7話:捜し人の行方
翌朝、二日酔いで唸っているモカを置いて食堂に行くとシオンがうろうろしている。
「あ、あああ。昨日はすみません」
「困ってるセーレさん面白かったので気にしなくていいですよ」
「うっ……。セーレさんに嫌われちゃったかなぁ……?」
泣きそうな顔でシオンが見上げてくる。
「いや、怒ってはいなかったし大丈夫だと思いますよ」
「そ、そうかなぁ……。部屋まで謝りに……あ、でもお休み中だし、邪魔しちゃだめですよね。ううう、セーレさんごめんなさいぃぃ」
「はい。昨日のことでしたらお構いなく」
ちょうど会話が聞こえていたらしく、宿の階段を下りながらセーレが言う。気分転換なのか襟元に金の刺繍の入った黒いシャツと白いタイトなパンツを履いている。なんの変哲もない恰好だが、姿勢がよくて絵になる。
「ぴえっ」
「まぁ、でも次飲む機会があったらほどほどにしてくださいね」
「はい、それはもう。気を付けます。なんなら、ここで誓約書を一筆……」
「大丈夫ですか? まだ酔っぱらっていませんか?」
階段から降りてきたセーレがシオンの顔を覗き込む。
「えーん」
「そういえば、モカさんは?」
「二日酔いで唸ってたから放置してきた」
「そうですか」
それから三人で朝食を済ませて、フード付きのマントを被って街を歩く。雨は冷たく、ずっと外にいれば身体が冷えそうだ。
シオンの友人がいるはずのギルドハウスを訪れてみるが、今日も人の姿はない。
「明日もう一度来てみますか」
「はい……」
雨の日は、NPCの姿も少なく、通りは閑散としている。
「あっ、クッション売ってる」
寝具店の入口に、クッションを見つけて足を止める。
「使うこともあるかもしれないから、買います?」
「そうですね。寝袋などもあるとよいでしょうか」
「それは、野宿ということ……?」
「街中でも毎度宿がとれるとは限りませんし」
「それは……あまり考えたくないけど、モカの分も買っておくか」
雨で人の移動も少なく、大した情報も得られなかったので、その日は開き直って街で購入したボードゲームをして遊んでしまった。
翌日、またシオンの友人のギルドハウスを訪れたものの、やはり人はいなかった。
「帰ってくるかもしれないけど、いかんせん移動に時間がかかるからなぁ。遠い狩場行ってたのなら当分先になるだろうし……」
「そうですね……」
「どうします? 宿代なさそうならお金渡しておきますけど」
そう申し出ると、シオンは首を振って、少しためらってから口を開く。
「あ、あの。ご迷惑でなければ同行させていただけませんか? そもそも、友だちこっちに来ているかもわからないし……」
「俺はいいけど……」
「ボクは歓迎っすよ」
「オレも構いません。途中でご友人の情報が得られるかもしれませんしね」
「ありがとうございます」
そうして次の街を目指すこととなった。次に目指すは、商業都市コルド。川沿いにある街で、他の街への導線が多く、カーリスの次にNPCやプレイヤーが多く、街の規模も大きいという場所だ。
そこに行けば、新たな情報もあるかもしれない。前回と似たような幌馬車に乗って、さっそくクッションを背中と尻の下に敷く。前回より快適だ。
「どうせなら、毛布とか敷いてゴロゴロしたいっすね」
「それもいいなぁ。次は、毛布買うか」
「毛布買いましたよ」
セーレがポンと毛布を出現させる。
「やったー!」
モカがクッションを枕にして毛布の上に転がる。
「わ、私も端っこ借ります」
そう言って、シオンが毛布の端に座って足を伸ばす。俺も少し脚を寛がせて座る。
毛布を出した当人だけ興味なさそうに、何かのウィンドウを操作している。
「リアル、どうなってるんでしょうねぇ」
さすがに四日目ともなると、そこは大いに疑問だ。
「むしろこれがリアルなんじゃないっすか?」
「うーん、それはさすがに」
ないと思うが、とにかく謎だ。誰の身体にも異変はないし、消えたプレイヤーもいないはずだ。
「えーと、じゃあ時間の流れが違うのかも……?」
シオンが首を傾げながら言う。確かに、ゲーム内の時間は現実時間より早く進行する。
「それはありそうっすね。ゲームの中は四時間で一日だったはず」
「しかし、その計算でもすでに半日にはなるはずなので、何かしら起きてもいい頃合いだと思いますが……」
ウィンドウを眺めていたセーレが呟く。
「まぁ、考えてもわっかんないなぁ~。もっと流れが速い可能性も……」
昨日、購入した懐中時計を眺めたところで答えはでない。
「そういえば、セーレさんとシオンさんって歳いくつなんすか? ボクは二十歳っす!」
「モカぁ。人のリアル詮索するなって、いつも言ってるだろ」
リアルのことを話したい人ばかりではないだろう。
「あ、そっか。言わなくて大丈夫っす!」
その様子を見て、シオンがくすくす笑う。
「モカさん若いねぇ。私、今29。9月で30だよぉ……」
シオンが少し恥ずかしそうに言う。
「あれ、それレオさんと同じ歳?」
「モカ……。まぁ、別に俺は歳隠してないけど。うん、俺は8月で30」
「わぁ、やったぁ! 誕生日近いですね」
「でも30って考えると、なんかなぁ~」
「そうそう。20代終わっちゃう……。もう友だち何人か結婚したのに……」
「結婚なぁ。最近、親がさぁ……結婚しろって一層煩くなって……」
「あ、うちも。この前地元の同級生が結婚したから余計にかな」
「いやー、面倒ですよね。相手もいないし、人の人生なんだからほっといてくれーって」
「わっかるううう」
と、二人で盛り上がってしまう。
「同年代いいなぁ。セーレさん、二十歳だったりしないっすか」
「しませんね。今27です」
「あっ、結構歳近かったのね。嬉しい」
シオンがニコニコする。
「ぐぅ」
そしてモカが不貞腐れる。




