36話:マリニアンの恩寵1
村から少し離れたところに降り立つと、ウィンダイムは頭を地面にペタッとつけて、俺たちを眺めている。
「どう? 信用した?」
「うーん、どうだかな」
「人間難しい」
「まぁ、とりあえず言うこと聞いてくれたから……。そうだ、これやるよ」
インベントリからアダマンティアの鱗を取り出して、ウィンダイムの前に放り投げる。
「えっ、えっ。アダマンティアのだ。どうしたの? た、倒しちゃったの……?」
ウィンダイムが不安そうにしている。
「いや、もらっただけだけど」
「そっか~。よかった」
「クソ竜はアダマンティア好きなんっすか?」
「ウィンちゃんって呼んでよ」
「面倒くさい竜っすね」
「人間の方が面倒くさいよ」
ウィンダイムは、やはり子どもっぽい。
「それで、どうなんすか?」
「うん。アダマンティアは好き。かっこいいから。フレイリッグは嫌い。ウザい」
「マリニアンは?」
俺が聞くと、ウィンダイムは首を傾げる。
「マリニアンは引きこもって出てこないから、よくわからない」
「よくわからない……ねぇ。まぁ、変なアイテムくれたし納得かなぁ」
シオンが腕組みをして相槌を打つ。
「変なアイテム? どんなアイテムなの?」
ウィンダイムが興味津々といった様子で聞いてくる。
「マリニアンの恩寵ってアイテムで、使うと雨が降るっす」
「ええっ、そんなのあったら僕が協力する意味ないんじゃないの?」
「どういうこと?」
「だって、マリニアンの雨なんでしょ? フレイリッグの炎なんて消えちゃうよ?」
「え」
ウィンダイムの衝撃発言にその場の皆の動きが止まる。
「火のないフレイリッグなんてただのトカゲだよ~。あーでも、普通の攻撃も人間には痛いのかなぁ?」
ウィンダイムは、衝撃を受けている俺たちの様子に気付いた様子もなく、首を傾げている。
「えーっと、とりあえずセーレたちに報告するか……」
「う、うん」
「ウィンちゃんは、適当にその辺にいて。人は襲っちゃダメだからね」
「はーい」
ウィンダイムは返事をすると、アダマンティアの鱗を眺め始める。
セーレたちの元に行くと、バルテルとクッキーも合流していた。
「皆無事でよかったぁ……。石板のとこには行ったんだけど……反応しなくて、マップにも表示なかったから……」
「心配かけてごめん」
「うん、心配したー。洞窟とか神殿飛ばされたんだって? でも、ウィンダイム協力してくれるみたいでよかったねー。あっ、疲れてるよね。家の中入ろうか」
セーレは詳細を省いて説明したのか、マリンは軽い調子だ。
「ああ……っと、その前に。ちょっと試したいんだけど」
「何?」
マリンが首を傾げる。
「誰かソーサラーにクラスチェンジしてくれないかな」
「いいよー」
マリンがクラスチェンジをする。
「で、この雨の中で火の魔法が使えるかどうか」
マリニアンから受け取ったアイテムを使うと、ほどなくして雨雲が集まってきて、リステルの村に雨が降り注ぐ。
「ブレイジングストーム!」
マリンの周囲に煙が微かに出る。
「あれぇ? ファイアーボール」
手に一瞬火が見えたもののすぐに消えてしまった。
「サンダーボール」
マリンが近くの石ころに向けて撃った雷の魔法は発動して、石が粉々になる。
「マジなのか……?」
「ちょっとー説明してー!」
「う、うん。家の中で」
ウィンダイムに言われたことを皆にざっくり話す。
「なるほど……。しかし、本当にフレイリッグに効くという確証はありませんね……」
「そこだよなぁ。一回行って試してみる?」
「いえ、一度使えば警戒されてしまうと思いますので、得策ではないと思います」
確かに。フレイリッグには、狡猾そうなイメージがあるので、そんなアイテムがあると知ったら地上に降りて来なくなるかもしれない。
「他のモンスターで試してみたらどうかの」
「海を渡れば火炎の谷がございますね」
クッキーが言った場所は、火属性の攻撃を行うモンスターが多くいる狩場で、リステルから海を渡って西に行ったところの大陸にある。
「それじゃ、明日はそこに行くか」
夕食を食べた後、各々寝室に向かう。
「あっ、レオさん」
モカと同室の寝室に入ろうとするところで、シオンが呼びかけてくる。
「何?」
「ちょっと、お話。モカちゃんも一緒に」
三人で部屋に入ると、シオンが小声で聞いてくる。
「セーレさん、大丈夫だった?」
「ああ……。そのことかぁ……」
「ボクも気になってたっす」
二人が、真剣な眼差しで俺を見上げてくる。
