魔王の沙汰。
「アークァス、あっそぼー!」
「ネルリィ、何歳ですか貴方」
アークァスの家に遊びに来たら、ウイラス様が彼のベッドで寝転んでいた。周囲を見渡した感じだとアークァスはどうやら留守のようだ。
「歳を聞くのは失礼ですよ。ウイラス様も聞かれたくないでしょう?」
「数値を言うだけ虚しくなるとは思いますね。アークァスなら今は魔界ですよ。鬼魅族の領地に足を運んでいるかと」
魔界かー、あの子もちゃんと魔王をやっているようだ。幼馴染がしっかりと働いていることに感心するあたり、私も大人になったのだなとしみじみ。
「へー。あ、お茶飲みます?」
「人の家で平然とお茶を淹れだしますか。飲みます」
「ウイラス様だって人の家のベッドに潜り込んでいるじゃないですか。ウイラス様ってアークァスのことが好きなんです?」
「好きか嫌いで言えば好きですよ。ボケたらちゃんとツッコミを入れてくれる真面目さとか」
「わかるー」
アークァスは元々根が真面目だから、ちゃーんと人の話とかを聞いてくれるのよね。ただ一途でもあるから、一度行動に入るとあらゆることがそっちのけになるんだけど。
「こうして寝床に私の匂いが染み付けば、もう少し私のことも意識するかなと思いまして」
「そういえばあの子、ウイラス様みたいな美人と一緒にいるのに、少しも動じてなかったですね」
「男色の可能性もあるかもしれませんね」
「戦える相手なら誰でも良いって感じじゃないです?」
「あー」
この女神様が私達のいる世界を創った。その事実は理解しているのだけれど、実感というものがイマイチ湧かない。人間味が強過ぎるせいなのか、それとも私の周囲の人間に人間味がなさ過ぎるのか。
「両方でしょうね」
「両方かー」
「心を読まれながらの会話ともなれば、ぎこちなくなるのが普通です。ですがアークァスも貴方も、平常心のままですからね。私から見ても人外寄りに見えますよ」
「私も人外かー。ちょっとだけ嬉しいかも」
「嬉しいんですか」
女神様からそちら寄りと言われるのであれば、それは真実なのだろう。少しでも幼馴染側の存在としていられるのならば……というやつである。
「――ところで、先日マリュアのところを訪ねたのですが……貴方彼女の住まいを訪ねていなかったのですか?」
「あーそういえば、そうだった。アークァスに仕事を紹介された翌日から住み込みで働いてたから、会いにいくの忘れてた」
「てっきり貴方の口からイミュリエールの話を聞かされていたと思っていたのに、私が彼女を泣かせてしまいましたよ」
「泣いちゃったんだ」
そういえばあの子、リュラクシャでアークァスに近づいたら殺すとか言われてたような。それでも仕事の関係でアークァスに接触しなくちゃならなくて、さらにはアークァスの魔王事情も知らされて色々巻き込まれてたんだっけ。
下手に再会したらイミュリエールに斬り殺されるだろうし、泣いちゃうのも仕方ないことなのかもしれない。挨拶行く時に飲みに誘っておくか。
「今彼女は人間界、魔界の両方から目をつけられている状況ですからね」
「そっかー。奢ってあげるかー」
「励まし方が安いですね」
大変なのはわかったけど、私一人でどうこうできる問題でもないし。できることなんて現実を忘れる時間をより楽しいものにしてあげることくらいだ。
そんなことよりも、私としてはアークァスの向かっている魔族の領地のことの方が気になる。
「ウイラス様、魔族ってどんな生活をしているんです?」
「一部食生活が違ったりしていますが、基本的には人間と同じですよ。互いに意思のやりとりを行い、衣食住を確保し、立場ある者が土地を治める」
「へー。それなのに互いを絶対の敵とみなせるんですね」
「主軸となる因子が異なりますからね。人間は光属性、魔族は闇属性。それぞれが相反する属性から生まれています。本能を上回る自我を持てぬ者は見るだけで嫌悪感を持ってしまうんですよ」
