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貴方が笑わない世界がいい  作者: 藍ねず
アテナ編 混交の章
144/152

144. 泣

空穂涙では語れなかった。

 

 泣いている人への言葉かけとは何が正しいのか。

 血だらけの子を見つけたら何と寄り添えばいいのか。


 ペストマスクのついた首を抱き締めて、喉が潰れそうなほど叫ぶ涙がいる。


 刃が幾重も飛び出した男の体と、首のない女の体に縋って吼える流海がいる。


 二人が膝をついたその場所は、彼らを育てた人の血潮で満たされていた。


 掠れた叫声が研究室に響き渡る。

 言葉にならない怒号が反響する。


 駆け付けた朔夜達は呆然とした。


 目を血走らせて慟哭する双子が抱いているのは、見間違うことなく、二人の先生なのだから。


 噎せ返る血の匂いの中に、微かに残るのは甘いココアの香り。


 全身に血を浴びて、服も、足も、腕も、顔も、髪すらも血の海に溺れそうな双子に、嘉音達は動けなかった。


 そこに倒れているのは彼ら殲滅団(ニケ)が知っている苛烈な双子ではない。ウォー・ハンマーで多くを砕き、クロスボウで他者を射抜いてきた戦士ではない。


 ただ脆く、ただ弱く、ただ儚く。二人の子どもが泣いている。大粒の泪を零して絶叫している。


 部屋を満たす激情に気押されて、嘉音達はどうするべきか分からなかった。


「ッ、涙さんッ!!」


「流海君ッ!!」


 動けない子どもを置いて、血の海に飛び込んだ子どもがいる。


 朝凪いばらは涙を抱き締めた。

 汚れることも厭わずに、血の流れる首を抱いた少女を抱え込む。涙の目は真っ赤に染まり、泪で体が焼けそうだ。


 竜胆永愛と伊吹朔夜は流海を抱き起こした。

 動かない体に縋りつく少年を引き上げ、目を塞いで、誰よりも近くで叫びを聞く。咳いた流海は血を吐いて、体の中心から凍えそうだ。


「あぁ、最高の、機会だった」


 そんな、この場面に似つかわしくないほど、余韻に酔いしれた声がする。


 反応の遅れた螢達が見たのは、廊下の外から窓に張り付いた左側の邪神。


 暇潰しを求める者――デーヴァの顔は大きく上下しながら高笑いを上げ、治った五本の腕で親を失った双子を指さした。


「優しい別れなど退屈だろ。ぬるま湯のような温かさなど暇も潰せんだろ。あぁ愉快、愉快、愉快の快‼ 男は自分の鋼で心臓が張り裂けた! それはいったい誰のせいだ? 女は自分が見逃されていないと分かっていながら告げなかった! それはいったい誰のためだ? あぁこれだから人は面白い、面白おかしく、俺の世界(アレス)を狂わせてくれる!!」


