悪役令嬢に転生したけど何もしません。~何もしてないのにどうしてこうなった?~
簡単な紹介です。
登場人物
リアーネ・フォン・ルクナティア この物語の主人公。公爵令嬢。転生者。14歳。3年生。
レイモンド・メラ・アーザント 主人公の義兄。伯爵。外交官。27歳。
ルルシーナ・メラ・ルクナティア 主人公の義姉。公爵令嬢。17歳。
パトリック・フォン・ルクナティア 主人公の義兄。次期公爵。15歳。4年生。
ユリシーズ・メラ・オルタンス 主人公の婚約者。王弟で臣籍降下し公爵に。15歳。4年生。
ベイルート・フォン・フィビアイン フィビナティア公爵家の末娘であるシュシュアーナの婚約者。侯爵家次男。14歳。3年生。
アネマ・フォン・ビビット 小説のヒロイン。ビビット子爵家の一人娘。転生者。15歳。4年生。
国、貴族
アルメラ王国 この世界の五大国の一つ。実力主義の国。
ルクナティア公爵家 三公の一つ。
フィビナティア公爵家 三公の一つ。
ルクアイン侯爵家 ルクナティア公爵家の分家筋。今の侯爵夫人は前ルクナティア公爵令嬢。
フィビアイン侯爵家 フィビナティア公爵家の分家筋。
オルタンス公爵家 ユリシーズがもらった爵位。
ビビット子爵家 ヒロインの実家。弱小貴族。
「キャッ」
「大丈夫かい?」
「はい。助けていただきありがとうございます♡」
この光景を見た瞬間今までの違和感の正体がわかった。
私は生まれた時から少し違和感があった。
例えば見た目。例えば家。名前や周りの環境もそうだ。
私の見た目は金髪に青い目。そして家はとても大きい。私も全てを把握してないくらいに。敷地も広く使用人が住む建物もある。そして私には専属の家庭教師がいる。貴族なのだから普通なのに普通じゃないと思ってしまう。
私には義姉が一人と義兄が二人いる。
上の義兄の名前はレイモンド・メラ・アーザント。私よりも十三上で銀髪に紫の目。
お義兄様は外交官として活躍していて伯爵位を貰った。だから、家にあまりいなくてどんな人かわからない。だけどすごくシスコンでお義姉様の事が好きと知っている。噂でも聞いたことないのに知っているのだ。
義姉の名前はルルシーナ・メラ・ルクナティア。私よりも三つ年上で銀髪に紫の目。
義姉様はあまり家にいないくてしゃべったのは数えられる程度で会うときはいつも無表情でルクナティア公爵家のためにどうこうしろと言ってくるので怖いし苦手だ。誰に対しても無表情だし滅多に怒らない人ではあるけど。だけど彼女が優しい人だとなぜか知ってる。でも実際は家族なのに噂程度のことしか知らない。だけど優しい人だと知っているのだ。
下の義兄の名前はパトリック・フォン・ルクナティア。私より一つ年上で金髪に紫の目。
義兄様は義姉と違い、私によくかまってくれる。義姉みたいに注意してばっかじゃないけどダメなことはダメと言える優しくも厳しい人。婚約者に優しくしてはいるけど互いに愛し合ってないと知っている。周りは相思相愛と言ってるけれど。でも知っているのだ。
そして私の名前はリアーネ・フォン・ルクナティア。三公の一つ、ルクナティア公爵家の次女だ。そういえば義兄様に婚約者がいるといったが私にもいる。私の婚約者の名前はユリシーズ・メラ・オルタンス。このアルメラ王国の王弟。しかも王位継承権第一位。だというのに、名字がこの国の王家の人が名乗るアルナティアでないのは陛下が即位するのに合わせてオルタンス公爵を名乗ることになったからだ。
突然だけど、私は養子だ。元々は公爵家の分家筋にあたる侯爵家にいた。けど、王子と婚約するにあたって、公爵家に養子に出された。なんでも親のどちらかが王族でないといけないらしい。だから王子(ユリシーズ様の叔父)が婿入りした叔母のもとに養子に出された。私には本物の姉がいるけど姉との仲も良好だ。
話がそれてしまったけど私には前世の記憶があるみたい。別に記憶があるといっても人格に影響はなかった。前世で呼んでいた小説では急に性格や態度が変わって怪しまれるということがあるけど、私の場合は昔からふとした瞬間に思い出していたからもう二つの魂が融合しているんだと思う。そして私は前世オタクというやつだったみたい。そしてこの世界は前世好きだった有名なシリーズの小説と酷似している。
