23. 止
……これは久しぶりにヤバイかもしれない。
アテナで初めてヤマイを発症した私は、水晶のような林で蹲ってしまった。それもこれも嘲笑いやがった「嘉音」のせいだ。畜生。
白い衣装は赤黒く斑に染まっている。この血はきちんと洗濯で落ちるのだろうか。落ちてくれないと桜達に申し訳が立たないのであるが。
ウォー・ハンマーを握る手に力が入らない。若干痺れているのを見るに血が足りていないと体が訴えている気がした。
しかし私はまだαもβもγも集めていない。これでは帰るに帰れないので、這いつくばってでも施設を目指さなければいけないのだ。
自分を奮い立たせたいのに視界が歪む。気づけば私は前のめりに倒れており、白銀の芝がマスク越しに見えていた。
……二度目になるけどこれはヤバイな。
倒木の事故は今までも受けたことがある。しかし、その結果受ける痛みは全て圧迫感だった。重たいものが体の上に乗り、身動きが取れなくなる嫌な感覚。
だが今の状況は違う。私の体を傷つけているのは単純なる裂傷だ。砕けた木の欠片で皮膚を切られ、刺され、出血が続いている。圧迫されて骨が折れると内臓が傷ついたりして嫌なのだが、時間経過とともに響くのは今の方だ。
上手く血が止められなくて頭がぼんやりとしてしまう。何だか眠たいような感覚も芽生えてくるから、私は奥歯を噛み締めた。
材料を集められずして私に何の意味がある。今日もここに来たのは流海の為だ。あの子に元気になって欲しいから私はここにいる。
αの木の幹や土は研究に対して良い結果を出さなかった。だから次はもっと別の物を採取したいし、プラセボを作りたいし、メディシンが欲しい。
私は背中を曲げて、さながら芋虫のように前進する。しかし直ぐに四肢から力が抜けてしまった。
自分の無力さに苛立ちながら、怪我をした元凶である「嘉音」に憤りが募る。
私は元々あいつを怒らせたかった筈なのに、どうして笑いやがったんだ。正しくは嘲たのだろうが、大きな括りで言えば笑顔なのでヤマイを発症させてしまったではないか。
後から後から溢れてくる文句に額は熱くなる。そんなことをすれば血が余計に流れる気がしたので落ち着きたいのだが、動けば出血する現状を見てどうでもよくなってきた。
腕時計を見て一番近い材料を考える。
「……γか」
地図が示すのはγの木がある場所。足腰に気合を入れて立ち上がれば、貧血で視界が揺れた。勢いよく宝石のような幹に頭突きをかませば流石にため息が零れてくる。
骨折などなら耐えられるのだが、流血だけはいけない。断続的に必要不可欠なものを失っているのだから。しかし宝石の木の欠片は至る所を傷つけているため応急処置が出来てない。アテナで笑いかけられることなど無いと思い、いつも持ち歩いている応急手当セットを置いて来ているのも痛手だな。
腕を押さえながら一歩をゆっくり踏み出し続ける。一歩、一歩、一歩、一歩……。
そうすれば前に進むことが出来るから。進み続ければいつか目的の場所に辿り着くから。
だから目の前が霞んでも歩き続けた。出血多量の状態など怖くなかった。流海の為に何も出来ないかもしれないことが恐ろしかった。
こうして傷だらけで帰ったら、あの子はどんな顔をするのだろう。
いつも私の為に無表情でいてくれるあの子は、内側にどんな表情を隠してしまっているのだろう。
分かる気がするけど違うかもしれない。私は流海ほど完璧に片割れの気持ちを当てられる自信がない。その差に嫌気がさして、脳裏にはクレセントアックスを持った双子――「朝陽」と「夕陽」が浮かんだ。
声を揃えて意見を言い、隣に並んでいた二人。その姿も声も同じだと感じて、呼吸をするように行動が揃っていたから。
