68. 悶
朝凪に廊下へ連れ出されて早数分。
私は、頬を膨らませたまま黙っている少女を見下ろしていた。
全く持って連れ出された理由が分からないし、朝凪の機嫌も全く読めない。機嫌を損ねたのかと最初の勢いからは思ったのだが、眉を下げて泣きそうな顔になったり、かと思えば眉間に皺を寄せて難しい顔をしたりするので一様に怒っているとは言い難い。正に無言劇状態だ。
朝凪は私の手首を離さない。別にそれはいいのだが、ここで立っていても朝凪が言いたい何かは一生聞けない気がした。いや、一生は誇張したな、訂正。あと一時間くらいは聞けそうにないと思う。それも十分長いな。
一人脳内会議をしながら待つこと五分。体感的には十五分強。廊下に置かれていた大時計で長針の動きを確認し、苦悶する朝凪を見下ろした。
流れが読めない私の頭に浮かんだのは、「埒が明かない」である。許せよ朝凪。
「朝凪、ちょっと待ってくださいね」
「ぇ、ぁ、」
私が声を掛けた瞬間、朝凪の顔から血の気が引く。別に叱るとか呆れた訳ではないぞ。だから先に伝えておこう。
「桜に聞きます。少し館内を歩いてもいいか」
朝凪の返事を待たずに扉を開けて、紅茶を飲んでいた桜を見る。ペストマスクを外している彼女は口を思い切り結び、震える頬の筋肉が目に入った。人の顔を見ただけで笑いそうになるとは、貴方も難儀な人だ。
「桜、朝凪と少し建物の中を散歩して来ても良いですか? 物には一切触れません。廊下と庭、もしくはベランダを歩くだけで」
「勿論ですわ! 気分転換も大事で御座いますものね!」
ペストマスクをつけて、桜は快く了解してくれる。「あ、でも迷われてはいけませんから」と恐ろしく自然な流れで連絡先を交換した。いや、連絡先を交換する理由が家の中で迷う恐れがあるからってなんだ。
私は連絡先に追加された〈桜小梅〉の文字を見下ろして、彼女と柊、竜胆に会釈をしておいた。
「ぁ、あの、涙さん」
「朝凪、少し散歩しても良いですか」
「ぇ、ぁ、は、はい」
扉を閉めてから朝凪に確認する。私は掴まれている自分の手を見下ろして、軽く振った。そうすれば自信不足の彼女は慌てて手を離すと分かっていたから。
私は空いた彼女の手を見て、何の気なしに繋ぎ直した。
「へ!?」
「ここ、とても広いようです。迷子にならないように繋いでいましょう」
「へ、ぁ、は、はぃ……」
朝凪は頭上で疑問符を爆発させる。私は彼女の百面相を観察しながら、厳かな空気が漂う建物を歩き始めた。
黙々と二人で散歩をするのは特に苦では無かったが、朝凪はどうなのだろう。
大きな階段を上って四階に辿り着き、鏡のように磨かれた窓を見る。外は相変わらず雪をチラつかせそうな天気で、このまま進めばベランダがあることも確認できた。
朝凪の手を軽く揺らしてベランダに向かう。彼女の意志は何も聞かず、語りたいことも催促しないまま。
「涙さんは……怖いと感じることは、ないんですか」
ベランダに繋がる窓の鍵を開けている時、不意に問われる。見れば俯いている朝凪が私の手を握り締めていたから、私も軽く力を入れてみた。
「流海がいなくなるのは怖いですよ。それ以外でも……まぁ、怖いと思う事はありますね」
「アテナの戦闘員と戦う時もですか?」
「いや、それは別に」
「な、なんで!」
窓を開けようとした時、朝凪の声が大きくなる。私は作業の手を止めて、震える彼女の手を見下ろした。
「涙さんは、初めてアテナに行った時も迷いなく戦ってました。どんなに怪我しても顔色変えられませんし、弱音も吐かれませんし! 今だって、アテナの戦闘員と戦ったらマッキになる可能性とか、パナケイアの怖い所とか、いっぱい、いっぱい知ったのに!!」