題名は思い出せないけど同シリーズには義姉の婚約者のエドワードさんとの恋愛が書かれている小説もあってそこで悪役令嬢であった義姉様を助ける役としてお義兄様が出てきていた。でも実際は違う。エドワードさんと義姉様は婚約していないし、2年前、エドワードさんが卒業する年の卒業パーティーの時。その物語のヒロインの侯爵令嬢が仲間を集め義姉様を断罪しようとした。その仲間は義姉様の事をよく思っていない派閥の子女と義姉の事が好きな義姉の幼馴染の小国のベルンハルト王子の事。ベルンハルト殿下は義姉が不祥事をおこせば簡単に自分のものになると思っていたみたい。そんな事あるはずないのにね。実際、何もしていないのだから義姉様に冤罪をかけようとしたという事でその人たちは何かしらひどい目にあったらしい。詳しいことは私は知らないけど。ユリシーズ様や家族に聞いたのだけど皆、はぐらかして教えてくれなかったのだから。
そして私が出てくる小説は私の婚約者のユリシーズ様との恋で当て馬役としてベイルート様が出てくる。でも現実はベイルート様がヒロインを好きになることはなさそう。だってフィビナティア公爵家の末娘であるシュシュアーナ様の婚約者になっていてシュシュアーナ様に溺愛されているもの。小説では愛に飢えて浮名を流してたけどシュシュアーナ様に溺愛されているから大丈夫だろう。そしてシュシュアーナ様は私と同じな気がする。だってこんなにも変わることはあんまりないから。それに、シュシュアーナ様の姉のレティシアさんに聞いてみたところ、シュシュアーナ様はベイルート様を一目見た後、父であるフィビナティア公爵に彼と婚約したいと申し出たらしいし。余談になるけどその時、フィビナティア公爵は灰のようになったそうな。レティシアさんの婚約も早かったらしいし、娘二人が早く婚約してしまって悲しかったのかな?
問題はヒロインだ。お義姉様の時のヒロインも私と同じだったのだろう。でも、現実は設定と全く違うから失敗した。だけど今回は違う。ベイルート様は兎も角私とユリシーズ様の関係はだいぶ小説と同じだから。私はユリシーズ様に恋しているわけじゃないし愛してもいない。まぁ、人としては好いてるけど。だから私はヒロインとユリシーズ様がどうなろうとかまわない。恋の障害は無いけどそれくらいであきらめる恋ではないでしょう。頃を見てユリシーズ様にはいつでも婚約解消できるように伝えておいたら、大丈夫でしょう。義姉経由で陛下にユリシーズ様との婚約解消について根回しもやっておいて良いかもしれない。ヒロインとユリシーズ様がくっついたら、その事を恩に着せて新しい婚約者を紹介してもらうぐらいは出来るかな。あ、後は冤罪かけられるのは嫌だしそこは気を付けよう。そして観察できるならしたい。生で小説が見れる機会なんてそうそうないのだから。因みにさっき私が見たのは出会いイベント。あそこでヒロインが興味持たれるんだよね。ヒロインは夏休み明けに転入して間もないから周りを見ていたら人にぶつかったって感じで。
だから私は小説に干渉しない。何もしない。チクリと痛んだ心には気づかぬふりをした。
そんなわけでかれこれ半年たって今日はユリシーズ様の卒業式。卒業式の後は卒業パーティーがあってこれは全員に招待状が送られてくる。ここで私は婚約破棄を宣言される。ユリシーズ様が有責の婚約破棄を。それでも、エスコートはしてくださる。よく、乙女ゲームとかでヒーローが自身の婚約者のエスコートをすっぽかすっていうのあるけど、ユリシーズ様はそんな事はしなかった。でも、せっかくの卒業パーティーで婚約破棄を宣言するのには常識を疑ってしまうけど。
今考えてみればあんな風にしなければ私との婚約を解消することは出来なかったという事が分かるけど。前世の私は非常識だと思っていたけどね。
けれど、さすがに悪役令嬢にドレス一式贈られてはなかった。というかこれはヒロインに贈られるもののはず。色や形が同じだもの。紫に近い青とか赤に銀ばかりってどれだけ独占欲丸出しだ‼と叫んだ覚えがある。瞳の色である紫がないのは王族の禁色だから。これは、王族と歴代王妃(と王配)にしか着ることが出来ない。
可笑しい、イベントは発生していたのにどうして私のもとにこれが届いてくるの?サイズが私のだから送り間違いという訳ではなさそうだけど……後、今の状況はどういうこと?
