31.さあ、レベルアップするぞっ!!
「よし、この辺りでいいな」
視察の村から馬を走らせ、その大きな森を見てラスティールが言った。
昼間なのに目の前に広がる深い森。深淵たる闇が広がり訪れた者を今にも飲み込もうとしている。村比斗が恐る恐る言う。
「な、なあ、この森はちょっとやめねえか。不気味過ぎるぞ……」
真っ暗な森を見つめて村比斗が震えあがる。ラスティールが笑って言う。
「何を言う。こういう森だからこそ、強い魔物が出るんだろ? 期待してるぞ!!」
「期待? あの快楽をか?」
それを聞いたらスティールが顔を赤くして言う。
「ば、馬鹿言うな!! わ、私は何もあの快感が忘れられないとか、天国のようだったとか、いや、別にあれが良すぎて夜も眠れないとか、そんなことはこれっぽっちも一切思っていない!! いいか、分かるか、村比斗っ!!」
村比斗は本当にこの女は嘘が付けない奴だなと心から思った。ミーアが言う。
「大丈夫だよ、暗かったらミーアが明るくしてあげるぅ!!」
「よせよせ、ミーア。お前の照明魔法使われたら、魔物が逃げて行く」
ラスティールの言葉に頬を膨らませてミーアが言う。
「え~、つまんないの」
「さ、馬鹿なこと言っていないで早く行くぞ」
「はいはい……」
誰が一番馬鹿なことを言っているんだ、と思いつつ村比斗が答える。ラスティールは嬉しそうにミーアと村比斗を連れて森の中へと入って行った。
「お、おい、村比斗!! 私の体をそんなに触るなっ!!」
「ひ、ひぃ~!!」
薄暗い森の中へ入って行った三人は、ラスティールを先頭にそれに村比斗がしがみ付き、後ろからミーアが挟む形で歩いていた。
聞いたことのない獣の鳴き声。
風に揺れて騒めく木々。
その不気味さに、物音ひとつに村比斗の体に力が入る。
そして感じる、普通ではない何かの気配。
ラスティールが村比斗に尋ねる。
「なあ、いるか?」
「ああ、いる、いるよぉ……」
村人の研ぎ澄まされた直感は、魔物との戦闘経験の少ない勇者のそれを上回る。
その時だった。
村比斗が森の上を指差し大きな声で言う。
「来たっ!! 上、上っ!!!」
「グワアアアアァァァ!!!!!」
「ひいいいぃ!!!」
三人が上を見上げると、大きな翼を広げた巨大な何かが一直線に飛んで来る。すぐに腰につけた双剣を抜き、ラスティールが空を見上げながら言った。
「あ、あれは、ホークドラゴン!!!」
全身ごげ茶色で、両翼を広げた姿が鷹の様に見えることから付けられたその名前。鋭く尖った口と、それ以上に鋭く大き器な足爪が武器の手強い相手である。ラスティールが叫ぶ。
「凄い、凄いっ!! 魔物大全集で見た通りだ!! なあ、そうだろ、村比斗!!」
そんな訳分からない本全く見ていないし、名前なんかどうでもいいし、そもそも村人たる村比斗はこんな凶悪な魔物が出ただけ失神しそうになる。そしてやはり自分めがけて飛んで来る。
「た、た、助けて……」
既に腰を抜かし、その場に座り込む村比斗。
後ろにいたミーアが腕を上げ魔法を唱える。
「エア・プロテクション!!!」
ボワアアアアアン!!
村比斗の頭上に水色の半透明の膜ができる。それを見たラスティールが叫ぶ。
「こりゃいい!! 借りるぞ、ミーア!!!」
そう言うとラスティールはその半透明の膜に足を乗せ、そのままホークドラゴンめがけて飛び上がる。
「くたばれっ!!」
ガン!!!!
ホークドラゴンの強力な爪とラスティールの双剣が鈍い音を立ててぶつかる。
「グワアアアア!!!」
驚いたホークドラゴンは再び舞い上がると、ホバリングのように宙に浮きながらその大きな翼を力強く何度も羽ばたかせた。
ブオンブオンブオン!!!
「うげっ、何あれ!?」
ホークドラゴンの翼によって起きた気流の渦がそのまま小さなハリケーンの様になって三人を襲う。
「いやいや、無理無理っ!!!」
村比斗はそのあり得ない攻撃に頭を抱えて小さくなる。ミーアが言う。
「村比斗君、そこから動かないで!!! ラスティちゃん!!!」
ミーアは敵の動きを見ながら防御魔法の維持に専念する。名前を呼ばれたラスティールが答える。
「分かってる!! 行くぞおおおお!!!!」
ラスティールはそう叫ぶと再びミーアの防御魔法を足場に空中へ飛びあがる。
「はあああああ!!!!」
ガンガンガン!!!