朝凪の顔が真っ赤になって、震える声が響く。不安を吐き散らすような行動を見つめていれば、彼女はいじらしく胸の中心を掻き毟った。
「なんで、涙さんはそんなに強いんですか。なんで流海さんの為に、家族の為ってだけで、そんなに頑張れるんですかぁ……!!」
怒っているのに泣きそうで、悲しそうなのに苛立ったような、複雑な声で問われる。
私は朝凪いばらを凝視して、握り締められた手に視線を向けた。
「涙さんばっかり頑張って、かと思ったら流海さんはしんどいこと全然教えてくれないし、二人とも私達のこと頼ってくれないし、直ぐ隠すし、流海さん絶対私や永愛の事嫌いですし!! 伊吹さんはこの前お酢チャレンジしたって言うし!! なんか、もう、もう、なんでッ!!」
「……お酢チャレンジ」
初耳のチャレンジを私は復唱する。感情的な朝凪に慣れながら。
彼女は酷く繊細だとここ数カ月で察した。恐らく日常的に感情は発散しない子なのだろう。そんな彼女が私の前ではよく爆発したりぐずぐずと思いを吐露してくれるのかと考えると、やはりよく分からない気持ちになった。
だから私は、彼女の気持ちが落ち着くまで好きなだけ吐き出させていようと思う訳である。
「私、弱いんです。弱っちなんです。アテナの戦闘員の事とかパナケイアの事を聞いて、正直怖いと思いましたッ、何それって怒りもしました! 正直今も怒ってます! なんで、なんでそんなにヤマイに優しくないの!!」
「はい」
「でも、やっぱり私はメディシンが必要だから実働部隊は抜けられないし、実働部隊の皆のことは好きですし、涙さんと流海さんの事も心配ですし! だから冷静な涙さん見てたら焦るって言うか、嫉妬しますッ! なんなんですか! なんで! そんなに! 強いんですか!!」
「はい」
「でもこれは完全に私の八つ当たりだし、涙さんにとっては何言ってんのって呆れられるかもしれません。ごめんなさい。私なんか、涙さんにとっては居ても居なくても変わらないレベルで役立たずなんですけど、けど私はッ」
「朝凪」
そこで聞き捨てならない言葉を拾う。だから私は、口を挟まざるを得ないのだ。
私の声は思いのほか低く流れ、朝凪が見るからに顔色を青くする。彼女は蛇に睨まれた蛙のように硬直し、私は繋いだ手に力を込めた。
肺一杯に空気を吸い込んで、吐き出してしまう。朝凪の顔は一気に青から白に変わり、私は彼女の手を少しだけ離した。
手を移動させて、整えられた彼女の指先を握る。華奢な指はいつも力強く弓を射るから、彼女の手は守られるだけの物ではないと知っていた。
ほんとに、この子は……。
「……居ても居なくても変わらない訳、ないでしょ」
朝凪の形の良い爪を見つめる。この指先は何回も私の袖を引いて、行く手を心配して、必要な時には必ず矢を放ってくれた。心配そうに傷の手当てをしてくれることもあるし、車椅子を押してくれたことも、手を取ってくれたことも何度もあった。
「私なんかって、朝凪だけは言わないでください。ちょっと……腹が立ちます」
彼女の行為は当たり前のように日常に溶け込んで、決して特別な事では無かったかもしれないけど。柔く淡く、気づけば積もっていた記憶だけれども。
――おはようございます、涙さん
私は彼女の指先を撫でて、軽く握り込んだ。
「朝凪の自分を過小評価する癖、私は好きくないです」
「ぅ、」
「なんでも自分のせいにして謝るのも、正直言えば何でだよって思います」
「……はぃ」
「私や流海に優しくしてくれるのも底が見えないので訳分かんないなぁって思ったり」
「えぇ……」
「私は性格悪いし、オブラートも皆無な自覚があります。優先順位の一にも二にも流海がいるって言い続けてるのにどうして構うのか不思議でなりません」
