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最低賃金魔王 ~歴代最強の魔王軍、その足を引っ張るのがお仕事です~  作者: 安泰
第六章:激闘。

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旧神の使者。その二

 ◇


「ヤリーツカハ、今日のお茶菓子は?」

「ミトナが勧めてきた木苺ジャムのタルトだ」

「良いチョイスだ」

『おい!聞いているのか!?』


 通信用の水晶からの連絡を前にティータイム中のケッコナウの旦那。

 優雅にしている旦那と違い、向こうは相当におかんむりなようだ。


「聞こえているとも」

『貴様のせいだぞマエデウス!お前がフォリオムを焚き付けたから――」

「どうか声を荒げぬよう、グランセル王。確かに彼らに【守人の証】を解く術は教えましたが、それは公平性を保つためのこと。遅かれ早かれこの情報は彼らの知るところとなるし、そこに時間差が生まれては守人の奪い合いにも発展しかねません」


 会談後、グランセルに戻るはずのフォリオムが姿を消した。

 そのことに対し、グランセルのお偉いさん……聞こえちまったけどグランセル王からの責任追及の連絡ってとこだろう。

 今フォリオムがどこにいるのか、まあ十中八九魔界に乗り込んでいったんだろう。

 行動力ある強者ってのは総じて問題を起こすんだよなぁ。


『どうせ貴様が魔界への道を手引きしたのだろう!?』

「それは否定するが、フォリオムの動向なら把握しているとも」

『本当か!?今どこに――』

「彼は帰路のイクスタシス方面ではなく、アルテノル方面……膠着の草原へと向かったとセイフから聞かされている」

『十二魔境……やはり目的地は魔界か……っ!』


 しれっと十二魔境を通過できる前提で話すなっての。あそこ普通の人間が通ろうとしたらまず帰ってこれない死地だぞ。

 膠着の草原は一見穏やかな草原に見えるが、そこに生物は一匹も生息していない。

 異質な魔力に満ちていて、その漂う魔力は生物に張り付き、その動きを鈍重にしてしまう。

 要するにクソでかいスライムの体内を進むようなもんだ。

 口や鼻といった呼吸器すら塞がれる可能性があるだけに、シンプルな高重力地帯の星落ちの荒野よりも致死性が高いとされている。


「他の守人が彼の先駆けに勘づき、後を追っていったとの報告もある。連れ戻されるまでそうは掛かるまい」

『本当だろうな!?フォリオムは強くとも勇者ではない。単身で魔界に突撃などして万が一にも――』

「その程度で死ぬ人材なら、我々は彼を君に与えなどしない。問題が起こるとすれば、彼が勢い余って魔界の領主を殺め過ぎてしまう可能性だろうね。アルテノル側には彼が戻り次第そちらに連絡するように伝えておこう。では」

『待て!まだ話は――』


 あ、通信切った。

 この旦那、他国の王からの通信を一方的に切りやがりましたよ。

 なんでこんな奴が大臣やれてんですかね。こんな奴だからなのかもしれねぇけど。


「ヤリーツカハ、お茶を淹れてくれないか?」

「へいへい。適当にやりますけど、濃いめか薄めかくらいは選んでどうぞ」

「では君が私に抱いている尊敬の念を代弁してくれたまえ」

「んじゃ白湯で良いですかね」

「ふふ……」

「この塩対応で喜ぶんじゃねーよ。んで、本当にフォリオムは大丈夫なのか?」

「彼は強いさ。恐らくは全盛期のユウリラシア=リリノールを超えているだろうね」

「ユウリラシア……先代勇者の最強の仲間か……旦那の祖母だっけか」

「ああ、私は祖母と手合わせしたこともあるからね」


 そんな馬鹿なと言いたいが、ない話じゃないか。

 守人は今の人間界の危機に対応しようとしたピリストが生んだ怪物、国が抱えてなけりゃ今代の勇者の仲間候補にもなっていた連中だ。

 そりゃあ星の加護の分強くはあるんだろうよ。


「ユウリラシアは魔界の領主と戦ったことはあるんで?」

「ああ、先代の鬼魅族の領主の首を刎ねた話は当人から聞いたことがあるね」

「勇者の仲間レベルなら魔界の領主にも通用すると。つっても今代の魔界の領主達ってのは歴代最強って話だろ?星の加護があるからって、通用するって保証はねぇんじゃ……」

「フォリオムは神技を使える」

「神技……勇者だけが使えるっていう……?」

「彼が扱うのは魔力強化の完成系、時を生きる者としての枠から遁れるもの。神技『時遁れ』……厳密には独自で再現しているだけだがね。彼の天性の肉体とセンスが、女神より勇者に与えられた技術に並んだという話だ。無論彼の強さは『時遁れ』だけではないがね」

