観測する者
◇
「良い感じだね、マリュア。それじゃあ少し休憩しようか」
アークァスがイミュリエールを止めるため魔界へと出立している間、暇だからという理由で私はセイフに呼び出され剣の鍛錬をさせられることになった。もちろん件の物騒な剣ではなく、木刀による模擬練である。
ノノア様とともにパフィードを巡る日常にもようやく慣れたと思った途端にこれである。
セイフとノノア様、気を使わずに済むが心が荒んでいくのと気を使わないといけないが心が癒やされるのとではどちらがマシなのだろうか。
「しかし本当に欠片も届かないな。ちょっと自信なくしてきたぞ」
「届いたら君はイミュリエールを超えたことになるよ。とはいえ、自身の成長は感じているのだろう?」
「まぁそうなんだが……なんというか……」
アークァスどころかイミュリエールすら完封する元魔王相手に通用するとは最初から思ってはいない。
それでもそれなりの手応えを感じているのは、ニアルア山での一件で私の体を使い戦ったセイフの影響だろう。
体の主導権を変わっただけで元の能力は何一つ変わっていない状況下、手負いとはいえ天竜族の領主の兄であるシューテリアをセイフは凌駕してみせた。
その光景をリス経由で見ていた私は自身の肉体が私の想像以上に動けるという事実を知った。
その時の光景をイメージするだけで、全身の魔力強化の練度が飛躍的に向上している。セイフが私の体を操った時に比べればまだまだだが、少なくとも過去の私は軽く超えてしまっている。
「本来ならもう少し長い時間を掛け、自身の限界を知りながら手に入れていく力だからね」
「三年、いや五年分は成長した感じだな」
「それくらいだろうね。お手軽に力を手に入れてしまった感想はどうだい?」
「むぅ……力とはなんなのかって気分だな」
私にとって実力というものは己とじっくりと向き合い、練磨の果てに向上させていくものだ。
だがこうして他人の影響で急激に強くなったことで、今までの努力やら培った実力に対する価値観が幾ばくか色褪せたのは確かである。
「私好みの良い答えだ。君は力に溺れることはなさそうだね」
「溺れるも何も、上には上がいるとわかっているからな」
「その程度の成長は気づきや環境、ちょっとした機会を得れば誰にでも訪れうる成長だ。元々君の能力の範疇でもある、素直に自分のものとして受け入れていくことだ」
「その程度て。結構な成長なのだが」
「これでも一時期は世界最強の存在だったからね。規模感なら随一だと自負しているよ」
少しも威圧感がないが、これでも先代魔王オウティシア=リカオス。邪神ワテクアに選ばれ、魔王として女神の力を与えられた存在だ。
たかだが魔力強化の練度向上程度、女神の力と比べれば確かに微々たるものではあるのだろう。
「魔王の力を失ったことに対する喪失感とかはあるのか?」
「一時期とは言え自分の力として扱っていたのだから多少はね。けれど失ってから改めてこの世界に生きる者には過ぎた力だと実感しているよ。今の私の実力なんてちっぽけなものさ」
「アークァスも正式に魔王になったら、そういった力を得るわけか……あまり喜びはしないだろうな」
「そうだね。だから今は彼の能力の範疇で力を伸ばす鍛錬を行っているのさ。彼の才能、努力、環境、機会、持ちうる可能性の範囲でね」
「魔王になればどうせ全てちっぽけに感じるのにか?」
「それでもさ。磨き上げた実力は自信や意思の強さにも繋がる。イミュリエールに勝てないまま魔王になるよりも、勝ってから魔王になった方が魔王としての質は確かに上がるはずさ」
より強い状態で魔王になった方がより強くなるのは当然。だがセイフが言っているのはそういうことではないのだとわかる。
魔王としての力を得れば今アークァスが身につけようとしている力はあってもなくても変わらない、誤差の範囲なのだろう。
それでも自力で生きる目標を成し遂げたという自信を持つのと持たないのとでは、その内面に残る芯の強さに明確な差が出るのだと。
「彼は姉に勝てるようになれるのか?」