清く挫けない心も、人を放っておけない精神も私には分からない。私には、朝凪が抱えている優しさの根底が分からなくて、いつの日か柊に言われた台詞が蘇った。
――分からないならば聞け。思い込みで否定する前に。お前や弟を気にかけてくれる存在は貴重なんだろ。一人で悩んだって答えなど出ないだろうに
他人事のように言いやがって、それを聞く勇気が無いから怖いんだろ。聞けるならば等の昔に聞いたわ。近づきすぎてお互いが傷ついたら元も子もないではないか。
それでも、今ならばと思う自分もいる。
きっとここを逃せば、今の混乱して緩くなっている朝凪相手でなければ、私は聞けないだろうとも分かっている。
私は華奢な指先から視線を上げて、紫がかった黒い瞳を凝視した。
「友達って何ですか。なんで貴方はそんなに優しいんですか。メディシンの為に実働部隊に所属しているなら私なんて放っておいていいのに、どうして構い倒してくれるんですか。私にはそれが分からない。貴方はどうして……マッキから戻ってきた私を、見放さなかったんですか」
「そ、んなの! 涙さんが!! 私の欲しい言葉をくれたからじゃないですか!!」
白かった顔を赤くして朝凪が叫ぶ。と言うより吠える。
私の指を勢いよく掴み返した彼女は苛立ちをぶつけるように窓を押し開けた。
寒風が私達の頬を撫でる。ベランダに踏み出した朝凪に釣られて、私も外へ足を進めた。
「私は、私のヤマイも、性格も、見た目も、全部全部、大っ嫌いなんですッ」
苦しそうに朝凪は喉を掻く。綺麗な彼女の皮膚に赤い線が走る。私はその光景を見つめながら、細い手を離しはしなかった。
「何を言うにも相手を嫌な気分にさせたらどうしようって思って、相手の負担になりたくないって思うんです! 私は弱いから、怖いから、他の人に嫌われたら私はヤマイに殺されちゃうから! 怖くて怖くて、必死になって良い人になって、優しくしていれば安全で、そしたら私の存在意義とか言葉の重さとか全然分からなくなってきて、私って何だろうって、思うし、全部嫌になって消えちゃいたいって、思う時も、あってッ!!」
苦しそうに、息苦しそうに朝凪が言葉を並べていく。私はただただ彼女の声に耳を傾けた。
「でも、でも、実働部隊の人達は私の声を聞いてくれて、永愛は私にずっと優しくしてくれて、ッ私の言葉、ちゃんと、受け止めてくれて」
朝凪の喉が鳴る。鼻の頭を少し赤くした彼女は、濡れた瞳で私を見上げていた。
「涙さんもそうなんです。言いましたよ、私、涙さんに! 言いました! 初めて涙さんと会った時、貴方が私を悪くないって言ってくれたこと、凄く嬉しかったんですって!」
白い病室を思い出して、穏やかな彼女の声が脳内で再生される。胸に大きな染みを落とした思い出は、目の前で声を荒げる少女によって掻き消された。
「それだけでは、駄目ですか。建前とかお世辞とか、憐れみとか、そんなものが無い言葉をくれる涙さんの傍に居たいって、もっと沢山お話したいって言う理由で、友達になりたいって思っちゃ駄目なんですかッ」
朝凪が肩で呼吸する。赤く染まった耳は声を荒げたせいか、寒い空気に当てられたせいなのかは読み取れない。
私の中では、感情が大きな音を立てて嵌った。
そう、そっか……そうだよなぁ……。
気づいて、思って、心の中で自嘲する。
口が裂けても言えはしない。気づくのが遅すぎた自分の思いは、告げることだって許されない。
「……私が朝凪の友達だなんて、烏滸がましいですよ」
口にすれば、体の底から感情が冷えていった。
――最低なヤマイになってよ
嘉音の声が頭を回る。
だから私は無様にも、もっと早く問えばよかったと思ってしまう。
朝凪とはもっと、違う形で出会いたかったと考えてしまう。
