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最低賃金魔王 ~歴代最強の魔王軍、その足を引っ張るのがお仕事です~  作者: 安泰
第六章:激闘。

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噓から出たまこと。

 領主達が各々の領地に帰還する。

 俺はというと魔王城に残り、崖の縁でぼんやりとザ・魔界な光景を眺めていた。


「考え事?」

「気持ちの整理かな」


 背後から聞こえてきた姉さんの声に返事をする。

 なんとなく残っていたという感覚はあったし、それは姉さんも同じことなのだろう。

 隣に姉さんが座る。こうして二人で並んで座るのも久しぶりだ。

 懐かしさもあり、身長差が逆転したことによる違和感もある。


「会いたいって気持ちでリュラクシャを飛び出したのに、ちゃんと会うまで結構掛かっちゃったなぁ……」

「普通にパフィードに会いに来てほしかったよ?」

「感動の再会にはなったでしょ?」

「職場に身内が来られる気まずさは感じたよ」


 身内が遊びに来るどころか就職しに来るレベルだし、結構気まずくはあった。

 それ以上にこの先姉さんと一戦交える可能性を感じ、未だ実力不足を実感していたことによる焦りの方が強かった。

 だからこそなのか、師匠からの特訓も素直に受け入れてしまったわけで。


「んん-っ!……いっぱいお話しようと思ったのに、言いたいことがない!」

「まああれだけ剣で語った後だし……傷は治してもらえた?」

「ええ、綺麗さっぱり。……見たい?」

「信じるよ」

「そう言われると見せにくい……。気持ちの整理ねぇ……。アークァス。貴方は誰の味方になるの?人間?それとも魔族?」

「……先に聞くけど、姉さんは?」

「どっちにも友達いるのよね。あーでも数で言えば魔界の方が多いかしら」

「姉さん……人間界の友達四人以下なの?」

「……クスン」


 リュラクシャじゃ聖剣の乙女、魔界じゃ鋼虫族の長。

 そんな稀有な立場を渡り歩いていれば、対等な友人なんてものは簡単にはできないのだろう。

 それでもなんだかんだ友人を作れているのは凄い。魔界の領主を友人と呼べるのもちょっと羨ましい。

 俺も人間界に友人と言える相手はいなくもないのだが、親友レベルなのかと言われると相手には否定されそうで辛いし。


「じゃあ魔界側につくんだ?」

「どうかしら。最初に選んだのは聖剣の乙女なんだし、役割は果たすつもりよ?」

「勇者に聖剣を渡した後は?」

「魔界に協力するかもだけど……勇者に聖剣を与えておいてって感じなのよねぇ……」

「姉さんは剣を振りたい時に振るえば良いんじゃないかな」

「そうするつもりではあるわ。それで、貴方は誰のために剣を振るうの?」

「――俺は、この星に生きる者達の味方になりたいかな」


 人間も魔族も、心のある生き物だ。

 この星に生まれ、他者を愛し、他者と共に歩んできた星の住人。

 ただ互いに相容れぬ存在として設計されたという問題があるだけで、それ以外は同じなのだと知った。

 どちらかの味方であり続ければ、きっともう少し気楽に戦い続けることもできるのだろう。

 でもどちらも好きになってしまった以上は仕方ない。

 どちらの世界にも、支えたいと思える存在がいる。

 姉さんに勝つと言うアークァス=トゥルスターとしての目標は一段落した。

 ならば次は魔王候補カークァスとしての務めを果たす番だろう。


「どちらの味方にもなるし、敵にもなるってこと?」

「そうだね。最後は皆に嫌われるかもだ」

「それはないわよ。私がいるもの」

「そっか。なら気兼ねなく魔王を目指せるよ」


 魔界の勢力の足を引っ張るのは、世界の均衡を守る為。