「アークァスが魔王をやりながら、魔族を疎んでいない理由ってそこですか」
「はい。一定以上の強者は相手の個の本質と向き合えますからね」
あれ、でもそうなると『アークァスは魔族が平気』でも『弱い魔族はアークァスを受け付けない』のではないだろうか。
「そうですね。ですがアークァスは自身の魔力を日頃から体外に漏らさないように振る舞っていますから。『弱そうだ』とは思われても『嫌だ』とは思われてないはずですよ」
「なるほど」
「魔族はそういった相手から感じる魔力に敏感な種族でもあります。今アークァスが向かっている領地に住む鬼魅族もその傾向が顕著な種族と言えますね」
ウイラス様は現在の鬼魅族の内情を軽く説明してくれた。領主であるナラクト=ヘスリルトの強さ。歴代最強とされる彼女を恐れ、その力を互いに監視し合う状況にある。
そして現在の関係を改善したく、アークァスに依頼をしてきたということ。
「へー。ちょっとイミュリエールみたいですね」
「異常な強さ、聖剣の乙女という立場……確かに似てはいますね」
「まあ暴走したのは最近だし。それまでは普通に優しい聖剣の乙女って感じで見られていましたけどね!」
イミュリエールの異様な強さは皆が知っていたけど、皆が彼女を怖がるようなことは殆どなかった。
今にして思えば奇妙なことだ。幼馴染の親友ですら躊躇なく斬り殺そうとするくらいには危険な性格だったのに、そんな一線を越えてくるような子じゃないって皆が勘違いしていた。
何かが切っ掛けだったような気がするんだけど……なんだっけ?
「幼馴染である貴方が大概だったからでは」
「えー」
「さて、アークァスはどのように解決してみせるのでしょうかね」
アークァスが他人の関係改善かー。昔からイミュリエールの背中に隠れて、誰かと仲良くしようとしたりしなかった子だったしなー。ちゃんとできてるのかなー、ちょっと心配だなー。
◇
他の集落に足を運ぶも、結果は同じだった。誰もがナラクトに平伏し、言葉を返すものはいなかった。
私が声を掛けても同じ。もう少し強く交渉しようとすれば、何かしらの返事はもらえたかもしれないけど、カークァスさんがいない状況で事を荒立てるわけにもいかず……。
結局打開策の切っ掛けを見つけることもできず、日もくれたので領主の館へと戻り就寝することにした。
「おはよー!朝やでロミやん!」
「言われなくとも、もう起きているわよ」
「あれ、カー君こっちの部屋に寝てる思たんやけど」
「なわけねーですわよ!?」
私達が戻った時、ナラクトと私の分の食事が、客間には寝具も用意されていた。
寝具については隣に続く客間にカークァスさんの分も用意されていたようだけれど、あの人が夜のうちに戻ってくることはなかった。
「ま、ええか。朝ご飯食べよ?」
「……そうね」
あの方は一体何をしているのか。そりゃあ実力は認めているし、相手のことを見てくれることも知っている。けれどここまで何も言わずに好き勝手にされると、私としては面白くない。
一体なんのために一緒にここまで来たと――
「起きたか」
「普通にいますの!?」
食事が置かれている部屋に行くと、そこにはカークァスさんが椅子に座っていた。深く腰掛けていて、仮面越しに見える目は閉じたまま。仮眠でもとっているかのような姿勢だ。
「カー君帰ってたん?朝までお疲れさんやったね。ご飯にする?お風呂にする?そーれーとーもー――」
「全部済ませてきた」
「全部!?三つとも!?」
「三つ?」
「んんっ……なんでもありませんわ。それで、収穫はあったのですか?」
「ああ。朝食がてら報告を聞いてもらおうか」
「私、一応貴方の部下なのだけれど……。上司の報告を食事がてらに聞くって……まあいいわよ……」
いちいち気になることに文句を言っていたら、用意された朝食も冷めてしまう。せっかく味は良いのだから……って、あれ?
