11話:ハロウィンナイト1
秋も深まってきたある日。と言っても、ゲーム内の景色に紅葉はなく気温が違う程度だ。
ギルドのメンバーと一緒に古代遺跡と言われる狩場で狩りをしている。この狩場には慣れたもので、今やスポーツ感覚になって軽口を叩く余裕すらある。敵はゴーレム系の敵なので、攻撃することに抵抗もない。
「あっ、ごめーん。違うの撃っちゃった」
「はいよ。セイクリッドチェーン」
マリンが間違って攻撃した敵を引き寄せてターゲットをはがす。
それをアタッカー陣がごりごりと削って行く。
シオンもすっかり成長して、レベルはもう90台。セーレとバルテルが甘やかして装備をあげていたのもあって、立派なアタッカーだ。槍を武器にした中衛ポジションで皆の動きをよく見ていて、そつなくサポートをしてくれる。おかげで、俺とセーレは前に集中していればいい。
モカもこの世界でのメンバーのHP管理がすっかり身について、ヒールにも不安がない。
「おっ」
セーレにレベルアップのエフェクトが発生する。
「99」
「おめでと~」
皆でセーレを祝う。普通のゲームだった頃のように狩りをしまくるという状況でもなかったものの、ついにカンスト者が出てしまった。他のプレイヤーはあまり見かけないので、カンストの最速達成者はセーレだろう。
「カンストかー。うける」
「マリンも、もうちょっとでしょ」
「いやー。このペースだと、あと一か月はかかるよ。装備どうすんの?」
「あと足だけ。現物も素材も全然売ってないから、ドロップ拾うしかないね」
「そりゃねー」
狩りに出るプレイヤーが少ないので、高レベルの装備が売っていないのは当たり前である。俺も95にはなったが、足りないパーツがあって装備移行はまだ先になりそうだ。
「それじゃ、ちょっとスキル試してきます」
セーレは敵が密集しているところに走って行くが、好きにさせておく。
「ウルフヘジン!」
セーレの周りにぶわりと派手なエフェクトが舞い上がって、身体から赤いオーラが出ている。
そして、周囲の敵がものすごい勢いでなぎ倒されていく。
「うわ、やべー」
マリンがセーレの様子を見ながら呟く。
赤いオーラが消えると、セーレがニコニコと帰ってくる。楽しかったらしい。
「セーレさん、さっきのスキルどういうスキルなの?」
シオンがセーレにスキルの効果を聞いている。
「はい。攻撃力、攻撃速度、移動速度、そしてクリダメアップです!」
「わーっ。攻撃速度とクリダメいいなぁ」
セーレに連れまわされた弊害か、シオンはすっかりアタッカー脳になっている。
「効果三十秒ですが、強化すれば恐らく一分までは伸びますね」
「いいなー! あっ。そうだ、スキル強化迷ってるんだけど、ランドグリーズとパッシブだとどっち優先したほうがいいかなぁ」
「そうですね。デバフはレベル上げた方が入りやすくなるので、3止めにしてパッシブ優先でいいと思いますよ」
「はーい」
「平和だなぁ……」
きゃっきゃしている二人を見ながらしみじみとする。
狩りの帰りに皆で掲示板を見に行くと、ハロウィンパーティーのお知らせがでていた。
「わーい、参加しよ~」
マリンとモカがさっそくやる気になって食いついている。
「ハロウィンといえば、やっぱコスだよね。家帰って相談しよ!」
と、ぞろぞろとギルドハウスへと帰って、相談を始める。
マリンとモカは魔女衣装にするといい、クッキーはお化けをすると言っている。
「わしもクーさんと一緒にお化けにでもしようかの」
「レオさんは狼男がいいと思うっす!」
「レオさん犬系男子って感じだもんね~」
「わかる~」
「犬……? よくわからないけど、それでいっかなー」
特別やりたいものもないので、似合いそうだというのならそれにしよう。
「シオンちゃんはヴァンピールだし、そのまま吸血鬼似合いそうだよね。セーレの吸血鬼は新鮮味薄いからなぁ……レオさんと一緒に耳つけとく?」
「え。オレも参加することになってるの?」
「皆行くんだから、当たり前でしょ」
「セーレさん、一緒に参加しよ~」
「……わかりました」
近頃はセーレも、だいぶ付き合いがよくなってきていて、誘われればあまり断らない。ついでに言うと、シオンには甘い。
そして、すぐに皆で衣装作りに取り掛かる。
「お菓子も欲しいですね」
と、クッキーがハロウィンのお菓子をデザインし始める。食べ物は製作画面からのオリジナルレシピと、自分で一から設計するオリジナルレシピの二種類があるらしい。
「わしはビールかのう」
「ハロウィンはそういうんじゃないでしょ」
「オクトーバーフェストも混ぜていいと思うんじゃが」