羨ましくなる。
私と流海はあそこまで同じになれない。体躯の差は出てくるし、声の高さだって今では全く違う。顔つきも趣味嗜好も少しずつ違う所があって、双子なのに他人であるような気がする時がある。
私はあの子と同じでありたいのに。
だって、そうではないか。広い世界にたった二人。同じ母から同じ時に生まれ、同じように育ってきた。もちろん二卵性であるが故、一卵性とは違って元の卵だって別ではあるが、私達は形を得始めた時から同じ時を歩んできたのだ。
絶対にして唯一。私にとって流海は何にも代えられない。私の手を握ってくれるあの子と共に、私はありたい。
深く息を吐きながら歩く。どれくらい進んだのだろうかと振り返りたくなったが、その動作すら億劫で無駄なので止めた。前だけ向いて進めばいい。後ろを振り返ったって、あるのはきっと血の跡だけだ。
地図からタイマーへ腕時計の画面を変える。既にアテナに来て三十分を消費しており、自分の不甲斐なさに苛立ちが重なり続けた。
どうして私はこんなにも物事を上手く運ぶことが出来ないのか。
どれだけウォー・ハンマーでアテナの奴らを倒せたって、どれだけ傷つきながらも歩けたって、結果を出せなければ全て無駄なのに。
胸に燻る苛立ちの中に、どうしようもうない虚しさが浮かんでくる。呼吸が少しだけ浅くなった気がして、泣きたいわけではないのに胸が締め付けられる。叫びたいような呻きたいような、嫌な感じ。膝に力が入らなくなりそうで、指先は無意味にいじらしくなった。
「あ゛ー……ムカつく」
ハンマーで無遠慮に木の幹を殴る。アテナの木からはアレスではしない甲高い音が反響し、私は砕け落ちた欠片を拾っておいた。αの幹とはまた違うから、これも何かの足しになればいいか。
「……お前、なんで歩けてるんだよ」
不意にイヤホンが起動する。アテナでは基本的に一人行動だったし、「嘉音」達と話す時は声を張っていたので久しぶりの感覚だ。
私は重たい頭を動かして横を見る。今しがた殴った木の向こう側には、全身白いペストマスクが立っていた。何も考えていなければ見逃していた程度に擬態してやがる。
そうだよな。本来私達の衣装ってアテナの世界観に擬態する為の色だよな。そうだったそうだった。自分が血だらけ過ぎてそんな効力発揮させられてないけど。
私は鉛のような右腕で右耳を押さえつけ、声の主――伊吹に返事をした。
「意地ですが何か」
「……朝凪と永愛がお前を心配する理由が何となく分かった」
ため息がイヤホン越しに流れ込んでくる。私は脱力気味に腕を下ろし、倦怠感で猫背気味の姿勢であると自覚した。血だらけのペストマスクが猫背気味に歩いてたら恐怖だな。その歩みが亀並みだったら余計に怖い。ホラー映画のゾンビかよ。
私は深呼吸をしながら歩みを再開する。伊吹を相手にしている気力はないし、時間もない。どうにかしてγだけでも採取したいし、αとβも欲しい。一時間を少しくらいならオーバーしても良いのではないかと思い始める自分がいた。
「おい、今日はもう帰れ。満身創痍じゃねぇか」
自分が「嘉音」に対して放った単語が、伊吹によって向けられる。私は軽く手を振って歩き続け、帰る気など無いと示していた。
流海が実働部隊に入りたいと言うならば、その期間を少しでも短いものにしてあげたい。あの子の毒の進行を遅らせる為にメディシンはいるけど、他の材料の採取も頑張らねば。
あれ、待てよ。私の優先順位ってどこだっけ。流海、流海、流海の為に。今はどちらが流海の為になる。メディシンの材料を集めること? それとも他の色々な材料を採取すること?