「リアーネ様。ユリシーズ様を解放して差し上げてください。」
「えっと、どちら様でしょうか?」
ヒロインのアネマ・フォン・ビビット子爵令嬢だとは知ってるけど話したことはない。社交界のルールを知らないはずないし。流石に養子に引き取られて半年もたっているのだから。まず、目上の人に話しかけてはいけない。そして、初対面の相手には挨拶をしなければいけない。特に後者は庶民の人たちにとっても常識だよね。
「酷い…今までたくさん意地悪してきたじゃないですか。」
「いえ。わたくしとあなたは初対面ですわ。」
小説とだいぶ違う。悪役令嬢もヒロインに意地悪してないはずなんだけど。嫌味を言ってきてはいたけど正論だし。嫉妬で嫌味を言ってるのかもだけどむしろ、ヒロインのためになってるぞっとよく私は思ったしなぁ。
「そうおっしゃるなら、名乗ります!アネマ・フォン・ビビット、ビビット子爵の娘です。」
マナーがなってない。正式な名乗りではないものを公爵令嬢にするなんて。しかも、公爵家の人って王家に近しい血を持っているって知らないのかな?うちの国の公爵家は王族の血を取り入れてからある程度たったら侯爵に降爵されちゃうんだよね。しかも、公爵位をもらえるのって歴代の王弟、王妹と三公だけだし。
「へえ、ビビット嬢って言うんだ。私の事はオルタンスと呼んでくれる?今まで名乗りもせずに付きまとわれて迷惑だったんだよね。強くいっても聞いてくれないし。リアーネの事もルクナティア嬢って呼びなよ?許可貰ってないんでしょう。」
「え、やだユリシーズ様。なんでそんな事しないといけないんです?名前を呼ぶのに許可がいるなんておかしいですよ。」
彼女の非常識っぷりに皆も驚いてる。私たちは貴族なんだけど。貴族は見栄や格も大事。だというのに公爵家の人間や王弟を勝手に名前で呼ぶなんてあってはならないことだ。そんなことも知らないなんて。
「ユリシーズ様って次期国王でしょう?こんな決まり無くしちゃってくださいよ。」
あっと、大丈夫なの?これはタブーとされてることなのに。最初はこんなこと言う人たちもいたけどすぐにいなくなったものだから、みんな言わなくなったことなのに。つまりはユリシーズ様の逆鱗だ。ていうか、ユリシーズ様が王位継承権一位なのは陛下の子供が出来るまでって知らないのかな?うちの国の王位は国王の第一子になる。私たち貴族だけでなく国民でも知っているような常識だ。でも、たまに国外から来た人が勘違いしちゃって、ユリシーズ様にヒロインと似たようなことを言ってユリシーズ様を怒らせちゃったんだよね。
「ふーん。ビビット嬢。滅多なこと言わないでくれる?
衛兵、この恥知らずを牢へ連れていけ。」
「「はっ。」」
「ちょっと、何するのよ。私はヒロインなのよぉ~。可笑しいじゃない。悪役令嬢のリアーネ様が意地悪してこないのがダメなのよ。」
可笑しいのはあなたのほうだと思うけど、ヒロインさん?てかやっぱ私と同じか。悪役令嬢も嫌味は言ってきてたけど最後のはそのことかな?後からわかることではあるけど、ヒロインって一時期、一週間程度だけどいじめを受けてたんだよね。でも一週間程度で収まったのは悪役令嬢が根回しして止めたからなんだよね。私も同じことをした。保身からだけど。いじめてた子たちって私の友人で私を慕ってくれている子たちだったから、自分自身の品位を落とすような行動はしないでって言えば簡単に収まったんだよね。だから、悪役令嬢がヒロインをいじめるのってありえないんだよね。もしかしたら、前作と内容が混ざっちゃっているのかな?あれは苛烈だったからなぁ。
「皆の者。騒がせてしまって申し訳ない。私たちは退場するから楽しんでくれ。」
ユリシーズ様が詫びをいわれて馬車に乗りユリシーズ様の私室に向かった。
「え、あの殿下?」
「リア、ユリシーズ。」
「いえ、ですのでこの状況は…」
今、私はユリシーズ様の膝に横抱きをされて抱きしめられている。そして名前を呼ばないと答えてくれなさそうだから、あきらめて名前を呼ぶ。今までこんなことなかったのに。
「ユリシーズ様。放してください。」
「ヤダ。もうリアとずっと一緒にいる。またあんな奴が出てきてたまるものか。」
最後のほうの言葉は大丈夫だろうか。私には現実逃避しかできない。
「ねえ、リア。僕はずっとリアとこうしたかったんだよ?だというのに僕が卒業するまでリアに必要以上は触ったらだめってリアの過保護な保護者に言われてきたんだよ?それにリアが卒業するまで二人っきりになるのもだめって言われてるんだよ?だからちょっとくらいはいいでしょ?」
過保護な保護者って誰?そんなこと知らない。それにこれは政略婚約じゃないの?ほんと意味わかんない。ユリシーズ様の最愛が見つかるまでだと思っていたのだけど。あ、最愛というのはアルメラの王族特有のもので、言葉の通り王族が一番愛している存在。普通、国王なら側室はいるものだけど、アルメラにはいない。最愛以外と結婚することが王族にとっては苦痛らしいから。
「リアが僕の事を好きじゃないって知ってるよ?だからリアが卒業して結婚するまでに僕に惚れさせて見せる。覚悟しといてね。」
そう言ったユリシーズ様は肉食獣みたいで少し怖かった。
でも、本当は初めて会った、顔合わせの時からユリシーズ様の事が好きだった。でも、政略的要素があるのだろうからとこの気持ちに蓋をしたのだ。
何もしていないのにどうしてこうなった?
