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絶対不死世界エリュシオン  作者: 高森エニシ
第三章 この世界の日常と非日常
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3話:夏祭り

 夏祭りも近づいたある日、通りを歩いていると声がかかる。

「あれ、レオさん?」

 エルフの女性が二人いる。セーレに誘われたパーティーで何度か一緒になったことのある、エリシアとリコリスだ。

「お久しぶりです」

「うん、おひさー」

「どうも、ご無沙汰してます」

「暇してるならお茶でもどう?」

「いいですよ」

 三人で適当な喫茶店に入ってコーヒーを注文する。

「セーレとか元気してる?」

「はい、よく狩りに行ってますよ」

「そっかー。相変わらずだねぇ……あたしは狩り行く気はしないなぁ」

「ぼくは、ソロギルドなので、この状況だと一緒に行く人がいないですね」

「セーレに声かければ一緒に行ってくれると思いますけど……」

「いえ、無理には……」

「まぁ、普通そうですよね」

 うちのギルドはセーレに付き合ってよく狩りに行くものの、狩場で他のプレイヤーの姿を見ることはほぼほぼない。かつて賑わっていた高レベル狩場も、今ではガラガラ閑古鳥で場所は選びたい放題だ。

「レオさんは、元の世界戻りたいと思う?」

「そうですね。それは思いますけど、最近はこのまま生きていくしかないのかもしれないなって……」

「あたしはさ……。子どもに会えないからさ……ずーっとモヤモヤしてて、馴染んでる人見ると羨ましいなぁって……」

 エリシアはそう言いながら、とっくに砂糖の融けたコーヒーをスプーンでかき混ぜている。

「ぼくは、未だにこの姿慣れないなぁって、思いますね」

 リコリスの中身は、以前会話した雰囲気からも男性なのだろう。モカもセーレも馴染んでいるので忘れがちだが、そのキャラクターを使うのと、そのキャラクターになるのはやはり別問題だ。

「って、なんか暗い話になっちゃったね。ごめーん」

 エリシアが重い空気を払うように、声のトーンを上げて笑顔を作る。

「そうそう。どうせやることもないし夏祭りで、リコさんと一緒に屋台でも出すかーって話してて、よかったら来てね」

「はい、喜んで!」



 夏祭りの前日は準備のためか、暑くても外は人通りが多い。

 しかし、俺は特に出し物をするわけでもないので家の中で涼んでいると、モカが話しかけてくる。

「レオさん、前に誕生日8月って言ってたっすよね」

「よく覚えてるな……」

「何日っすか?」

「……13日」

「えっ、今日じゃないっすか。なんで言わないっすか!?」

「いやー……。三十路を祝ってもらってもな……?」

「お祝いはした方が楽しいっすよ! 皆呼んでくるっすね!」

「いや、呼ばなくていいってー!」

 しかし、モカは俺の制止も聞かずにギルドハウスの奥に走っていってしまう。

「クッキーさーん! 今日レオさんの誕生日らしいんで、ケーキ作って欲しいっす!」

 それはお前が食べたいだけだろう。

 モカの声に、家にいた他のメンバーも顔を出す。

「えー、レオくん誕生日だったの? おめでと~。でも、プレゼント用意してないよ~!」

「いや、いらないよ。あんまり嬉しくないし」

「あー……はは」

 同い年のシオンが察したように苦笑いをする。

「そのうち歳なんてどうでもよくなってくるって。ほい、おめでとう」

 バルテルがニコニコとビールを差し出してくる。

「いや、今はいいです」

「そう?」

 俺が断ると、バルテルは自らが差し出したビールを一気に飲み干す。

「おめでとうございます」

 セーレが微笑んでトレードで、それなりに高価な部類の強化アイテムを30個渡してくる。受け取るのを躊躇ったが、以前レイドのドロップを強引に渡されたことを思い出して受け取る。

「……ありがとう」

「レオ様、おめでとうございます。ケーキは何がお好きですか?」

「えーっと……。そんなにこだわりないけど、今食べたいのはレアチーズかな」

「かしこまりました」

 皆がばらばらと大きいテーブルを囲んで席に着くと、クッキーがホールのレアチーズケーキを中央に置く。そして、各自の好みに合わせてコーヒーと紅茶を並べていく。

「では、お祝いの歌を」

 クッキーが、大部屋の空いているスペースに、どんとグランドピアノを出して伴奏を始めたので、皆が歌い始める。

 誕生日は盆と被っていて、当日に家族以外から対面で祝ってもらうなど、ほぼないことだった。祝わなくていいと言ったものの、ちょっと嬉しくなってきてしまう。

 歌い終わるとモカが拍手をしながら言う。

「いえーい! 30歳おめでとうっす!」

 いや、やっぱり嬉しくないかもしれない。

「30歳おめでと~!」

 皆が口々に30歳という言葉を口にして、それが俺の胸へと突き刺さる。

 そんなこんなで、やや複雑な気持ちのまま誕生日は楽しく過ぎていった。



 そして、翌日の夏祭り当日、夕暮れから夜に向けて空の色が変わっていく頃。

 カーリスのファンタジー風な街並みの中に、屋台や提灯が並んでいてなんだか不思議な光景になっている。浴衣姿で歩いているプレイヤーが多く、ギルドのメンバーも皆浴衣を着ている。