「歪に叩き上げた剣の才能ではなく、本来備わっていた才能を活かせば可能性は大いに」
「アークァスの本来の才能か……」
「姉のように強くなるには、同じ剣の才能を磨くしかないと幼い彼は結論付けた。けれどあの子には剣の才能はなかった。だから創り変えた。自身の内にあった才能を変化させ、己の在り方を剣とした」
「そんなことできるものなのか?」
「素人だって鍛冶の槌を数年握りしめて鉄を叩き続ければサマにはなるだろう?あの子がやったのもそれに類する行為だ。剣を振るう為に必要な要素を求め、不要な要素を削ぎ落とし肉体や精神を調整していく。そうすれば十分に剣を扱えるだけの存在にはなりえる。とはいえ短期間でしかも幼少期に行った行為だ。相当に自身を追い込んだのだろうね」
「そう聞くと中々不穏な行為に聞こえてくるな」
「純粋な剣の才能を持っていたイミュリエールにはとても恐ろしい光景に見えたようだね。剣を落とさないために柄と手を溶接するとか、それくらいの無茶に見えたのだろう」
少しだけ想像して嫌な気分になった。幼い子供は限度を知らず躊躇もない。成ると決めたらそれがどれほど現実的でなくても、自分なりの範囲で思いを現実にしようとする。
彼の無茶が昔からなのだとすれば、イミュリエールがあそこまで弟に対して過保護な理由にも理解を示せてしまう。
「それでもないはずの剣の才能を生み出せてしまったわけだ」
「三流程度ではあるけれどね。イミュリエールは彼が信念だけでやり遂げたと思っているかもしれないが、実際にはあの子の才能があってこそ成し遂げられたといっても良い」
「……それは彼の観察眼に携わるものか」
彼には長年の鍛錬で培った魔界の領主相手にも通用する秀でた剣術がある。
けれど私が彼を脅威に感じたのはそこではない。心を読む女神ウイラス以上に私の心を見透かしていたあの観察眼。
あのイミュリエールに『見』においては敵わないと言わせ、『見』の影響が強く出る弓では剣を握る以上の成果を示してみせた。
アークァスが魔王として選ばれたのも剣の実力ではなく、観察力の要素が強いのだと私は確信している。
「君も彼の才能の片鱗は感じているようだね」
「セイフがアークァスを弟子にしたのも、自身の特異性に近しい才能を持っていたから……?」
セイフは静かに頷いた。彼の特異性、『もう一度、この眼に貴方を』は相手を二度観察したものとして認識できる。その二度目の内容は自身の匙加減でその精度を調整でき、知るべき相手の要素を決して見逃さないといった絶対的な観測力。
それを踏まえてアークァスの才能との関係を考えると、様々な思考が巡ってくる。
「観測の才能とでも呼ぼうか。私は新たな魔王候補となる者を求め、私の特異性に近しい観測の才能を持つものを求めた。その方が実体験込みで色々とサポートがしやすいからね」
「けれどアークァスは幼少期の段階で既に自身の才能を剣の才能に変化させていたのではないのか?」
「うん。ただ出会っただけではまず気づけないだろうね」
「じゃあどうやってアークァスが観測の才能を持っていると?」
「元々私が目をつけたのはアークァスじゃない。彼の父親でね」
アークァスとイミュリエールは血が繋がっていない。彼の母親の親友であるイミュリエールの母親がアークァスを養子として迎えている形だ。
私が知っているのはその程度。だからアークァスの生みの親については何一つ情報を持っていない。
「その人物は――」
「そのことについては後日、アークァスもいる場で話そうか。彼も知っておくべき話になるだろうからね」
「……そうだな、部外者の私が先に知ることではないな」
「まあ今回の一件でアークァスがイミュリエールを止められるかがそもそもの問題だけれどね」
イミュリエールのリムリヤ暗殺が成功した場合、次の魔王候補争奪戦の対戦相手はほぼ間違いなくイミュリエールとなる。
そうなった場合、セイフの修行は間に合わずアークァスは敗北することとなる。
