第7戦目 呪われたハゲ
届かなかった。届かなかったが、お嬢様は面食らった表情で、中途半端に手を上げたまま、不自然な距離をあとずさっていた。
(ナイス俺! お嬢様を一発でかっこ悪くしてやったぞ)
「おいおい、動かないんじゃなかったのか? それともここってのは空間のことだったのか?」
この間練習した時つい鏡を割ってしまったムカつく表情とポーズをお嬢様に向けながら、両手の人差し指で地面を指した。
調子の外れた操り人形みたいに関節を無視してクネクネ動く俺を目の前にして止まっていた思考が戻ったのか、お嬢様はフンッと一つ笑うと前髪を掻き上げた。
「え、ええ! そうよ! 私が本気を出してしまえば別空間から魔法を撃つワンサイドゲームになってしまいますからね!」
「そうかそうか……」
ゴキゴキと関節を組み立てながら姿勢を正した。
(てことは、あの不自然さは、空間魔法か!!!)
「FooooOOO!!」
奇声を挙げながら俺は、後ろへ向けて唐突な回し蹴りを出す。
(これで何も無ければヤバいやつなんだが……)
俺の踵は、そこへ急に現れたお嬢様の柔らかい脇腹へグシャリと刺さる。踵の感触に安堵しつつそのまま蹴り飛ばすと、俺は転がり落ちたお嬢様を見下ろした。
「おいおい、今度は魔法か? いい加減諦めてアフロ追加してくれよ」
「うぐ……、この冒険者未満の分際でー!!! グプッ」
お嬢様は、凹んだコルセットを手で抑え、口から吐血を吹きながら立った。
(根性あり過ぎだろ! 倒れてろって!)
「ふうー! ふうー! ゴプッ……。認めない認めない! わたくしがお前程度に負ける等! 絶対に認めませんわー!!! 死滅しろ毛根!」
お嬢様の髪が逆立ったかと思うと、半透明のドーム状をした魔法がお嬢様から一瞬で展開された。
全身を焼けるような感覚が襲い、あっという間に俺のHPは消えた。
目の前に浮かぶ『LOSS』の文字。
(あれ、これ決闘モードの演出だったよな? いつの間に……。ま、今は交流の締めだな)
「全域魔法は、やべえな。自力で負けるたあ、俺の完敗だよ」
「わ、分かればよろしくてよ。ところで気になっていたのだけれど、わたくしはナビではなくベアートゥスでしてよ」
お嬢様は、口元をハンカチで拭うと椅子を呼び寄せ、ポスッと座った。
さて、認めつつも勝った俺に対しての心境の変化はさぞ大きかろう!
「ベアートゥスかよろしくな。俺の名前はアフロだ」
手を差し出した俺の視界の上からサラサラッと細いものが降ってきた。
「あ、あぁ……、ご、ごめん。あんたに解けない呪い掛けちゃった……って、フンッ! それではごきげんよう、せいぜい元気に生きなさい!」
「え、おいベアートゥス、呪いってどういうって、おい! 俺の頭つるつ────」
手で払われたかと思うと視界は真っ暗になった。
─ ─ ─ ─
「うお!? 待っていろ!!!」
次に目が光景を映すと、そこにはドラゴンの平手打ちで吹き飛ばされている1人と5人まとめた所でブレスを吐こうと喉を膨らませているドラゴンの姿だった。
無意識に駆け出した俺は、ドラゴンの顎下へスライディングで滑り込むとそのまま地面に背を預け、足裏を上へと向ける。
その姿勢で両手持ちの大きな剣をアイテム欄から出すと、左右に突き出た鍔に足を当てる。
「せい!」
ドラゴンが、溜めた火を地面すれすれに吐き出そうと、顎を体重任せに下げるタイミングで俺は足を勢いよく伸ばした。
鉄板みたいに大きな剣は、ドラゴンの体重のおかげで深々と鱗裏の天井まで刺さった。
ドラゴンは痛みに悶えることもなく剣を支柱にしながら息絶えた。ドラゴンの死体の下では祝福のシャンパンかのように大量の血が流れだした。
「うわぶ、ってめちゃくちゃ旨いな! 甘過ぎず酸味も程よい感じでよく濾されたトマトジュースみたいだな。こいつわ旨いなって、あ」
血を飲むのに夢中になってた俺の頭上へと、柔らかい喉が落ちてきた。
今回のお話しでも楽しんでいただけてましたら幸いです。
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【ナビゲーションキャラ紹介】
・ベアートゥス(ラテン語で金持ちの意味)
アフロのパートナー。
金髪くるんくるんの高飛車プライドお嬢様。
【裏設定】
・決闘
お互いに決闘の意志がある精神状態で戦闘を始めると自動で以降します。メニューからの選択も可能。
審判は、決闘神または、その神使が水を差さないようこっそり行なっています。
また、決闘後には、その決闘を称えて死者であろうと蘇生される治療をしてくれます。