10話:不穏な兆し3
ギルドハウスへと戻る道すがら、バルテルとシオンは掲示板や店をみてから帰ると言い、途中で別れる。
セーレの姿に気付いたプレイヤーがいたが、遠巻きに見ているだけで寄ってくる気配はない。セーレはまだ対人装備のままなので、それも近寄りがたい要素の一つだろう。
「平和になりました」
「モテモテだったのに、もったいない」
「あまり……そういう視線に晒されるのは好きではないので」
「そうだな~。俺も話しかけられたけど、ちょっと落ち着かないよな」
ギルドハウスがある通りまで行くと、他のプレイヤーの姿がなくなって、ひっそりとしている。
溜池があるところに差し掛かるとセーレが足を止める。そして、池の柵に手を置いてため息をつく。
「どうした」
「うーん……」
「お兄さんがお悩み聞いちゃうぞ?」
「どうしようかな……」
セーレが歯切れ悪く、右手を軽く額に添えて考えている。しばらくするとその右手で前髪をかき上げる。
「引かないでくださいよ」
セーレが、柵を背にして俺の方を向く。
「お、おう……」
保証はできないが。
「ここにきて、初めてプレイヤー斬ったけど……。なんかあんまり、いえ、全然……抵抗なかったなって」
「……うん」
「一番最初に斬ったプレイヤー見て、それが生き返るの見たら、やっぱりゲームの延長線上だなって思ってしまって。それからは特に何も感じなくて、NPC斬るのと変わらない感じ。前に馬車のクエでNPC斬った時も、グロテスクだなって思ったけど……それだけでしたし。やっぱ、オレ変かな……」
どことなく、寂しそうな表情でセーレが言う。
確かに、一般的ではない感性だろう。しかし、何も感じないところを気にしているあたりは、人間らしくもある。
「俺は……、観戦していて最初は目を背けたくなったよ。生き返るって言っても人間同士だし」
「うん……」
俺の言葉にセーレが俯く。
「でも、生き返るの見続けていたら、終盤はあんまり……。格闘技の試合観戦するのと似た感覚かな……。もっと至近距離で見る場合や、自分が戦うってなったら、また変わってくるだろうけど……。慣れたりゲームだと割り切れたりっていうことはあると思ってて、えーと……。とりあえず、斬ることに抵抗がなかったとしても、倫理観とか気にしているうちは、きっと大丈夫だと思うよ」
「そうかな……」
「それに、セーレは仲間想いで優しいところあるから、俺は気にしないよ」
「は、はい。……ありがとうございます」
そんな言葉でよかったのかどうかはわからないが、俺の言葉にセーレは少し表情を和らげる。
「まー。俺は、お前が相手プレイヤー傷つける時より、撃たれた時のが胃にきたな」
「あれは……。オレも一瞬何かわからなくて、二発目まで動揺してモロにくらっちゃいました。もうちょっと威力高かったら危なかったな……」
「HP減らしたのはわざとなの?」
「そうですね。少しくらっちゃったから、これは派手に勝って相手ギルドの心折っておいたほうがいいかなって思って」
銃弾を受けておいてそういう発想になるのは、やはり少々人間離れしているとは思う。
「でも、さすがにあそこまでHP減るとしんどかったです。喋るのもやっとで、倒れるかと……って、今のナシで。忘れてください」
珍しく焦った表情でセーレが言うのが、ちょっと可愛らしい。
「なんで?」
「なんで……って、オ、オレのイメージじゃないでしょう」
「別に、人間なんだから緊急時に焦ったり、弱ったりとかするのは当たり前だろ」
「それは……」
「俺はお前に人間らしいとこあるの見る方が安心するよ。あと、戦ってる時よりかは、ライブの時に楽しそうにしてたのとか、マリンさんと話してる時のお前の方が好きだな」
「は、恥ずかしいことを言いますね」
そう言うと、セーレは照れたのか視線を逸らしてそっぽを向いてしまう。
「とりあえず、次に銃弾飛んで来たら俺が守るよ」
「いえ、もう避けれると思うので大丈夫です」
「お前、可愛くないなぁ~」
「……じゃあ、ガトリングきたら守ってください」
「お、おう……! 任せろ!」
「ふふっ、びびってるじゃないですか」