ぐらぐらな頭では判断が出来なくなってくる。しまったな、砕けたとはいえ倒木の勢いが頭を掠めていたのがデカい。気のせいだと思っていた吐き気が再来した気がして、こめかみに脂汗が浮かんだ。
あぁ、流海、流海、流海。治療をする前に、検査をされる前に、私はお前に抱き締めて欲しい。あの子の温もりが欲しい。私に残された唯一の鼓動を聞きながら眠りに落ちたい。
だって、だってそうだ。私を抱き締めてくれるのはあの子だけだ。「先生」達ではなく、実働部隊の「メンバー」でもなく、「家族」として私を抱き締めてくれるのは――流海しか残っていないのだ。
怪我をして泣いても、撫でてくれた手は戻ってこない。手当てをしてくれた温かい手は戻ってこない。
私の頬を挟んで笑いかけてくれたあの人はもういない。抱き上げて笑ってくれたあの人だって、もういない。
いない、いない、もういない。私のヤマイが潰したから。折ったから。砕いたから。奪ったから。
誕生日に灯された蝋燭は、吹き消される前に潰れてしまった。
項が痛んで動悸が激しくなる。
ごめん、ごめん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな無意味な謝罪をしたって、誰も許してくれないだろうに。
視界が滲んだ私はどうしてこんなに弱いのか。流海が起きた事に気が緩んで、久しぶりに体験している大怪我で心がダメージを受けているのか。そうか、そうだよな。怪我は体だけではなく心も傷つけていくのだから。
痛がるな。弱くなるな。悲観するな。崩れるな。
私はアテナに、流海を救う為に来ているのだから。
大丈夫。死ぬ時は一人ではない。私が死ねば流海も死んでくれる。死んだ先でだって、私達はきっと一緒にいられる。だから、だから、だから――
「――無茶苦茶かよ」
イヤホンがまた声を届ける。
同時に腕を引かれた感覚がして、私の前には白い背中があった。
背を向けて腰を落としていた伊吹に気づく。彼は私の腕を引いて体がぶつかり、私の膝が笑ってしまった。
伊吹の背中に凭れてしまう。その間に手からはウォー・ハンマーが取られ、伊吹は私の両膝に手を入れた。彼の両手に握られたウォー・ハンマーの柄に腰かけるような形になり、そのまま足先が地面から浮く。
突然の浮遊感に驚いて伊吹の肩に手を置けば、彼は少しだけ声を張ってくれた。
「帰れって言ってんのに。弟の為に材料が欲しいにしても、お前が先に倒れたら無意味だろうが」
叱るような口調が聞こえてくる。私は無理やり背筋を伸ばして伊吹と接触する面を極力減らした。彼は前を向いて小走りに進み始める。γの木の方へ。私の頭はとっちらかっていると言うのに。
流海以外とこうも近い距離になることが早々ない為、正直に言えば耐性が無い。「嘉音」には馬乗りくらいされたが、あれはお互いに傷つけあった結果だった訳だし。
しかし今は違う。伊吹からは殺意も嫌悪も感じられず、あるのは朝凪や竜胆のような「放っておけない」と主張する空気だから。
背中がなぞられるように落ち着かなくて、今すぐ下ろして欲しい。でも暴れたら怪我が悪化しそうで正解が見つからない。気にかけられたり優しくされたりした時ほど、私は対応が分からなくなるのだ。
疎遠にされたり距離を取られることばかりだったから、それを詰められた時が分からない。逃げられないならまだしも、踏み込まれた時の対処法を未学習で、距離を許すことなど流海にしかなかったのに。
「い、ぶき」
喉が締まって声が少し潰れる。そうすれば彼は何を思ったのか、口調を平坦にしていた。
「安心しろよ。服越しなら俺のヤマイは発症しない。この格好で凍ったりしねぇよ」
「違うそうじゃない」
「あ……?」
伊吹に私の感情が伝わっておらず声が大きくなった。