「カークァスさん、この朝食まだ温かいようですけど……これを持ち込んだ方とは会ったのですか?」
「普通に入ってきたぞ。俺がいることに気づいた時には多少動揺していたようだが、配膳を済ませろと言ったら黙々と済ませて去っていったな」
「そ、そうですの……」
誰もいないと思った場所に、椅子に座って寛いでいる仮面の男がいたら、そりゃあ動揺もするでしょうよ。でもやっぱり彼らは……。
「領地を見て回ったが、特に問題はなかった。誰もが当たり前の生活を行い、協力しあい、笑顔もあった」
「……っ」
そう、特別視されているのはナラクトだけ。鬼魅族という範囲で見れば、彼らは普通の魔族。私達牙獣族とほとんど変わりのない対人関係を築いている。だからこそ、苛立ちがあるのだ。
「不服そうだな。ナラクトが神のように崇められることがそんなに不快か」
「……その在り方を否定することはしません。それでも私が見たい民の姿でないことは確かです」
「ロミやんは優しいなぁ。うちの温泉卵いる?」
「っ!貴方のことなのだから、もう少し真面目に――」
馬鹿か私は。どうしようもないからこそ、ナラクトはこんな態度しか取れないというのに。
彼女が困り果てた顔をしたところで、鬼魅族の態度が変わるわけでもない。
負い目を感じている彼女が不満に怒り狂えるはずもない。そんなことをすればより一層深い溝ができるだけだ。
「ありがとうな、ロミやん。昨日ロミやんがずっと嫌そうな顔しとったけど、うちとしてはそれがすごく嬉しいんよ」
「……っ」
ナラクトは強い。それこそ一人でも鬼魅族を根絶やしにできるほどの怪物なのだろう。でもそれは力だけだ。心まで怪物というわけではないのに。
「さて、ロミラーヤ。食事が済んだら出かける支度をしておけ。近くの集落に顔を出しに行くからな」
「……何をしにいくつもりですの?」
「やるべきことをやるためだ」
この方、現状が分かっているのよね?外部の立場である私達にどうこうできる問題なの?
カークァスさんは変わらず椅子に深く腰掛けながら、背もたれに体重を預けたままの姿勢だ。ただ眠いだけなのかと思ったけれど、よくよく考えれば叔父上を相手にアレほど嬉々として戦っていたこの方が一晩の夜ふかし程度で疲れるとは思えない。
考え事?いや、違う。まるで何かに備えて瞑想をしているかのような……。
「カー君、うちも行くんよね?」
「いや、ナラクトには先に一つ宿題を与える。それが済んでから合流してくれ」
「宿題?」
そういってカークァスさんは目を閉じたまま、懐から一枚の巻物を取り出してナラクトへと放った。
彼女がそれを受け取り、開くとそこには鬼魅族の領地の地図が描かれている。こんなものどこで仕入れたのやら。
「俺達が向かう集落の近くにある山、そこに印があるだろう。そこに咲いている青い花を一輪取ってきてもらいたい」
「そら構わんけど……なんの意味があるん?」
「膳立てだ。すぐにわかる」
首を傾げるナラクト。なんなら私も傾げている。だけどカークァスさんはそれ以上を語らず、さっさと支度をしろと切り上げた。
気になることしかないけど、どの道名案が思いつかない以上はこの方に任せるしかないのだ。
ナラクトと分かれ、集落へと移動する。その道中、カークァスさんはずっと黙っていたけれど、集落が視界に入ってきた時に少しだけ口を開いた。
「ロミラーヤ。お前の仕事は一つだ。喋らず、動かず、俺がお前の名を呼ぶまで見届けろ」
「……わかりました」
肌に感じる不快感はまだある。私達の姿は監視されていて、会話すらも盗み聞きされているのでしょう。
それでも念押しをしてくるということは、それだけ私が驚くようなことをしでかしてくれるつもりなのでしょうね……。もういっそ私じゃなくて叔父上とかをここにつれてくれば良かった気がする。
到着した集落は十ある鬼魅族の部族の一つの本丸ともいえる大きな集落。私が昨日ナラクトと共に訪れた場所よりも遥かに活気があり、多くの鬼魅族がいた。
だけどそれよりも驚いたのは、私達を迎える者がいたということだ。迎えは私達の到着を確認するや、集落の中央に建てられていた大きな屋敷へと案内してくれた。
そしてそこにいたのは風格を感じる鬼魅族達。彼らが現在の各部族を束ねている長ということはすぐに分かった。
「揃っているようだな」
カークァスさんに驚きの様子は見られない。つまりこの状況はカークァスさんが用意したということ?
