9話:思わぬ来客
夕方になり、今日の受付を締めようとする少し前に、思わぬ来客があった。
長身のヴァンピールの男だ。長い銀髪をオールバックにしていて、いかつく目つきの鋭い顔の男はディミオス。
モカが困惑した表情を隠さずにディミオスを見上げている。
「参加希望ですか?」
モカとは対照的にマリンがにこりと笑う。それでも、目は笑っているようには見えなかったが。
「ええ。その前に、まずは謝罪を」
ディミオスが皆に深々と頭を下げる。
「我々は疎まれているでしょうが、どうか戦列に加えていただきたい」
「ええ。戦力が増えるのは歓迎です」
奥で見ていたセーレがディミオスの前に歩いてくる。
「でも、その前に一発殴ってもいいですか?」
「……どうぞ」
ディミオスの返事の後に、セーレが勢いよくディミオスの顔面を殴って、ディミオスはギルドハウスの外まで飛んでいく。
「ちょ、セーレやりすぎ」
「やりすぎじゃないっすよ……。レオさんどんだけ銃弾受けたと思ってるんすか……」
モカが吐き捨てるように言う。
立ち上がったディミオスが再び戻ってくる。しばらくすれば回復するだろうが、前歯は欠けて鼻と口から血が出ているのを片手で押さえている。素手での攻撃だというのに、パラディンの防御力を前にえげつない威力だ。
「えー……参加は、お一人ですか?」
マリンがディミオスに話しかける。
「旧ギルドメンバーや友好ギルドもいくらか。行方が知れないものは今探しているところです」
「では、わかる範囲でメンバー記入お願いします。変更があれば再度お越しいただくか、郵便でお知らせください」
ディミオスが記入し始めるのをモカが不貞腐れた様子で眺めている。
しばらくするとディミオスが記入を終えるのでマリンがチェックしている。
「はい、こちらで問題ありません」
「それでは、失礼……」
「あっ、待ってください」
俺が呼び止めるとディミオスが振り返る。
「少しお話したいんですけど」
「わかりました」
ギルドハウスの個室でディミオスと二人きりになって、ソファに向い合せに座る。
「コーヒーと紅茶どちらがいいですか?」
「……コーヒーで」
「どうぞ」
コーヒーを二人分置くがディミオスは口をつけない。
「先ほどは、うちのセーレがすみません」
ディミオスの顔にはもうダメージの痕はない。
「いや、気にするほどのことでも。彼には一度殺されているし、あの時の鬼のような形相と比べれば……」
「鬼……。セーレ、そんなに怖い顔してました?」
「それはもう」
あまり想像がつかない。
「あの時、間近で戦う彼の表情をみた時に、ようやく人と戦っているのだと気付かされた心地でしたね。言葉にすると軽くなってしまいますが、後悔しましたよ」
「もうちょっと早くに気付いてほしかったですけれど……。戦争の動機は声明通りだったんですか?」
「いえ……。理由なんて後付けですよ。私は、アキレウスが嫌いでしてね。ただの私怨です」
「そうですか。でも、この世界になったのは、俺たちがフレイリッグを討伐したからなんです」
「ほう」
ディミオスが興味深そうに目を細める。
「俺たちは元の……ゲームの方のフレイリッグを討伐後に、冗談でずっとゲームをしていたい。ゲームの世界に入りたい。といったようなことを皆で話していました。この世界のフレイリッグはその願いを叶えたのだと言いました。それでも、討伐にご協力いただけますか?」
「構いませんよ」
即答だった。
「ずいぶんとあっさりしていますね」
「さっきも言いました通り、戦争の理由は私怨です。他の勢力が討伐したとしても同じことが起きていたかもしれない、我々がやっても同じことや、もっとひどい世界になっていたかもしれないでしょう。故意にしたのでなければ、それにとやかく言うのはナンセンスです」
ディミオスは、もっと話が通じないとか、気性が荒い人物かと思っていたが、意外と落ち着いて話す。
「ありがとうございます。しかし、今回のフレイリッグ討伐はアキレウスさんにも協力いただいているのですが、共闘することに抵抗はありませんか?」
アキレウスの名前に一瞬、ディミオスの眉がぴくりと動いたが、すぐに元の表情に戻る。
「別に、私は彼に協力するのではなく、レオンハルト殿になら協力してもいいと思ったから来たまでですよ」
「俺に?」
「戦争の時のあの行動には、同じパラディンとして完敗です。貴殿は尊敬に値する」
「あれは……無我夢中だっただけで、同じことをもう一度やれと言われてもできるかどうか」
「それでも、やったことには変わりはないでしょう。私が同じ立場であれば、白旗を上げていますよ。アキレウスでさえ無理なのではないかな」
ディミオスが少し陰りのある笑みを浮かべる。
「まぁ……。同じ状況になることはもうないでしょうから、確かめようがないですけれど……。そういえば、ガトリングの設計図はもうありませんか? あれば討伐に利用したいのですが」
「ああ。あれは破棄してしまったし、あったとしても量産には不向きで、壊れればそれまでなので、フレイリッグ相手ではコストに見合わないのではないかと思いますよ」
「そうですか」
「それにしても……。セーレ殿に闘技場のトーナメントでガトリングについて触れられた時は、どこからか情報が漏れたのかと冷や汗をかきましたよ」
「ああ、その時から作っていたんですね……。あの後でセーレと話をして、ガトリング来たら守ってやるなんて冗談で言ってたら、本当になるとは思いませんでしたけど」
俺が笑うと、ディミオスもつられて少し表情を和らげたが、すぐ真面目な表情に戻る。
「改めてお詫び申し上げます」
ディミオスが頭を下げる。
「……はい。討伐に協力いただけるのであれば、俺としてはもう何も言うことはありません」
他の皆はどう思うかはわからないが、しっかり謝罪してもらったし、やはりトップクラスのスペックのプレイヤーに協力してもらえるのは有難い。
ディミオスとの会話を終えて見送ると、シオンとバルテルが帰ってきていた。
「おかえり」
「ただいまー。今のディミオス?」
シオンが、ディミオスが出て行った扉を見ている。
「うん。協力してくれるって」
「ふーん……」
シオンは、ディミオスに関しては、あまり興味がないのか表情を顔に出さないだけなのかわからないが、それ以上は何も言わなかった。
バルテルも気にした様子はなく、全体の進捗が書かれた紙を眺めている。
「ボクはディミオスに協力してもらっても嬉しくないっすけどねー。ねー、セーレさん」
モカが頬を膨らませながら、セーレに同意を求める。
「ん、オレはもう別に」
「出会い頭に顔面ぶん殴っておいて、切り替え早すぎでしょ!?」
「戦力としては申し分ないですし、遠慮なく最前線に放り込めますし、いいじゃないですか」
「セーレさん、やっぱ怒ってるのか、ナチュラルに鬼畜なのかどっちなんすか」
「お二人ともその辺にして、夕会を始めますよ~」
クッキーの言葉に、各々席に座って今日の進捗を確認して、今日の討伐準備は終わった。
所々、運用方法の細かい改善や変更などが出たが、今のところ進捗に問題なさそうだ。