「当たり前だろ、ガトリングとかマシンガンとかこえーだろ!」
「はははっ、オレはちょっと戦ってみたいですけど」
「俺は戦いたくないな~」
「しかし……」
セーレが笑顔をひっこめて、少し俯く。
「何?」
「銃、あれだけで終わるのかなって……」
「あれだけって……?」
「だって……、あれ量産できたらやばいでしょう? スキルなしであの威力。ローブ職なら、高レベルでも下手したら即死ですよ」
それが量産されたら、どうなるのか。
銃を見せびらかす場を作ったようなギルドだ。何に使うかと想像すれば、穏やかではない。
「ま、考えても仕方ないですね。帰りましょう」
「ああ……」
ギルドハウスに戻れば、マリンとモカとクッキーがお茶をしている。
「おかえり~。優勝した?」
「当然」
マリンの問いにセーレが答える。
「優勝おめでとうっす」
「おめでとうございます」
モカとクッキーが祝いの言葉を述べる。
「おめでと。まぁ~、勝つだろうなって思ってはいたけど、やっぱ心配はしたよ」
「ごめんね」
「うわ、素直に謝られると怖いんだけど」
「ひどいな。マリン、これあげる」
「うん?」
セーレがマリンに何かを渡している。
「えっ、ちょ」
「欲しがってたでしょ?」
「いや、えーっとうわ、まじ? 何か企んでる? ……わけないか。全然足りないけど、有り金全部とブリーシン渡しとくね」
「お金ないと困るでしょ。ブリーシンだけでいいよ」
「いや、さすがにそれは……。えーっと、これくらいは受け取って」
会話の流れから察するに、セーレがマリンに渡したのは、おそらくアキレウスからもらったマリニアンネックレスだ。
「えっ、セーレさん。ボクにはプレゼントないっすか?」
「お前な……」
俺はモカの態度に少々呆れたが、セーレは気にした様子もない。
「では、たった今手に入ったブリーシンガメン差し上げます。マリンのお古ですけど」
「えっ、ええっ、いや、本気で言ってないっすよ~!?」
ブリーシンガメンはボスアクセサリーだ。それほどスキルが強いわけでもないが、マリニアンネックレスを買えない層が、とりあえず装備しているアクセサリーなのでスキルのわりには値下がりしない。
「トーナメント報酬のケレスレンはシオンさんにあげようと思っていたので、モカさんにだけ何もないのも不公平でしょう。レオさんも先日アダマンティアもらってますしね。それにオレは金困ってないですし」
「ざ、財閥ぅ~!! えーっと……。じゃあ、これもらう代わりにセーレさんの言うこと一個なんでも聞くっす!」
「なんでも……?」
セーレはしばらく考え込んでから、モカの頭からつま先までじっくり見て、そしてまたモカの顔に視線を戻す。
「では、今日一日、男の子っぽい恰好で過ごしてください」
「ほえっ?」
モカがポカンと口を開けてセーレを見上げる。
「ダメですか?」
「いや、てっきりレイドとか付き合わされるかと思ったから意外だったっす」
「そちらでもよかったのですが、モカさんが普段からずっと女物着てることがちょっと不思議だったので」
「な……なるほどっす。あっ。セーレさん、もしかして女子の服着たいっすか? なんか作るっすよ」
「いや……。いらないですよ。スカートやヒラヒラしたものは好んで着ないので」
「そうっすか。じゃあ、えーっと。服何かあったっすかね」
モカが装備を確認して、足りない分は製作をして着替える。
「じゃーんっ。どうっすか?」
モカが髪を後ろでまとめてキャップを被り、両手を横に広げる。白いトレーナーに、カーキ色のカーゴパンツ、スニーカーというファッションだ。
しばらくセーレがモカを眺めて呟く。
「うーん、普通に可愛いです」
「へ、へへっ。まぁ、キャラが女の子っすからね」
可愛いと言われてまんざらでもなさそうにモカが照れる。
「でも、リアルもわりと……」
言いかけて口をつぐむ。
「おっ、リアルも可愛いっていいたいっすか?」
「なんでもない」
「モカちゃんのリアル気になる~。レオくんも気になるな~」
「レオさんわりとこのままっすよ。髪と目の色は違うっすけど」
「おい、モカ~!」
「あはは」




