2話:火竜の住まう山2
石像のある部屋から帰る途中に、通ってない道に隠し通路などないかを探ってみたが結局何も見つけられずに終わった。
夕暮れも近づいてきたので、ひとまずベレリヤの温泉宿で部屋を取ることになった。
「四人部屋しか空いてないけどいい?」
「いいですよ」
「はーい」
ベレリヤで他のプレイヤーをちらほら見かけたのはカーリスから近いからというより、温泉があるからだったのかもしれない。思ったより宿の部屋の空きがなかった。
部屋に入ると和室になっていて、微かに畳に使われているイ草の香りが漂ってくる。窓の向こうには露天風呂がある。
「和室はなんだかテンションがあがりますねぇ」
「そうですね」
メロンの言葉にセーレが頷いていて、表情も楽しそうだ。
「和室珍しい?」
「私は、昔住んでた家にはあったんですけど、今はないですねぇ……」
「オレの家は洋室しかないので」
「まぁ、最近の家はフローリングだよな」
俺も実家には和室はあったが、今の一人暮らしの部屋はフリーリングの1DKで、久々に和室を見ると少々懐かしさを覚える。
「あっ、普通のお風呂もついてますね」
メロンが部屋の中の扉を開けて確認している。
「では、オレはそちらで」
「私も普通のお風呂の方かな~」
露天風呂が目の前にあってそっちを選ぶのか。とも思ったが、衝立があるにしても中や外から見えなくもないので、おかしなことでもないのかもしれない。
結局、俺だけ露天風呂に入る。露天風呂は、大人が数名入れそうな広さがあって思いっきり身体を伸ばせる。
「ふぅ~」
以前雪山で入った温泉も心地よかったが、宿屋の温泉ということもあってかこちらの方が気楽に過ごせる。そういえば、雪山でセーレは俺が温泉に入ることに不満そうだったが、あれは裸になったら防御力が下がる云々ではなく理由はもっと別のところにあったのでは……と気づいて、猛烈に恥ずかしくなってきて、湯にぶくぶくと頭を沈める。
長風呂から戻ると、二人は浴衣を着て座敷机に紙を広げて何事かしている。
「何してるの?」
覗き込むと紙の中央には直線的な何かがいくつか描き込まれている。見た感じ梯子のように見える。その他にはウサギや果物の絵も描かれている。
「うーん、洞窟の上まで脚立とか梯子で行けないかな~って話してたんですけどぉ……」
「オレたちには工作はわかりませんでした」
「形状どうしていいかわからなくてレシピ作れませんっ」
「うん……。とりあえず、あの高さをそれで行くのは難しいんじゃないかな……」
「そうですね……。では、壁を破壊して無理やり……」
「生き埋めになるかもしれないからやめて」
こいつなら本気でやりかねないので、セーレの提案を却下しておく。
「はっ! 閃きました! 人間大砲で天井まで……」
「それも却下」
「えーっ」
「なんで?」
メロンの提案を却下すると二人とも不満そうな顔をする。もしかしたら、俺の方がおかしいのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。
「うーん……、どうやって行くかは、また明日考えるか」
「そうですね」
皆、畳の上に敷かれた布団にともぞもぞと入っていき、部屋の照明を落とす。
「レオさま」
メロンが静かに俺の名前を呼ぶ。
「今日は誘っていただいてありがとうございました」
「いや、こちらこそ付き合ってくれてありがとう」
「えへへ……。イーリアスにいると、ちょっと気が抜けなくて……。あ、それが苦痛というほどじゃないんですけど……ギルドは好きだし……。でも、今日は旅行みたいで楽しかったです」
「そっか」
「はい」
「二人は、元の世界に戻りたいと思う?」
「私は……最初はここの暮らしもいいかなって思いましたが……PKの件や戦争あってから、やっぱり……元の世界のがいいなぁって思っちゃいました」
「……オレは正直どっちでもいいですけど、皆さんとゲーム外で会うのも楽しそうかな……と思います。レオさんは?」
「俺はできたら戻りたいな。こっちの生活も楽しけど、やっぱ土台が違うし限られた人数しかいないから、この先ずっと暮らして行くならどこかで限界が来るかもしれないし、戦争よりもっと悪いことが起きるかもしれないって思うとな」
「……それで、フレイリッグを再度倒して願いを叶えたいと?」
「あれ、バレてたの?」
「そっかー。お願い聞いてくれるかもしれませんものね」
「二人は……フレイリッグ討伐するって言ったら……」
「参加しますよ」
「私もっ!」
「頼もしいな。でも……」
