24話:雪の街トラソルン2
二人の姿を探しに外に出ると、ちらちらと雪が降っている。
「寒い中どこに……」
少なくとも片方は、雪だるまを作ってはしゃぐようなタイプではないことは確かだ。
マップを確認すると、街の外れに表示があって余計に首を傾げて二人の元へ足を向ける。
近づくと、モカの声が聞こえてくる。
「とぉーー! ふぎゃっ」
俺が建物の影から覗き込むと、セーレが立っている前にモカがうつ伏せに倒れている。
「何やってるの……?」
セーレに喧嘩を仕掛けたら無謀もいいところだろうと思って、首を傾げる。
「鍛錬っす!」
モカの口から出た言葉に、俺はさらに首を傾げる。
◇◇◇
遡ること三十分ほど前。
「セーレさん。鍛錬に付き合ってほしいっす」
「熱でもあるんですか?」
セーレが不可解そうな顔をする。
「だって……、ボク、守られてばっかりで……。皆みたいに強くなりたいと思って……」
「まぁ、構いませんけど……。どういった鍛錬を?」
「えーっと、殴り合い?」
「……それですと、あまり加減できないと思いますが、いいですか?」
セーレの言葉に、モカは命の危機を感じたが頷く。
「う、うん……」
そんなわけで、村の外れでモカとセーレは、二人で鍛錬を始める。
「鍛錬……と言っても、どうしようかな……。とりあえず、一回オレにその杖で攻撃してみてください」
「うっす! と、とぉおおお!」
モカが振り下ろした杖はセーレに片手で受け止められる。
「モカさん。なぜ、殴る時に目を瞑っているのですか……?」
「え、ええっ。瞑ってたっすかね……? うんでも、そうかもしれないっす」
「まぁ……ヒーラーですし、殴るよりは魔法の方がいいかな。オレに魔法撃ってみてください」
「えっ、魔法は嫌っすよ。セーレさんに怪我させたら嫌っす」
「あの、モカさん……」
セーレがため息をついて片手を額に当てる。そして、その手で前髪をかき上げてから、ギロッとモカを睨む。
「鍛錬、やる気あるんですか?」
「ひゃぃっ!」
モカがセーレの表情にびびって、魔法を放つ。
「ライトォ!」
しかし、モカがセーレに撃った魔法は、0距離であっさり避けられる。
「セーレさん、本当に人間っすか?」
「魔法を使うまでの溜めの動作が長すぎますし、今から使うぞというのが丸わかりです」
「ぐぅ」
「そうですね……。攻撃に躊躇があるのかもしれませんし、ひとまずMP尽きるまでオレに魔法使ってください」
「う、うん……」
「いいですか。しっかり当てるつもりで、連続で、攻撃の手を休めずに」
セーレに念を押されて、モカ魔法を撃つ。が、全然当たらない。モカは徐々に一発くらいは当ててやるという気持ちになってきて、魔法を使いまくるが、結局MPが切れるまでに、セーレに魔法当てることはできなかった。
「少しはよくなりましたね。相手が今いる場所だけでなく、足の動きや視線なども見て、次に移動するであろう方向を予測して撃つとなおよいと思います。人間相手なら、ある程度癖もあるので観察していれば苦手な回避方向などもわかりますよ」
「え、えええっ。それは、無理っす。っていうか、いつもそんなことまで見て動いているんすか?」
「うーん難しければ、まぁ直感とかでもいいと思います。ランダムな攻撃もそれなりに面倒ですし、当たらないと思ったらその辺を試してみてもいいかと思います」
「う、うん。そっちで……」
「では、殴り合いと言いましたし、オレから攻撃しても?」
「うっ、うっす」
「と、その前に少しMP戻しておきましょうか」
「それは、ヒールに使うMPが必要。ということっすね?」
「素手でいきますけれど、まぁ、一応」
モカがMPを戻し終わって攻撃をしてくれと言えば、瞬きする間にモカは宙を舞っていた。
「ぐぇ……、内臓出るっす……」
モカが腹に一撃を喰らって、よろよろと立ち上がる。
「痛いと思ったらヒールしてください。少ないダメージであってもヒーラーの動きに支障が出ると困りますし、自身のHPはできるだけ維持した方がいいと思います」
セーレの言葉にモカが自らにヒールをする。
「じゃあ、次の攻撃お願いするっすよ!」
「はい」
セーレのその言葉のすぐ後にモカは蹴り飛ばされて、雪の上に落ちる。
「うぐ……。ホワイトヒール。つ、次お願いするっす」
