いちもつ比べっこ
3年更新出来ずに苦しんでました。更新を待ってくださっていた31名の方々には深く感謝致します。
でもってタイトルネタバレすみません。
※ルキウスside※
「あー…… いい湯だなぁ……」
「本当だね。父さん」
「にいさん、ちょっとその岩場おれに譲ってよ」
「おー!ここから湯が湧いてるのか!あっちー!」
「ほら、ルキウスも遠慮してないで早く入れよー」
「は、はい」
……どうしてこうなったんだろう。
ぼくは今、プリューラの兄上6人と、父君の合わせて8人で近くの島の温泉にいる。
ゴツゴツとした岩場にフツフツと湧いた天然のテルマエに、見渡す限りの青い空と凪いた海。背面には緑生い茂る森。まさに大自然の絶景穴場温泉だ。
そもそも今日、ぼくは試されているのだと思っていた。
ぼくは病弱だった。
こののどかな漁村からほど近い丘。そこにあるぼくの別邸に病気療養に来ていた。
そこで出会った少女プリューラのことが、大好きになってしまった僕は、なんとか首都ローマに連れて帰りたくて、父親に「プリューラさんをください!」というも惨敗した。
それでも諦めきれず、根回しをし、また父親と話をする機会を得た。
ぼくをプリューラの家に招待してくれる、という名目で、ぼくの力量、その他をためそうという目論見たったはずだ。
もちろん得るものはあった。
プリューラの6人の兄上たちが、ぼくの味方になってくれたんだ!
ぼくは一人っ子だから…。(腹違いの兄弟は沢山いるようだけど会ったこともない)すっごく嬉しかった。
そしてその後。プリューラの父親が、村長とリーウィアと一緒に戻ってきた。とてもとても渋い顔で。
そのままぼくらは舟にのせられ、海へと出た。
風のない穏やかな海だけど、笹舟のように頼りない舟は、ゆるやかに揺れ続けた。
舟の上では立つこともままならず、どのように漁をするのか、僕は果たして役に立つのかと、不安になった。
そして、到着したのがこの島で。
「腹を割って話すなら、裸の付き合いが1番」
という理屈でぼくたちは今、みんなで温泉に入っている。
「ほら、ルキウスも早くこっちに来いよ!」
「そんな足先だけお湯につけてたら体冷やすぞー!」
「は、はい……。」
呼ばれてゆっくりとお湯に浸かる。
侍女もなく、ましてこんな大自然の温泉に入るのはもちろん初めてで、おずおずとお湯に浸かっていく。
意外と深いこの温泉は、少し腰を屈めると、鼻先までお湯につかり、ぶくぶくと小さな泡を吐き出した。水面に浮かんで揺れる僕の髪の毛は、やっぱり金色で、プリューラの家族との違いを再確認してしまう。僕だけ異色。と、少し寂しくなる。だけど……。
「……ふぅ。本当にいいお湯ですね。」
「そうだろー!」
「いやー、親父殿、よくこんな穴場を見つけたでござるな」
「俺も知らなかったよ。この場所、前は泉だったような。」
「あっはっは!何言ってるんだよ兄ちゃん、泉が温泉に変身したのか!」
「それを言うなら変化じゃないか?」
「どっちでもいいよー?きもちー」
相変わらず楽しそうな兄上たちをみて、僕の緊張が緩む。
「ふふ。」
あぁ、プリューラのご家族は暖かいな。
って、つい頬が緩む。
「あ!おれのおとうとがなんかいやらしい笑いをしてる!」
「なんだと!?」
「え!?いやらしい笑いなんてしてませんよ!」
「こいつ〜」
「何考えてたか白状するでござるよ!」
と、あっという間に囲まれてわちゃわちゃにされた。
あぁ、僕は受け入れられてるなって無理やり実感してしまう。
ただ1つ、未だに渋い顔で空を見つめるプリューラの父上を覗いて。
その視線に気がついたのか、1番上の兄上が、父上に話し掛けた。
「さて、呼び出してこんな所まで連れてきたからには、話があるんだろ?父さん。それも、プリューラだけまた留守番させてさ。」
そう。僕たちはこんなに楽しくのんびりお湯を楽しんでいるのに、プリューラだけは居残りをさせられていた。
もちろん、プリューラ一人留守番なんて心配で心配で仕方の無い僕は、リーウィアにプリューラと一緒に居るように頼んだ。
多分、屋敷に連れて帰っただろう。
「……。」
父上への対応は兄上たちに任せてしまって、僕はただ静かに父上の言葉を待った。
そう、距離を取って待って正解だった。
プリューラがされていたように、兄上たちに囲まれた父上。もちろんされるはこちょこちょ攻撃。だがしかし、父上も強い!1人ずつ捕まえてはボンボン投げ飛ばした!その度に『ボチャン!』と激しい音と水飛沫が飛び散った。
大喜びの兄上たち。た、楽しいんですね?それ。
と、若干引き気味にというかより距離をとって見守る僕。
あれよあれよと投げ飛ばされながらも、水中から出てくる時は大笑いで犬のように頭をブンブンさせて、再び飛びかかる。そのファイトはどこから出て来るんですか。
と、真打ち登場と言わんばかりに、1番上の兄上が、父上の正面に立った。
「イジイジとみっともない。父さん、俺と勝負だ!」
「なんだと生意気な!受けて立つ!」
と、プロレスよろしくガツンと取っ組んだ。
「父さん、俺たちはな、ルキウスを弟と認めた!」
「なんだと!?勝手に!!」
「勝手にって父さんが決めないからだろ!」
「そんな簡単に決められるか!プリューラはまだ5歳なんだぞ!」
「恋愛に年齢なんて関係あるかよ!」
「あるだろ!ありすぎるだろ!さすがに5歳はまだ早すぎるだろ!!」
「ルキウスは8歳と聞いた!早くないだろ!」
「早いわ!!」
「じゃあ、父さんは、プリューラとルキウスの年齢だけが問題なんだな?」
なんだって!?歳が問題なのならば、僕は何年でも待ちますよ!
