17.三流勇者、村比斗!?
王都ベガルドに向かう途中でハチ型の魔物に遭遇した村比斗達。
ラスティールとミーアがすぐにお互いの背で村比斗を挟むようにして立つ。ラスティールが魔物に対峙しながら言う。
「ミーア、そっちは任せる!!」
村比斗の背後に立つミーアが答える。
「了解~、ミーア、頑張るぞお!!」
ふたりの間で村比斗だけが震えるようにして周りを見回す。
(やべえ、やべえ、やべえ!! すっごいブンブン大きな音鳴らしてるし、って言うかあれ、ハチ? 普通にカラスより大きいんじゃん!!)
数は多くないがハチにしては巨大な体に、やはりハチにしては大き過ぎる羽で高速でブンブンと音を鳴らす。お腹からは真っ黒な大きな毒針も見える。ラスティールが言う。
「行くよっ!! 気を抜くなっ!!!」
「うん!!」
掛け声と同時に双剣を両手に正面にいるハチの魔物に飛び掛かるラスティール。
一方ミーアは両手を前に差し出し、魔法を放つ。
「はああああ!!!」
ザンザン!!! ボフッ!!!
「ウィンドショット!!!」
ビュンビュン!! ボフボフッ!!!
ラスティールは剣で、ミーアは魔法で次々と確実にハチの魔物を仕留めて行く。
ブウウウウウウン!!!!
「ひゃあ!!」
魔物の一匹がふたりの攻撃を避け、一直線に村比斗めがけて飛んできた。
(来た来た来た!!! やべえ、やっぱり俺を狙ってるぅ!! 死ぬううう!!!)
ザン!!! ボフッ
村比斗の目の前立つラスティール。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
その姿は正に勇者だった。
「行くぞっ!!! 残りはあいつだけ!!!」
ラスティールはそう言うと大きく跳躍し、空中をホバリングのように浮いていた魔物を真っ二つに斬り裂いた。
「終わったか?」
地上に降り立ち、周りを見回してから剣を収める。ミーアが答える。
「うん、もういないよ~!」
ラスティールが村比斗に尋ねる。
「怪我はないか?」
「あ、ああ、ありが……」
そこまで聞いたらスティールがすぐに逃げるような姿勢で言う。
「ちょ、ちょっと待て!! まだ心構えがっ!!!」
「……とう」
「うっ!!」
ふたりの頭の中に同時に女性の声と機械音が鳴り出す。
『貢献ポイントを獲得しました』
『貢献ポイントを獲得しました』
『レベルアップします』
『レベルアップします』
そしてぼんやりと薄く光り出すふたりの体。先にミーアが叫ぶ。
「来た来たーっ!! ミーアちゃん、レベルアップ、ヒャッハー!!」
両手を上にあげて喜ぶミーア。
一方のラスティールは頬を赤く染めてもぞもぞしている。
(い、いかん。こんな白昼堂々、こんないやらしい、いかがわしい気分に……、ああ……)
「う、うああああああんん~」
ラスティールが片手を股に、そしてもう片手を胸に当て体をくねらせる。
「んん、んああああっ、いかん、私は、私はホワイト家の……」
顔を赤くしてひとり息荒くなるラスティールを見て村比斗が心配そうに尋ねる。
「お、おい、ラスティール。大丈夫か?」
ラスティールがすぐに答える。
「わ、私のことはラスティって、呼んで……」
「嫌だわっ!!! お前、それ言ったら斬るだろ!!! ……うぐっ!!」
「んん、あああ、んん……」
喘ぐラスティールを横に、村比斗も胸の痛みに苦しみ始めた。
ラスティールはしばらくして徐々に落ち着きを取り戻してきた。ミーアが尋ねる。
「ラスティちゃん、大丈夫~?」
まだ頬が赤いラスティールが答える。
「あ、ああ、何とか……」
そう言いながらも内股で足をぶるぶる震わせている。ラスティールが言う。
「ま、毎回これじゃあたまらんな……」
同じく回復して来た村比斗が呆れた顔をして言う。
「たまらん? お前も好きものだな」
「む、村比斗っ!!!」
胸の痛みも治まった村比斗を怒って追いかけようとするもまだ力が入らない。村比斗が言う。
「いや、本当に感謝してるって。『ありがとう』ってな」
「も、もういいわ!! んん、ああ~」
ラスティールはレベルアップはしなくとも村比斗からの感謝の言葉に、自然と体が反応するようになっていた。
「さて、あの城壁の中が王都ベガルドだ」
ラスティールは少し離れた場所からその城壁都市を指差して言った。
見上げるような高い壁に囲まれた巨大都市。前時代に魔物からの攻撃に備えて作られたと言う都市を囲む大きな壁。魔物が出なくなった今でもその防御性能の高さから国の拠点として人が集まるようになった。
「凄い壁だな……」
村比斗の言葉にラスティールが答える。
「ああ、普通の魔物程度ならその防御力は十分だが、魔王がやって来たらまずもたんだろうな」
ラスティールは対戦したことのある魔王ガラッタを思い浮かべて言った。ラスティールが懐からある物を取り出して村比斗に渡して言う。
「これを渡しておく」
ラスティールから渡されたカードのようなもの。村比斗がそれを見て尋ねる。
「何これ?」
「身分証だ」
「身分証?」
村比斗はそこに書かれた文字を見つめる。
【名前:村比斗真帆】
【所属:ホワイト家】
【職業:三流勇者】
「何だこれ? 俺が三流勇者?」
ラスティールが答える。
「ああ、そうだ。まさか村人とは書けんだろ」
村比斗が言う。
「しかもお前の家の所属になっているぞ。そもそもこんな物が要るのか?」
「当然だ。王都に入るにはすべての者の身分証提示が必要。身分証のない者は立ち入りができん。だから仮だがうちの所属にさせて貰ったぞ」
「ふーん、そうか」
村比斗は一応納得した顔で身分証を受け取る。そしてもう一枚取り出すと、それをミーアにも渡した。
「これはお前の分だ、ミーア」
「え? ミーアの分もあるの!?」
驚くミーア。彼女はこちらの世界の人間。身分証は持っているはず。ラスティールが言う。
「訳ありなんだろ。何も聞かん、これを使え」
そう言って村比斗と同じく『ホワイト家所属の勇者』としての身分証を手渡される。
「ありがとう、ラスティちゃん!!」
どちらも旧名家ホワイト家の紋章入りの本物の身分証。これがあればこの辺り一帯ではどこでも通過することができる。ラスティールが言う。
「さて、では行くか。王都ベガルドへ」
「うん!!」
ミーアが嬉しそうに答える。
(ミーアの訳ありって何だろう?)
村比斗がラスティールの言葉を考える。
「おーい、村比斗! 置いていくぞ!!」
村比斗が気付くとふたりは既に先の方まで歩いている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
村比斗は慌ててふたりを追いかけて走り出した。
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