1 やりたかったこと
ノーリスは赤ちゃんの時から、孤児院にいた。院長先生はノーリスの懐かしい話をするときは必ず、『あまりに小さな赤ちゃんで成長できるか心配だった』と話す。
ちっちゃなノーリスは、力仕事はできないが、何でも一生懸命で、とても真面目にやっているので、みんなからいじめられることもなかった。
この国で初等学校は9歳からなのだが、この孤児院では、『孤児院での勉強時間は半分しか取れない』との理由から、6歳から初等学校教育を始めるようにしていた。赤ちゃんからここにいるノーリスは、6歳から始めたのだが、先生もびっくりするくらいとても優秀で11歳になる前に、初等学校教育は終了していた。
ノーリスは、お手伝いもとてもよくやっていた。ノーリスは畑の仕事が好きだった。畑で取れる野菜をみんなで食べることが大好きだった。
ノーリスがもうすぐ10歳になるとき、メリダとケイトという二人の8歳の女の子が孤児院へやってきた。ノーリスは院長先生に頼まれて、この二人のお世話係になった。
二人はとってもおしゃべりで、しゃべることの苦手なノーリスはいつも笑う係だった。それがとても楽しくて、3人でいることが多かった。
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しかし、ノーリスが11歳になると、ノーリスは外へ仕事を探しに行かなければならなくなり、3人での時間は少なくなった。時々、ケイトがわざわざ挨拶に来てくれることがノーリスにとってとても嬉しいことだった。
院長先生はノーリスを自信を持って仕事探しに行かせた。院長先生は、ノーリスが読み書きを使う仕事を探してくると思っていたのだ。
しかし、ノーリスが見つけてきたのは、料理店の調理場の仕事だった。
「ノーリス、どうして調理場仕事なの?」
院長先生は心配顔でノーリスに聞いた。
「ご飯を食べてもらうのは、とってもステキな仕事だと思うからです」
ノーリスは目をキラキラさせていた。
「それはそうだけど、あなたに合う仕事だとは思えないわ」
「大丈夫です。がんばります」
仕事を見つけたノーリスは、『春からでいい』と親方に言われていたので、孤児院のお手伝いをした。
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ケイトの畑の水やりをしている時だった。
「僕がお料理を作れるようになったら、ケイトは食べに来てくれるかい?」
ノーリスはケイトにお伺いをたてた。だが、ケイトは少し困った顔をした。
「高いお店だと行けないわ。それより、ノーリスのお店のお手伝いをしたいわ」
「本当に?ケイトとお店をできるようになったら、なんてステキなんたろう!僕、がんばるね」
ノーリスは思いがけないケイトの言葉に飛び上がるほど喜んだ。
「私もお勉強を頑張って、ノーリスのお手伝いをできるようになるわ」
ノーリスは、ケイトとの約束を胸に、春から料理店の調理場仕事をやるようになった。
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仕事は、ノーリスが考えていたものと、全く違うものだった。毎日毎日洗い物だけが仕事だった。井戸場での洗い物は、ずっとしゃがみ仕事だ。
大鍋に汁物が入っていると小さなノーリスには洗い場まで運べない。先輩にあたる者が『ちぇっ!』と言いながら運んでくる。時にはわざとノーリスの手前で倒し、ノーリスが汁まみれになるのを笑っていたりする。
ノーリスはどんどん痩せていき、小さなノーリスはさらに小さくなった。とうとう汁の入っていない大鍋も運べなくなった。先輩たちのいじめはさらに過激になっていった。
そして、ある日、ノーリスは皿を持ったまま倒れた。皿が5枚割れたそうだ。ノーリスの腕にはいくつかの切り傷があり、荷物とともに、店を追い出された。
ノーリスは、このままでは死んでしまうと思い、真っ直ぐに孤児院へ行った。
ノーリスは、最後に親方に渡された紙袋をそのまま院長先生に渡し、
「このお金の分だけここにいさせてください」
そう言って、倒れてしまった。
目が覚めると、院長先生が温かいスープを運んでくれた。
「僕はこういうお料理が作りたかっただけなのに…」
そう言って、ポロポロと泣き出した。
「ノーリス、あなたはビアータ様をご存知ね。明日ビアータ様があなたに会いに来てくださいます」
「僕に、会いに?」
「そうですよ。ビアータ様とお話をして、一緒に考えましょうね」
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「そうなのね。ノーリス、ここまでよく頑張ったわ。でも、孤児院には長くはいられないのは、知ってるわね?」
ビアータはノーリスと年はそんなに変わらないはずなのに、すごくお姉さんに見えた。
「はい。知ってます………」
「とりあえず、健康になって体力がつくまで、私の家で生活してみるのはどう?これは、秘密のお話なんだけど、1年前にここに1週間だけここにいた男の子3人を覚えている?」
「はい。顔に怪我をしていた子たちですね」
「そうよ。その子たちが、生活しているところなの。最近、畑作りが得意な夫婦が彼らと一緒に生活して、鶏の卵をとったり、畑で野菜を作ったり、山でキノコや木の実をとったり、川で魚を釣って生活しているわ。お金は少ししかないけど、3人とも楽しそうよ」
「そ、それで生きていけるのですか?」
「人間、食べて寝れる場所があれば生きていけるのよ。浮浪孤児は両方がないから、死んでしまうの。ノーリスは、そんなことにならないようにしてほしいわ。お金にならないことは不安?」
「はい。少しだけ」
ノーリスは俯いて、でも正直に答えた。
「それなら、そこで勉強しなさい。そこのお義母さんブルーナは、中等学校のお勉強も教えられるわ。教科書は用意してあるの。中等学校のお勉強ができるようになったら、町へ戻ってお仕事をしたらいいわ」
「そ、そんな勝手なことしていいんですか?」
ノーリスはあまりの話に信じられないと思ってしまった。
「あなたが生きていくこと。それが大事なことよ」
ノーリスは今はまだ信じられないが、他に選べることがなかった。その日の午後、ノーリスはビアータの馬の後ろに乗せられて、『ビアータの家』へ行った。
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『ビアータの家』での生活は、夢のような生活だった。信じられないと思っていたことが、本当にできた。
ノーリスの後に、ケイトとメリナも『ビアータの家』へと来た。
ノーリスも年になれば、身長も伸び、農園で筋肉もついた。調理場では、もう大鍋だって持てる。
好きな子と一緒にいられることも夢のようだった。
ノーリスは、リリアーナとルーデジオの指導のおかげで、中等学校教育終了並の学力を身につけていた。
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