もっと私に勇気があればと、自責の念に駆られてしまう。
だって、だってそうではないか。そうすれば私は、貴方の言葉を真正面から受け止めて、貴方の気持ちを抱き締めて――思い切り、笑えたかもしれないんだから。
しかし時は戻らない。汚れることを選んだ私は、流海を優先した私は、貴方の隣には並べない。
そう思うのに、朝凪は私の手を離さなかった。
「……知らないと思いますけど、涙さん、日常的に私のヤマイの発症、抑えてくれてるんですよ」
呼吸が整い始めた朝凪が、顔を俯かせたまま指に力を込める。私の心臓は震えて、彼女のヤマイを知らないまま今日まで来たと思い返した。
――ヤマイを口にしていないと言う事は「知られなくても良い」思いと「知られたくない」思いのどちらかを持っているからだ。
過去の自分の言葉が脳裏に響く。顔を上げた朝凪の顔は何かを決めた顔をしているから、私は彼女の思想が後者であると直ぐに分かった。知られたくないのに告げる意味を、馬鹿な私でも汲み取ってしまった。
「……涙さん、私のヤマイは、」
朝凪の声と嘉音の姿が重なる。
突如内臓が競り上がるような寒気を覚えた私は、思わず朝凪の口を塞いでいた。震えた指先で、手袋をつけた左手で。
朝凪は目を丸くしているから、私は聞かずにはいられない。耳の奥で轟轟と暴れる血液の濁流は、私の思考を押し流しそうだった。
「……私に教えたら、傷つくかもしれませんよ」
言葉を選んで口にする。二つの相反する感情が私の中でせめぎ合い、朝凪の決断を揺るがせようとした。
口外しない事柄を教えてもらえる。それは信用の証。信頼の証明。鳩尾に広がるいじらしい感情は、鼻の奥を痛める感覚は――私が喜んでいることの表れでしかない。
しかし同時に冷や汗をかいてる私もいる。重くのしかかる重圧のせいで背中は丸まり、奥歯を噛み締めてしまう思考が存在する。
「今まで言わなかったのは、言いたくなかったからではないですか? 知られたら朝凪が困るからではないですか? それを私なんかに教えては駄目です。朝凪、駄目ですよ、だって、それは、」
「涙さん」
私の手が下ろされる。穏やかな声が鼓膜を揺らす。
見れば、口を小さく結んで眉を下げた朝凪がいた。
「涙さんがくれた言葉をお返しします。私なんか、なんて言わないでください」
あぁ、この子は今、苦笑するのを堪えているんだろうな。
頬を押さえた手を見て思う。私の手を握り締める掌が温かくて、私は訳もなく泣き出したくなった。
「烏滸がましいとか、思わないでください。そんなことないんです。涙さんこそ、自分のことを卑下してるって気づいてますか?」
朝凪の声が仕方なさそうに笑ってる。それでも表情は必死に堪えられているから、私の頭はバグを起こした。
「私、やっぱり涙さんと友達になりたいです。だから思いました。友達になりたいのに隠し事をするのは違うなって」
背中を冷や汗が伝う。喉まで這い上がった言葉を必死で飲み込んで、自分に纏わりつく黒い影から目を逸らした。
「それに、ずっと、ずっと前から、涙さんならきっと大丈夫だって思ってたから」
紫がかった黒い瞳と視線が絡まる。
駄目だ、この子の意志は決まってる。
私は耳を塞いではいけない。目を逸らしてはいけない。逃げては、いけない。
私は口を結び、泣きそうな朝凪の姿を目に焼き付けた。
「私は――見目を褒められないと、溶けるヤマイなんです」
固く握り締められた手が震えている。
複雑な表情が私を見上げている。
私は彼女のヤマイを受け止めて、噛み砕いで、飲み込んだ。
「私は、綺麗だって褒めてもらわないと溶けてしまうんです。可愛いと言われなければ崩れてしまうんです……見た目を褒められないと、人の形を、保っていられないんです」