~後日談 ※三人称~
ユリシーズに惚れさせてみせると宣言されてから数日後。今は修了式も終わって新入生が入ってくるまでは休み期間になっている。その休みの間にはたくさんの課題が出る。そのため、リアーネはユリシーズから勉強デートをしないかと誘われた。
「僕と会ってくれて嬉しいよ、リア。ある程度勉強したら、息抜きにお忍びで街に行かないかい?楽しいと思うのだけど。」
「街に、ですか?ですが、護衛などは必要だと思うのですが……」
「そこは大丈夫だよ。僕はリアと行きたいのだけど、ダメかな?」
ユリシーズは首をかしげて懇願の目をリアーネに向けている。その顔は割と計算されて作られているのだが、リアーネはその事に気付かず、考え込んでいた。
「ユリシーズ様。私はユリシーズ様がお強いのは知っています。ですが、それでもユリシーズ様に何かあれば大変ですので護衛ありで今度出かけるというのはダメでしょうか?」
「なら、見えないところで護衛の者をつけるっていうのはダメかな?」
「そんなすぐに準備できるものではないと思うのですが……」
「大丈夫だよ。絶対に手配できるから。」
「まぁ、そういう事でしたら。」
とのことでリアーネとユリシーズのお忍びデートが決まったのであった。
そして、それから数時間後。リアーネの勉強も今日やると予定していたところは一通り終わったから、街に行くこととなった。
街に行くためにリアーネとユリシーズは商家の娘と息子風の服に着替えることとなった。そして、着替えたユリシーズをみたリアーネは小説の事を思い出していた。
小説のヒロインであるアネマ嬢とのお忍びデートが小説内でも書かれていたのだ。まあ正確にはお忍びで街に出歩いていたユリシーズとアネマが偶然遭遇し、デートをするという流れではあったのだが。その時に描かれていた絵と今のユリシーズの格好が同じで少し感動していた。
「リア?どうかしたの?」
「いえ、ユリシーズ様はそのような格好も似あうのだと思っていただけです。」
「似合うと思っていてくれているの?嬉しいや。」
そう言ったユリシーズの笑みは小説内や二次創作のイラストでも見たこと無いほどの麗しい笑みであった。
「そうそう、リア。街中では僕の事をユーリって呼んでくれる?」
「あ、はい。分かりました。ユーリ様、ですね。」
「うん。いつかは、その可愛い口からシーズと呼んでほしいけどね。」
「ふぇっ。」
突然の口説き文句にリアーネは淑女にあるまじき奇声をあげてしまったが、そんな様子も愛おしいとばかりにユリシーズは微笑んでいた。
街へと出かけるとユリシーズはたくさんの人に声をかけられていた。
「ユーリ君、久しぶりだね。今日は冒険者活動はお休みかい?」
「そうですよ。今日はようやくデートにこぎ着けた彼女とのデートなので。」
「おや、どんな美女にも靡かなかったユーリ君の彼女?