「うへぇ、星の加護やべぇな」


 勇者を超えずとも、勇者に匹敵する何かを持つ守人達……そりゃあグランセル王も重視するよな。

 そして何がヤバイって、そのフォリオムと同じ守人の旦那も神技レベルの技を持ってる可能性があるってことだ。ただ――


「何か疑問でも?」

「気配で察してんじゃねぇ!?せめて振り返って俺の顔見てから聞いてくれねぇか!?……まあ旦那が抜け駆けしねぇ理由とかだな」


 守人が魔界の領主に通用する。

 その確信があるのであれば、守人である旦那はなぜ守人の証を解く術を全員に公平に公開したのか。

 既に魔界の領主は一人が死に、一人が行方不明、自由になれる席は既に一人分足りない。

 それこそ検証のためとか言いながら先に殺しに行ったって良い。

 それなのに自分からは動かず、フォリオムの暴走を聞いても平然としてやがる。

 旦那は守人の証を解く気がないのか?


「守人同士で戦ってみたいという気持ちはあるさ。けれど私は私で野望はある。それに尽力したいだけだとも」

「……さいでっか」


 その野望がなんなのか、ピースの一つを俺は知っている。

 だがそれを組み合わせ絵にする気にはならない。

 きっとそれは俺の理解の範疇を超えているし、共感もできねぇことだろう。

 それでもその目的に向かう熱意と執着心は確かに感じる。

 ま、知らないまま全てが終わってくれるのが一番だ。

 白湯に一つまみ分の茶葉を入れ、何もかも他人事ということにしておくのだった。


 ◇


「粘り強いもんだ。俺の詰めが甘いだけかもしれないが」


 既にワシは十八、ゴアガイムは二十七度奴の槍に穿たれている。

 それでもこうして生きていられるのは、奴の攻撃がただの槍によるものだからだ。

 イミュリエールのような万象を斬る斬撃もなければ、アークァスのような相手のコアを的確に狙う精密さもない。

 只々水準の高い魔力強化で正面から仕掛けてくるだけ。

 それでも十分な威力はあるのだが、致命傷を避けること自体は容易な範疇である。


「……抜かせ、全力を出していないからであろう」

「仕留めるつもりではあるんだがな」


 フォリオムが距離を詰めてくる。

 イミュリエールの『時渡り』程ではないにせよ、ワシらの最高速よりも圧倒的に早く、その速度による動きの制限は欠片もない。

 完全なる回避よりも、コアを穿たれないための防御を優先する。

 突き出された槍を肩で受け、肉と空いた腕で掴む。


「ゴアガイムッ!」

「オォッ!」


 合図に応じてゴアガイムが地表から鉱石を集め、巨大な斧を作り出す。

 魔力強化の質がフォリオムに劣っていても、重量と硬度で補えば――


「質で補うのは悪かないんだが、速さが話にならねえな」

「ヌウゥ……ッ!」


 轟音が鳴り響くはずのゴアガイムの一撃が無音のまま止まる。

 斧の刃はフォリオムの空いた手によって掴まれ制止していた。

 力、速度、そのどちらも差があり過ぎる。

 遠距離も近距離も、この男は容易く捌いてくる。


「せーのっ!」

「グオッ!?」


 体が持ち上げられ、互いに大地へと叩きつけられた。

 追撃を避けるために距離を作る。

 傷はそれなりだが、支障はない。再生能力を活発化させ、傷を塞ぐ。


「……起点がずれてんな。コアってそんなに簡単に動かせるものなのかよ」


 不慣れと思われたこちらのコアの移動にも順応し始めている。

 再生に回す魔力の流れから位置を特定、さらには移動の癖を見極めようとしている。

 意識的に不規則に動かすことで捉えられてはいないものの、もしも奴の間合いで魔力を奔らせようものなら的確にコアを穿ってくるに違いない。

 迫りくる死とはこのようなものなのか。

 一歩ずつ、確実にワシらの命は詰められている。

 だからと言ってこの男を放置して逃げるわけにもいかない。

 そうすればこの男は単身で魔界の領地を駆け、目についた同胞達を殺して回る。

 魔力の消耗はそれなりだが、気力も体力もまだまだ余裕はある。


「ゴアガイム、まだいけるか?」

「無論」

「いやぁ、諦めずに挑んでくれるだけ、本当にマシなんだよなぁ……ん」


 フォリオムが視線を外す。