言った瞬間、モカは雪の上に再び倒れていた。
「……ホワイトヒール」
立ち上がって、モカがセーレの顔を見上げる。
綺麗な顔をしている。と、モカは思った。
「セーレさん。あの」
「はい」
「ガードも避けるのも無理なんすけど」
「……そうですね。では、攻撃の動作を……。右手で殴る時は、こういう感じで身体を引きますよね。だから、右手からの攻撃がくるとわかるでしょう? 射程はこれくらいで、当たるであろう範囲はこれくらいだと予想がつくと思います」
「うん」
「蹴りですと……。正面を蹴る場合は、こういう動作が入って……。範囲はこの辺りですね。顔面とか上を蹴る時はこういう動作で……。そうそう、蹴る場合は足のこの面を当てるのが基本ですので、こうやって蹴る場合は、オレの場合だとこの辺りが一番威力出るかな」
「うん」
「なので、それを見て対処を……」
「無理っすよぉおお! そもそも、そういう動作なかったと思うっすよぉ!」
「まぁ、攻撃する際はそういった動作を極力相手に見せない方がいいと思うので、オレはそうしていますけど……。そうですね、少し大げさにやってみますか」
「う、うっす」
「では……」
結局、モカにはセーレを捉えられないまま、いや見えたところでたぶん対処は不可能だ。モカはまた雪の上に倒れていた。
「うーん……。続けますか? 続けていれば相手の動きも見えるようになってくるのではと思いますが」
「見えるようになる気はしないっすけど……。続けるっす」
「はい」
◇◇◇
モカが杖を持って、雪の中からばっと立ち上がる。寒さからか、それともこけたからかモカの鼻の頭は赤くなっている。
「モカが……鍛錬だと?」
「ええ。意外でしょう?」
「隙ありー!」
俺の方を向いたセーレに、モカが杖を振りかざして殴りかかる。
「叫んだら隙がなくなりますよ」
セーレはモカの方を見もせずに、すいっと一歩下がってモカを躱し、モカはそのまま前のめりにこける。
「モカさん。モカさんはやはり攻撃には向いていないと思いますし、そもそも近づいて攻撃に参加するのはやめて、逃げるのに徹したほうがよいかと思います」
「うーっ、やっぱそうっすかねぇ……。じゃー、攻撃お願いするっす」
「はい」
セーレが華麗な回し蹴りをして、それがモカの腹にクリーンヒットする。
「ぐぇ……っ」
そのままモカは吹き飛んで、転がっていく。
「よ、容赦ないなお前」
「合意の上っすよ……!」
モカが自身にヒールをかけて立ち上がる。
「敵の攻撃だったら、こんなもんじゃすまないっすし。いざと言う時に動けるようにしておきたいっす」
「レオさんも混ざりますか?」
「……おう」
あのモカが頑張っているのに、ここで参加しないわけにもいかないだろう。俺の返事に、セーレは少し嬉しそうな顔をする。
嫌な予感はしたが、予想通りモカと共に素手のセーレに完膚なきまでに叩きのめされて終わった。しかし、後半は多少攻撃を避けることができたし、モカとの連携もいい感じになったので、収穫がなかったわけでもない。
「た、ただいま~」
「ただいまっす……、あーっ家あったかい」
「戻りました」
「あらあら」
シオンが皆に温かい緑茶を淹れる。
「いや~。そこらのレイドボスよりよっぽど強いっすよ……」
「次は一発お見舞いしてやるからな」
「はい。楽しみにしています」
セーレがニコリと笑う。
「楽しそうだねぇ。次は私も混ざりたいなぁ」
「いえ、シオンさんは……」
さすがのセーレも中身が女性のプレイヤーを攻撃することに躊躇いがあるのだろうか。
「レベル差で、そのままPKしてしまわないか不安ですので……」
違う理由だった。
「そうだよね。レベル上げないとダメだよねぇ……」
「それでしたら、いくらでもお手伝いしますよ。今から行きますか?」
「帰ってきたばかりなのに、疲れてない?」
「大丈夫です」
「じゃあ、いこっかな~」
そう言って二人は外に出かけて行った。
「なんか、色々勝てる気がしないっす」
モカが机に突っ伏す。
「まぁ、あいつは倒す必要はないからいいんじゃないか……」
それからセーレとシオンは夕方過ぎまで、時間にすれば三時間ほど帰ってこなかった。セーレも大概だが、シオンも大概である。




