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絶対不死世界エリュシオン  作者: 高森エニシ
第四章 光明
70/139

11話:海戦4

 残り一割。

 クラーケンの目玉がギョロギョロと動く。

「離れて!」

 セーレの声の少し後に、クラーケンから黒い霧が吐き出される。

「ディア!」

 目の前が暗くなったのは一瞬で、すぐにモカのスキルで解除されるが、クラーケンの触手が目の前に迫っていて防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 倒れかけたところを、がっしりとした手で支えられる。

「ありがとうございます」

 タケミカヅチに礼を言ってクラーケンの前に、再度戻ろうとしたが、クラーケンは移動しながら暴れまわっている。

「おい、こっちにこい!」

 船の前方に行ったクラーケンにスキルを使うが、予想通り効きはしない。

 プレイヤーも船も大振りな触手の無差別な攻撃に晒されて、あちこちから悲鳴が上がる。

 触手の攻撃を避けようとしたプレイヤーが、手すりのなくなった船から転落していく。

「うわぁぁああ!」

 悲鳴のあとに海に落ちた水の音が聞こえてくる。

 さらにもう一人海に落ちていき、甲板の上はパニック状態だ。

 俺はクラーケンとプレイヤーたちの間に割って入って攻撃を遮ろうとするが、クラーケンはすぐに方向を変えて動き出す。

 セーレとタケミカヅチと一部のプレイヤーは攻撃を続けているが、足場がボロボロで場合によっては他のプレイヤーが邪魔になるため、クラーケンのHPは思うように減っていかない。

 しかも、クラーケンが通った後は、水か粘液かわからないが床が滑りやすくなっていて、歩きづらさに拍車をかけている。

「きゃっ」

 クラーケンの進行方向でメロンが転ぶのが見える。

「メロンちゃん危ない!」

 マリンが駆け寄って、メロンを庇うように覆いかぶさる。

 そして、メロンを庇ったマリンはクラーケンの触手に弾き飛ばされて空へと投げ出される。

「マリン!」

 セーレは一瞬、マリンの方に駆け出そうとしたように見えたが、すぐにクラーケンへの攻撃を再開し始める。

 そして、マリンはそのまま海へと落ちていった。

「え……マリンさま……」

 メロンが船の淵から、呆然とした表情で海中を覗き込んでいる。

「転落した人は討伐後に探しに行くから、討伐優先して! このままだと被害拡大する!」

 セーレの声で、右往左往していた何人かは攻撃に転じる。メロンも立ち上がって、安全な位置へと移動していくのが見える。

 俺の攻撃力では大した助けにはならないが、触手の一本や二本は防げるはずだと、両手を広げてクラーケンに抱き着くようにして進行を阻む。

 そんな俺を、クラーケンは邪魔だとばかりに空へ放り投げてくる。

 幸い海には落とされなかったが、床に叩きつけられて大ダメージを負う。

 パラディンでこのダメージであれば、他のプレイヤーは即死しかねない。俺はヒールをもらうとすぐさま、またクラーケンへと向かって行く。

 弾き飛ばされて、回復して、また弾き飛ばされる。それを数回繰り返したあたりで、クラーケンがへなへなと崩れ落ちる。

 床にドロップ品が落ちて、討伐が完了したことがわかった。

 安堵の声を発するものはいたが、海に落ちたプレイヤーもいるので、あまり喜べる状態でもなく、控えめにお疲れ様の挨拶をしている。そして、プレイヤーの半分くらいは、その場にへたり込む。

「転落した人をこれから救出しにいきます。各パーティー全員いるか点呼してください。オークションは港についてから。ドロップはバルさん拾っておいてください」

 別段いつもと変わらない雰囲気でセーレがてきぱきと指示をしていき、各パーティーのリーダーから報告が上がる。

「合計六人ですね。転落した人のパーティーのリーダーは、マップ開いて位置追えるようにしてクッキーさんのところへ。オレのパーティーの人は念のため甲板で周囲警戒しておいてください。他のパーティーは安全なところで休憩。以上」

 そう言って、セーレは船の後方にある舵のところへと歩いて行く。


 クラーケンの死骸はしばらく残っていたが今は消えていて、俺たちのパーティー以外はほとんどが船内へと入っていった。残った一部のプレイヤーは甲板の上を掃除してくれている。その中にはメロンの姿があって、浮かない表情で拾った木片を海に投げ捨てては、時折そのまま海を眺めている。

