21.私、強くなってる!?
王都ベガルドを出てラスティールの屋敷へ戻る村比斗達。短い時間ではあったが色々なことが起こり見分を広げられた滞在であった。
しかしラスティールだけは、村比斗の軽率な行動がどうしても許せなかった。
「貴様は本当に最低な男よ。私とミーアがどれだけ心配したのか知っているのか?」
そう言われるともはや謝る事しかできない村比斗。
「わ、悪かったよ。本当に……」
もう何度この件で謝ったのか。それでも怒りが収まらないラスティールにミーアが言う。
「ラスティちゃん、もういいでしょ~、村比斗君も随分反省しているし~」
「ああ、分かっている。それは分かっているのだが、何故か怒りが収まら……」
急に立ち止まるラスティール。それに気付いたミーアが言う。
「どうしたの、ラスティちゃん?」
ラスティールは黙ったままゆっくりと後ろを振り返る。そして少し先に見える馬に乗ったひとりの男を見て言った。
「下がってろ、ふたりとも」
「う、うん……」
ふたりは騎乗の男が近付いて来るのを見て後ろに下がる。
馬に乗った男は三人の前までやって来るとゆっくりと降りて言った。
「ラスティール殿、探しましたぞ」
「お前は、レザルト……」
レザルトと呼ばれた男。
肩までの長い黒髪の長身の男で、着ている身なりからしてそれなりの身分の者。背中にある大きな剣が印象的だ。村比斗が言う。
「誰だ? こいつ」
答えようとしたラスティールより先に、ミーアがレザルトの胸についた紋章を見て言った。
「あー、胸に王国紋章!? もしかして『六騎士』~?」
ミーアがその真っ赤な王国紋章を指差す。レザルトがミーアを睨みつけて言った。
「貴様っ、栄誉ある『六騎士』を軽々しく!!!」
ラスティールが言う。
「彼は『六騎士』ではない。ローゼンティアの供の者だ。あの赤い紋章がそれを表している」
村比斗は秘かにレザルトのステータスを確認する。
(『盲目勇者』だって? 一体何に盲目なんだ?)
レザルトが背中にある大剣を抜きながら三人に言う。
「貴様ら、栄誉ある『六騎士』ローゼンティア様に対する先の態度。それ相応の覚悟があってのことだな?」
ラスティールが小声で言う。
「奴はローゼンティアにぞっこんでな。剣の腕は立つが、あの女のことになると見境が無くなる」
「なるほどね。それで盲目か」
村比斗がひとり納得する。ラスティールが言う。
「レザルト。お前、それはローゼンティアのホワイト家に対する対処と考えていいのだな?」
レザルトが首を振って言う。
「いや、これは私の主への忠義によるもの。この行動にローゼンティア様は関係ない」
(何だそりゃ。あいつの勝手な思い込みじゃねえか)
ラスティールが言う。
「では、ここでお前をどうしようが、ローゼンティアには関係ないと言うことだな?」
「そうだ。だからそこの下男。ローゼンティア様を侮辱した罪、ここでしっかりと払って貰うぞ!!!」
「え? 俺っ!?」
名指しされた村比斗が驚く。ラスティールが言う。
「下がれ、村比斗!! こいつの相手は私がする!!」
「ま、任した!!!」
そう言ってミーアと共に後方へ下がる村比斗。ラスティールも双剣を抜いて構える。
(『六騎士』の側近レザルト。剣の腕は私より数段上。そしてこいつには、こいつだけにはもう絶対負けたくない!!)
ラスティールは走り込んで来るレザルトを見て剣を構える。レザルトが叫ぶ。
「父親と違って、剣も扱えぬ女ごときが!!! 食らえっ!!!」
レザルトはその大きな剣を振り上げてラスティールに斬りかかった。
ガン!!!
「なにっ!?」
ラスティールはそれを手にした双剣でしっかりと受け止めた。
(え? 私、レザルトの一撃を受け止めた……!?)
受け止めたラスティール自身、その事実に驚いている。一度後方に下がったレザルトが再び剣を振りかざす。
「偶然だ!! いい加減諦めろお!!!」
ガンガンガン!!!
ラスティールはレザルトの攻撃を、余裕を持って右へ左へと弾いて行く。
(違う、偶然じゃない。私、強くなってる……)
ガン!!
「ぐっ」
レザルトの渾身の一撃を双剣で弾き返したラスティール。それを見ていたミーアが声を上げる。
「すご~い!! ラスティちゃん!! 強い強い!!!」
「こ、こんな馬鹿な……、俺はローゼンティア様配下、最強の男。あの軟弱なラスティールなどに負けるはずが……」
「退け」
ラスティールはレザルトに剣を向けて言う。
「ローゼンティアの差し金でなく、貴様単独の行動ならこれ以上の責は問わぬ。今すぐ退け。ならばすべて許そう」
剣を向けられラスティールに言われたレザルトの顔が一気に赤くなる。そして剣を構えて大声で言った。
「調子に乗るな、凋落者風情が!! ローゼンティア様を侮辱した罪、決して許さぬっ!!」
その言葉を聞きラスティールの顔つきが変わる。そしてレザルトの全力の攻撃がラスティールを襲った。
カンカンカン、ガン!!!
「なっ!?」
シュルシュルシュル、グサッ!!!
レザルトの大剣がラスティールの攻撃によって空に吹き飛び、音を立て回転し地面に突き刺さった。ラスティールが剣をレザルトの喉に突きつけて言う。
「もう一度言う。このまま帰れば責は問わん。嫌というならば我が家への侮辱罪でここで首を刎ねる!!!」
ラスティールの真剣な目を見てレザルトが青い顔をして後ずさりする。そして地面に突き刺さった剣を拾うと馬に乗って言った。
「くそっ!! 絶対に……、くそっ!!!」
そのまま王都へと走り去って行く。
「ラスティちゃん!!」
レザルトを無事追い払ったラスティールの元にミーアが駆け付ける。
「大丈夫だ」
剣を鞘に納めながらラスティールが答える。
「怪我はないか?」
村比斗も心配して声を掛ける。
「ああ、大丈夫だ」
しかしラスティールはそんなふたりの言葉は右から左へと抜けて行った。
(レザルトに勝った? 本当に勝ったのか……、あのレザルトに!?)
『六騎士』時代、何度手合わせをしても勝てなかった相手。あの『因縁の戦い』でも打ち負けた相手。彼と戦うにはまだ未熟であり負けたことは仕方ないとは当時から思っていたのが、それだけに今日のあまりにも余裕を持った勝利にラスティール自身驚きを隠せなかった。
(あ、そうか。レベルアップ。私、勇者としてレベルアップしていたんだ……)
魔物を倒し、弱者を守る。
勇者として当たり前の行為がラスティールを確実に強くしていた。
(村比斗……)
ラスティールが村比斗を見つめる。
何だかんだ言ってもやはり勇者である以上、この『村人』は守らなければならない。
ラスティールの視線が自分にある事に気付いた村比斗が言う。
「い、いや、そんなに睨まれてもさあ……、そりゃ確かにローゼンなんとかには失礼なこと言ったかもしれないが……」
「ありがとう」
「へ?」
ラスティールの口から出た言葉に村比斗が驚く。
「さあ、屋敷に帰ろう」
「あ、ああ……」
てっきりまた怒られると思った村比斗は、何故か優しい微笑みを投げかけるラスティールに戸惑いながらその後について歩き出した。
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