7話:進水式
船の製作を始めた翌日からは、暇を持て余していたらしい他のギルドもなんだなんだと寄ってきて手伝ってくれるようになり、想定より早いペースで進んでいった。
バルテルが素材の買い取りを申し出たが船が完成したら乗せてくれ。という話でまとまった。
そして、製作開始から数日。
「それでは、進水式~!」
マリンの号令にわらわらと桟橋にプレイヤーが集まる。人数としては三十名前後だ。
「とうっ」
マリンが言うと、何もなかった海の上に突如大きなガレオン船が現れる。この辺りの仕様はイマイチ風情がないなと思いつつも、大きな船ができたことには嬉しくて皆で船に乗り込む。
「敵と遭遇したら困るので、移動はしませーん。好きに見て行ってください!」
この世界で船に乗るのは初めてではなかったが、新しいものはやはり楽しい。甲板や船内を歩いていると、作業に協力してくれたプレイヤーたちも楽しそうに見て回っている姿が見られる。
「大砲撃っていいですかー?」
シオンが大砲の前でそわそわしている。
「いいんじゃない? そっち海しかないし」
「わーい……って、あれ?」
「撃てないの?」
「あー……。弾は別に作らないとダメみたい……」
「どれどれ」
大砲に触れてみると、弾が足りない表示が浮かび上がる。素材はセーレが集めていた結晶だ。
「セーレー!」
声を張り上げて呼ぶと、しばらくしてからセーレがやってくる。
「どうしました?」
「結晶持ってない?」
「どの結晶です?」
「なんでもいいみたい」
「どうぞ」
火と水の結晶をもらって、ひとまず火の結晶をセットして操作をしてみると火の弾が飛んでいく。
「おー」
続いて水の結晶をセットすると氷の塊が飛んでいく。
「属性で変わるのか」
「私にも結晶くださーい」
「はい」
シオンが大砲を使うと、今度は岩や光線が大砲から飛び出て行く。
「威力、どれくらいなのかなぁ?」
「気になりますね」
「それは明日以降にね」
一通り船を堪能して、協力してくれたプレイヤーと一緒に打ち上げをして、ほろ酔い気分で皆で宿屋に戻る。
「船できたらクラーケン倒せそうな気がしてきたっす!」
「そうだねー。明日行ってみる?」
酔っぱらったモカとマリンが楽しそうに話すところにセーレが口を開く。
「いえ、倒すのは無理でしょう」
「えっ、なんでっすか?」
「単純に人数が足りないと思います。以前交戦した時の手応えと、船の構造からしてクラーケンはレベル90前後の大規模レイドで間違いないと思います。90台のプレイヤーが少なくとも五十名以上……いえ、大砲を考えるともう少し人数がいないと難しいのではないかと」
確かに船は大きく大砲は合計で二十門あった。
マリンがセーレの額に手を当てる。
「何」
「とりあえず行くとか言わないから熱でもあんのかなって」
「まぁ……戦ったことのない敵なら、そうかもしれないけど一回戦ってるから」
マリンの対応にセーレはため息をつく。
「そっか。あんた、とりあえず殴るイメージだけど分析はちゃんとしてるもんね」
「それは褒めてるの? 貶してるの?」
「褒めてるよ! しかし、そうなると……うーん、アキさんとかタケさんとこ手紙出してみるかなぁ……。あーでも、アキさん大砲に目つけそうだし一旦宛先メロンちゃんで……」
「他のギルドに声かけるかどうかは任せるけど……。そもそも船から落ちたら海の藻屑か無人島に漂着する可能性ありますが、皆さんはそれでも討伐に参加されますか?」
「俺は文字通り乗り掛かった船ってやつかな。マリニアンのこと気になるし付き合うよ」
「私は、海戦ちょっとしてみたいかな~」
「わしも。せっかく船造ったしね」
「皆が行くならわたしも行くよ~。マリニアンがお願い聞いてくれたら助かるし」
「ボクはまぁ……。うん、クラーケンには恨みがあるんで、一泡吹かせてやりたいっす! 無人島は、経験を生かしてなんとかするっすよ!」
「わたくしは、皆様が行かれるのであれば火の中水の中」
「……皆さん、意外と命知らずだったのですね」
命知らずと言うほどでもないが、これはセーレに付き合っていたことが多分に影響しているとは思う。また、マリニアンがあるいは現状の打開策を何か持っているのではないかという期待もある。
討伐する方向で話が進んで、翌日にミミのいるギルドの扉を叩く。
「こんにちはー」
「はい。あっ、レオンハルトさん。こんにちは」
ミミがぴょこっと片手を上げる。可愛い。
「ちょっとお願いがあって……」
「私にできることであれば!」
「知り合いのギルドに手紙出すんですけど、返信先をミミさんのところのギルドにできないかなと」
「それなら、問題ないですよ~!」
「ありがとうございます」
「届いたお手紙、内容見ちゃう可能性ありますけど、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
「はーい」
ミミに礼を言って、宿に戻る道すがら掲示板の方に行くと、マリンが張り紙をしようとしている。
「あっ、レオくん。ちょうどいいところに。上の方ちょっと届かなくて手伝ってもらえる?」
「了解」
マリンが持っているものは、手書きのチラシで『クラーケン討伐者募集中!』と書かれている。注意書きとして、クラーケンの予想難易度や、死ぬ可能性、流されて無人島に漂着する可能性がありますとも。
