15.庶民料理で、大感激だと!?
「なあ、毎回作って貰っていてこんなこと言うのもなんだが……」
ホワイト家の別邸、そこに住むことになった村比斗とミーア。本来領主ホワイトの娘であるラスティールは本邸で食事をするのが通りなのだが、彼らが来てからはずっと一緒にここ別邸で食事を共にしている。
村比斗が食卓に並んだ料理を見て言う。
「贅沢を言っちゃ悪いと思うのだが、もうちょっと何とかならんのか。この料理……」
村比斗が見つめるテーブルの上には、森で獲れた獣の姿焼き、そして野菜がぶつ切りで置かれている。
森の移動中はそんな大胆な料理でも良かったが、さすがに調理設備もしっかりある屋敷に戻って来てからも変わり映えのない料理には少々戸惑う。しかもほぼ毎回同じようなメニューなので飽きも来る。ラスティールが申し訳なさそうに言う。
「すまない。すべては不甲斐ない私の責任だ。前に話した通り『六騎士』降格以降、このような辺鄙な場所、ああ、ここは元々別の者が住んでいた場所なんだが、ここにほぼ強制的に住まわされ、そして給金も大きく減らされた。領主とは言え仕事もこの辺りの監督、警護。今や王都に行くのも月に数日程度。恥を忍んで言おう、お金はあまりない。すべてはこの私のせいだ」
あの自信満々で人を蹴り落としてでも自分の意見を通す強気のラスティールだが、こと家の事情になるとまるで借りてきた猫のように大人しくなり、そして自分を責める。
強くなって六騎士への復帰。それがラスティールの一番の目標にすら思える。ミーアが言う。
「えー、美味しいよぁ!! 全~然、問題ないから!!」
そんなミーアにラスティールが答える。
「ああ、ありがとう。私が不甲斐ないばかりに」
「なあ」
村比斗が言う。
「良かったら俺が一度メシ、作ってやろうか?」
「はあ? お前が? できるのか?」
眉間に皺をよせ少し馬鹿にした表情でラスティールが言う。村比斗が答える。
「まあ、そんな大したもんはできないが、ここにある物よりはまともなものは作れるぞ。ちょっとキッチン借りるぞ」
「お、おい! 村比斗!!」
ラスティールが呼び掛けるより先に、村比斗は席を立つとひとり出て行った。ミーアが言う。
「村比斗君って、お料理できたのかな~?」
「分からん。とてもそんな顔には見えんがな……」
ふたりは村比斗が出て行ったドアを暫く見つめた。
「さて……」
村比斗はキッチンにあった残り物の食材と調理道具を見て言った。
「まあ、何とかなるだろう」
『村人スキル』、その中にしっかりと『調理スキル』がある事を知っていた村比斗。前世で料理など殆どやったことなかったのだが、スキルのせいか不思議と何か作れるような気がしていた。
「じゃあ、余り物で……」
村比斗は包丁を取り出すと、残っていた食材で手際よく調理を始めた。
「お待たせ~」
村比斗が出て行って数十分、戻って来た彼の手にはラスティール達が見たことのない料理があった。
「な、何だ、その料理は!?」
「いい匂い~!!」
驚くラスティールとミーア。
正確に言えば見たことはある。ただそれはまだ皆が勇者になってしまう前の時代の料理書。本の中でしか見たことのないいわば幻の料理であった。村比斗が言う。
「何って、ただの野菜炒めに、ちょっとした大根のスープだよ」
驚くふたりを前に、そう言って作り立ての料理をテーブルに置く。真っ白な湯気と香ばしい香りが広がる。程よい油と香辛料、スープに浮く大根。まるで食材が調理されるのを喜んでいるかのようにすら思える。ラスティールが尋ねる。
「た、食べていいのか?」
「ああ、いいよ。何の変哲もない料理だ。まあ、それなりに美味しいと思……、ええっ!?」
村比斗はふたりが料理を口に入れた瞬間に恍惚の笑みを浮かべて固まっているのに気付き驚く。そして何度も咀嚼し、まるで子供のような笑顔になって言った。
「美味い……、なんなんだ、この料理は……、美味いぞ……」
ラスティールは目に涙を溜めて小さな声で言う。
「美味しいーーーっ!!! 何これ!? 村比斗君、天才っ!!!」
対照的に大騒ぎをして喜ぶミーア。両者とも食事を終えたはずなのに、ガツガツとまた食べ始めた。村比斗も久しぶりのまともな料理を楽しみつつも、ふたりの異常なまでの反応を見て考える。
(待てよ、奴らは料理をしないんじゃなくてできないんじゃないか? 勇者が率先して料理をすることなんてあんまり聞かないし、やったとしても森で食べたような豪快な丸焼き程度。逆に俺は村人であるがゆえに、一般的な家庭料理ならほぼ作れる。それってもしかして……)
村比斗はすっかり空になった自分の料理を見て確信した。
――俺ってこの世界じゃ『天才料理人』じゃん!!
料理を食べ終えたラスティールが村比斗の手を取って言う。
「村比斗、私は、私はお前のような奴と知り合えて幸せ者だ。ううっ……」
食べることが大好きなラスティール。
これまで空腹が満たされていれば良かったが、初めて食べた『普通の料理』に感動し目に涙を溜めて言った。
(こ、こいつキャラが変わっちゃったな……)
「村比斗君~、とても美味しかったよ! また作ってね!!」
ミーアも膨れたお腹に手を当てて村比斗に言った。
「あ、ああ。分かった」
ただの普通の料理だが、ここまで反応されると思わず戸惑う村比斗。そして同時にこれまで考えていたことを思いふたりに言った。
「なあ、一度王都ベガルドに行って見たい。色々見てみたい」
村比斗の言葉に驚くラスティール。
(どうも俺の常識じゃあまだ分からないことがたくさんある。やはり一度しっかりとこの世界を見ておく必要がある)
「わ、分かった。ただし、私とミーアは同行するがよいか? お前にもしものことがあったら困るのでな」
「もちろんだ。魔物とか出て来たら死んじゃうからな」
笑って言う村比斗にラスティールが答える。
「そうだな。ただお前は決して死なせぬ。私が傍にいる限りは」
「ああ、頼りにしてるぜ。お姫様」
「な、何だその呼び方は!!」
「あははっ、冗談だよ、冗談。姫に守られる男がどこにいんだよ。情けないだろうが」
ラスティールが小さく言う。
「わ、私は別にそんなこと、き、気にはしないタイプだぞ……」
「ん? なんか言ったか?」
「な、何でもない!! さあ、後片付けだ!!」
ラスティールは顔を見られないよう席を立ちあがって食器を片付け始めた。ミーアもそれを少し笑いながら一緒に片づけを始めた。
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