 一人暮らしを始めてからは、祭りに行くこともあまりなかったので、祭りの空気にテンションが上がる。

「そういえば、エリシアさんとリコリスさんが屋台出すって行ってたけど、どこだろ……」

「エリさんたちもこっち来てたんだ~」

「街道通れるようになってから、来たらしいよ」

 通りに並ぶ屋台の数は多く、少し見た限りではそれらしき人物は見当たらない。

「場所聞いておけばよかったなぁ」

「いいよいいよ。端っこから全部見るから~」

 言うが早いかマリンがたこ焼きを買ってくる。

「はい、セーレ。あーん」

「自分で食べるよ」

 セーレは、マリンが差し出したたこ焼きを無視して、別のたこ焼きに楊枝を刺して口に運ぶ。

「もーっ。モカちゃん、あーん」

「あーん!」

「シオンちゃんも、はーい」

「ええっ」

 シオンは恥ずかしがりつつも、マリンからたこ焼きを食べさせてもらっている。

「はい、レオくんも」

「お、俺も?」

 恥ずかしかったが、なかなかある体験でもないので食べさせてもらう。皮は硬めで、中はトロトロのたこ焼きは熱々で、しばらく会話ができなくなる。

 マリンが、バルテルとクッキーにも、あーんをしていたが二人は遠慮して自分で食べていた。


 屋台を見ながらしばらく歩いていると、呼び止められる。

「あれ、レオンとモカ?」

 振り返れば半被を着たエルフの男と、同じく半被を着た猫の姿のモッフルがいた。モッフルはノルウェージャンに似た雰囲気のもふもふした姿だ。屋台にはフライドポテトと唐揚げが並んでいる。

「あーっ、ミズキとさっちゃん! 久しぶり~」

 前のギルドのメンバーで、それなりに仲良くしていたプレイヤーだ。エルフがミズキで、モッフルがサシャという名前だ。

「おー! 二人とも久しぶりっす~」

「こっちいたんだな~。前ギルドの人全然見かけなくてさ~」

 ミズキが俺とモカを見て、嬉しそうに笑う。

「ああ、解散ついでにフェードアウトした人多いからなぁ……」

「そだねぇ。私もアプデなかったらやめてたかも」

 サシャがのんびりと口を開く。

「って、やめといた方が平和だったかもだけど。あっ、これサービスしとくよ」

 ミズキからポテトと唐揚げを二パックずつ渡される。

「さんきゅー」

「ありっす! セーレさん、ポテトと唐揚げっすよ~」

 モカが近くにいたセーレにポテトと唐揚げをあげている。

 それを見たミズキが小声で話しかけてくる。

「えっ、どういう知り合いなの? セーレって、ベルセルクの超やばい人だよね?」

「まぁ、やばいところはあるのは否定できないけど、いい人だよ。今同じギルド」

「へー……」

「セーレさんって、間近でみると顔がいいね。サインもらえないかな」

 サシャがセーレの横顔をじっくり眺めながら言う。

「さっちゃん、サインなんてもらってどうするの」

「魔除けにする」


 それからミズキとサシャと少し話をして、また屋台を回り始める。

「あっ、いた~!」

 マリンが何人か客が並んでいる屋台に駆けて行く。屋台の中にはエリシアとリコリスの姿が見える。

「おう、いらっしゃい」

 浴衣を着て、銀髪をアップにしたエリシアが元気よく挨拶をしてくる。先日のしんみりとした雰囲気はない。エリシアの横にいたリコリスも浴衣を着ていて、こちらに気付くと軽くお辞儀をする。

「綿あめだ~」

 マリンが綿あめを見て嬉しそうにしている。こちらの世界にはない食べ物なので、物珍しさで買いに来ている他のプレイヤーも多い。通常の製作でなく手動で作っているあたりも、目に留まるのだろう。