「――黙れ害獣」


 デーヴァが張り付いていた窓硝子が砕け散る。顔や首に青筋を浮かべた金髪によって。


 狼牙棒が愚神の顔を壊し、ヌンチャクが胴を叩き割り、テレクが五本の掌を貫いた。


「なに、して、くれたのッ!!」


「化け物が」


 飛び出した雲雀と鶯の瞳が燃える。月光の中で青鈍色と深緑色が過激に光り、笑う邪神は地面へ吸い込まれた。


 あと数秒、あとコンマ。


 その差で皇は神を粉砕できない。


 それでも金髪は地面を何度も抉り、砕き、殴り続けるのだ。


「返せよ」


 砂が飛んで、芝が散って、皇の犬歯が牙をむく。


 月光の中で、赤い瞳は感情を溢れさせた。


「あの人を、返せッ!!」


 何度地面を殴っても、どれだけ我武者羅に暴れても。


 皇の前にデーヴァは現れない。金髪の彼を止めてくれる男も、金髪の少年を手当てしてくれる女性も、現れない。


「ふっざけんなあ゛ッ!!」


 夜空に吠えた皇が顔を覆う。狼牙棒を落とし、膝から崩れ落ちた少年は、地面に向かって咽び泣く。


 その姿に引き寄せられるように、鶯は皇の背中に寄り添った。誰よりも高い背を丸めて、折り重なるように目を閉じる。


 二人の周りで舞うのは、止まれない雲雀だ。少女はヌンチャクでフェンスを殴り、かと思えば武器を捨てて、覚束ない足取りで泣いている。声を上げて、泣いている。


 少女は金髪と緑髪に触れ、鶯は雲雀を抱えて立ち上がった。力の入らない少女を抱いて、抱き締めて、自分の嗚咽は噛み締めて。


 螢は聞いている。夜の闇の中、山に木霊する多くの泣き声を。それはきっと籠城している上では愚策であり、止めなければいけないことだ。


 しかし、螢は彼らを止められない。止める術など、学んでいない。


「……霧崎さん」


「猫、柳さん」


 朝陽と夕陽の体から力が抜ける。螺子が切れたようにしゃがんだ二人は、枯れた声を上げる涙と流海を見た。


 朧と嘉音は静かに目を伏せる。武器を持つ二人は、動けない螢と空牙の腕を掴み、夜の番へと戻るのだ。


「ぉぼろ、さん、嘉音さん。ぁの、あの、」


「俺達、なにか、なにかして……やれないんです、か」


「何もない」


 狼狽える二人に朧は告げる。決して強い言い方ではなく、落ち着かせるための声色だ。


 薙刀を回した嘉音は、灰色の目で朧の言葉を補足した。


「俺達があそこにいても、出来る事なんてないよ。泣いたって、近くにいたって、それはその空気に同調した偽善だ。親切じゃない。正しくない」


「あの場に残っていいのは、朝陽と夕陽だけだ」


 螢と空牙は強く唇を噛む。二人は鉤爪と暗器を構え直し、守るための場所へと戻っていった。


 道中、何事かと集まり始めたヤマイの大人や、別の実働部隊(ワイルドハント)は引き留めて。今は誰も近づくなと釘を刺して。


 ヤマイ達は、灰色の目の子ども達に頷いた。誰かが泣いている。ヤマイが泣いている。それは彼らが今までたくさん聞いてきた声だ。そのような時、部外者が立ち入ってはいけないと、傷を知るヤマイ達は分かっている。


