6話:城塞都市サティハラ
しばらく休憩をして関所を抜けた後は、何事もなく道なりに進んでやがて目的地に着く。
サティハラは城塞都市で、ちょっとした丘の上に城があり、下層は塀に囲まれた街となっている。少々武骨だが、物々しい雰囲気でもない。
「それじゃ、シオンさんのお友だち探しますか。名前はなんですか?」
「えっ、あー……名前は、わ……若鶏の軟骨唐揚げ……です」
「うん、美味しいよな……」
食べ物系ネームのプレイヤーは多いが、この状況で口にするのに恥ずかしいのは少しわかる。
「ギルドハウスはあちらのエリアですね。ギルド名はわかりますか?」
セーレが聞くと、シオンは困った表情を浮かべる。
「あ、聞いてなくて……すみません」
「では、端から順に探してみましょうか」
順番にギルドハウスの扉をノックしてみるが人がいないところも多い。
「すみません、人探してるんですけど、若鶏の唐揚げ……軟骨唐揚げさんってこちらのギルドですか?」
「うちの所属じゃないですね。でも、一個裏の通りにあるギルドの人じゃないかな? 名前美味しそうだったから覚えてる」
「ありがとうございますー」
目星がついたのでその周辺のギルドを当たってみるも……。
「うーん、見つかりませんね」
「あの時間だと狩りに出ていたプレイヤーが多いでしょうから、別の場所にいるのかもしれませんね」
「そ、そっかぁ~。どうしよう……」
「他にお知り合いの方はいらっしゃらないのですか?」
セーレの問いにシオンはしゅんとなる。
「ここにいる皆さんがゲーム内で初めて会話した人たちです……」
「うーん、しばらくしたら戻ってくるかもしれないっすけどねぇ」
「今日はもう移動しないし、明日また考えようか」
「そうしていただけると……」
「とりあえず、宿屋探そうか。部屋ないと困るし」
陽が沈み始めた空を見ながら探しにでかけた宿屋。
「取れそうなのは、二人部屋一つと、一人部屋二つだって」
「シオンさん一緒に部屋にするっすか? 女キャラ同士」
「うーん、モカと一緒は却下」
「なんでっすか!?」
「いや、失礼なこと言いそうだし、そもそもお前の中身は男だろ……」
「ひどいっすね。お話したいだけなのに……。というわけで、ボクは誰かと一緒がいいっす!」
「じゃあ、俺と一緒で」
モカとセーレを一緒にするのは、昨日のこともあり不安だ。
「オレ買い物行ってきますね」
宿を手配して、セーレが外に行こうとするところにシオンが声をかける。
「あ、私も一緒にいいですか? 装備買えるのあったら欲しいなって」
「はい」
二人が出ていくのをモカと二人で見守る。
「遅いっすねぇ……」
宿の一階の食堂で飲み物を注文しながらモカが言う。宿の時計を見ると一時間以上は経っている。
「そうだなぁ。ああでも、街にはいるな」
マップを見るとなぜか二人は神殿にいる。
「お腹すいたから、先に飯食っててもいいっすかね?」
「もうちょっと待ちなさい」
「はぁ~い」
それからしばらく、モカの話に適当に相槌を打ちながら待っていると、二人が戻ってくる。
「ただいま~」
セーレの後ろから顔を出したシオンは新しい装備に身を包んでいた。
「おかえりっすー。おー、新しい装備!」
シオンは、銀のスカートタイプの重鎧に身を包んでいた。一部だけ見える濃い紫のインナーが髪の色とマッチしてよく似合っていて、手には銀色の槍が握られている。
「おお、その鎧……あれ?」
重鎧は通ってきた道なので、記憶にあるが装備レベルが確か……。
「その鎧、50の装備では?」
確かに野営地でレベルアップはしていたが、その時は50には到達していなかったはずだ。
「えへへ……。こっち買った方がいいって言われて……それで、少しレベル上げ手伝ってもらって、ついでに転職クエも手伝ってもらって……。装備は、ご祝儀でいただいちゃいました!」
「そ、そう……」
「それで遅かったんすね。槍ってことはヴァルキュリアっすか?」
「はい。名前がかっこよかったので……!」
ヴァルキュリアは補助寄りのアタッカーで、自身の火力はそこまで高くはないがパーティーの戦力の底上げにいいクラスで、フルパーティーでは人気のクラスだ。
「なにはともあれ、おめでとうございます」
「おめでとうっす!」
「ありがとうございます!」
宿を出る前は、友人が見つからずに沈んだ表情のシオンだったが、今はずいぶんと嬉しそうだ。
モカではないが、セーレはなかなかやり手なのではと思ってしまう。もっとも本人が計算してやっているかどうかは非常に怪しいところである。
全員揃ったところで夕食にする。
「いやー、ログアウトできないけど、ほんとどうなってるんすかね。リアル水分取ってないから、さすがになんかあると思うんすけど……」
「今のところ誰か消えたみたいな話も聞かないよな」
食堂でちらほら、他のプレイヤーの話を聞いていたが今日も収穫はなかった。
「とりあえず飲み物どうします?」
「ボクはー。カシオレ。あれ、通じない。カシスオレンジお願いするっす!」
「アルコールかぁ。まぁ、ちょっと飲みたいよな。ハイボールお願いします」
「オレは、モスコミュールで」
「あ。皆さん飲むんですね……。えーっと、これ日本酒か焼酎みたいなのかなぁ……。華水帝をロックでお願いします」
水竜マリニアンの名を冠した酒を注文するシオンに、モカが小声で「おぅ……」と呟く。