朝凪の声が萎んでいく。背中が弱く曲がっていく。
下がった彼女の頭は私の胸に凭れかかり、繋いだ手が解けていった。
「だから、いつも、いつでも、綺麗にしていようって思うんです。頑張って髪の毛を整えて、お化粧とか、服とかも気を遣って。所作もきちんとして、少しでも綻びがないように必死になって、苦しくなっても綺麗であることを追い求めて、いつもいつも神経を張り巡らせてッ……そうしないと私は溶けちゃうから。姿形が美しくなければ、私は人ですら無くなっちゃうから」
震える声が私の体を揺らす。
朝凪が取った左の手袋の下には、四の印数が刻まれていた。
「でも、私のヤマイを告げたら、今度は相手に言わせてしまうんです。綺麗だねって、可愛いねって。でもそんなの、相手も疲れるし、私だって苦しいし、だから言うのは怖くて。知られてしまえば私は私がもっと分からなくなるんです。上辺の言葉で保たれた形は、ほんとに私の体なのかって、分からなくて、混乱して、だからもう、動けなく、なって、だから、私、私は、自分のことで精いっぱいなんです」
吐いた空気が白く消えていく。
私は朝凪の肩に手を置いて、泣き出しそうな彼女の声を噛み締めた。
「だから、憧れたんです。自分勝手で、自分のことで一杯いっぱいの私の前に、他人を、家族のことを想える涙さんが現れたから。私には出来ない姿勢に憧れて、私も変われるかもしれないなんて思って、でも貴方のやり方は自己犠牲が過ぎるから心配にもなって。涙さんは私を悪くないって言ってくれて、涙さんの方がずっと優しくて……涙さんは、私のヤマイを知らなくても、私が頑張って保ってる見た目を、綺麗だって褒めてくれるから……」
――朝凪はいつも綺麗ですね
零れた自分の言葉を思い出す。そうすれば彼女はいつも泣きそうになって、空気を和らげてくれたから。私の中で辻褄があってしまった。
「言わないのに求めるばかりして、自分勝手に涙さんを引き留めようとしていた私は狡い。狡い私をどうか、優しいなんて言わないでください」
願われて、請われて、息苦しくなる。
彼女の手を握り締めて、背中に手を添えて。
酷く歯痒くなる。伝われ、伝われ、頼むから。なんでも自分のせいだって思う貴方に、伝わってくれ。私の拙い言葉を、ぶっきらぼうな言葉を、受け止めてくれ。
「……朝凪は優しいですよ。優しくて、真面目で、良い子だから。心が綺麗だから、その綺麗さが見た目に現れているんです」
「涙さ、」
「大丈夫。貴方は誇っていい。貴方はもっと胸を張っていい。貴方は弱くない。貴方は強く、努力家で、美しいんだから」
顔を上げた朝凪に告げる。そうすれば彼女は綺麗な両目に泪を溜めて、安心するように目を閉じた。
私の服を握り締めて、何度も何度も「ありがとう」を告げてくる。
綺麗な彼女が私を抱き締める。
汚れた私に抱き縋る。
私は彼女の背中に手を回して、寒空を見上げていた。
もっと違う今を願って、もっと違う出会いを切望する私を嘲笑する。朝凪の頭に頬を寄せて、目を閉じながら。
化け物になった私を待ってくれた、優しい子。私が初めて流海以外に縋った子。
奥歯を噛んで、重たい自分の足にも気づいてる。
私は自分の愚かさに気持ち悪くなって、朝凪の背中を抱く腕に力を込める。
酷いやり取りに胸が締め付けられて、脳裏に流海の顔が浮かんで、暗い赤色が浮かんだ。
あぁ、ごめん、ごめん流海。ごめんね朝凪。ごめん、ごめん、全部私が悪いんだ。
やり直せない過去を背負って、それでも想うことだけは止められない。
私も貴方と……朝凪いばらと、何の隠し事も無く、気兼ねなく笑い合える――友達になりたかった。
はじめましてをやり直せたら、どれだけ楽になれるだろう。
***
次話は火曜日に投稿予定です。