お前のヤマイが素肌限定なのは言われた時から理解している。私が気にしているのはどうしておぶられるのかと言う所であり、なんなら行動を起こす前に一言許可を取れと思うのだ。言われても許可なんて出さなかったし、行動される前に断れたのに。私の意向は無視か、おい。
思い始めたらイライラ度が増していく。
私は伊吹の後頭部を嘴で突く。相手からは悶絶するような奇声が上がったがどうでもよかった。
しかし彼は私を下ろさないまま歩いている。私は苛立ちを増しながらマイクを起動した。声を張るのはもう疲れたんだ。喋らせるなよお節介。
「おぶられる事が落ち着かないんです。下ろしてください。歩きます」
「意地張ってどうすんだよ! どうせγの木まで行くつもりだったんだろ」
「だから自力で、」
「んな亀以下の速度で行けるか! 黙っておぶられてろ!!」
伊吹の声が徐々に大きくなって響く。私は彼の両肩に手を置いたまま、自分がどう言った姿勢を取ればいいか迷走した。
切実に下ろして欲しい。優しくしないで欲しい。なんなら一人でアレスに帰って欲しいのに。
私は伊吹の腰に下げられた袋を見る。膨らみから見て、彼は既に材料を集め終わっている筈だ。
「……おろし、」
「黙れ」
……大変腹立たしい。
背筋を伸ばしている私は深いため息を吐き、もう一度つついてやろうかと思案した。
「あとそんなに背筋伸ばすな。運びにくい」
「なら、」
「イヤホンも使うな。おぶってるこの距離なら無しでも聞こえる。さっさとその無駄に入ってる緊張解けよ。そうしないなら俺はお前の言葉に返事はしない」
何故お前に主導権があるのか。ふざけやがって。
暴れても下ろしてくれそうにないし、鉛のような体ではコイツの頭を殴っても意味無さそうだし。この進み方の方が時間短縮になるのは事実だ。癪だけど。
しかし残念ながら、おぶられた時の力の抜き方など私は知らない。そんな感覚は年齢が一桁前半の時に捨てた。
「……分からないです。力の抜き方なんて」
舌を少し噛みそうになりながら訴える。伊吹に聞こえるように顔だけは近づけたが、直ぐに背筋は伸びてしまった。
伊吹は速度を緩めて、少しだけ嘴を後ろへ向けた。
「手を肩に乗せるな。首に回せ」
「……へぇ」
「嘴当たるから顔は肩に乗せろ。右でも左でもどっちでもいい」
「……はぁ」
「後は深呼吸しとけ。俺のことは動く布団か何かだと思っていいから。全体重かけていいし凭れていい。俺は怪我とかしてねぇし、まずお前が身長の割に軽い」
「……動く布団って」
「いいから。さっさとしろ」
ため息をつかれながら、言われた通りに体を動かす。自分でも四肢に力が入っている自覚があるのだが、何とか形だけは凭れかかってみた。
「……合ってますか」
「さっきよりは増し。五十三点」
「厳しめですね」
「人を頼ることを知らない阿呆は、厳しめ採点で慣らしていくのがいいだろ」
伊吹が再び走り始める。一歩ごとに感じる揺れは決して小さくないし、全く落ち着かないし、傷に響くのでやはり今すぐ下ろして欲しかった。
それでも、この速度ならγは回収できるだろうかと考える。採取して、少しでも休憩できた体は走ることを思い出せるだろうとも期待した。鞭打てば何とかなるだろう。何とかしろ。
自分に言い聞かせて、気づく。苛立ちが少し下降気味であることに。
おかしな話だ。どうしたらいいのか分からず、自分の意見も一刀両断されていたくせに。いざ体勢を変えたらなりを潜めるだなんて。
「弟の為、弟の為って、お前に「自分」はねぇのかよ」
伊吹の声がする。低い彼の声はイヤホン以上に近距離で聞こえる気がして、私は目を伏せてしまった。
「弟は私の片割れです。流海があっての私なんです。あの子がいないことは半身を無くしたのと一緒と言えます。あの子がいて始めて、私は私になることが出来るんです」
「だからこんなにボロボロになってもいいなんて、どうかしてるぞ」