どう答えるか悩むところだが、あの部屋での行動を覚えていたのなら、さすがに気になるだろう。再度合流するまでに時間もかかっていたし、セーレからも二人に話すことに関しては口留めされていない。
「……うーん……まぁ……大丈夫とは言い難かったな。俺に聞いてきたってことは、本人には聞くつもりはないと思うけど……セーレには、この話は振らないでほしい」
「う、うん……」
「わかったっす……」
「ごめんね。俺からはこれ以上何も言えないけど、自然に接してあげて。あと、マリンさんやクッキーさんにも話さないでほしい」
二人は頷く。
「まー。ボクもあの話はしたくないっすから……うん」
「そうだねぇ。さっさと忘れたいかな」
「俺も……」
「あーでも、小さいモカちゃんとセーレさんは可愛かったから、それは覚えておくね」
シオンが思い出した様子で微笑む。
「えへへ……。シオンさんも可愛かったっすよ。セーレさんも……てか、セーレさんさぁ。一回ボクの手握って笑顔で励ましてくれたの、正直惚れるかと思ったんすけど……。あれ、今思えばそういう演技っすよね!?」
「どうかなぁ。モカちゃんのこと守ろうとはしてくれたし……」
あの後、すぐに真顔に戻っていたから、どちらかというとモカの言う通り演技の可能性が高い気がする。しかし、本人に聞くのも憚られるし、聞いたところで答えてくれそうにないなと思う。
「まぁ、どっちでもいっかー。今のセーレさんとは違うわけだし」
「そうだねぇ。そういえば、レオさんも小さくなればよかったのにな~」
「俺まで小さくなってたら、突破できなかったと思うんだけど?」
「そう考えると、ボクだけ大人とかいう状況ならなくてよかったと思うっす。ボクだったら無理。シオンさん暴走しそうだし、セーレさんには見捨てられそう……。てか、あれ突破できなかったらどうなってたんっすかねぇ……」
「えーっ、暴走って……。でも、突破できなかったら……。うーん、制限時間とかあるなら時間経過で追い出されてたかも……?」
「ま、もっかい行くことはないだろうから……。でも、掲示板に注意の張り紙くらいはしていった方がいいかもしれないな」
「そうだねぇ……」
それから三人で少し雑談をしてから会話を終え、眠りに着いた。
翌朝目が覚めてリビングにしている部屋に行くと、バルテルとクッキーとシオンが何か作っている。
「おはようございまーす」
「おはよーさん」
「何作ってるんですか?」
「ウィンダイムの背中に乗って行くって言ってたけど、あまり安定しなさそうじゃから大きい籠作って、それ持って運んでもらった方がいいかなって」
確かに、その心配は最もだ。背中の上はちょっと落ち着かなかった。
「気球の下にあるようなものと思ってくださいませ」
「なるほど。俺も手伝います」
「先、ご飯食べてからでいいよー」
「了解」
朝食を食べてから三人と製作をしていると、マリンが欠伸をしながら起きてくる。
「おはよー。あれ、何か作ってるの?」
「うん。移動用の備品作ってて、もうすぐできるよ」
「朝早くから、元気だね……。わたしは朝あんまりやる気出ないわ……」
寝ぐせのついたままの髪でマリンが、机の上にサラダとパンとスープを置く。
「あれ、セーレは?」
セーレはだいたいいつもマリンよりは早く起きているから、気になったのだろう。
「まだ起きてきてないよー。昨日、いっぱい歩いたから疲れちゃったのかも」
シオンの言葉に、マリンは欠伸をしながらパンをちぎる。
「あいつ疲れるかなぁ……」
「セーレも人間だって。まぁ、そろそろモカも起こしにいかないとだし、見てくるよ」
「ふぁーい」
セーレが寝ている部屋の扉をノックする。セーレはクッキーと同室だったはずだが、クッキーは起こさずに出てきたのだろう。
「セーレ起きてる? 入っていい?」
「……はい」
俺の言葉で起きたような声色だ。部屋に入ると、セーレはベッドの上で上体を起こして眠そうに目を細めている。心なしか、普段より顔色が悪いようにも思える。
「おはよう。大丈夫?」
「おはようございます。……昨夜なかなか寝つけなくて」
セーレが寝つけなかった理由については、考えるまでもない。
「もうちょっと寝る?」
「いえ、大丈夫です」
そう言って、セーレがベッドから起き上がる。
「モカさんは?」
「まだ寝てる。これから起こしに行こうかと」
「オレ行ってきますよ」
「起こしてきてくれるなら助かるけど……面倒じゃない?」
「モカさん、寝起き面白いので」
「そうか?」
首を傾げつつもセーレに任せて部屋を後にすると、どんな起こし方をしたのかモカの悲鳴が聞こえてきた。




