25.呼び出し
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まゆみからも話が聞きたいと、御門がまゆみのメッセージアプリのIDを聞き出すと、亨のスマホに登録した。
車に乗り込むなり、亨は御門に「なんで俺なんですか」と抗議した。
「だってぇ。俺だと喰っちゃうじゃん。せっかくとーるちゃんの脱童貞の相手なのにダメでしょ」
御門は亨の足の上にスマホを投げて渡すと、ダッシュボードからタバコを取り出して、いつものように亨に渡した。
火をつけたタバコを御門に渡しながら、「童貞じゃないし依頼人の娘さんに手出しなんかしませんよ。人聞きの悪いことを言わないでください」と、御門を睨んだ。
「だってホテルでタオル一枚の女目の前にしても、何も手だししなかったんでしょー?ないわー。俺だったら無理。すぐ喰っちゃう」
「喰うとか酷い言い方はやめてください」
「えー。だって俺にとっちゃ女は喰いもんだもん」
女性の敵め――亨はハンドルを持つ手に無意識に力が入った。
「何度も言いますけど、僕は誰でもいいってわけじゃないんです。ちゃんとお付き合いをして、お互いが合意の上でないと嫌なんです」
「付き合わなくても合意ならいいじゃん」
御門が楽しそうにタバコの煙を吐き出すと、亨の足の上に投げ出されたスマホが小さく震えた。
信号で止まった時に画面を確認すると、まゆみの名前が表示されていた。
「ごめんね。呼び出して」
2日後、まゆみからメッセージアプリで呼び出された亨は、繁華街のバーに赴いた。
まゆみは今日も体のラインを強調するようなカットソーに、美脚も露わなミニスカートで亨を待っていた。
周囲にはナンパだろうか、カウンターに座っていたまゆみに話しかけていたらしい大学生くらいの男達が3人いたが、亨を見るとそそくさと傍を離れた。
「お友達――ではないですよね」
男達の背中を見送りながら亨が尋ねると、まゆみは笑って「ないない」と言った。
そして、慣れた手つきで亨の腕に自分の腕を絡ませてると、店の奥の半個室になっている席へ案内した。
腕を組まれた瞬間、亨は思わず顔が赤らむのを自覚したが、幸い店内は薄暗く、まゆみには気付かれなかった。
御門が連れて帰る女達は、5人に3人の割合で亨にも色目を使うし、先日のように体を押し付けてくるどころか、押し倒されそうになる事も多々あった。
そんな生活を送っているのだから、女性が密着する事には免疫ができていると思っていたのが、まゆみには何故か反応するのは先日のホテルの一件があったからだろう。
亨は座席がカーテンで覆われて、外からは中の様子が殆ど見えない座席でまゆみと隣り合って座りながら、そんな風に考えていた。
不意を突かれたのと、御門さんがいなかったからだ。
そもそも、この子だって御門さんが連れ帰ってる女達と同類だろ……
「棚橋さん?」
まゆみに話しかけられて、亨は驚いて我に返った。どうも冷静さを失っているらしい。
――調子が狂う。
亨は小さく溜息をついて、まゆみを見た。
今日もメイクをしているが、メイクがない方が可愛いいのにと思ってまた頭を抱えたくなった。
――どうかしている。
「いえ。大丈夫です。――お話と言うのは?」
何とか自分を取り戻しながら、亨は努めて冷静に尋ねた。
まゆみは鞄から封筒を取り出すと、亨の前に置いた。
「これは――?」
「ホテル代とタクシー代」
まゆみはそう言うといつの間に注文していたのか、目の前に並んだグラスを手に取ると、「乾杯」と合わせて、一つを亨に持たせた。
「ここのモヒート美味しいんだよ」
これでもかとミントが入った酒は初めてだったが、言われた通り甘くて美味しかった。
亨の表情をみて、まゆみは嬉しそうに笑って、「ね?」と首を傾げた。
「美味しいです。――でも、これは戴けませんので」
亨は封筒をまゆみに戻すと、モヒートをもう一口飲んだ。
「だめだよ。あの日は私が助けてもらったし、ホテルでもなんもしてないし」
ホテルと言われて、亨は酒を噴き出しそうになった。
いや。確かにホテルに行ったけど……。嫌な汗が亨の背中を流れるのがわかる。
「だからお金もらうのは筋違いでしょ」
「何かしたお詫びでお金を払ったんじゃなくて、篠川さんも――」
「まゆみでいいよ。篠川さんとか堅苦しくてやだ」
「――まゆみ……さんも、酔った僕を介抱してくれてたわけですし、むしろ酒を被らせて迷惑をおかけしたのは僕の方なのでホテル代は当然ですし、タクシー代も当然お支払いするのが筋と言うか……」
そう言うと、まゆみは「真面目か」と言って吹き出した。
「棚橋さんって面白い――顔だけ見たらめっちゃ遊んでそうなのに。ギャップ萌え狙ってんの?」
面白そうに笑いながらまゆみが言うと、亨はどこかで聞いたワードが出たと眉をしかめた。
「じゃあさ、ホテル代は出してもらうけど、タク代はいらなかったから返すってことで」
ひとしきり笑うと、まゆみは封筒から一万円を抜き出し、亨に渡した。
「黙ってもらっておけばいいのに。――君こそ真面目じゃないか」
封筒を受け取りながら、思わずそう言うと、まゆみは長いまつげを伏せるように微笑んだ。
「二度と会えなかったらそうしてたけどね。会っちゃったし」
「僕も――パニックになってたとは言え、あんな風に帰って申し訳ないとは思ってた」
せめて駅まででも送っていけばよかったと何日も後悔していたと言う亨の唇に、まゆみがそっと自分の唇を重ねた。
亨ちゃんがモテました。