「おやおや、その様子では紫電の金狼殿は状況を把握できていない模様ですな」
「仕方ないでしょう。彼女は昨日丸一日ナラクト様と共にいたのですから」
「カークァス殿。ご説明はなさらなかったので?」
「ロミラーヤは賢い。俺がこうして部族の代表を集めたことも、その理由も、話の中で理解できる。一々説明する必要もない程にな」
いやいや、流石に説明してもらえないとわかりませんわよ!?っと叫びたいところではありますけど……つまりはそういうことですわね?今からの話で全貌を掴めと。それくらいは自分でやれと……。
「なるほど。いらぬお節介でしたか。失礼しました」
「俺からすれば、ロミラーヤよりもお前達の方が集まるかどうかで気掛かりではあったがな」
「ハハハ、『鬼魅族の今後の行く末について、ナラクト抜きで語りたい』と我々に連絡をしてきた時には驚きましたがね。もちろんその真意は理解しておりますとも」
「ナラクトは鬼魅族にとって力の象徴に過ぎない。政を進めているのはお前達、十の長達だ。鬼魅族の本音を聞き出すのであれば、こうして腹を割って話せる場を用意する必要があったからな」
そういうこと。ナラクトが傍にいる時には、鬼魅族は皆彼女を領主として崇めなくてはならない。彼女を差し置いて一族の展望を語ることなど、できるはずもないのだ。
領地の統治や管理もここにいる長達が主軸としている以上、魔王候補であるカークァスさんが鬼魅族と交渉するにはナラクトを排除した場を設ける必要があったと。
鬼魅族の長達としても、ナラクトを象徴として崇めている以上は『カークァスと交渉をして欲しい』と彼女に頼むこともできない状況だ。だからこの状況は向こうにとっても渡りに船というやつなのね。
え、というかカークァスさん、一晩のうちに十の部族の長達全員に連絡をつけてたの?初めて訪れて、土地勘もわからないような場所で、たった一人で?
「我々の監視網を抜けて、その実力の証明も兼ねた招集……。いやはや、創世の女神ワテクア様が推薦するだけの方ではありますね」
「御託は結構だ。鬼魅族の意向を聞かせてもらおうか」
「……正直なところ。鬼魅族は魔界の全権を握ろうとは考えておりません。何れかの領主が魔王になられた暁には、素直にその配下に入る所存でございます」
「ナラクトは魔王の器ではないと?」
「はい。強さだけならば他の領主にも引けを取ることもないでしょう。ですが、統治者としてはあまりにも不安定だと考えております」
事実であることには違いない。執務経験もなければ、他者を使う能力もない。戦闘力だけが規格外なだけで、魔王として他の魔族達を率いるには問題が多過ぎる。
仮に他の領主達がナラクトを魔王と認めたとして、その背後にいるこの長達の指示を素直に聞くとは思えない。
事実なのだけれど、自分達の領主の陰口を語る光景がここまで苛立つとは思ってなかったわ。
「その口ぶりでは俺の下につく気もなしか」
「カークァス殿のことは高く評価しております。それこそ誰が魔王として相応しいかと問われれば、貴方の名前が浮かぶでしょう。ですが我々は魔王の座を争わないと決めているからこそ、慎重になりたいのです」
「二つの種族では足りないということか。そして、明確に勢力の優劣が決まるまでは中立でいたいと」
「ご理解が早くて助かります。我々から進んで敵に回るような真似はいたしませんので、ご安心ください」
この対話に意味はある。鬼魅族は中立を選び、魔王として盤石な体制を築き上げた者の下につくという意思があるということを知ることができた。
さらには鬼魅族に対し、カークァスさんが彼らのやり方に理解があることも伝えることができている。これはカークァスさんが勢力を拡大していく上で、鬼魅族を仲間に引き入れる際、彼らの決断を少しでも早めることができる要素となりうる。