 だから彼らは踵を返し、泣き声が止むまで祈るのだ。どうかその傷が、いつか塞がりますように、と。


「ねぇ……小梅さん。これ、嘘?」


 小夜は小梅の袖を引く。嘘ではないと分かっているのに、嘘であってほしいと願うから。


 桜色は抜け殻のような表情で、首を横に振った。自分の目の前にある光景。ただ唯一のヘルスの体が血の海に投げ出されている。


 それは誰のせいだ。


 それは、それは……


「わたし、が……私が、」


 小梅の声が震えた瞬間、血だらけの双子の手が伸びる。粘り気を帯びた血液を踏んで、自分達を抑えようとしていた友人達の腕を抜けて。


 双子の手は小梅の肩を掴み、壁に叩きつけた。


 潤んでいた小梅の感情は堪えられる。鳩尾の前で痛いほどに指を組んで、唇を噛み締めて。自分に言えるのは、ただ一言だと分かっていたから。


「涙さん!」


「やめ、流海!」


「お二人とも、ほんとに……ッほんとうに、」


「「あ゛やまるなよッ!!」」


 枯れた双子の声が響く。それを合図に部屋の中には静寂が広がり、誰のものかも分からない荒い呼吸が重なった。


 小梅の両目から滴が落ちる。目を逸らしている流海は脱力するように跪き、咳き込むたびに血を吐いた。彼の掌にある血液は、既に誰のものかも分からない。


 小夜は咄嗟に流海の背に手を当て、少年が自分の胸を掻き抱いていると感じていた。


 涙は小梅の肩に顔を埋める。深く深く呼吸して、感情を解くように。小梅は思わず涙に腕を回し、濡れる肩口など気にもならなかった。


「……ぁやまったら、あなたが、謝ったら……私も、流海も、くるしいから。柘榴先生も、悲しいから……正しかった桜が、謝らないで、絶対、ぜったい……ッ」


 涙は小梅と一緒に蹲る。唖然とした顔で頬を濡らす小梅は、ゆっくりゆっくり顔を歪めて、弱り切った少女に縋り付いた。


「はぃ、はい、分かりましたわ……」


 彼女の返事を聞いて、双子の意識が霞んでいく。全て夢ならばいいのにと願って、全て嘘ならば楽なのにと目を閉じて。


 涙と流海は、気絶するように意識を手放した。


 * * *


 ――死んだ人のことを悲しんで、いつまでも泣いているとね、死んだ人が困ってしまうんだって


 ――なんで?


 涙と流海は同じ夢を見る。街から離れた一戸建ての我が家。母が読んでくれた絵本の話。「めでたしめでたし」の本の中で、それだけはちょっと寂しかった思い出話。


 ――死んだ人はね、水瓶を持ってお空に行くの。その水瓶には、自分の為に泣いてくれる人の泪が溜まっていくそうだよ


 ――みず、


 ――がめ


 幼い二人には分からなかった。誰かが死ぬこともまだ経験したことがないから。想像しても、寂しければ泣くのは当たり前ではないかと首を傾げてしまう。


 琉貴は双子の頭を撫でて、言い聞かせるように笑っていた。


 ――泣くのは悪いことじゃない。でもね、いつまでもいつまでも泣いてたら、死んだ人の水瓶がどんどん重たくなって、死んだ人を苦しめるんだよ。重たいよ、重たいよ、だからもう泣かないでって


 ――えぇ……


 ――だから、いつまでも泣いては駄目。その人の事を思うなら、泣くばかりするんじゃなくて、ちゃんと前に進みなさいって。これはそういうお話だったよ。二人には、まだちょっと難しかったかもしれないけど


 涙と流海の頬を、琉貴は愛おしさを込めて撫でた。二人が誰かの死に泪するのはもっと先だろうと思いながら。そうであって欲しいと願いながら。


 幼い二人には分からなかった。自分達をくすぐって笑わせる母や、肩車をしてくれる父を毎日見ていたせいで、死というものについて考えることなどなかったのだ。


 それでも、今では分かる。分かるようになってしまった。


 幼かった二人の背は伸び、琉貴の笑顔が遠くなる。灰色の目を細める彼女の隣には、慈しんだ目をする父がいる。水瓶を持った二人はそのまま消えて、涙も流海も追いかけることなど出来なかった。


