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プランC

「さて、それでは次だが」


 ええぇ、まさかそれもバレてんのぉ!?

 私は〝もう勘弁してくれ〟と訴えるような瞳を殿下へ向ける。


 だが、そんなことで止まってくれるような相手ではない。

 むしろ逆。殿下の嗜虐心をさらに煽り立ててしまったらしい。

 殿下はますます酷薄な微笑を濃くするばかりである。


「驚くべきことに貴様――婚約を取りやめさせたいあまりに我が国の政治……貴族間のパワーバランスにまで介入し、歪めていたようだな」


 ぎくぎくぎくり。今の私の顔面はもはや死人のように青白くなっていることだろう。血の気の引くあまりに。


 よもやよもや、その最後の暗躍――プランCまで私の仕業だと掴んでいるとは。忌々しさを通り越して感服してしまいそうになる。


「貴様はまず、実の父親の仕事に対してことあるごとに口出しをし、助言をしていた。それこそ領地経営から他の貴族との付き合い、外交、内政に至るまであらゆることに。娘に甘い貴様の父親だ、その助言のことごとくを鵜呑みにし、忠実に従って動いてきた。まるで貴様の操り人形の如くに」


 そうだ。私はその指摘を内心では全面的に認める。その結果――。


「貴様の父親はいまや宮廷政治における最大派閥の長だ。下手をすれば国を揺るがしかねない権力を手にしている。皇帝陛下すら迂闊に手出しは出来ない、そう言っていいだろう。だが、あの当人の才覚のみで登り詰められるような立場ではない。というより、()()()()()()()()


 殿下は小さく溜息を吐きつつ、私を真っ直ぐにその視線で射抜いてくる。


「全て貴様の差し金だな、テレジア。父親を上手く操って、それほどの権力を手に入れるよう立ち回らせた。それだけじゃない、自らも裏であらゆる根回しと政治工作を行い、父親をそこまで押し上げた。まさしく近年の宮廷政治における〝黒幕〟とでも言うべき八面六臂の暗躍ぶりだな、テレジアよ」


 これには流石の俺も舌を巻いたぞ。

 殿下は本気で感心しているらしい声でそう言ってきた。


 しかし、言われたところで私は嬉しくも何ともない。今まさに名探偵に追い詰められている犯人の心境でしかないのだから。


「だが――そこまでして得たかったものが、まさか俺との婚約破棄とは……。信じがたい謙虚さだな、貴様。国家転覆すらその気になれば謀れたかもしれぬ程の権力で望むものがそれか。いや、しかし……確かに道理は通っているな」


 殿下はこらえきれないように小さく吹き出しつつ、続ける。


「そんな立ち位置にある公爵、その娘が次期皇帝に最も近いとされる皇太子と婚約している。普通であれば到底見過ごせるものではないな。今でさえあらゆる政敵に手出しを躊躇わせる――それほどの力を持つ男が、将来的に皇帝の外戚となる。そうなればますます手がつけられない。ほぼ天下を手中に収めるとすら言っていいだろう。政治勢力の均衡は完全に崩壊し、国は混乱に陥る」


 こればかりは流石に洒落になっておらんな。殿下はそう呟いて嘆息する。


「だから、均衡を保つためにはひとまずこの婚約を取りやめとするしかない……。俺がそう思わずとも父上――陛下御自らがそうお考えになることだろう。皇帝陛下の決定に逆らえる者がこの国にいるわけもない。そうして貴様はまんまと己が目的を果たせるというわけだ。いやはや、まったくもって迂遠かつ傍迷惑にも程がある方法ではあるが……確かに見事だ」


 そう。全ては今まさに殿下が明かしてくれたとおりであった。


 それこそが私の最後の暗躍――プランC、『政治的にやめさせよう』。


 まさしく完璧な計画だったし、実際これまで順調に、私の目論見どおりに事は進んでいたはずなのだ。

 しかし、それが全て相手に露見してしまったということは――。


「そうだ。貴様も察しのとおり、それは全て貴様の父親が()()()()()()()()()()()()()()()()()であった場合の話だ。だが、貴様の父親はそんな大それたことを考えられるような男ではない。能臣と言えば聞こえはいいが、実際は単なる子煩悩な凡夫に過ぎぬ。娘の助力がなければここまでの躍進など本来望むべくもないはずのな」


 殿下は「つまり」と続け、


「裏で糸を引いていたのが誰なのかさえわかれば、もはや警戒するまでもない。こちらが無駄に気を揉まずとも平々凡々、人畜無害に一生を終えてくれるだろう。黒幕と引き離しさえすればな。むしろ、その黒幕が勝手にこちらへ輿入れしてくるとあれば、それはまさしく願ってもない状況――好都合だとは思わないか?」


 ですよねー。私はがっくりとうなだれ、溜息を吐く。


 そう、全てはまさしく殿下の仰るとおり。

 プランCのリスクは()()()()()()()()()()()()()()部分にあった。

 国政を混乱に陥れようと画策しているのは私一人なのだから、阻止する場合はそれさえ押さえつけてしまえばいい。

 我がお父様にしても、人の好さだけが取り柄のぼんぼんである。権力を握らせてもそれを悪用するという発想すら浮かばない混じり気なしの善人だ。

 一人の人間としては尊敬できるし好ましいけども、この場合はそれがネックとなってしまう。


 ……確かにそうではあるんだけど、まさかここまで見事に尻尾を掴まれてしまうとは。

 これに関して自分にミスがあったとは思わない。万全に万全を尽くして暗躍していたつもりだ。

 それを覆されたのだから、向こうの方が一枚上手だったということだろう。


 侮りがたし、我が婚約者。流石は次期皇帝の座に最も近い男と言うべきか。

 今さらながらに自分は恐ろしい人を相手にしていたのかもしれないと気づき始めた。

 いや、まあ、それはもう私の暗躍を心底楽しそうに、勝ち誇るように暴き立てていく様から十分に伝わっていることではあるのだけど。


 しかし、こうなっては仕方ない。降参だ。

 流石に私もこれ以上の権謀術数は巡らせていない。心当たりはこれで全部だ。

 暗躍はその全てをことごとく看破されてしまった。

 そうとあれば、もはや大人しく白旗を上げるより他ないだろう。

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