敵わない相手をどう止めるか、なんの計画もないままに飛び出したアークァスだが果たして彼女を止めることはできるのだろうか。
「もしも向こうで戦いになったらと考えると心配ではあるな」
「可能性がない以上アークァスは戦わない方法を取るだろうね。誰かの助けで可能性が出てしまった場合は別だけれども」
「向こうには他の領主もいるのだろう?そうなる場合もあるのではないのか?」
「そうだね。そうなった場合はかなり分の悪い戦いとなるだろう。私の修行が間に合った場合よりも遥かにね。でもそれはそれで良いんじゃないかな」
「まずい話だというのに、楽観的だな」
「仮にアークァスとイミュリエールが戦うことになり、アークァスが敗れ魔王候補の座を失ったとして。私にとっての支障とはならないからね」
自分の弟子を魔王候補となるように育て上げ、それが今失敗に終わる危機だというのにこの余裕の様子。
他にも保険があるのだろうが、少なくとも己の弟子の人生における転機に平然としているのはなんというか少し複雑な気分になる。
「そうだとしても、弟子の心配くらいはしたらどうだ?」
「しているとも。表には出していないだけさ。マエデウスよりかは弟子思いではあるよ、私は」
「……どうだか」
「目が泳いでるよ?」
ケッコナウ様の方がまだマシと言おうとしたが、冷静に考えると私が苦悩している光景を楽しんでいるとわかりきっている分、どう考えてもこっちの上司の方がダメだった。
◇
アークァスの瞳に光が戻った。そのことに湧き上がる感情は当然ある。
けれどそれで止まるわけにはいかない。感情を表に出すわけにはいかない。
喜ばしいことであるからこそ、なおさらにこの子を止める理由が強まった。
「――良いわ。貴方を私の障害として排除してあげる。その両腕、一回斬り落とすわね」
展開するのはアークァスの腕を両断する二本の『白』。けれど即座にその軌跡が砕け散る。『黒』だけじゃなく、『白』も破れる以上、アークァスのこの剣技に対する対応力がセイフやクアリスィ並になっているのは間違いない。
セイフから破り方を学んでいて、リムリヤの特異性の後押しで完全に可能になった?まあ今はそれくらいの認識で良い。
リムリヤの言葉を考えるのならば、あの子はかつての才能を取り戻しただけに過ぎない。
もしもその才能を伸ばし続けていれば、私に匹敵するナニカになれた可能性はある。
でも今は取り戻したばかりで肉体が急激に成長したわけでも、第三者から強力な力を与えられたわけでもない。
意思だけで斬れないのであれば、直接剣を振るうまで。
「いくわよ……神技、『時渡り』っ!」
反応が間に合うように構えを見せてから『時渡り』で距離を詰める。
私が剣を振るよりも先にアークァスは防御の姿勢をとっている。けれどそれで良い。
この一撃は斬るためではなく叩き折るためのもの。『時渡り』ほどにないにせよ、勇者が扱うレベルの魔力強化による超高速の一撃はアークァスの肉体では防ぎきれない。
「重い一撃だ。流石は姉さん」
「……っ」
一撃を完璧に防がれた衝撃と、その動揺が同時に全身に響く。
全身に残る痺れが、無意識による手加減はなかったと語っている。
そんなことは不可能なはずなのに、アークァスは私の剣を正面から受け止めた。
一瞬アークァスの体が光ったようにも見えたけれど、今のは……って悠長に考えている場合じゃない。
全身に受けた衝撃で硬直している私よりも先に反撃の姿勢へと移っている。
腕への痺れから防御はあまり得策じゃない。後ろに距離を取って回避を――
「――神技、『時渡り』」
作った間合いが即座に埋まる。思考よりも先に反射で体が防御の姿勢をとり、アークァスの一撃を受ける。
後方に飛んでいる最中の一撃、踏ん張りなど効くわけもなく私の体は弾き飛ばされた。
壁を突き破り、視界に空と悪魔族の町並みが入ってくる。
私がアークァスを吹き飛ばすつもりが、私の方が吹き飛ばされた。
小粋な意趣返しだと感心しつつも、理解ができない箇所へと思考は巡る。
「あの子……『時渡り』を無傷で使った……?」