 ふと、立ち尽くす双子の横を、黒衣と白衣が過ぎていく。水瓶を持って、足音も立てずに。


 茶色い髪をヘアバンドで上げた男の背中。


 黒い髪を肩口から一つに結った女の背中。


 流海の右目から泪が零れる。


 涙の左目から泪が流れる。


 双子から落ちた滴に同調するように、大人が持った水瓶に波紋が広がった。


 そこで涙の目が覚める。


 視界に飛び込んできたのは白い天井と、明るくなった外の光り。左側には敷居のカーテン。それらを遮る少女達の顔。


「涙さん!」


 目を潤ませたいばらの声で涙の瞳が動く。紫の少女は固く涙の左手を握っており、シーツを握り締めたのは小梅であった。


「……おはようございます」


「……ぉ、はよう、ございます」


 涙は自分の喉が枯れていると知る。微かに咳き込みながら上体を起こした彼女は、差し出されたペットボトルを見た。


 反射的に受け取れば、自分の手や爪が血だらけであると分かる。乾いた血液は白いシーツに落ちて、ペットボトルを差し出した小夜には着かなかった。


 小夜の包帯は、何度も巻き直された皺が残っている。涙は痛む目を何度も瞬きさせ、灰色の少女にお礼を告げた。


「ありがとうございます。いただきます」


「……はぃ」


 小夜の声は酷くか細い。ベッドの周りを歩いていた雲雀は小夜の頭を撫で、何度か鼻を啜っていた。涙が見れば、雲雀の目元や鼻の頭は薄い赤に染まっている。


 涙は何も言わずにペットボトルの蓋を回した。それに重なるように、隣と隔てていたカーテンから夕陽が顔を覗かせる。


「起きたんだ」


「はい……流海は?」


 涙は乾いた両目で問いかける。夕陽は「今、起きたところ」と告げ、カーテンを開けた。


 涙は痙攣する頬を無理やり上げる。しかし、笑みは直ぐに落ちていった。


 彼女の視線の先には、点滴を打たれた片割れがいる。


 肩から力が抜けきって、点滴を見上げている流海。彼の周りには朔夜と永愛、鶯が揃っており、朝陽と夕陽が点滴スタンドに触れた。


 それは、見たこともない薬。


 透明なのかと錯覚するが、目を凝らせば光りを反射する赤と青の粒子が入った不思議な薬。


 流海は点滴の袋を見つめて、灰目の双子は側頭部を寄せ合った。


「これ、霧崎さんが作った薬」


「兆しから考え出したって言う薬」


「試験は出来なかったけど、論理的には間違いないって」


「薬は毒に、毒は薬に。あの人が突き詰めた研究の結晶」


「「――流海のために、作った薬だよ」」


 双子の言葉に、涙と流海が息を呑む。


 内臓が震えて、喉が締まって、視界が滲む。


 呆然とする双子とは違い、部屋には優しい波紋が広がった。


 必死に嗚咽を堪える者。

 片手で両目を隠した者。

 堪えきれずに唇を噛み締めた者。


 流海は突如大きく咳き込み、掌の赤は黒さを多く纏っていた。


 朝陽と夕陽は、吊るされた点滴パックを指で弾く。


「あの人、知ってたんだよ。自分が見逃されてないって」


「だからあんなに急いで、薬を作ったんだ」


「自分が見つけた兆しと、涙が持って来てくれた沢山の薬や材料を使って」


「寝る時間も、休む時間も削って、ずっとずっと、作ってた」


 咳き込む流海の背中を朔夜が擦る。掌に収まらなかった吐瀉物は指の間から零れ、それはタールのように黒かった。かと思えば、どこか白さも混じった不思議な異物。それを流海は血と一緒に吐いている。