と言いかけたが2人の口論と抗争は止まらない
「そんなわけないだろ!」
「じゃあなんだ!金持ちで、プリューラを大好きになってくれて、性格だっていい!外見もいい!将来だって安心の超高級物件のルキウスの何が気に食わないんだ!」
「バーロー!相手が誰だなんて関係あるか!」
「は?じゃあ父さんは一生プリューラを嫁に出さないつもりなんだな?」
「ぐっ……!そうだ!」
「「「「「アホかー!!」」」」」
「ぐぬぬっ。だってお前らだって分かるだろ、だって、プリューラは死んだアイツにそっくりで……。だってだって」
と、父上は涙ぐんできた。
「ぎゃはは!父ちゃん口調が女々しいー!」
「母上に似てるのなら、こいつだってそっくりでござるよ。」
と、6番目の兄上を指さす。
うん、確かに外見だけは僕もびっくりするくらいそっくりな兄上。
「そーだよ父ちゃん!なんなら、俺が父ちゃんのそばにずっと居てやるよ!可愛い嫁さんもらってさ!」
「そういう事じゃないだろー!!」
「「「「「じゃあなんなんだ!」」」」」
「ぐぬぬぬぬ」
父上と兄上のやり取りを見守りながら、そういえば僕はこんなふうに自分の父親と話をしたことはなかったな、とぼんやりと頭の片隅で考えていた。首都ローマに居た頃は、病弱だった僕。多分、もうダメだと思われていた僕は、周りから腫れ物扱いされ、実の父親は『病気をうつされまい』と近寄ってくることもなかった。
だからこそ、僕はプリューラの父上にどう接したらいいか分からなかったんだろう。
でも、今ならわかる気がする。
「と、父さん!」
「「「「「「「!!???」」」」」」」
「プリューラさんを、僕にください!一生大切にします。プリューラさえいれば、僕は他に何もいらない。僕は、無敵になれるんです!そして、僕の父親になってください!」
必死に、本心からそう伝えた。
兄上も、父上も、しーんとして僕を見つめる。
「……はぁ」
「とうさん、ため息なんかついて!」
「いや、そうだな。俺が悪かった。ルキウス、俺の隣に来い。」
「はい。」
父上の付近は以外と浅瀬だった。ゴツゴツとした岩肌が足の裏を心地よく刺激する。
「よし、俺の隣に寝転がれ」
「はい」
心配そうに見守る兄上たちの視線をよそに、僕と父上はゴロンと横になり、大空がこれでもかと視界に入ってきた。
「……あいつはな、ほんとやんちゃで元気で健気でな……」
「……はい。」
「泣き言ひとつこぼさず、俺たちは毎日元気に暮らせてるのは、あいつのおかげだ。」
「はい。」
「俺の嫁が死んでから、火が消えた様になったんだ。」
「……」
「今のこいつら見てると想像もつかねぇだろ?うるさくてよ」
「いえ……。」
「プリューラが可愛くて可愛くてな。」
「はい。」
「だから…だから…」
「……」
「やっぱり嫁にはやれん!!!」
「「「「「「なんでだよ!!!」」」」」」
兄上達は全員ずっこけた。
その時僕には、きっと黒い何かが吹きでていたかもしれない。
「父上。僕は出来ればあなたにも祝福して頂きたかった。ですが、ここまでわからず屋となると、僕も持てる全てで、全力で対抗せざるを得なくなりますよ……?」
「お、俺のおとうとが、なんか怖い…」
「しーっ」
「これが噂のお貴族様モードのルキウスか……」
後ろでボソボソと話し声がしたけれど、気にはならなかった。
「力ずつで誘拐してもいい。」
「は?」
「プリューラが僕のそばに居てくれればそれでいのだから、手段は選ばない」
「お、おい、ルキウス……?」
「なんなら、この辺りの漁業権を僕が買い取って、漁が出来ないようにしましょうか?」
「そ、それは困……。」
「あぁ、困りますよね。お金に困ったら、僕にプリューラを金で売りますか?」
「なんてこと言うんだ!?」
「それとも、この地で戦争しましょうか?」
「えぇ!?」
「どうせ僕は市民権を得るためにあと7年戦場に出なきゃ行けないんです。ここで戦えれば、プリューラにも会えるし一石二鳥ですねぇ。ふふ。」
「おれのおとうとのほほえみがこわいよぉ〜」
「あぁ、そんな事までしなくても、市場の出店を禁止する程度でも生活には困るかもしれませんね。」
