6話:黒猫オーケストラ2
ある意味、狩りより疲れる歌とダンスのレッスンをこなして、はや二週間。衣装も決まって、演出を詰めながら今日も皆で歌って踊っている。俺はいったい何をやっているんだ。剣と魔法のファンタジーだったのではないか。それがなぜ、歌いながら立ち位置を気にしつつ、顔や腕の角度まで指導されながら踊っているのだろうか。
「だいぶ形になってきましたな」
「皆、なかなか良い素材じゃな」
陽炎とリルがうんうんと頷いている。
「お揃いの衣装いいっすね」
衣装をデザインしたモカが満足げに頷く。
衣装はシオンの要望で、軍服をゴシック風にアレンジしたものを皆で着ている。俺とセーレは黒い軍服に、裏地の赤い短めのマントに軍帽。女性陣は黒いジャケットと、フリルのついたゴスロリ寄りのデザインのスカートに、装飾のついた小さなシルクハットのような帽子を被っている。
まぁ、普段の皆と違った衣装を見るのは楽しくはある。
「そうそう。イベントの一週間前にはハルメリア着いてないといけないから、その辺の準備もしないとね。着いてから一回か二回向こうと合わせてから、前日にリハだって」
ハルメリアに向けて出発する前日、カーリスの街を歩いているとミズキと出会う。
「レオン、黒猫のイベント出るんだって?」
「なんで知ってるの」
「出演者、掲示板に張り出されてるから」
「そう……」
「応援しにいくから頑張れよ~」
「いや、こなくていいよ」
「チケット買ったから、さっちゃんと行くよ」
笑いながら手を振って去って行くミズキの姿にため息をついて掲示板を確認しにいくと、出演者が掲載されたポスターがある。全十二グループだそうだ。掲示板を見ていると、また別の人から話しかけられる。
「レオさーん、イベント出るって?」
エリシアとメロンが一緒に立っている。
「はい、成り行きで……」
「リコさんと一緒に見に行くから頑張ってね」
「私も、ギルドの人と見に行きますねっ!」
二人にニコニコと言われて、苦笑を返す。
「あはは……。そういえば、メロンさんたちのギルドは出ないんですね」
「私は人前で歌うなんて無理ですし、アキさまはあまりそういうの興味ないですからね。他の皆さまもあんまり……あっ、でもセレさま出るって掲示板に貼りだされたら、皆爆速でチケット買いにいきました。夕方にはチケット完売してたので危なかったです」
「そりゃインパクトあるよな」
「もちろん、レオさまの活躍も楽しみにしていますっ」
キラーンと周囲に星が飛びそうな表情でメロンが見上げてくる。
「では、皆さまにもよろしくお伝えくださいましね」
翌日は、ハルメリアに向かう馬車の中、皆歌を口ずさむ。
ピアノを置くスペースはなかったので、マリンがエレキギターを取り出す。
「エレキギターなんてあるんっすね」
「遺跡でドロップあるんだよね~。はい、セーレもベース」
「二人はバンド活動でもやってたんっすか?」
「ううん。ギターは私の趣味で、セーレには付き合ってもらってただけだよ~。たまにネット配信して遊んでたくらいかな」
「へー、どんなの歌うっすか?」
「わたしはアニソンばっかりかな」
マリンがギターの弦を弾くと、セーレもベースを弾きだし、皆歌い始める。
バルテルとクッキーは、自作したらしいペンライトを振っている。量産して劇場で配りたいと話していた。
歌いながら馬車に揺られてハルメリアに着き、受付のある劇場まで行くと黒い猫耳付きのフードを被ったプレイヤーが複数出迎えてくれて、奥の部屋へ案内される。
「いらっしゃいませ、私が黒猫オーケストラの座長のシャノワールですにゃ」
そう名乗ったプレイヤーは黒猫の姿のモッフルだ。丸い眼鏡に貴族的な衣装を着て、手には杖を持っている。
ギルドマスターのマリンが、代表でシャノワールに挨拶する。
「イベント前後の活動拠点として、参加者の皆様にはハルメリア城を提供させていただいておりますにゃ。ハルメリア城は別ギルドの管轄とにゃるため、ハルメリア城で不明にゃことがありましたらそちらでお聞きくださいですにゃ」
「はーい」
「さて、さっそくですがこれからお時間ありましたら、曲の合わせに入りたいと思いますがいかがですかにゃ?」
シャノワールに連れられて、劇場のステージまで連れていかれる。ステージに立ったことがないので新鮮だ。ステージから見える赤い座席は階段状に並んでいて、上に貴賓席が見える。
「結構座席あるんだねぇ」
いまいち規模感はわからないが、数百人は入るだろう。
「はい。集まるかどうか不安でしたが、おかげさまでチケットは完売しましたにゃ」
