14.騎士様は天然のようです。
「シルフィって呼んでください!!」
シルフィーユは村比斗の両手を掴んで笑顔で言った。
(あ、愛の告白って、マジか!?)
この世界で女性が男性に愛称で呼ばせるのは愛の告白を意味する。じっと村比斗を見つめるシルフィーユにラスティールが言う。
「お、おい、シルフィーユ。お前本気なのか?」
シルフィーユが頬を赤らめて答える。
「はい。運命的なものを感じました!!」
シルフィーユは目を輝かせて村比斗を見つめる。デレトナが何度も頷いて言う。
「分かるぞ。強き者に憧れるのが勇者。兄貴ならその資格は十分にある!」
(お、おいおい。なんかすごい勘違いされてるぞ……)
村比斗が苦笑してシルフィーユを見つめる。目はクリクリと輝き、その真っ白な手でしっかりと自分の手を掴んでいる。村比斗が思う。
(よ、よく見ると結構可愛いじゃねえか。おさげってのもなんか萌える。これはこれでありか……?)
いつの間にかデレデレとした顔になった村比斗。それを見たラスティールが不満そうな顔をしてシルフィールに言う。
「シルフィーユ、この男のどこがいいんだ?」
シルフィールは頬を赤らめて言う。
「はい。助けて頂いたのはもちろんですが、とてもお強いはずなのに、何故か凄く弱そうで貧弱っぽく見え、不思議と守って差し上げたくなっちゃうんです。ギャップ萌えなのでしょうか?」
「……は?」
「ぷっ、くくくっ……」
呆然とする村比斗を見てラスティールが笑いを堪える。
(それって、褒められているのか、けなされているのか? 意味分からんぞ……)
ラスティールが村比斗に近付き耳元で小声で言う。
「多分だが、彼女の中にある勇者としての本能が、お前の『村人としての弱さ』に勘づいてそう言っているのだろう。弱者を守る、これが勇者としての本懐だからな」
「な、なるほど……」
そう言われてみて納得する村比斗。彼女が強いと思いながら弱さを感じてしまう村比斗に、戸惑いながらも惹かれる理由が分かった気がする。ラスティールが笑いを堪えて言う。
「分かった、分かったぞ、シルフィーユ。ただ村比斗は私にとって大切な男。あまり困らせんでくれ。くくくっ……」
「え、ええっ!? あ、は、はい……」
そう言われたシルフィーユが驚きと同様の表情を浮かべる。そして顔を青くして言う。
「も、申し訳ございません、ラスティール様。そんな事とはつゆ知らず。出過ぎた真似を……、し、失礼します!!」
そう言ってシルフィーユは口に手を当てて走り去って行った。それを唖然と見つめるラスティール。そして言う。
「な、なんだ、どうしたんだ、あいつは?」
それを見ていたミーアが溜息をつきながら言う。
「ねえ~、ラスティちゃん。色々と突っ込みたいところはあるけど、勘違いしちゃってるわよ、彼女~」
「勘違い? 村比斗っ! お前また彼女に何か……」
「お、俺は何もしてないぞ!!!」
村比斗を睨んで何かを言おうとしたラスティールをミーアが引っ張って言う。
「はーい、もうこの辺にしましょうね~、村比斗君は悪くないよ~」
「ちょっと待て、俺は一体どうすればいいんだ……?」
「兄貴っ!! 良ければ私に剣の指南を!!」
村比斗にデレトナが懇願する。村比斗が言う。
「お前は早く畑仕事して来いっ!!」
「はっ!! かしこまりました!! うおおおおおお!!!!」
デレトナと取り巻きの女勇者達が走って畑に向かっていく。ミーアが笑って言う。
「さ~て、一度部屋に戻りましょうか~」
村比斗とラスティールはミーアの言葉に頷き一度部屋に戻ることにした。
「村人としての本懐か……」
村比斗達が暮らす別邸。いつもの三人だけだと確認してゆっくりとドアを閉める。そして部屋にあるソファーに座ったラスティールが言った。村比斗が答える。
「ああ、そうだ。あのクワを握った時、何とも言えない喜びを感じた。そして無性に畑を耕したくなったんだ」
「やっぱり、村比斗君は村人なんだね~!!」
ミーアが嬉しそうに言う。
「もはや疑う余地はないな。あれだけ皆が苦労しているクワをああも簡単に操ってしまうとは、もう驚きでしかない」
ラスティールが足を組み直して言う。村比斗が答える。
「ああ、クワのステータスを見たら、ほぼ村人専用道具だった。あれじゃあ、勇者らじゃあ扱えんわな」
「なに? 道具のステータスも見られるのか?」
驚いた顔をしてラスティールが言う。
「ああ、そうみたいだ。すべての道具じゃないけど、一応見られる」
ラスティールが言う。
「なんてことだ。それはつまり鑑定士のスキルも持っていると言うことか?」
「鑑定士? 良く分からんが、ステータスに表示されたもの程度なら分かるぞ」
「村比斗君~、凄いね!!」
「ま、まあな……」
ミーアの言葉に嬉しそうに答える。ソファーに座ったままのラスティールがしばらく考え込んでから言った。
「しかしお前の持つ『村人スキル』、これはもしかしてとてつもなく大きな可能性があるかもしれん」
「大きな可能性?」
村比斗が尋ねる。
「ああ、農作物の栽培から管理と言った基本的なことが我々はあまり出来ていない。もしお前にその才があるのならばそれは大いに助かるところだ」
「なるほど」
「村比斗君~、凄いんだね!!」
ここで初めてラスティールが口にした村比斗の『この世界での可能性』。
ただこの時点ではまだ、皆、本当の意味でのその凄さに気付いてはいなかった。
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