魔王候補としての行動としては立派なものだと言える。ここにいるのがヨドインならば、素直に称賛しているのでしょうね。
「――紫電の金狼殿。そのように睨まれると、我々としては少々怯んでしまいます。我々は本来なるべき素質ある長を失った、代用の立場でしかありませんので」
「……っ」
「何か不満があるのでしたら、言葉を以てお伝えください。我々はその対話に応じる所存でございます」
よくもそんなことを。どうせこの場で私がナラクトへの態度云々を言ったところで、鬼魅族の価値観がどうとかで話を濁すだけでしょうに。
会話の空気を感じているだけでも分かる。こいつらは保身に走っているだけの存在だ。私達で言えば牙を抜かれた獣、そんな相手に何を焚き付けたところで響くはずもない。
「必要ない。連れはナラクトの扱いに不満があるようだが、それは鬼魅族の問題だ。俺達が口を挟むことではない。鬼魅族に敵対の意思がないことが分かれば、それで十分だ」
「それはなによりでございます」
「勢力の均衡が傾ききるまでの間、俺とナラクトは中立関係。互いに対等なものとして対応する。それで問題はないな?」
「はい。我々一同、カークァス殿の躍進を願っております」
あー、そろそろ我慢の限界が近い。もちろん分別はあるから、ここで暴れたりするつもりはないのだけれど。
正直カークァスさんに罵倒の一つや二つ言ってしまいたいし、ついでに弟が横にいたら蹴り飛ばしたい。
でも耐えることはできた。ここで私が癇癪を起こせば、それはナラクトや牙獣族にも迷惑を掛けることになる。
帰った後に弟がどうなるかは知ったこっちゃないけど、私は我慢できた。偉いわよ、私。
「では本題に入ろうか」
「……本題?」
カークァスさんの言葉に周囲に僅かな動揺が生まれている。話の内容としてはこれで十分。互いの意思を確認でき、今後ともよろしくで済んだはず。
「これまでの話は確認に過ぎん。俺とナラクトが対等だということをお前達の口から聞いておきたかったからな。関係を確かめるまでは、どのような理由となるかは決定もできんからな」
「カークァス殿、おっしゃっていることの意味が――」
「お前達がナラクトを象徴として祀り上げることも、その動向を監視することも、それは鬼魅族の自由だ。どのように神聖視しようとも、どうでもいい。だがそのナラクトと対等である俺に対し、無許可で動向を監視し、盗み聞きをし、あまつさえ自分達の意見を好き勝手に宣ってくれたことは看過できんな」
ぞるり、と空気が質量を持ったかのように肌を刺激する。それがカークァスさんから放たれている殺気であることに真っ先に気づけたのは私だった。
私が動かなかったのは、それが自分に向けられたものではないとすぐに分かったから。
だけどその場にいた長達が、その殺気の向けられた先に気づくまでの間に、カークァスさんに言葉を向けていた者の首が宙を舞った。
ってええええ!?なんで!?なんで首飛ばしてるの!?
「な――」
「一族の長が揃って不敬を働いてくれたな。次期魔王候補として沙汰を下す。鬼魅族、その一族郎党……全て撫で斬りだ」
異常事態に思考が追いついたのか、部屋から逃げ出す長達。だけど彼らが部屋から抜け出すまでの間に、追加で四人が両断された。鬼魅族、十の集落の代表の命が一瞬にして半分も失われたのだ。
「カー――」
「喋るなと言ったはずだ。これから逃げた連中を斬り殺しにいく。黙ってついてこい」
「……っ」
「しかしアレだな。お前の叔父の時と比べると、呆気ないもんだ。ハハッ」
今のは軽い冗談のつもりなのでしょうけど、叔父上が聞いたらトラウマ再発不可避でしょうね。
私のことを野蛮だとか粗忽だとか、散々愚弄する弟へ。私、貴方の尊敬する方よりも遥かに人格者だと思うわよ。