「私がアテナに来る理由は流海ですから。あの子を治す薬を作りたい。あの子を守る薬が欲しい。それだけです」
伊吹の言葉が止まる。
彼はそのまま走り続け、瞼を透かしていた陽光が変わった。目を開ければγの木が見えたから、私の胸に安堵が広がる。
「……泣かせるぞ、いつか、弟を」
木の根元で立ち止まった伊吹が言う。下ろされた私の足は、力が抜けるようにふらついた。
腕を掴まれて何とか自立する。これは休憩を挟んだことが仇となっているのではなかろうか。
伊吹は息を吐き、周囲にアテナの奴らの姿はなかった。
「俺はお前と同じ考えで妹を泣かせた。それで一ヶ月くらい口もきいてもらえなかった」
「……へぇ」
「今は仲直りしたけどな。怪我をしたらすぐ帰るとか無茶はしないとか、細かい約束ばっか結ばされたけど」
私はマスクの下で目を瞬かせる。急に話されても返事の仕方が分からないのだが。
伊吹は項を掻くような素振りを見せた。
「……妹さんがおられるんですか」
「あぁ、中三。印数六のヤマイ持ちなんだ。だから俺は実働部隊に入ってる。ヤマイを治す薬を作って欲しいから」
伊吹の腕が私を離してウォー・ハンマーを返してくる。彼は上着の裾を翻し、太腿につけていた武器をとった。
円形の棒に持ち手がついた武器。持てば前腕部分に棒が並行になるやつ。確か名前は――トンファーだ。
伊吹は右手に持ったトンファーで勢いよく幹を叩く。そうすれば木全体が揺れて、γが小雨のように降ってきた。
「自己犠牲なんて美談にもならねぇよ。大事な奴のために死力を尽くすのは立派な事だが、それでお前自身に何かあったら元も子もない」
「怪我をして突き進むことは悪いと思いません。これは最短の距離だと思うし、最速の距離だとも思っているので」
「弟が泣いてもか?」
「流海は泣きません」
泣くのも怒るのも、いつも私だから。あの子は私よりも強くて、揺るがない心を持っているから。
「あの子が生きない明日なんていらない。流海が死ねば私も死にます。同じように、私が死ねば流海も死んでくれる」
「……は、」
「だから怪我をすることも、死ぬことも怖くありません。私はどうなっても、どんな結果になっても、流海と共にあれるから。ただやはり生きていて欲しいと言う気持ちが強く訴えるから、私はあの子が治るように、生きられるようにしていたい」
伊吹と私の間をγが落ちていく。私は「ありがとうございます」を口にしながら四葉を手に取り、溶けてしまう前に袋に入れた。
「……砂時計貸せ、空穂」
「なぜでしょう」
「何でもいいだろ。運んでやったのとγの採取手伝ったんだ。これくらい言うこと聞けよ」
膝を着く私の前に伊吹がしゃがむ。彼の指示の意味が分からず顔をしかめたが、万が一にも伊吹が私の砂時計を逆さにしても意味は無いと考え直した。
言われた通りに砂時計を出す。そうすれば伊吹は私の手ごと砂時計を握りしめ、背中に冷や汗が溢れた。
腕時計を見る。まだ時間は――
「さっさと帰れ――死にたがり」
伊吹は私の手を動かして砂時計を逆さにする。そうすれば行動的に、私が砂時計を逆さにしたことにでもなるのだろう。
望んでいないのに、足先から一気に砂に変えられたことで予想が肯定される。
伊吹の腕を振り切って砂時計を逆さにしても、砂の流れは変わらなかった。
「お前とは、アレスでゆっくり話をすることにした」
伊吹は自分の砂時計も逆さにする。私達は止まることなく形を崩し、分解される。
私の中には一気に憤りが火を吹いて、再構築されたアレスで拳を握り締めた。
食い違う意見の押し付け合いを、始めようか。
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次回投稿は火曜日を予定しています。
よろしくお願い致します。