「マリンちゃん大丈夫かなぁ……」

 シオンが散らばったロープを片付けながら呟く。

「無事は無事だろうけど、マップの表示範囲外になってたら、すぐには合流できないかもな……」

 自分たちが海に落ちた時のことを思い出す。パーティーメンバーの表示範囲はそこまで広いわけでもない。ある程度流されてしまったら、すぐに探し出すことは難しい。

 地図に載っていない孤島にでもたどり着いたら、探し出すのに何週間か、何か月か、あるいはもっとかかるかもしれない。死にはしなくとも、一人で孤独に過ごすことになれば精神的に参ってしまうだろう。

 クッキーのところにいたセーレがこちらに向かってくる。

「見張り任せてしまってすみません」

「大丈夫。見つかりそう?」

「表示がない人もいますが……。表示がある人は同じ方向に流されていますので、ひとまずそちらに向かってから周囲を捜索します」

「マリンさんは……場所わかったっすか?」

「いいえ」

「そ……そうっすか……」

 話しているとメロンがこちらに歩いてくる。

「あの、セレさま……。わ、私のせいでマリンさまが……。すみません」

「あの場でヒーラーを庇うのは正しい判断ですから、メロンさんが気に病む必要はありません」

「あ……そういう話じゃ……」

 メロンが俯いて黙り込んでしまう。

「えっ? ええと……」

 メロンの様子をセーレが困った様子で眺めている。

「セーレ。今のはヒーラーとかゲームの話じゃなくて、お前の親友を危険な目に合わせてしまったことに対しての謝罪だと思うぞ」

「あ、ああ……。メロンさん。オレは気にしていません。元はと言えばオレがクラーケンやりたいとか言い出したからこんなことになったわけだし……。マリン救出したらお礼言ってあげてください」

「は……はい。すみません……」

 メロンは泣きだしそうになっていて、セーレが焦っている。

「あの……。メロンさん、クッキーさんのところ一緒に行きましょう。進展あればすぐにわかりますし」

「はい……」

 セーレはメロンを連れて、再びクッキーの元へ戻っていく。


 捜索を開始してから三十分ほど経つと、クッキーの周辺にいたプレイヤーたちが動き出して、船に積まれていたボートを海に下ろし始める。

 船の上から手を振っているプレイヤーもいるので、誰か見つかったのだろう。

 気になって俺たちもクッキーの元に行く。

「見つかったの?」

「はい。多少位置は異なりますが芋づる式に全員の位置がわかりましたので、順に迎えを出します」

 クッキーが答える。

「はー。よかったぁ~」

 シオンが安堵のため息をつく。


 海に落ちたプレイヤーのうち二人は海を漂っているところを救助し、その他は小島に流れ着いていて近いところから順に救助して、最後に残ったマリンをセーレとメロンが迎えに行って、無事全員回収することができた。

「ただいまー。海ちょー寒かった~」

 軽い調子で言っているが、マリンの唇は紫になっていて、きっと寒いどころではないだろう。

「うう、私のせいですみません……」

「あーっ。大丈夫。平気平気~。私海好きだし!」

「マリンさまぁ~」

「ほらほら、泣かない泣かない。そうだ、温めて~」

「は、はいいいい」

 メロンがマリンに腕を回してぎゅっとする。

「二人は、中で休んできて」

「はーい。行こっ、メロンちゃん」

 セーレの言葉にマリンとメロンは、手を繋いで船内へと姿を消す。

「セーレも中で休んだら?」

「オレはいいです」

 セーレが懐中時計を取り出して時間を見ている。

「ターハイズ戻りましょう」

「畏まりました。では、帰りは自動航行で」

 クッキーが舵を握ったまま空中を操作して、行き先を決定させる。

「皆様、お茶でございます」

 クッキーが甲板にいたプレイヤーたちに呼びかけて、お茶を配っていく。

 俺も受け取って飲むと、身体が少し温まる。


 帰りは何事もなく進んでいって、夕暮れを少し過ぎたあたりで港に着いて、それからドロップ品のオークションと分配をして解散となる。

 海に落ちたプレイヤーが合流してからは、討伐メンバーの空気も明るくなって、別れ際には賑やかに挨拶が交わされた。

「えへへへへ~」

 宿へと戻る道すがら、シオンが競り落とした槍を持って嬉しそうに頬ずりをしている。

「シオンさん、危ない人になってるっすよ」

「はっ……」

 モカの言葉に、シオンは槍を身体から引き離す。

「クエスト報酬は明日にする?」

「そだねー。今日は疲れちゃったから明日にしよ。行って帰ってくるだけで一時間はかかるし、何かあるかもしれないし」

「りょーかい」

「あー、わたし途中で落ちちゃったけどクエ完了になんのかな……? ま、明日明日」


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