 一瞬でも目を離せば間合いを詰められる以上、その方向を確認するわけにはいかないが……奴の雰囲気が変わった。


「……?」

「――はぁ……勿体ねぇ。マジで勿体ねぇんだが……どうも時間がなさそうだ」

「何を――」

「ちょっとだけ、マジで詰めるぞ」

「――っ!?」


 突如フォリオムが大きくなる。いや、距離が縮まっている。

 なんだ今のは、速度ではない。奴の長髪はほとんど揺れてもいない。

 ただの突進ではない、移動の起こりがまるで感じられなかった。

 違う。考えるべきことはそこではなく、奴の間合いにいることの危険性だ。

 後ろへと跳んで――


「ルーダフィンッ!?」


 体に力を入れた瞬間には、足が払われていた。

 何が起きている。速度ではなく、ただ単純に反応ができない。

 視界の隅に映るゴアガイムが異常に気付くも、既にフォリオムは槍を構えワシの頭目掛け――


「――神技『時渡り』」


 凛とした声と共に視界が揺らぐ。

 眼前にいたフォリオムが遠くに移動している。

 いや、移動したのはワシの方で、この声は……っ!


「イ、イミュリエールッ!?」

「ごめん、ちょっと遅れた。大丈夫?」


 ワシはゴアガイムと共にイミュリエールに抱えられていた。

 どうやらフォリオムの攻撃から彼女が助けてくれたようだ。


「だ、大丈夫だ。よく居合わせてくれた」

「ええ、クアリスィに救援の連絡がきたの。ちょうど私も彼女のところにいたから。クアリスィもレッサエンカと一緒にこっちに向かっているわ」


 四族は互いの領土で第三者による問題が発生した場合、互いの領主に連絡がいくようになっている。

 避難を済ませた風族の同胞がクアリスィ達に救援を出したのだ。

 三人はワシの領主の館に転移し、戦闘の余波を察知したイミュリエールは『時渡り』で急ぎ単身で駆け付けてくれたといったところだろう。


「そうか……助かった」

「で、誰あの男?なんで人間がこんなところに?」

「それ、こっちのセリフだぞー」

「どうもワシら魔界の領主を狙った刺客だ。名をフォリオム=スークライン」

「フォリオム……ってどこかで……あ!あの子からの手紙!確かグランセルの闘技場王者!」

「なんだ、俺のことを知ってんのか。てことは、魔界在住の人間ってわけでもないか」


 グランセル……人間界の国の一つか。フォリオムの素振りから、イミュリエールの知る高名な戦士で間違いはないようだ。


「どうして魔界の領主の首を狙っているの」

「人間として、将来の危険は排除して然るべきだろ」

「一理あるわね」

「俺から言わせれば、魔族を庇う理由の方が聞きたいね」

「友達として、危険から助けるのは然るべきでしょ」


 気軽に会話をしているイミュリエールだが、こうして傍にいると彼女の緊張が伝わってきている。

 彼女はフォリオムを強者として認識している。

 こうして話している今も、ワシらを守るべく臨戦態勢を維持している。


「一理あるか。まあ友達は選んだ方が良いぞ」

「選んでいるわよ」

「――っ!?」


 白い軌跡が浮かび上がるのと同時に、フォリオムが後方へと跳ぶ。

 その軌跡はフォリオムが立っていた場所、首を狙って現れていた。

 今のはイミュリエールの『白』と呼ばれる防御不可の斬撃――


「まあ見えているわよね」

「おうおう、説得する姿勢皆無。同じ人間への躊躇いとかないもんかね」

「なんで貴方が持たないものを私が持たないといけないの?」

「それもそうだな。聞くだけ聞くが、人間の国の所属じゃないよな?」

「どこにも。可愛い弟のしがないお姉ちゃんをやっているわ」

「そうか、弟は可愛いよな。妹はちょっと乱暴だが」



人間界にてくしゃみをしているキーリィ。

アークァスは普段から思われて過ぎているので反応しません。

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― 新着の感想 ―
弟は常時で出力が変わってるだけだから反応してたらきりがないか
イリュミエールさんと領主4人で形勢逆転って簡単にすめばいいけれど、フォリウムさんを追った人もいるらしいし、はてさてどうなるやら楽しみですね!
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