「ほう、この装置はどうやって作ったんじゃ?」

 バルテルが綿菓子を作る装置を眺めている。

「なんか鉄とアルコールランプとかです」

 説明するのが面倒なのかリコリスが雑に答える。

「ほーん」

「そっちよりザラメ用意する方が大変だったんだよね~。まぁ、最終的には植物材料にレシピ作ってみたらできたんだけど。はい、どうぞ」

 エリシアが一つずつ綿あめを作って、皆に渡していく。サイズはそれほど大きくないが、買い食いをした後なのでほどよい。

 皆で綿あめを食べていると、ヒュルルルルと音がして、イーリアスの城の上空に花が咲く。

「おお。花火できたんだ」

 ゲーム内には大きな花火というものは存在していなかったから、これが初の花火となる。

「へぇ~。火薬作れたんだねぇ」

 シオンが呟く。

「火薬って言うと物騒っすね」

「えへへ、ごめーん」

「花火職人でもおったのかのう」

「色々な職業の人いるから、いてもおかしくないよね」

 皆で夜空に咲く花火を見上げる。花火の種類は少ないが、現実と違って予算に糸目を付けなくてもいいからか、花火の上がる数は多い。お前ら大きい花火好きだろうと言わんばかりに、バンバンでかい花火が上がっている。

 しばらく花火を眺めていると、花火とは別のドンドンという音が聞こえてくる。

 音の鳴っている方向を探せば、街の中央に櫓があって太鼓を叩いている人がいる。

「盆踊りか」

「行くっすか?」

「いやー。踊ったことないし……」

「適当に人の動き見てればなんとかなるよ。いこー」

「ええ……どうしようかな」

 他の人も参加するなら行ってもいいかな。と思い、後ろを振り返ると、セーレとシオン、バルテルは姿を消していて、クッキーだけが残っている。

「あー! 逃げたな~!」

 俺はどうやら逃げそこなったらしい。マリンとモカに引っ張られて、盆踊りの輪の中へと連れていかれる。クッキーは、踊りたかったのか一緒に後をついてきている。

 気恥ずかしさはあったものの踊っている間に、まぁこういうのも悪くないか。と言う気分になっていき最終的には楽しんだ。



「昨日は楽しかったっすね~」

 夏祭りの翌日、モカがソファでごろごろしながら言う。

「行儀悪いぞ~、モカ。パンツ見える」

「ん? 見るっすか?」

「……どう返すのが正解なんだ」

「まーでも、こっちにするっすかね」

 以前作った部屋着にモカが着替える。

「これからは、プレイヤー主催のイベントとか増えたりするんすかね」

「そうだな~。なんだかんだあると楽しいよな」

「そうっすよね。リアルではあんまり興味なかったっすけど、行ってみるといいもんっすね」

 などと話していると、ギルドハウスの玄関の呼び鈴が鳴らされる。

「お客さんって珍しいな」

 誰だろうと思いつつ、玄関の扉を開ける。

「はい」

「こんにちは、レオさま」

「こんにちはー」

 扉を開けるとメロンが少し落ち着かない様子でこちらを見上げていた。

「セレさまは、いらっしゃいますか?」

「ああ、いるよ。ちょっと待ってね」

 ギルドハウスの奥に歩いていって、階段の上に向けて呼びかける。

「おーい、セーレ。メロンさんが呼んでる」

 すぐに「今行きます」と返事があって、セーレが姿を現す。

「こんにちは、どうかしましたか? アキさん殴りに行きます?」

「こんにちは~。ちがいますよぅ」

「そうですか。それで?」

「はいっ。闘技場に新しくウィークリークエストが出たみたいで、ご一緒にいかがですか? 報酬は95か99装備の強化アイテムがランダムでもらえるみたいです。ペア出場なんですけど、ギルドの人行きたがらなくて~。アキさまと私だと火力足りないし……」

「いいですね。行きましょう」

「わぁ~。ありがとうございます! まだクリアした人いなくて、死んじゃう可能性高いですけど、大丈夫ですか?」

「はい」

「じゃ、いきましょー」

 そうして二人は何の迷いもなく、ギルドハウスを出て行った。


「はい。じゃないっすよね?」

「うん」

 類は友を呼ぶというやつなのだろう。


 一時間ほどすると、セーレがメロンを連れてギルドハウスに帰ってきた。

「クリアできたの……?」

「はい!」

 メロンが嬉しそうに言う。

「でも、危ないところあったし作戦会議」

「なのです~」

 そして、二人はソファに座って立ち回りの相談を始める。

「ディヴァインウォールは二戦目無視して三戦目ですかねぇ」

「そうですね。二戦目はスロー入れますね。立ち位置ですが出現位置考えると……」

「あっ。メモ帳出します」

 俺とモカは二人の会話に、やれやれと言った表情を交わして午後のティータイムに入った。


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