わいわいと談笑していると、呼び鈴が鳴らされる。
「はーい」
俺が扉を開けに行くと、扉の先には黒猫のモッフルがいた。
「ご無沙汰しておりますにゃ」
黒猫オーケストラのギルドマスターのシャノワールだ。
「ああ、お久しぶりです。中どうぞ」
「では、お邪魔しますにゃ」
皆がいる机とは別にある、低いテーブルとソファがあるところに案内すると、クッキーがやってきて紅茶と菓子を置く。
「ご無沙汰でーす。何か御用ですか?」
ギルドマスターであるマリンがシャノワールの向かいに座って話を始める。
「はい。カーリスで行われるハロウィンパーティーで、ライブステージを作る予定ですにゃ。それで、よかったら皆様にゲスト出演していただけないと思いまして、お伺いした次第ですにゃ」
「わー。たのしそー! だけど……」
マリンがセーレをちらりと見ると、セーレが渋い顔をする。
「まぁ……。皆さんがやりたいのであれば、お付き合いしますよ」
「じゃー、やりたい人―!」
モカが勢いよく手を上げて、シオンがおずおずと手を上げ、俺も手を上げる。なんだかんだ楽しかったので、皆がやるなら俺も参加したい。
「わしらは裏方じゃけど、面白そうだからね。はい」
バルテルとクッキーも手を上げる。
「じゃあ、やるってことで」
セーレはため息をついたが、反論はしなかった。
「ありがとうございますにゃ。前回と比べるとかなり見劣りしまって申し訳ないのですが、出演料として5Gのお支払いをいたしますにゃ」
「うーん、お金はいっかなぁ。うちのギルド、財閥いるから気にせずに他のところに充ててもらった方がいいと思う~」
「にゃ、にゃー……。では、ありがたく。では、こちらだけお納めくださいにゃ」
シャノワールが、四角い箱を机の上に置く。
「オルゴール?」
「はい。オルゴールを改良したもので、最大64bitまで……まぁ、音がいっぱい出ますにゃ」
「魔改造じゃん」
マリンがツッコミを入れる。
「こちらには、皆様が歌われた楽曲の演奏もいれてありますにゃ。ちなみに、こちらが楽譜を作る際のマニュアルですにゃ。と言っても、元のゲームの時の楽譜とあんまり変わりございませんにゃ」
そういえば元のゲームの頃から、楽譜を作って自動演奏できるという機能があった気はする。
「ありがとー。曲は前と同じのでいいのかな? 他のだとちょっと練習している暇ないかも」
「はい。問題ございませんですにゃ。ステージは聖堂前の階段を利用で、広さは少し変わりますが気ににゃらない程度かと思いますにゃ」
「オッケー」
「こちらが、イベントについてまとめたものになりますにゃ。草案ですが大幅には変わらにゃいですにゃ」
マリンが、シャノワールの差し出した紙を手に取る。
「はーい」
「では、今日はこれにて。また何度か打ち合わせに参りますにゃ」
シャノワールがペコリとお辞儀をしてギルドハウスから出て行く。
「お気をつけて~」
シャノワールが去ったあと、マリンが紙を見ている。そして、吹き出す。
「どうしたっすか?」
「いや、喋る内容の指定があったんだけど、あははははっ」
モカがどれどれと見に行って、やはり笑い出す。
「こ、これはやばいっすね! あははっ」
「え、なになに?」
「どうした?」
俺とシオンもマリンから紙を受け取って確認する。
内容は、セーレに喋ってほしいというもので、そのセリフが『さぁ、子猫ちゃんたち盛り上がっていこうぜ☆』であった。
「あっははははっ」
「ぶはっ、これはねーわ!」
「はー、想像したらくるし……ちょっとセーレ、これ言ってみてよ」
マリンが、腹を抱えながらセーレに紙を渡し、それを確認したセーレが眉間に皺を寄せる。
「…………無理」
「だよねー! あはははっはは」
「オレじゃなくて、レオさんに言ってもらいましょう」
「それも、あははっ」
「俺も無理だよ!」
ひとまず、それは今度の打ち合わせで修正してもらうことにして、衣装作りとステージの練習をすることになった。
「衣装変えたし、フォーメーションも一部変えようか」
「そうっすねぇ」
「あっ、そうだ。バル爺たちも踊りなよ」
「年寄りになにを」
バルテルが大げさに驚いたポーズをとる。
「後ろでピョンピョンしてるだけでいいからさ~」
「ほほう、わたくしは構いませんよ」
「ええっ、クーさんのるの?」
「リアルより体力ありますから大丈夫でしょう。この前のステージ楽しそうでしたし、バルテル様もどうぞご一緒に」
「うーん、一人だけ居残りも寂しいし、顔も出ないからやってみようかの」
バルテルとクッキーの衣装は頭に南瓜を被ったおばけのコスプレで、後ろで動いているのは愛嬌がありそうだ。




