捨てられた私にできること
私には幼馴染の彼氏がいる。
親同士の仲が良くて、生まれた頃からずっと一緒に過ごしてきた。
小中学校で違うクラスになることはあっても登下校は一緒にしていたし、今年入学した高校でも一緒に勉強して同じ学校に入学することができた。
中学2年の頃に思春期のせいか彼が私から離れることがあって、悲しくなったので私から告白して恋人同士になれた。
彼にOKして貰えた時はすごく嬉しかった。
恋人同士になってからは、彼のお弁当も彼のご両親に頼んで作らさせてもらったし、登下校の時は彼の腕に抱き着いて学校に行っていた。
私は彼に出来うる限りの方法で愛を示していた。
彼もそれを喜んでいてくれていたみたいだし、私もこれからも彼に喜んで貰えるよう色々と努力していこうと思った。
でも、最近彼が余所余所しい。
私は彼に愛想をつかされない様に、いつも以上に見た目に気を使ったし、お昼のお弁当もできる限り栄養バランスを考えて、彼の好きな食べ物を入れてあげた。
でも、彼の余所余所しさは変わらなかった。
原因はわかっている。
高校になってから絡んできた変な男のせいだ。
その変な男は学校内では私と常に一緒にいようとしている。
流石に登校時は絡まれないが、休み時間や放課後は色々と理由をつけて私を拘束してくるのだ。
最近は、私が彼を裏切ってその男と隠れて付き合っているなんでいう噂まで流れている。
友達からその噂の真偽を聞かれたときは違うといっているが、全然そんな噂は消えてくれない。
私もその噂を否定するようにその男とは出来る限り一緒にいない様に心掛けているのだが、何故かその男は私の行く先々で待ち構えていて絡んでくる。
私が風邪を引いて休んだ時なんかは私の家まで押しかけてきた。
最早、ストーカーじゃないかと思った。
流石に玄関でお帰り頂いたが、その時の状況を彼に見られてしまった。
私はすぐに否定しようとしたが、彼はショックを受けたような顔をして、逃げるように自分の家に入っていった。
携帯で、電話をしても彼は出てくれなかった。
翌日、登校時にお弁当を渡そうと彼の家に行った時も会ってもらえなかった。
彼と私のすれ違いが何日か続いていたが、ある日彼から放課後会いたいと連絡があった。
私は久しぶりの彼からの連絡で嬉しかったし、この間の件を説明する機会を得られたと喜んでいた。
そうして、放課後彼に会いに教室へ行くと彼から別れを切り出された。
お前は俺を裏切った。もうお前とは付き合えない。
彼にそう言われてしまった。
私は必死に弁明した。
その男とは何もない。私が好きなのは貴方だけだって。
でも、彼には聞き入れてもらえなかった。
彼は、私の話から逃げるように教室から出て行った。
私はショックだった。
どうやって家に帰ったのかも覚えていない。
私は家でずっと泣き続けた。
何日たったのだろうか。
両親から心配そうに声を掛けられていたが、私は何も言えなかった。
携帯を見ると友達からも心配している旨の連絡がたくさん来ていた。
なんで、こんな事になってしまったんだろう。
私はただ彼と一緒にいたかっただけなのに。
彼に捨てられてしまったら今までやってきたことに何の意味もない。
私はショックで部屋に引きこもった。
部屋に引きこもって、半月経った。
いい加減、泣きつかれていたし、これ以上親に心配をかける訳にもいかないと思って、学校に行くことにした。
久しぶりに行った学校では、仲の良い友達が大丈夫か声をかけてくれた。
私が浮気したという男も声をかけてきた。
流石にその時は、激情に身を任せて怒鳴ってしまった。
あいつのせいで私は彼に捨てられたのだ。
私が変にその男に情けをかけたのがいけなかった。
私がしっかりと彼氏がいるのだから、誤解されるようなことをしないでくれと伝えればよかった。