「しっかし、賞品思い切ったよねぇ」
「ええ……。私どもは生きていく中では、やはり音楽や娯楽の類は必要だと思っておりましたにゃ。提供の仕方を考えているところで、カーリスの夏祭りを知って私どもも大きなイベントを企画しようと思い立った次第ですにゃ。ただ、初回で集客に不安がございましたのでインパクトのあるものにいたしましたにゃ~」
「なるほどねー」
「さて、こちらのメンバーも集まりましたので一回合わせてみましょう。気になる点がありましたら後ほど」
ステージの奥の少し高くなったところにピアノや、弦楽器、管楽器、ドラムなどが置かれていて、黒い礼服をきた黒猫オーケストラのメンバーが三十名ほど並んでいる。その背後には、なんと映写機があって、ステージの様子を拡大して映せるように設備が配置されている。
「こちら、拡声器ですにゃ」
シャノワールからマイクを受け取って手に持つ。
「うわぁ~。緊張するなぁ~」
シオンがドキドキと緊張した様子で位置に移動する。
「えーっと……。ステージ広いけど、どの辺立てばいいかな?」
いつもの部屋と違うので距離感がわからない。
「レオさんはこの辺りで」
「お、おう」
いつもと違うところで歌うというだけなのに、シオンと同じく緊張してきてしまう。
「ボクお腹痛くなりそうっす」
「まだ観客いませんよ」
「セーレさんは緊張しないっすか?」
「しませんね」
「ううー」
「まぁまぁ、失敗してもいいから気楽に気楽に」
位置について、マリンが黒猫オーケストラにサインを送ると、タンタンタンという音がして、迫力のある演奏がバックで流れ始め、それに負けない声量でセーレとマリンの力強い歌声が響く。
毎日練習しただけあって、ある程度は自然に身体が動き、合間に掛け声やバックコーラスを歌いながら二人の後ろでダンスをする。
最初のサビが終わって、マリンと交代して前列に立ってラップ部分をこなして、そのまましばらくセーレと前列で歌い、その後にまた位置が入れ替わって女性陣が前で歌い、また最初の配置に戻る。
歌い始めれば結構あっという間で、気づけば曲が終わっていた。
「やっぱ演奏あると気持ちいいな~!」
マリンが嬉しそうに笑っている。
「あうー。私ちょっとミスっちゃった」
「大丈夫っす、ボクも振り間違えたっす」
話していると、指揮棒をもったシャノワールが近寄ってくる。
「素晴らしいクオリティでしたにゃ」
「どういたしましてー! あっ、演出とか入れていいかなぁ。スモークとか作ってもらったんだけど」
「ほほう。それはよいですにゃ。後ほど演出担当と相談しましょう」
黒猫オーケストラと打ち合わせをしてから、ハルメリアの城に行って部屋を借りる。
大部屋一つと小部屋四つだ。
「わーい、お城お城~」
モカが部屋の窓から外を眺めている。
ハルメリアの城は、カーリスの城より内装が豪奢できらきらとしていて、眩しさすら感じる。
シオンが失敗を気にしていてか部屋の隅でステップを踏んでいる。この場にいるのは俺とモカとシオンで、他のメンバーは演出に使える素材はないものかと街へとでかけていった。
「いやー……それにしても、本当にステージに立つ……んだよな?」
「お客さん来たらって思うと緊張するよね」
「緊張するっすよねぇ。あっでも、歌ったり踊ったりは楽しかったっすよ」
「そうだね。でも、最初音鳴った時びっくりしたなぁ~」
「ああ、そういえばちょっとビクってなってたよね、シオンさん」
「あわわ。つ、次は大丈夫だと思う……!」
「シオンさんは、セーレさん見てリラックスするといいっすよ」
「いや、セーレさんじゃ別の意味でドキドキしちゃうよ~!」
「シオンさんは、セーレのこと好きだねぇ」
「うん~。かっこよくて顔がいいのはもちろんだけど、天然だったり、たまにポンコツだったりするとこが可愛くて~」
シオンがでれでれとセーレについて語り始める。
「確かに顔いいっすよね。あれ、スキャン使ってるはずだから、リアルも美人なんじゃないっすかね……」
「へ、へぇ~……色々スペック高いなぁ……。普通に生活してたら絶対知り合えない人だっただろうなぁ……」
「そうだな。そういうことあるとゲームやっててよかったなーって思うよな。もちろんシオンさんと知り合えたのもよかったよ」
「そうっす! シオンさんと一緒にいると安心するっすよ!」
「えへへへ~」
「酒癖がもうちょっと控えめだったら言うことないっす!」
「ぐさーーーっ」
満面の笑みで言うモカに、シオンが胸元を抑えて崩れ落ちる。