 朝陽と夕陽はタオルを何枚も流海の周りに落とし、淡々と呟いた。


「最初は苦しいと思う」


「毒素を出すのはしんどいと思う」


「でも、堪えてね」


「量も徐々に減るだろうから」


「点滴は一日一回、一時間」


「異物を吐かなくなったら治療は終わり」


「「霧崎さんが、言ってた――大丈夫、治るよって」」


 流海の嘔吐が止まる。赤黒かった両手を黒く染めて、肩で息をする少年。震える口を開けた少年は、叩きつけるように白いタオルを顔に当てた。


 くぐもった、泣き声とも叫び声とも取れる声がタオルに吸い込まれる。黒い髪は流海の顔を隠し、朔夜の両目から細く細く滴が落ちる。


 永愛は堪らず流海の肩を抱き、朔夜もぐちゃぐちゃになりながら二人に腕を回した。


 鶯はベッドに腰掛け、咳き込みながら声を上げる流海の頭を撫でる。


 アテナから唯一、生きて帰った一人のヤマイ。


 空穂流海。


 彼の体を蝕むものが、苦しめるものが治るのだと、確かに彼の先生は言い残したのだ。


 流海はタオルを離し、寒くない自分の体を見る。


 そのまま、勢いよく永愛の手を握り締めた。朔夜の腕に縋りついた。涙ではない相手に、自分から。


 二人の友人は泪が止まらなくなる。流海の力があまりにも強いから。彼から初めて、手を伸ばされたから。


 鶯は三人の様子を見ながら、満足そうに微笑んでいる。黒い髪を撫でる手は大きく、流海は弱々しく頭を下げた。


 朝陽と夕陽は彼らの様子を見た後、口を真一文字に結んだ涙へ視線を向けた。


 少女はいばらと手を固く握り、不安定な呼吸で双子を見つめている。下瞼にはどれだけ流しても枯れない水が溜まっていた。


 朝陽は思い出す。自分達の前で忙しなく動き続けた女性の背中を。


 夕陽は思い出す。薬が出来上がった時、彼女が見せた安堵の顔を。


 灰色の目は、今まで走り続けた少女を見た。


「涙のおかげだって言ってた」


「涙がいたから辿り着けたって、」


「「……頑張ってくれてありがとうって、言ってたよ」」


 朝陽と夕陽は、頼まれた言葉を伝えきる。


 そうすれば、涙はいばらの胸に顔を埋め、声を押し殺して息を吐いた。


 この部屋の中に、もう言葉はない。


 走り続けた少女の目標。それが今、目の前で、達成されたと誰もが知った。


 罪悪感に濡れていた少年の枷が、重りが、解かれていくのだと目の当たりにした。


 あるのは歓喜の嗚咽でいい。打ち震える感情だけでいい。何も言葉にしなくていい。


 それだけで、傷だらけの双子は救われたのだから。


 朝陽と夕陽は目を伏せて、自分達の胸も詰まる心地を感じている。


 ――朝陽と夕陽がいてくれて助かったよ、ありがとう


 そう言って前髪を撫でてくれた人はもういない。


 死なんて何度も見てきたのに。殲滅団(ニケ)の解体を手伝ったことだってあるのに。


 どうして今、自分達は泣いてしまうのか。


 どうしてこの世界は、こんなにも沢山の泣き方があるのか。


 まだまだ知らない灰目の双子は、力強く目を開けた傷だらけの双子を見つめていた。


 * * *


 一時間の投薬を経て、吐くだけ吐いた流海の体は軽い。背負っていた鉛を全て出したような感覚で、床を踏みしめ立ち上がる。


 全身の血を洗い流した双子は、朔夜の言葉を胸に抱いた。


「涙、流海……ペストマスクを外した二人は――」


 涙は片割れと共に安置所へ入る。いばら達が見守る中で、いつも通り微笑んで、流海の為に口角を上げて。彼女はいつだって、片割れの為に生きるのだから。


「いくよ、流海」


「やろう、涙」


 一つの死体袋を二人は見る。心臓から突き出た刃のせいで、ファスナーが閉められなかったヤマイの袋。何重にも乱れ生えた刃は、輝く花のようにさえ見えてしまう。


 その中でも、鋭利で分厚い二本の花弁。


 ウォー・ハンマーを持った双子は、台に足をかけ、刃の背を掴み、大事な人の心臓を見下ろす。心臓でできた刃を見る。


 冷たく固くなった花の根本。そこは二度と鼓動しないと知っている。


 だから双子は、勢いよく刃を叩き折った。根元から、余すことなく、大切に。


 抱えた刃は温かさを内包しており、涙と流海は小梅の元へ足を運んだ。


 自分達と同い年。今や第一支部の一番上に立ちながら、その気質は変わらない。


 第四十四支部で、彼女はずっと道具達と共にあった。


「桜、どうか約束の日までに、」


「僕達だけの武器にして」


 小梅に差し出された刃とウォー・ハンマー。桜色の少女はそれらを丁寧に受け取り、光りある目で頷いた。


「必ず、最短時間で、最良の物に」


「頼むよ、ボス」


「お願いね、リーダー」


 そうして双子は、小梅に笑う。小梅だけに笑う。お嬢様だった少女は、力強く双子と拳をぶつけていた。


 涙と流海に蘇るのは、朔夜が教えた、先生達の最期の表情。胸に刻んだ痛みと事実は、生徒の泪を止めさせた。


 ――二人は、霧崎さんと猫柳さんは……笑ってたよ




約束、したもんね。


***

次話は木曜日に投稿予定です。

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