 この目的は時間稼ぎをしているだけではきっと果たせない。

 そう遠くないうちに魔王として行動する必要が出てくるだろう。

 星の真実を告げれば協力してくれる魔界の領主も少なからずいるのだろう。

 けれどその領主が魔王となって事を成した場合、その者は魔界にとって害悪な存在となる。

 なら俺が魔王になるのが、一番気が楽だ。

 多くの期待を背負った者に、多くの裏切りをさせるよりも、ずっとずっと気楽だ。


「……好きにするといいわ。面倒になったら私に押し付けても良いからね。私は貴方の姉なんだから、もう少し我儘言っても良いのよ」

「じゃあ早速一つ我儘を。会いたい時は先に手紙とかで連絡してほしいかな」

「ハイ……」

「そうすれば、必ず迎えに行くからさ」

「……うん」


 身内の許可も得たことだし、これで気兼ねなくカークァスとして活動することもできる。

 とりあえずは久方ぶりの家族水入らず……というにはちょっと風景が殺風景ではあるが、姉さんと互いの心境を話し合うひと時を楽しんだ。


 ◇


「午前中の部、鍛錬終了!各自昼休憩をしっかりとるように!」


 最近風族の鍛錬の質が変わりつつある。

 空を駆け、風を纏う。そんな風族の訓練は常日頃から空で行うものが大半だった。

 けれど最近は白兵戦の練度向上を意識したものが増えている。


「フォーリグ、一緒に飯でもどうだ?」

「カリートか。ああ、喜んで」


 空の利を活かせば圧倒的強さを誇る風族だが、その利が活かせなくなった途端にその勢いは皆無となる。

 ルーダフィン様はその危険性を減らすため、様々な技を我々に教え身に着けるように指南してくださった。

 その内容は中々に好評。白兵戦に特化することは難しくとも、その道を知ることで元の空中戦にも活路を見出せている同士は結構な数がいる。

 かく言う私もここ数年実力が伸び悩んでいたが、戦い方の幅が増えたことで改めて実力を評価され昇進するまでに至れている。

 新たに選ばれた鋼虫族の長から助言を貰い取り入れた方針らしいのだが、やはり他種族との交流は影響が強いのだろう。


「ふぃー、昔よりも疲れるなぁ」

「飛ぶ以外の動きが増えたからな。けど体の使い方が洗練されたことで、飛行時の安定性も上がっている。良い訓練だと思う」

「それなー。お前最近伸びしろスゲーじゃん!あ、昇進祝い奢らせろよ!」

「気が利くな。優遇する気はないぞ?」

「友の功績は己の事のように喜ぶべし、だろ?」

「ルーダフィン様のお言葉か、すっかり気に入っているな」


 ルーダフィン様は歴代風族領主の中では異端な存在として民の目に映っていた。

 風族は最も空を自在に飛び回れる種族。

 鋼虫族や天竜族なども飛行能力はあるものの、風を読み飛ぶことに特化しているのは『風』の因子を持つ四族の我々であるという自負を長い歴史を通して持ち続けていた。

 最も高き場所を自由に駆ける者、その誇りは同時に他種族に対する高慢さを孕み、他種族との争いも少なくはなかった。

 だが空を自由に駆けまわれること以外、他の種族に勝るモノがないのだから我々その先祖にそういった傾向が多かったのも仕方がないことなのかもしれない。

 それでもルーダフィン様は違っていた。


『他の種族は凄いな!ワシ等にできぬことばかりできる!』


 文字通り空を支配する特異性『天空よ、我が爪の一端と成れ』を持ち、歴代最強であると誰もが疑わなかった新たな領主は自らの力を少しも誇示することなく、他種族に尊敬の眼差しを向けていた。

 歴史を重んじてきた者達がその姿勢を窘めようするも、


『風は空の上だけにあらず。何処にでもあり、共にある。ワシ等が想うべきことは、風と共にある者達のことである。彼らの追い風となるか、向かい風となるか。選べるのはワシ等であるぞ』