「まぁ~……難しいでしょうねぇ……。戦争より悲惨なことになりそう……」
「だよな……」
一晩ぐっすり寝てから、窓から差し込む陽の光に起こされる。なんの変哲もない爽やかな朝だ。
セーレが光を避けて布団に潜るのを見て、起こさないようにそっと外に出る。
標高が高いからか、カーリスより寒い。
フレイリッグのいる山を見上げると、山は来る者を拒むような断崖絶壁で、草木も生えない頂上は雲に覆われて見えない。
「さすがに、山を登るのは無理か……」
と思っていたが。
「レオさん、メロンさん、ロッククライミング用の装備が売っていましたよ! オレ一度やってみたかったんですよね~」
と、セーレが満面の笑みを浮かべて、ウキウキしながら登山用の道具を見せてくる。
「珍しくセレさまのテンションがお高い……」
セーレの表情はこの世界にきた当初より顔に出るようになってきたなとは思っていたが、メロンの言った通り、ここまで楽しそうなのは珍しい。
「そこの雑貨屋で装備売っていますよ」
「いやー……。オレは無理」
「私もノーサンキューですっ」
「……なぜ?」
セーレが、信じられない。という表情をする。
「なぜもなにも、無理だろ。あの高さを知識もなしに登るとか。落ちたら死ぬだろうし」
「死んでも生き返るから安全では……?」
セーレが首を傾げる。
「安全の概念を崩壊させるな。まぁ、とにかく無理だよ。時間も相当かかるだろうし、今後討伐ってなった時に皆でぞろぞろ登るのは無理がある」
「……うーん、では……」
昨日訪れた石像のある大きなフロアにまた、三人で訪れる。
「行ってきますね」
セーレが明かりの差し込んでいるところを目指して、先ほど購入した道具で壁をよじ登って行く。時折、岩が崩れて落ちてくるので、メロンが落ち着かなげにうろうろしている。
「はわわ……」
壁の下の方は直角になっていて、上にいくにつれて内側に向かって傾斜がきつくなっているので、登るには全く適していない構造だ。
「無理だったら下りてこいよー」
声をかけるが返事はなく、セーレは黙々と壁を登っていく。
作戦としては、セーレが上まで登って、そこからロープを垂らして俺たちを引き上げるというものだ。
セーレを見ているとわりとすいすいと登っていく。ゲーム的な何かが働いているのか、本人のセンスなのかは謎だ。
そして、思ったよりもあっさりと上に到達する。
「足場安定しないので、もうちょっと先見てきます」
そう言うと、セーレの姿が視界から消える。
「だ、大丈夫でしょうか~」
メロンがぴょんぴょんと上を覗こうとしている。もちろん見えはしない。
しばらくすると上からロープが落ちてきて、セーレが顔を出す。
「一人ずつどうぞ」
「えーっと……」
メロンと顔を見合わせる。
「敵来たら困るし、先にどうぞ」
「はーい」
メロンがロープに伸ばした時に「はっ」と何かに気付いて、装備を変更している。
首を傾げていると、スカートから七分丈のパンツになったのを見て、理由を察した。
見るつもりもなかったのだが、なんだか申し訳ない。
「引き上げますね」
「は、はい……!」
メロンがロープにつかまると、すいすいと上に引き上げられていく。メロンが引き上げられてしばらくすると、再びロープが下りてくる。
「どうぞ」
つかまるとメロンの時と同じように引き上げられていく。途中で下を見て、その高さに少々後悔してしまった。
岩の隙間にたどり着くと、そのまま穴が少し続いていて、さらにその先の大きな岩にロープの先端が固定されていた。
穴の先には空が見える。
「出て大丈夫?」
「はい」
穴から出ると、ごつごつとした岩が連なる坂になっている。坂は人が横に数名は通れそうな広さだ。四方は岩の壁に囲まれているので、どのあたりなのかはわからない。
気のせいかもしれないが、空気が薄い気がする。
坂は上に向かって続いているものの、先の方にはいくつか大きな岩が見えているので、その先に進めるかどうかはわからない。
足場はでこぼことしていて少々歩きづらい。
「ふあ~寒いですね……」
「フレイリッグの攻撃をくらえばすぐに温まりますよ」
「それは嫌ですぅ」
喋りながら進んでいくと、自分の身長より少し高いくらいの岩があって、先に進めない。
セーレが岩に、ひょいと飛び乗る。
「どう? 先進めそう?」
俺の言葉にセーレは人差し指を口元に当てて、静かにという仕草をしてから手招きをする。
いくつか足場になりそうな箇所はあるので、それを使って上に登ると壁に囲まれただだっ広い広場が見え、中央には大きな赤い塊が見える。
フレイリッグだ。




