32話:夢幻のダンジョン4
「わー!」
シオンとモカがそれを見て走りだそうとするのを、両手で止める。
青い空の下、白い壁に囲まれた空間の中には、観覧車にメリーゴーラウンド、ティーカップ、空中ブランコ、ジェットコースター……。扉の先には小さな遊園地があった。
人の姿はなく音楽が鳴って、アトラクションが勝手に動いている。
「不気味ですね……」
セーレの言葉に相槌を打つ。
「二人とも、何があるかわからないから気を付けて」
「えー、乗りたい」
「ティーカップぅ」
シオンとモカが頬を膨らませる。
「だーめ。敵がいるかもしれないし、罠かもしれないから……。とりあえず、出口ないか探そう」
「むー」
二人はむくれつつも後を付いてくる。
それほど広くはないので、一周するのに時間はかからなかったが、壁があるだけで出口はなかった。その間もアトラクションは動き続けていて、NPCの姿も見当たらなかった。
遊園地の中央の噴水の周りのベンチに腰掛けてため息をつく。
「お兄ちゃん、ティーカップぅ」
シオンが俺の腕を引っ張って、立ち上がらせようとしてくる。
「はいはい。わかりました」
何かしら意味があるかもしれないので、ティーカップのところまで歩いて行く。
アトラクションの入口に着くと、回っていたティーカップが止まったので、シオンとモカは入口に武器をポイと投げて中に入っていく。
武器を持って戦ってほしいわけでもないが、緊急時のことを考えると頭が痛くなる行動だ。
「ユウちゃんも」
入口で立ち止まっていたセーレをモカが誘う。
「いえ、私は……」
「この際だから、一緒に乗ろう」
俺が誘うとセーレは少し困った顔をしてから、インベントリを操作して大剣をしまう。その代わりに腰に短剣が表示される。子どもながらに心強さを感じる。
セーレがティーカップに乗ると、ティーカップの扉が閉まって動き出す。
ゆったりと回転を始めたティーカップだが、シオンとモカが嬉々として中央のハンドルに手をかける。そして、ティーカップをぐるんぐるんと回し始める。
「ぐおおおお、ちょっと加減して」
高速の回転に気持ち悪くなってくる。
「やだー」
二人が声を揃えて言う。セーレは、お行儀よく座っているだけで止めてはくれなさそうだ。
やがて時間がきたのか、ティーカップの動きがゆっくりになって、そして止まる。
「き、気持ち悪い……」
子どもに付き合わされる世の中のお父さんの気持ちが少しわかった気がする。
ぐったりとしながら出ると、ティーカップのアトラクションがほんのり光って消える。
「えーっ!」
シオンが残念そうな声を上げる。
「仕掛けなのかな……。どう思う?」
並の大人より頼りになるかもしれないセーレに聞くと、首を傾げる。
「他も試してみないことにはなんとも……」
「次あっちー」
シオンが近くのメリーゴーラウンドに走って行って、モカがついていく。
「動かないよー?」
「全員入らないと動かないのかな」
そう思って、セーレにも乗るように言ってから作り物の馬に跨ると、メリーゴーラウンドが回転をし始める。
正直これの何が面白いのかわからない。
気持ち悪くならないのは有難いが、俺はアトラクションが終わるまで、虚無顔で時間が過ぎるのを待った。
メリーゴーラウンドのアトラクションを降りると、またほんのり光って消えてしまう。
モカがうずうずと空中ブランコを指すので、ため息をついてそちらに向かう。
モカは最初のうちは人見知りで、おどおどしていたが今はもうそうでもないようだ。シオンと楽しそうにはしゃいでいる。
そして、アトラクションは、やはり四人とも入らないと動かない。
空中ブランコに乗ると、ゆっくり動き出し、そしてだんだんと加速しながら上にいって風を切って勢いよく回っていく。
考えることは、ただ一つだ。
空中ブランコも好きじゃないけど、ジェットコースター乗りたくないなぁ……。
そんなに大きくはなさそうだけれど、でも明らかに回転するゾーンが見えるし……。
いやー。嫌だなぁ。
と考えている間に空中ブランコが終わる。
そして、空中ブランコが消えて、残りがジェットコースターと観覧車になる。
「次、ジェットコースターね!」
シオンとモカがキャッキャと走って行く姿にデジャヴを感じる。
重い足取りで向かうと、セーレが下から顔を覗き込んでくる。
「乗り物、苦手なのですか?」
「……うん。ジェットコースター苦手」
「私は初めてなので、どのようなものかわかりませんが……」
「怖い?」
「いえ、少し……楽しみです」
「そっか……」
シオンとモカが先頭に乗って、その後ろにセーレと二人で座る。
「はぁ……」
ため息をつくと、ジェットコースターが動き出してじりじりと坂を上っていく。
ゆっくりと焦らすように時間をかけて動いて行く様子に、いいからもう早く殺してくれという気持ちになってくる。
そして、頂上を超えて少しすると勢いよくジェットコースターは下って行く。
シオンとモカの楽しそうな悲鳴に、俺の情けない悲鳴が混ざる。
ジェットコースターは左右に傾いたりしつつも、ぐんぐんとスピードを出して走っていき、途中で縦方向に一回転して合わせて景色がぐるりとする。
終わる頃には放心状態だ。
アトラクションを出るとすぐにシオンとモカは観覧車に向かって走って行く。
「もー、無理……」
項垂れていると、微かに笑い声が下から聞こえる。
「ふ、ふふっ」
セーレが俺の様子を見て笑っている。
以前にマリンがセーレの小さい頃は天使だと言っていたけれど、納得する。
俺の視線に気づいて、セーレが両手で口元を覆う。
「す、すみません」
「いや、いいよ。存分に面白がって……」
「いえ……困っている人を笑うのは、よくないことかと……」
なんという優等生発言。いや、実際優等生なのだろうが、少々窮屈そうだなと思う。
ジェットコースターのあった場所を後にして、最後に残った観覧車に乗る。
「うーん、つまらないねぇ」
「何もないー」
シオンとモカが退屈そうに、足をぷらぷらとさせて観覧車の外を見ている。
二人の言った通り、見える風景は何の面白みもない。
天辺まで行っても外は壁と空だけ。下は他のアトラクションが消えてしまったことで噴水しかない。
「終わったら何かあるかもしれないから、気を付けてね」
シオンとモカはやる気のない返事をして、セーレは無言で頷く。
観覧車を降りると、他と同じように消滅する。
そして、中央の噴水が光り輝いたかと思えば、姿を変えて石板が出てくる。
石板には『楽しい夢の次は……』と書かれている。
嫌な予感がする。
「皆、武器持って」
石板に触れると、黒く禍々しいオーラが出てきて、視界が闇に包まれる。何があるかわからないので、スキルを叫ぶ。
「ファランクス!」
無敵も使おうかと思ったが、一応残しておく。
そして、視界が闇に包まれる。




