん、その程度の女が入れるとはな。その方が傑作じゃねえか?」
その言葉に護衛勇者であるレザルトが切れた。
「貴様っ!!! ローゼンティア様に対して何たる無礼を、許さんっ!!!!」
レザルトは抜刀した大剣を振りかざしてグロウに向かって突進する。
「レザルトっ!! やめなさ……!?」
ローゼンティアが制止しようとして、すぐにその光景に驚き口を閉じた。
ガン!!!
ガラン、ガランガラン……
レザルトが振り上げた大剣が、同じく抜刀したグロウによって弾かれ床に音を立てて落ちた。固まって動けないレザルト。対照的にまだ余裕があるグロウが言う。
「まさかお前も『六騎士』って訳じゃねえよな?」
「ぐぬぬぬっ、貴様……」
レザルトが顔を赤くして怒りを表す。
「やめないか!! もうよい」
それを見たランディウスがふたりに言う。その言葉を聞きレザルトが床に落ちた剣を拾い、ランディウスへ一礼して元居た部屋の端へと移動する。グロウも剣を背中に納めランディウスに言う。
「向こうから仕掛けて来たんだからな。俺は関係ねえ」
「東の森を抜けた先に旧領主ガーサル卿が使っていた館がある。そこにいる」
ランディウスは入手したばかりの魔王ガラッタに関する情報を伝えた。
「ランディウス様……」
それを聞いたローゼンティアが心配そうに言う。ランディウスがグロウに尋ねる。
「魔王ガラッタ討伐に協力して貰えるなら有り難い。偶然、我々もそこにいるローゼンティアを将に据え討伐隊を組んでいるところだ」
グロウが言う。
「じゃあ、その女が俺の配下に加わって一緒に行くってことだな?」
それを聞いたローゼンティが顔を赤くして怒鳴る。
「はあ!? ふざけないで頂けるかしら? あなたですわよ、ランディウス様がどうしてもと仰るなら、あなたが私の配下になりますの。お分かりで?」
「じゃあ、いらねえ」
「はあ?」
ローゼンティアの言葉を受け興味なさそうにグロウが言う。
「元々俺達だけで討伐するつもりだった。お前らがどうしてもと言うのならば配下ぐらいはいいかと思ったが、まあそんなところだ。用事は済んだ、じゃあな」
そう言うとグロウはふたりを連れ部屋を出ようとする。ローゼンティアが何かを言おうとしたが、それをランディウスが制止した。
部屋を出て行くスピリカの勇者達。ランディウスが納得のいかない顔をしたローゼンティアに言った。
「あれでも相当腕は立つ。できることならお前と一緒に魔王討伐を成し遂げて欲しい。できるか、ローゼンティア?」
「かしこまりました。ランディウス様のご命令とあらば」
そう言って頭を下げるローゼンティアを、護衛勇者であるレザルトはやや不服そうに見つめた。
(やはりあの大きな川がポイントだな……)
初めての視察を終え、村比斗達は一路ホワイト邸へと馬を走らせていた。村比斗はラスティールの後ろに乗りながら、横を流れる大河を見ながら考えていた。
(前時代に使っていた用水路などの灌漑施設は残っている。ただ多くが壊れており使っていない。今は水などを桶に入れて運んでいるが、これでは効率が悪い。水は最優先。やはりそこの強化を急ぐか)
「村比斗、聞いているのか?」
「ん?」
馬に乗っていた村比斗にラスティールが声を掛ける。
「どうした?」
村比斗は風になびくラスティールの金色の髪を顔に受けながら言った。ラスティールが答える。
「いや、その、なんだ。振り落とされぬよう私にしがみ付くのは良いが、あ、あんまり、手を動かさないでくれるか。くすぐったいぞ……」
「え?」
村比斗は知らず知らずのうちに抱き着いている服越しのラスティールの柔肌を、撫でるように抱きしめていた。
(む、無意識とは恐ろしいものだ。しかしまあ、なんと柔らかくて気持ちが良いんだ……)
「村比斗っ!! 聞いてるのか!?」
「え? あ、ああ、柔らかくて気持ちが良いぞ……、ひぃ!」
それを聞いたらスティールから怒りのオーラが発せられる。
「き、貴様っ!! 振り落とされて馬に踏みつけられたいのか!! この変態底辺がっ!!!」
「か、勘弁してくれ!!!」
そう言って激しく走る馬から振り落とされまいと、さらに村比斗が強くラスティールを抱きしめる。
「よ、よせっ!! やめろ、くすぐったいではないか!! うっ、うくくくっ……」
ふたりは仲睦まじく一緒に馬に乗ってホワイト家へと走って行った。
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