 と彼らの言葉に返してみせた。

 多くの者が、返す言葉を失っていた。

 これまで険悪な関係だった地族を始め、多くの種族との交友が活発化。

 風族が他領土でも活躍できる仕事が生まれ、他種族の恩恵を数多く領土に取り入れた。

 その心の自由さは誰よりも風族として秀でていると、認めざるをえなかった。


「あの方の風は我らの心すらも自由にしてくれたからな。少しでも模範にし、我が子らにも学ばせていきたいだろ?」

「なるほどな。ならお前の昇進までにお返しを考えておかないとな」

「ハハッ、期待しておくわ」


 常に他者への敬意を忘れない、友との交流を大切にする。

 そんなルーダフィン様の振る舞いを真似る者が増え、風族の空気は大きく変わった。

 歴史を重んじてきた者達も、今の風族の顔を見てその変化を否定することはなくなった。

 強さも確かに歴代最強ではあるが、それ以上に歴代最高の領主であると我々は誇りに思っている。


「それで昼は何を――」

「ちょい待ち、何やら街の外に人影がある」

「……そのようだな」

「見たところ、身分証も見えないな」

「向かおう」


 丘の上に建てられた領主の館、その周囲の訓練施設からは街の光景が一望できる。

 些細な違和感も見逃せば命取りとなる高速での飛行能力。

 それを日常とする風族の戦士ならば、訓練場からでも周囲の街や外の様子もある程度までなら見渡せる。

 ただその事実は他の種族も重々承知のはずなのだが……それでもなお身分を示す物もなく街に向かってくる者がいるとは。

 翼を広げ、来訪者の元へと向かう。こちらの姿は見えているだろうが、その相手は依然として街への歩みを止める様子はない。

 来訪者は一本の槍を携え、長髪を後ろで束ねている男。

 体つきから武術に長けた者であることは確かだが、その種族がやや判断しにくい。


「止まれ!何者だ!」

「おー。これだけ離れてんのに、パッとしないわりにゃ目が良いな」


 我々に槍を向けられてなお、男は飄々とした様子でこちらを観察している。

 身体には種族の特徴と言える部位は見られず、考えうるのは炎を抑えている炎族、水を纏っていない水族、他には悪魔族や不死族、ないとは思うが忌眼族が候補となるか。

 どこの種族の者なのか、四族特有の四大属性の魔力は感じられない。

 いやそれどころかこれは――


「何者かと聞いている!」

「んー……肩書きとかどうすっかなー。こっちで王者とか至宝とか言うのもなんかなー……。ピリスト……いや、人間界だし女神ウイラス側って認識だよな。んでお前達魔族はウイラスを旧神って呼んでいるんだったか」

「待てカリート、この男……魔族じゃない」

「フォーリグ?何を言っている?」

「人間だ!その男の魔力からは因子が感じられない……っ!」


 魔族はそれぞれを象徴する因子を持つ。

 その因子は魔力にも影響を及ぼし、我々は魔族間で相手の素性をある程度察することができる。

 それゆえに強者は自らがどの種族なのかを誇示するために、多くの魔力を漂わせている。

 この男からもそれなりの魔力は感じる。だがそこに魔族たる因子の影響は皆無。

 それどころかそのうちに感じるのは、魔界に存在するはずのない光の属性――


「魔界にいるからって平和ボケしているわけじゃないのな。獲物の見分け位はつくようで安心だ」


 男が歩みを進めてくる。槍は握りしめているが、構えているというわけではない。

 なのに、なんだこれは。この異常なまでの圧力は……っ!?


「カリート!敵襲だ!仲間に援軍を――」


 横を向いた時、そこにいる友の首がなかった。

 そこにあったのは首のない友の体と、一本の穿たれた槍。

 まだ十歩以上先にいたはずの男がすぐそばにいる。


「あ、すまん。仲間を呼んでくれるのか。ならまだ殺さなきゃよかったな。こっちは踏みとどまれたが無力化しちまったし」

「何――」


 大地を踏みしめる感覚が消え、体が倒れる。

 顔をぶつけたこと以上に、足が痛みを訴えている。

 足が穿たれ、千切れている。

 足だけではない。今の一瞬で片翼までもが深手を負わされていた。

 あの一瞬で三撃以上もの攻撃を行ったというのか!?


「飛べるか?無理そうだな。まいっか、予定通りに正面から乗り込むか」

「貴……様っ!」

「お、良いね。睨めるだけの胆力はあるか。戦士相手なら名乗ってやるか。そうだな――」


 男は槍を持ち上げ、私の方へと迷うことなく振り下ろす。


「旧神の使者、フォリオム=スークライン。適当に皆殺しに来た」


ちょっとお久しぶりです。

お仕事に追われて気付けば間隔があいてしまってすみません。

漫画原作者としての新作の作業がひと段落し、余裕が戻ってきたのでちょびちょび更新再開していきます。

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― 新着の感想 ―
あらあら、まあまあ〜(^◇^;)
(ノ∀`)アチャー 女神様話が違うーー 魔族が攻めたら人間がヤバいじゃなくて ボスラッシュで魔族がヤバいになってる 魔王様ーアイツらなんとかしてー!?
>懐かしさもあり、慎重さが逆転したことによる違和感もある。 慎重さ→身長差の誤変換ですかね?
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