アークァスはさっき私の前で一度『時渡り』を使っていた。
けれどそれは体に這わせていた魔力を帯びた蔦に負荷を補わせることで辛うじて使用することができていた程度。
脳裏にちらつくのはあの忌まわしい女。とはいえ当人は今この場にはおらず、アークァスが再度『時渡り』を使うことはできないはず。使おうものならその足は使いものにならなくなる。
けれど吹き飛ばされた時に見たあの子の体は無事のままだった。
それにさっき気のせいかとも思えたけれど、またあの子の体が光ったように見えた。きっとそこになにか絡繰りがあるに違いない。
視界に差し込む影、そこにはアークァスがいた。
追撃をするために飛び出し、既に私に向かって剣を振り下ろしている。
それは読んでいたから、既に私も剣を振るっている。さっきと同じで魔力強化した十分に強力な一撃。
剣と剣がぶつかり合い、その優劣が決まる。
私の体は高速で地上へと叩きつけられ、見えていた景色は砂埃によってかき消された。
「なるほど、そういうこと」
起き上がりながら体にまとわりついた土を払う。アークァスは既に正面に立っていて私の言葉の続きを待ってくれているようだ。
押し負けたことに驚きはない。その刹那に全ての答えがわかった。
アークァスもまた私と同等以上の魔力強化を施していて、単純に私が力負けしたというだけ。
ただその過程がこれまでにない方法だった。
魔力強化は魔法に頼らず自身の魔力を全身に流し、肉体を強化する術。
だからこそ瞬発性に優れ、多くの者達が白兵戦の際に重宝している。
魔力を込めれば込めるほどその強化は秀でたものになるけれど、肉体への負荷も大きくなる。
鍛錬を積んだものなら肉体の限界を超えて魔力を練ることができるけど、普通は体が壊れない程度に加減をする必要がある。
神技『時渡り』だってその延長線上。普通の人間なら壊れて当然とも言える魔力強化を施す技で、それこそ勇者や私のように天性の肉体を持つ者でもなければ無事には使えない。
「魔法で肉体を強化して、そこから魔力強化をしていたのね。二度手間じゃないの、そんなの」
「単純な強化じゃないさ」
「みたいね。あの植物女の真似かしら」
アークァスが施しているのはさっき全身を覆っていた蔦の特性に近いもの。
体への負荷を肩代わりし、使い捨てにできる薄い膜のような魔法を常時貼り直しながら動いている。
私の剣を受け止めた時や、『時渡り』を使用した時、そしてさっきの私への追撃の際にそれらが破れ、光としてあの子の体の周りで弾けていたのを確認できた。
「ララフィア=ユラフィーラって名だ。名前くらい覚えてあげなよ」
「あんなあざとい女、お姉ちゃんは交際を認めないからね」
「してないしてない。俺がキープ扱いになってるくらいだ」
「なおさら悪いわよ!?」
「良い子ではあるんだよ。親子プレイを楽しむとか、ちょっと癖は強いけど」
「ちょっと強過ぎないっ!?っていうかもうそんな関係に!?」
なんかあの女、私の想像以上に悪どいし性癖の危ない女っぽい。今度親子プレイの詳細を聞いたあとちゃんと殺しておこう。
それはさておき、アークァスはあの女の魔法を自分向けにアレンジし、完璧に使いこなしてる。
そりゃあ強力な魔力強化を使う前に展開しなおせばリスクなしで限界を超えた魔力強化を行使し続けられるでしょうけど、その展開速度が通常の魔力強化とほとんど変わらないのは異常よね。
魔法なんてこれまで全く触れてこなかったはずなのに、まるで熟練の魔法使いみたいな真似をしてるなんて。
「あー……誤解については後で解くとして、彼女のおかげで気兼ねなく魔力強化が使えるようになったのは確かだ。咄嗟に編み出したにしては良い感じだろ?」
「……そうね。神技すら使えるようになるのだから、立派な奥義とも言えるわね」
「じゃあ名前も考えなきゃな。ララフィアから学んだ技だし……ララフィア衣?」
「閃光華!動くたびに閃光の華が散るみたいだから!」
「お、良いなそれ。じゃあ奥義『閃光華』で」