「サンキュー」
「セーレ連れて来ればよかったのに」
「あいつ、結晶集めてくるって行っちゃってさー」
「はは……。しかし、ここで募集だして集まるかな?」
「まぁ、あまり期待はしてないけど、製作手伝ってくれた人の中に討伐するなら参加したいって人いたんだけど、連絡先わからなくてさ」
「物好きだね」
「うちのギルドが言うなって話だけどねっ。危ない橋はわたりたくないなーって思ってたはずなのに、なんかこう……倒せそうって思ったら、冒険を求めてしまうことってあるよね」
「そうだね。なんだかんだ強敵倒せると楽しいもんな」
昼食後、掲示板の伝言用にクッキーだけ宿に残して、皆で船に乗り込み岩が突き出ている海岸付近へと赴く。
岸も近いのでさすがにクラーケンは来ないだろう。
「わーい、撃ちまーす」
シオンが岩に向けて大砲を発射すると、手前にあった岩が粉微塵に砕け散る。
「わぁ……結構すごい」
「戦争で使われたやつより強いんじゃ……」
「う、うん……。人に向けて撃っちゃダメだね」
「見た目魔法っぽいけど、その辺影響するのかな」
疑問を口にすると、セーレがクラスチェンジして大砲を撃つと、先ほどと同じように岩が砕け散る。
「……あまり変わりありませんかね。誰かレベル低いサブ出せますか?」
「じゃあボクやってみるっす。えーっとレベル31」
モカが何かにクラスチェンジをして大砲を撃つと少し勢いのない弾が飛んでいって、岩に当たる。岩は多少砕けたが、先の二発と比べると見劣りする。
「威力はレベル依存のようですね。反対側行って射程も調べましょう」
「はーい」
セーレの後にシオンが楽しそうに着いて行く。
「あの女子二人、ちょっと物騒っすよね」
「アタッカー脳というやつじゃないかな……」
「アタッカーで、ひとくくりにするのやめてくださーい」
と、マリンが後ろから声をかけてくる。
「ごめん」
「すみませんっす! でも、マリンさんは、なんでアタッカーやってるんすか?」
「昔見た映画の影響で、エルフと言ったら弓かな~って」
話している間に大砲が発射される音がして、大砲のあるところに行くとセーレとシオンが首を傾げている。
「うーん……距離把握し辛いですね」
「そうだねぇ。目印もないし距離感わからないねぇ。46cm砲の射程は40kmくらいあったっていう話だけど、さすがにこれはそこまではなさそうかなぁ」
「へぇ……。でも、そこまで離れてしまうと当たらなさそうですね」
「そうそう~着弾までに時間もかかるから避けられちゃうはず」
二人が話している横でバルテルも大砲を発射する。
「確かに距離はわからんね。何kmかはありそうじゃけど……。クラーケンも動くだろうし、ある程度近づいてからじゃないと当てるのは難しいかもしれんの」
「じゃー、こんなもんで帰る? クーちゃん一人で寂しいだろうし」
マリンの一言で宿に戻ればクッキーの他に、ミミと他三名がクッキーを囲んで食堂にいた。
「おかえりなさいませ」
「ただいまー」
「こちらの方々が、クラーケン討伐に参加したいそうです」
クッキーが椅子から立ち上がって、討伐参加希望者を紹介する。
「あれ? ミミさんいいの? 危ないよ」
ミミは出会った時の印象が強くて、あまり戦いには向いていなさそうな気がする。
「いやー……。以前、オークから助けていただいた時に、お二人がかっこよくて……。その時から、私もちゃんと戦えたらかっこいいな~。困っている人いたら助けられたらな~って思って、少しレベル上げもしていたので、空きがあったら是非」
「そっか。ありがとう」
自分の行動が他人の行動を変えるとは思っていなかったので、なんだか少し照れくさい。
「ありがとー。まだ人集まるかどうかわからないけど、進展あったら連絡するね」
「はい!」
弾の素材を集めつつ、手紙を出したギルドからの返信を待っていると五日経った頃に、メロンとアンネリーゼから返信がくる。イーリアスは城に人を残さないといけないので参加できるのは十名前後、色即是空は十五名前後を予定しているという内容だった。他のギルドにも声をかけてからこちらに向かうとあったので、ひょっとしたらもう少し増えるかもしれない。
街の掲示板の募集でも少し人が集まって、ターハイズを拠点にしているギルドのプレイヤーが十二名。
「行けそうじゃない?」
お茶を飲みながらマリンが言う。
「うん。メロンさんやタケさんの知り合いがどれだけくるかわからないけど……。あの二人の知り合いならレベルも高そうだしな。現地の人で応募あったのもだいたいレベル90前後だから……」
話していると、バンっと宿屋の扉が開いて体格のいい男が姿を現す。
「おう。来たぜ!」
そう言ったのはタケミカヅチだった。
「あれ、手紙の返信さっき届いたんだけど?」
マリンが首を傾げるとタケミカヅチが豪快に笑う。
「手紙見てすぐに飛び出してきたからな! まぁ、俺だけ飛ばしてきたから他のヤツらはまだだが」
「それでは、そちらのギルドの参加者の職とレベルを教えていただけますか?」
クッキーがペンを持ってタケミカヅチを見上げる。
「おう。それはだな……。えーっと、すまんアンネに聞いてくれ!」
「タケさん、なんのために先にきたの……」
「手紙届かなかったら困るだろ!」
「うん、そうだね……」