本当に今更だ。
お昼休みになると彼の様子を見に行った。
私と別れるまでは、彼のお昼は私が用意していた。
お昼はちゃんと食べているんだろうか。
捨てられたのに未練がましいと思ったが、それでも気になってしまったのだ。
そうしたら、彼の隣には可愛い女の子がいた。
私はショックでその場から逃げ出した。
後で友達に聞いたら、私が学校に来ていない間に急接近して付き合い始めたらしい。
本当に、私は何なのだろう。
変な男に絡まれたせいで、彼の隣にいる資格を失ってしまった。
私が寝込んでいる間に彼を他の女に取られてしまった。
私は何時だって彼のことを第一に考えてきたし、彼の隣に相応しい存在でいられるように努力してきたつもりだ。
でも、そんな努力も彼に認めてもらえなければ意味がない。
本当になんでこんなことになってしまったんだろう。
午後の授業は全く頭に入ってこなかった。
それから2週間が経った。
私は相変わらず魂が抜けたような顔をしていた。
身だしなみにも気を使わなくなったし、ずっと辛気臭い顔をしているせいか、例の男も私に声をかけてこなくなった。
彼はたまに私を見掛けると心配そうな顔をするものの自業自得だと言わんばかりに顔をそむけた。
その彼の隣には、この間彼とお昼を一緒にしていた女が常にいた。
その女は時折こちらを見るといい気味だと言わんばかりに笑っていた。
私にはその笑みが凄く気持ち悪かった。
でも彼がその女と一緒にいることで幸せであれば、それでも良いかもしれない。
そう思ったのだ。
でも、ある日私はその女の悪い噂を聞いた。
それは気になった男性をどんな手段を使ってでも手に入れて、飽きたら捨てるといったものだった。
私はまさかと思ってその噂の出所を探した。
学校内では中々見つけられなかったが、SNSを使えば意外と簡単に調べられた。
SNSで噂を知っている人物に直接会って話が出来ないか交渉した。
その人物は隣の県に住んでいるらしく、放課後に会う形でアポイントを取ることができた。
そして、放課後待ち合わせをした駅で待っていると2人の女性がやってきた。
話を聞くと、その女は中学時代別れさせ屋として有名だったらしい。
大体は噂通りだったが、その男性に彼女がいると彼女の悪い噂を流し浮気させ、男性が弱った所を掠め取っていくとのことだった。
まさに私達のことじゃないか。
でも、彼にその話をしたところで信じてもらえないだろう。
彼に取ってみたら私は裏切った側の人間であって、今隣にいる女の方が信用できるのだから。
ただ、このままだとまた彼は裏切られてショックを受けてしまうだろう。
だから、私は……
それから、1年が経った。
あの女はもう学校にはいない。
私が退学にさせた。
調べてみれば、犯罪まがいのことを結構していたのだ。
それを使って退学に追い込んだ。
あの女の恐怖に歪んだ表情は面白かった。
彼は私の隣にはいない。
私は彼に信じてもらえるだけの愛を見せることが出来なかったから仕方がない。
でも、私は彼の幸せを願うことはできる。
今も彼の隣には新しい彼女がいる。
あの女は本性を隠したまま退学になったから、女性恐怖症にならないで済んだのだろう。
そうするのは結構苦労した。
新しい彼女についてはリサーチ済みだ。
彼女には黒い噂がないし、面倒見がよく心優しい少女であるとの調べはついている。
だから、多分大丈夫だろう。
もし駄目だったとしたら、あの女と同じ目に合わせてやればいいだけだ。
私の人生は彼のためだけにある。
彼の人生に私の存在がなくても構わない。
私は彼が幸せであればそれで良いのだ。
そこに私の存在があれば、なお良かったが、そんな欲を出してしまったのが今の状況なのだろう。
彼のために、彼の幸せのために、彼の未来のために
私はこれからも生きていくのだ。