そして手にした双剣でハリケーンを叩き斬りながら本体に近付くと、その頭上から豪快に剣を振り下した。
ドオオオオオン!!!!
「グガアアアアア!!!!」
頭を叩き斬られたホークドラゴンが断末魔の叫び声を上げてそのまま真下へと落ちる。そして大きな音を立てて地面にぶつかると、煙となって消えて行った。
「はあ、はあ、はあ……」
地面に降りて来たラスティールが四つん這いになり肩で息をする。
「ラスティちゃん!!」
ラスティールはミーアから差し出された手を取り、笑顔で立ち上がる。
「凄い凄いぞ、小型とは言えドラゴン種を倒したぞ!!! ああ、いい。いいな、魔物退治って!!」
ミーアも同じく笑顔になって答える。
「そうだね、なんかこう、すっきりしたって言うか~」
(こ、こいつら、俺のこと完全に忘れているんじゃねえか……)
ひとり地面に座り込み震えが止まらない村比斗がそんなふたりを見つめる。
「村比斗、大丈夫か?」
魔物の消滅をしっかりと確認したラスティールが村比斗の元へやって来る。
「ああ、何とか……」
ラスティールの手を取り立ち上がる村比斗。それでもまだ体が少し震えている。そんな村比斗の背中をさするラスティール。
少し落ち着いて来た村比斗が言った。
「それで、もう準備はいいのか?」
一瞬三人の時間が止まる。
それは無論『これからレベルアップする』と言う意味である。あの副作用が三人を襲うと言う意味である。
顔を少し赤くし、無意識のうちに汗ばむラスティールが頷く。
「いいよ~、ドーンと行こう!!」
対照的にミーアは楽しそうに答える。村比斗が言う。
「ラスティール、ミーア……」
そして静かに言った。
「ありがとう」
「うっ!!」
ふたりの頭に響く機械音、そして女性の声。
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
そして暗き森の中でぼんやりと光るふたりの体。そしてミーアが叫んだ。
「おおおおおっ!!! 来た来た来たあああ!! ミーアちゃん、レベルアーーーーップ、ヒャッハー!!!!!」
両手を上にあげ喜びを全身で表現するミーア。
それとは対照的にラスティールは頬を赤く染め、内股になりもぞもぞしている。
「ううん、ああん……」
やがて立っていられなくなったラスティールがそのまま地面に座り込む。片手を股に、そしてもう片手を胸に当てはあはあと吐く息がとても色っぽい。村比斗が近付いて声を掛ける。
「大丈夫か、ラスティール……」
ラスティールは近付いて来た村比斗の手を取り艶めかしい声で言う。
「ラスティって呼んでよぉ、村比斗ぉ……」
(いや、だからそれは、言ったら斬り殺されるだろう、お前に……)
そう思いつつも正常ではないラスティールには何も通じない。ラスティールは村比斗の手を自分の方へ引き寄せ強く抱きしめながら言う。
「お前は、いつも私を、んん……、いやらしい目で私をぉん……、見つめて、そんなに、私がぁん、欲しいのか……?」
(こ、こいつ、いつもより様子がおかしいぞ……)
そう思いつつも色っぽいラスティールに魅了され動けなくなる村比斗。ラスティールは村比斗の手を取り言う。
「そんなに私が欲しいなら、んん……、ほら、触ってみて……」
そしてその手を自分の首元へと当てる。
「ああん、うああああああん……」
失神するのではないかといほど感じ始めたラスティールが、天を仰いで声を上げ倒れそうになる。慌てて村比斗がその体に手をかける。
「お、おい、大丈夫か、ラスティール……、うっ!?」
支えようとした村比斗だったが、ついに自分自身にも副作用が現れた。
(胸が、ううっ、胸の奥が、うぐぐぐっ……)
村比斗はこれまでで一番とも言えるほどの胸を締め付ける痛みに襲われた。
「うぐぐぐっ……」
バタン!!
村比斗はラスティールを支えながら痛みに耐え切れずに倒れ込む。
「ああ~ん、ううんんん……、ふあああぁんん~」
ラスティールは村比斗と地面で絡み合いながらその快感を全身で感じる。
「うぐぐぐぐっ……」
「ヒ~ヤッハー、ホッホー!!!!」
村比斗達三人はしばらくの間、各種様々な副作用と戦い続けた。
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