「兄上、あれは本当にルキウスでござるか?」
「他にも、追い込む手段ならいくらでもありますよ。」
「……それでも、俺たち一家に危害は加える方法は使わないんだな。困らせる程度で。」
「……はい。」
「……ふぅ。まいったな……。」
そう、ため息をつくと、父上はまた大空を見上げた。
「お貴族様ってのは、女を何人も囲うもんだ。それで本当にプリューラを幸せに出来るのか?」
「囲うとはどういうことですか?」
「あぁ、そうか。何人も嫁をとるってことだ。」
「囲いません。僕の母の国では、一夫一妻制ですし。僕、そんな女の人からモテません」
「「「嘘だぁ」」」
「本当ですよ。この金髪のせいで気持ち悪がられてたんですから。」
「そうなんだ?」
「はい。だからこそ、プリューラの黒髪が目に焼き付いて。」
と苦笑した。
「ルキウス坊ちゃんよ、なんでもいい。なんでもいいから、俺を納得させてくれないか?」
と、父上は上半身を起こしながら呟くように言った。
「納得……ですか。」
「あぁ。プリューラをローマに連れていかれたら、俺たちはプリューラにおいそれと会えなくなる。だが。お前さんが俺を納得させてさえくれれば、プリューラは離れた場所でも幸せにやってるって信じられると思う。なぁ。頼む。」
父上は、俯いてそう言った。
「……。」
納得…。どのようにすれば納得して貰えるんだろう。
「とうちゃん、プリューラは可愛く着飾ってもらってたよ」
「その上、飯もめっちゃ美味かった!」
「プリューラがやりたいって言った勉強だって、ルキウスが教えてやってるんだろ?俺たちには出来なかったことだ」
「そもそも、プリューラがルキウスのこと大好きでござる」
「皆こう言ってるよ、父さん。他に何があれば納得できるんだよ。」
「……さぁ、俺にも思いつかねぇ。思いつかねぇウチは踏ん切りもつかねぇよ。」
父親とは、こんなにも娘を大切に思うものなのか。
母を人質として父に差し出した僕の祖父も、本当はこんなに辛かったのだろうか。
ならば、僕は父上を納得させられないのかもしれない。
太陽は、もう水平線近くまで落ちていた。
悔しいけど、今日はもう無理だ。また策を練って出直そう。
「分かりました。僕は必ず父上を納得させてみせます。ですから、その時まで待っていてください。他の誰にもプリューラを渡さないでください。」
そう言いながら僕は立ち上がった。
太陽を背に浴びて、逆光の僕は、眩しかったのか、兄上たちは皆驚いたような顔をしていた。
「ル、ルキウス…」
「お前、なんてものを持ってるんだ……」
「おとうとのくせに、おれのより…」
「いや、むしろ父上のより……」
「「「「「「「じーーーー」」」」」」」
「な、なんでしょうか?」
「ぶはっ!まいった!!!そんなもん見せられちゃあ俺の負けだ負けだ!!プリューラでも6人兄弟でも、もってけー!!!」
「?????」
さっきまでの『弟として歓迎する』という兄上達の視線が『漢として尊敬するぜ』という眼差しに変わってる気がするのは、多分気の所為…ではない…???え、なに?コワイ。
それでも
「言いましたね?父上!プリューラを、僕にくれると!」
「あぁ、男に二言はねぇよ!幸せにしてやってくれ婿さんよ!」
「あ、ありがとうございます!!」
「「「「「「やったー!!!」」」」」」
と、また全裸のまま胴上げされる僕。
太陽は、もう沈みかけて薄暗くなる中、何度も何度も投げあげられる僕は、最高点から落ちる瞬間に、一瞬フワッと浮く僕のナニを見た。
(まさか、コレが大きいと言う理由で納得を得られた…な、わけないか)
と、結局父上を納得させた理由がわからないまま、夕日が完全に沈むまで胴上げされ続けるのであった。
ルキウスは、100パーセントローマ人ではないので、多民族の血が半分流れてます。
そちらは体も大きく金髪だったようです。
3年更新できなかった私ですが、この先猛ダッシュで書き進められたらいいなぁと思いますので、イイネや応援、感想を頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。