「そういえば、街に出ている間に聞いたのですが、新しいクエストが増えていたりするようです」
「へぇ……」
「ほとんどがお使いクエのようで、外に出なくてもお金や経験値が稼げるみたいです」
「アプデあるのも変な話っすけど……。救済措置みたいなものっすかね。あ、カシスオレンジ追加でお願いしまーす」
「転職クエも簡略化されたのかすぐ終わっていましたね」
「はい~。敵倒すとかはなかったですねぇ」
お酒で少し頬を赤くしながらシオンが話す。
「ああ、それと明日は雨みたいです。雨の影響はわかりませんが人探しもありますし、もう一泊しますか?」
「雨だと外出たくないっすねぇ」
「俺も。急いだところで何か解決するかと言われると微妙なところだしな」
「じゃー。今日は飲むっすよ!」
「ほどほどにな」
「金いっぱいあるし、いいじゃないっすかー」
確かに、この世界で普通に生活している分には一生使い切れない金が手元にある。
「俺もちょっと高い酒頼も」
しばらく飲んでいると酔っぱらったモカが絡んでくる。
「レオさん、のむっすよぉ~~」
と、グラスをぐいぐいと押し付けてくる。
「飲みすぎだって……」
ぺしぺしとモカの頬を叩く。
「飲みすぎで何が悪いっすかー」
「そ~れすよ~」
そう言ったのはシオンで、モカよりよっぽど出来上がっている。
「ほぉらセーレしゃん、お姉さんがあーんしてあげます。お肉好きれしょ~」
「ちょっ、やめてください」
シオンは、ローストビーフをセーレの口に押し付けようとしていて、途中で落とす。
「あれぇ? お肉どこかいっちゃいましたぁ~」
「すみません、お冷……水ください! ほらシオンさん、水」
セーレがシオンに水を渡そうとする。
「水ぅ……? 水色ってなんですかぁ。十六進数で言ってくださいよぉ。もうちょっと青っぽい方がいいとかわかんないれすううぅ」
「は? 水です、水。ウォーターです。OK?」
「うぉーたーぷるーふ? お化粧します?」
「話通じてな……ちょっと、あっ、まっ、耳やめてくださ……っ」
シオンが、セーレの耳を引っ張っている。助けた方がいいんだろうなぁ。と思いつつも、慌てふためいているセーレが面白くて、そのまま眺める。
「あはは、二人とも仲いいっすねぇ」
「笑ってないで、どうにかしてくださいよ。……あぁ、シオンさん服にソースついて……。いや、消えるからいいか。モカさん、スキルで酔いの解除はできないんですか?」
「わかんないっす~。できても解除したくないっすよぉ」
へらへらと笑うモカに、セーレがため息をつく。
「レオさん」
「はい」
「次があれば、この二人に酒飲ませるのやめましょう」
「あーうん、そうですね」
それからぐだぐだしていると、シオンが酔いつぶれて寝てしまう。
「部屋に連れていきますね」
「手伝う?」
「部屋の扉だけ開けていただけると」
セーレがひょいとシオンをお姫様抱っこする。
「モカー。お前も部屋に行くぞー」
「えー、うーん。まぁ眠いから、うー……いく」
ふらふらと歩くモカを部屋に入れて、一つ奥にあるシオンの部屋の扉を開ける。
「ありがとうございます」
そう言って、セーレがシオンをベッドに寝かせて布団をかけて、疲れた様子で部屋から出てくる。
「はぁ……」
「お疲れ様」
「一杯だけ付き合ってくださいよ」
セーレが珍しく、少し拗ねたような表情で言う。セーレも多少は酔っていそうだから、その影響なのかもしれない。
「はい」
席に戻ると食べかけの料理は消えていたが、席は空いたままだったので再びそこに座る。
「ルシアンお願いします」
「んー、俺はコークハイで。デザートも頼もうかな。コーヒーゼリーください」
「あ、デザートあるのですね。えーと……杏仁豆腐お願いします」
頼んだものは待ち時間などなく出てくるので、さっそく酒に一杯口をつけてからデザートを食べ始める。
「酔っぱらったシオンさん大変でしたね」
「まぁ……オレも酒癖あまりよくないので、人のことは言えないです」
「そうなんですか? 今も少し酔ってそうですけど普通ですよね」
セーレは、それなりに飲んでいたはずだが落ち着いた雰囲気だ。
「ほどほどにしていますので。以前、飲みすぎた時は翌日起きたら部屋に見知らぬ……」
「見知らぬ……?」
まさか女性を連れ込んだのか。
「なんか……鳩がいて……。酔っぱらって連れてきちゃったみたいで……」
「ハト……? 鳥の?」
「ええ、そうです。それから、変な物連れ込んだら嫌だなって思って、外ではあまり」
「どんな酒癖ですか」
「まぁ、それはさておき。シオンさんが、お酒進んだのは不安だったのもあったと思いますから、今日のところは気にしませんよ」
「そうだな。俺も一人だったら参ってたかもしれないなぁ。二人がいてよかった」
「そうですか? レオさん落ち着いていらっしゃると思いますけど」
「そう見えるだけじゃないかなぁ」
むしろ、落ち着いているというなら、セーレの方がよほど落ち着いて見える。
「セーレさんは、不安に思ったりとかしないんですか?」
「うーん……、そうですね。多少の不安はなくもないですけど、現状なるようにしかならないですよね」
セーレのこれまでの態度を見ると、強がりでもなんでもなく、たぶん本当に多少程度なのかもしれない。
なんだか不思議な人だ。
そして、鳩の話が強烈に印象に残った。酔っぱらって部屋に鳩を連れ込むセーレの姿は想像がつかない。