わぁ、すっごい美少女だね。靡かなかったのが分かるよ。」
「初めまして、リリアと言います。」
このリリアはリアーネの前世の名前であった。実はリアーネの事をどう呼ぶかという事で少し議論を交わしていたのだった。
「私は別にリアで大丈夫ですよ。街にもリアという名前の子はいますよね?」
「それはダメだよ。リアと呼ぶ男は僕だけでいいんだから。」
「え、ですが、お父様やお祖父様……」
「ルクアイン侯爵達は家族だから許せるけど他はダメ。」
「うーん、でしたらリリアというのはどうでしょうか?」
「ならいいよ。」
リリアという名前が愛称であるリアに似ていたからユリシーズに街ではリリアと名乗ると提案したら許可を得れたのでリリアとなったのだった。
そして、ユリシーズの知り合いに挨拶しながら普段は見ることのない街の様子を見ていった。
街を周っている途中に休憩でカフェに寄った。
「ここは最近、街の女子に人気なところなんだ。ここを知った時にぜひともリアと来たかったから来れて嬉しいよ。」
そんな言葉をユリシーズは恥ずかしげもなくさらりと言ってのけていた。そんなユリシーズの言葉にリアーネは赤面しつつも席に着くとようやく落ち着けるようになったため少し考え込んでいた。
どうして、自分はユリシーズとの婚約を政略的なものだと思っていたのかと。アルメラの王族は自身の最愛意外と婚約することはない。アルメラの王族にとっての最愛はその言葉の通り、その人が一番愛している存在であり、何にも代えがたい存在だ。普通、国王なら側室はいるものだが、アルメラにはいない。最愛以外と結婚することがアルメラの王族にとって苦痛だからだ。だから、自分がユリシーズの最愛であると理解できるはずなのに政略的なものだと思っていた。街に出て見てリアーネは小説との違いに驚いた。ユリシーズとヒロインのアネマ嬢のお忍びデートではユリシーズの不慣れな様子が描かれていたのにそんな事はなく街に溶け込んでいた。街の人たちからは少し裕福な家の息子だと思われているようだ。
「……ア、リア。どうしたの?疲れてしまった?」
「あ、ユーリ様。疲れていませんよ。少し考え込んでしまっただけです。」
「そうなの?本当に大丈夫?疲れたなら遠慮なく言ってね。」
「ふふ、本当に大丈夫ですよ。ただ、今までは知識としてしか知らなかったことを知れたので少し考えていただけです。」
本当は前世の小説の事を考えていたのだが、この事も考えていたので嘘ではない。
リアーネは自分が小説に囚われていたのかもしれないと思った。
ユリシーズの事を見ても小説では……と思うことが多く、前世を思い出した今はユリシーズの事を小説の登場人物としてしか見ていなかったのではないかと思っている。
前世の事を完全に思い出したのはつい半年ほど前の事ではあったが何となく思い出している時が幼少期の頃からあった。そして、一般的にみると昔から割と大人びていた方であった。だから、多分ではあるがもしかしたら無意識化にユリシーズは将来自分とは別の人と恋に落ちると思っていたのかもしれない。でも、ここは現実だ。現実だからユリシーズ本人の事をよく考えよう。リアーネはそう決意した。とはいえ、すでにユリシーズの事が好きではあるのだが。
「リア、考えはまとまった?」
「はい。まとまりました。やっぱり、今後も時間を作って街に行きたいです。本や言伝だけだとやっぱり分からなかった事がありましたし。」
「そっか、ならリアは勉強を頑張らないとだね。僕も公務を頑張って時間を作らなきゃかな。」
「え?」
「可愛いリアを一人で街に歩かせられないよ。僕達がさっき街を歩いていた時にどれだけの野郎がリアに視線を向けていた事か。」
「そんな事はないと思うんですけど…」
「うーん。まぁ、リアがそう思っているのであれば僕の方がより対策すればいいだけだね。」
何かユリシーズが話していたが小声でリアーネには聞こえなかった。ユリシーズが小声で言っていたのだから自分は突っ込まないほうが良いだろうと聞こえなかったふりをすることにした。
そして、カフェでの休憩も終えて最後にユリシーズが一番好きな場所へと連れていかれた。
「見て、リア。ここから王都の街を一望できるんだ。」
「わぁ、凄い素敵な場所ですね!」
「あぁ、ここは僕のお気に入りの場所でね。何かあった時にはいつもここに来ていたんだよ。」
その言葉にリアーネは驚いた。そんなにも自分はユリシーズの中で大きな存在なのかと。そして、自分は本当にユリシーズの事を見れていなかったのかもしれないと思った。前世を完全に思い出す前はきちんとユリシーズの事を見ていたと思う。でも、思い出してからは小説の登場人物であると無意識に思っていたから、更に恋心を封印した。
「そんなに大切な場所に私を連れてきてくださってありがとうございます、ユリシーズ様。」
「うん、どういたしてまして。」
その後はただただ静かで穏やかな時間であった。二人とも夕日が沈んでいく様を無言で見ていた。リアーネはこの静かな時間をユリシーズと過ごすのも良いなと思っている。
自分の中にあるこの恋心はどうしようか。ユリシーズにちょろいとは思われたくないからしばらくはまた、隠しておこう。そう、リアーネが決意したためユリシーズが両想いになるまではもっと後の事。