危ない。危うくアークァスの奥義のレパートリーにあの女の名前が加わるところだった。そんなことされたらお姉ちゃんの精神的ダメージは計り知れないわ。
華が入っちゃったのは不服だけれど、それでもあの子にとってはかなり強力な奥義よね。
ただそれで私に勝てると思うのは甘い考え。ちょっと力負けはしたけれど、それは従来のアークァスに合わせて加減していただけ。
ゴアガイムくらいの腕力があると想定して調整すればなんの問題もない。
「それじゃあ私ももう少し本気でやってあげるわ」
「あ、待った。もう一個試してみたいのが」
「戦いが始まってから待ったは良くないわよ?」
再び『時渡り』で距離を詰め、剣を振るう。
先程の『閃光華』による強化の程度はもう見切っている。今度はそれを超える膂力でいく。
仮に防がれたとしても、『閃光華』は瞬間的な使用で消費される技。そのまま振り抜けば抑え込むことはできないはず。
「――ッ!?」
アークァスが防御をして腕に衝撃が響くだろうと身構えていたのに、手応えが少しもなかった。
空振り、攻撃を回避された。『時渡り』ほどではないにせよ、かなりの魔力強化を施した速度の一撃だったのに。
眼の前にいたはずのアークァスがいない。『時渡り』は使用していない。していればその衝撃で地面が抉れているはず。
ただの魔力強化の範疇で私の視野から消えるほどの動きができるとは思えない。
ならばこれはまた別の何か、アークァスの言っていた試したいと言っていた技。
視界の隅に何かがチラつく。『閃光華』を使用した後の光かと思い視線を向けようとしたがなにかが違う。これは紫色の光――
「結構痺れるから、食いしばりすぎないように」
視界の隅から放たれた一撃を防御した瞬間、全身に痛みが奔り硬直する。
視界がチカつき、意識がブレる。これは物理的な攻撃じゃない、魔法のような……雷!
ああもう、アークァスは魔法を使用してみせたのに物理的な攻撃しかしないと思い込んでいた私の迂闊さ。
即座に反撃するも雷の一撃のせいで体の動きがおぼつかない。視界に映ったアークァスは全身に紫の雷を纏いながら、落雷のように掻い潜り掌底を放ってくる。
再び全身に流れる雷、今度は覚悟して受けた分痛みも硬直も少ないけどそれでも効く。
「ぐ……痺れたぁっ、今度マッサージに使ってくれない?これも誰かの技の再現かしら?」
「ロミラーヤ=リカルトロープ、牙獣族領主の姉だな。同じ姉同士仲良くなれると思うよ」
「弟思いのお姉さんなら考えても良いわね。紫電を纏いつつ思考じゃなくて反射での行動……魔力強化に頼りすぎずに素早い動きが可能になるって感じね。あと痺れる」
「ロミラーヤ衣……」
「紫電狼!普通の奥義はまともな名前なのに、なんで再現技は安直なのよ!?」
「リスペクト先の名前は入れても良いかなと」
「それだと私の剣技がイミュリエール斬になるわよ……」
「悪くないと思うんだが、だめか……」
戦いの最中に愛しの弟に名前を呼ばれるのは悪くないんだけど、必殺技の名前で言われるのはなんかちょっと違うのよ。
アークァスは過去に見た魔族の技を魔法として再現している。どこまで効果が一致しているかわからないけど、私が痛みを感じれる程度には高水準。
「過去に見た技を魔法で再現できるようになったようだけど、何でもってわけじゃないわよね?」
「そうだな。何でも砕くとかざっくりしたナラクトや、限界を超えた魔力運用ができるミーティアルの特異性とかは色々複雑そうで、一朝一夕では難しいかな」
これが意味することは、あの子は過去に見た様々な現象を事細かく分析できているということ。
そして今回の一件でそれらを魔法として再現することが可能だと気づいた。
広大な視野、数多の因子を受け入れられる融和性、ああ、本当にあの子は自身の才能を取り戻している。そしてその才能を以て私と対峙しているのね。
それはそうと、さっきから女の名前しか出てないんだけどどういうこと?
弟が本来の才能を取り戻したことでちょっとハイ(ツッコミ)になりつつあるお姉ちゃん。
後日やることがたくさん増えたぞ、頑張れお姉ちゃん。